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超鋼窒素ステンレス鋼の加圧溶解Ca処理法による製造及びその熱間加工性と機械的性質並びに耐食性

氏名 峯浦 潔
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第13号
学位授与の日付 平成元年9月30日
学位論文の題目 超高窒素ステンレス鋼の加圧溶解Ca処理法による製造及びその熱間加工性と機械的性質並びに耐食性
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 教授 小林 勝
 副査 教授 小島 陽
 副査 助教授 石崎 幸三
 副査 東京工業大学 教授 菊池 實

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目次
第1章 序論 p.3
第2章 超高窒素ステンレス鋼の加圧溶製およびそのカルシウム処理 p.13
2.1 緒言 p.13
2.2 実験方法 p.14
2.3 実験結果 p.14
2.4 熱力学的検討 p.17
2.4.1 窒素の溶解度 p.21
2.4.2 Caによる脱酸・脱硫 p.22
2.5 考察 p.28
2.6 結論 p.30
第3章 超高窒素ステンレス鋼の熱間加工性 p.35
3.1 緒言 p.35
3.2 実験方法 p.36
3.2.1 実験材料 p.36
3.2.2 機械試験 p.36
3.2.3 熱延試験 p.37
3.3 結果と考察 p.40
3.3.1 ミクロ組織観察 p.40
3.3.2 機械試験結果 p.40
3.3.3 熱延結果 p.49
3.4 結言 p.53
第4章 完全オーステナイト超高窒素ステンレス鋼における超塑性現象 p.56
4.1 緒言 p.56
4.2 実験方法 p.57
4.3 実験結果 p.58
4.4 考察 p.72
4.5 結言 p.73
第5章 超高窒素ステンレス鋼の機械的性質および磁気特性 p.76
5.1 提言 p.76
5.2 実験方法 p.78
5.3 測定結果と考察 p.82
5.3.1 冷延板の焼鈍条件とミクロ組織並びにビッカーズ硬さ p.82
5.3.2 常温引張りに強度、0.2%耐力と伸びにおよぼす窒素の影響並びに超高窒素鋼のヤング率とn値 p.86
5.3.3 超高窒素鋼の硬さ、引張り強度、耐力並びに伸びにおよぼす冷間加工率の影響 p.95
5.3.4 超高窒素鋼の冷間加工率と磁性 p.95
5.3.5 液体窒素温度での引張り試験結果 p.102
5.3.6 シャルピー衝撃試験結果 p.102
5.3.7 破壊靱性値、JIc p.103
5.3.8 疲れ試験結果 p.107
第6章 超高窒素ステンレス鋼の耐食性 p.113
6.1 緒言 p.113
6.2 実験方法 p.114
6.3 実験結果 p.119
6.3.1 孔食電位 p.119
6.3.2 孔食電位におよぼすpHの影響 p.119
6.3.3 隙間腐食電位 p.120
6.3.4 沸騰塩酸、沸騰硫酸中の浸せき試験結果 p.120
6.3.5 沸騰硫酸溶液中での腐食電位 p.128
6.3.6 アノード分極特性 p.128
6.4 考察 p.131
6.5 結言 p.136
第7章 総括 p.140
謝辞 p.145

 本研究はオーステナイト系超高窒素ステンレス鋼の加圧溶解法による製造方法の確立を期し、特にその熱間加工上の問題をCa処理による脱酸・脱硫処理によって解決したものである。また、その際における脱酸・脱硫反応を熱力学的に検討し、さらに、製造材の種々の優れた特性を20Cr-10Ni-0.7NおよびSUS316L-0.55N鋼を中心に確認した。
 第1章においてはγ-系ステンレス鋼への窒素添加の意義、および加圧溶解法の概略、並びに本研究の目的について述べた。
 第2章においては超高窒素鋼のCa処理による脱酸・脱硫方法について検討し、一般的には確実性がないとされているCa処理が、超高窒素ステンレス鋼溶製には適した方法であることを確認した。次にCaによる脱酸・脱硫反応を熱力学的に考察した。これまでCaとOとの相互作用助係数、ecaoは文献によりまちまちで、しかも、ステンレス鋼に対する値は得られていなかった。
 また、これまではCa、Al、O及びSがお互いに平衡値に影響し合うにもかかわらず、これを考慮した定量的な取扱がされていなかった。そこで本研究ではGustafssonの方法により20Cr-10Ni-0.7N鋼中のecao、ecas、eAloの値を求めCa、Al、O及びS4者の平衡値を求め、これが実際の到達O、S値とよく一致することを示した。
 第3章ではCa処理によって超高窒素ステンレス鋼の熱間加工性が大きく改善され、熱間加工が可能であることを明らかにした。超高窒素ステンレス鋼の熱間加工性の悪化は鋼中のN、S、O含有量と結び付けて考えられる。1073~1273Kで巨大なラメラー状窒化物が多量に析出し適性加工温度範囲が狭いが、Ca処理によりS値、O値を低下させると熱間加工性が改善されることを示した。
 第4章では完全オーステナイト組織にもかかわらず超高窒素ステンレス鋼が超塑性を示すことを明らかにした。2ステップ法で冷間圧延(熱延-溶体化処理-冷延-中間焼鈍-冷延)した20Cr-10Ni-0.7N鋼ではオーステナイト粒が微細化するとともに微細な粒状窒化物が均一析出し、1073~1273Kにおいて10-4S-1以下の歪速度で500%を越す伸びが得られた。
 第5章では20Cr-10Ni-0.7N鋼を中心とする超高窒素ステンレス鋼の機械的性質が、高硬度、高引張り強さ、高耐力でありながら、かつ、高延性、非磁性であるという特徴を示すことを明らかにした。すなわち、室温において強加工を施しても加工誘起マルテンサイト変態を起こさず、延性も低下しない。また、低温において、SUS304鋼より高い耐力を示し、かつ、延性も比較的高い。これらの高強度・高耐力はNの固溶強化で、高延性はNによるNiバランスの上昇によって説明された。
 第6章ではこの組成の超高窒素ステンレス鋼は耐食性にも優れていることを明らかにした。すなわち孔食電位、隙間腐食電位いずれも孔食指数[%Cr]+3.3・[%Mo]+16・[%N]の値に応じて高くなった。また、孔食電位のpH依存性はほとんどなく、Nによる孔食電位の上昇度合はCによる孔食電位の上昇度合にほぼ等しかった。20Cr-10Ni-0.7N鋼は1%塩酸、1%硫酸以下の希薄な酸ではSUS316L相当の高い耐酸性を示した。この鋼種の腐食電位は低窒素鋼より高く、また、不働態化電流密度は高窒素鋼ほど低かった。
 第7章では本研究で得られた結果を要約するとともに、20Cr-10Ni-0.7N鋼を中心とする超高窒素ステンレス鋼の用途についてふれた。超高窒素ステンレス鋼は高強度で非磁性、高強度で高延性、高強度で高耐食性という2つの得難い性質を同時に兼ね備えた材料で、電子機器類の高性能化や高耐力の極低温関連材料として有望である。

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