鋳バリ取りロボットの開発研究
氏名 木村 洋一
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第16号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 鋳バリ取りロボットの開発研究
論文審査委員
主査 教授 小林 勝
副査 教授 吉谷 豊
副査 教授 高田 孝次
副査 東京工業大学 教授 中野 道雄
副査 九州工業大学 助教授 小林 史典
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 従来の研究 p.4
1.2.1 鋳物とバリ取り p.4
1.2.2 自動バリ取り装置・バリ取りロボットの発展 p.6
1.2.3 センサ制御バリ取りロボットの現状 p.11
1.2.4 バリ取りロボットの事例 p.13
1.3 本研究の目的および論文の構成 p.16
参考文献 p.18
第2章 鋳バリ取りロボットの開発 p.22
2.1 はじめに p.22
2.2 対象および目標 p.23
2.2.1 対象製品 p.23
2.2.2 ロボット化の目標 p.26
2.3 高能率工具の検討 p.28
2.3.1 工具 p.28
2.3.2 刃具 p.29
2.4 ロボットの全体構成 p.33
2.4.1 ロボット本体 p.33
2.4.2 制御装置 p.43
2.4.3 サーボ系の動特性 p.43
2.5 おわりに p.52
参考文献 p.52
第3章 工具負荷制御による高能率化 p.54
3.1 はじめに p.54
3.2 工具負荷制御 p.55
3.2.1 負荷制御の必要性 p.55
3.2.2 負荷制御方式 p.55
3.2.3 負荷量の検出 p.57
3.2.4 制御アルゴリズム p.59
3.3 工具負荷制御を用いたバリ取りロボット p.59
3.3.1 システム構成 p.59
3.3.2 工具およびロボットの特性 p.59
3.3.3 制御装置 p.65
3.3.4 詳細アルゴリズム p.65
3.3.5 過渡特性 p.69
3.4 実験結果および検討 p.72
3.4.1 テストピースでの加工実験 p.72
3.4.2 実ワークでの加工実験 p.80
3.5 おわりに p.80
参考文献 p.83
第4章 内挿型可変速繰返し制御とその工具負荷制御バリ取りロボットへの適用 p.84
4.1 はじめに p.84
4.2 バリ取りロボットの軌道偏差と繰返し制御 p.86
4.2.1 速度に依存する偏差 p.86
4.2.2 繰返し制御とその限界 p.86
4.3 目標周期変化への基本的対応策とその問題点 p.89
4.3.1 むだ時間の同期による対応 p.89
4.3.2 目標周期変化時の過度偏差と操作量パターン p.89
4.4 可変速繰返し制御 p.90
4.4.1 操作量パターンの切換え p.90
4.4.2 実機での実験結果 p.94
4.5 内挿型可変速繰返し制御 p.97
4.5.1 速い目標周期変化に対応するフィードフォワード制御 p.97
4.5.2 繰返し制御のオフライン利用 p.99
4.5.3 内挿法による連続速度変化への対応 p.99
4.6 工具負荷制御バリ取りロボットへの適用 p.102
4.6.1 内挿の実現アルゴリズム p.102
4.6.2 制御方法 p.106
4.7 実験結果 p.109
4.7.1 安定解析と繰返しの打切り p.109
4.7.2 内挿型可変速繰返し制御 p.112
4.7.3 総合加工実験 p.112
4.8 おわりに p.116
参考文献 p.122
第5章 結論 p.124
謝辞 p.127
付録:状態量のフィードフォワード制御 p.128
本論文は、産業用ロボットによる鋳バリ取りに関する研究をまとめたものであり、特に形状が複雑なアルミニウム合金鋳物に対し高能率、高精度でバリ取りするロボットの制御技術の開発を目的としている。本論文は5章から構成されている。
第1章では、鋳物とバリ取り、自動バリ取り装置および産業用ロボットによる鋳バリ取り作業の自動化に関する研究動向について概説している。そのなかで、鋳物は製造工程から見た場合、注湯、造型等の前工程と比較して型ばらし以降の鋳仕上げの省人化、自動化が、対象製品、仕上げ内容、適用工具の多様性に起因して遅れており、製造コストの低減および悪環境作業からの作業者の開放が十分達成されていないこと、なかでも、形状が複雑でバリの多く名アルミニウム合金鋳物では、効率と仕上げ精度の問題から従来の産業用ロボットでは満足な効果が得られず、これまでロボットの適用が遅れていたことを明らかにしている。そして本研究の目的が、一定しないバリの加工負荷に対して工具の能力を有効に活用する負荷制御技術、および軌道速度の大きさに拘らず工具軌跡が変化しないための高精度軌跡制御技術の開発にあることについて述べている。
第2章では、本研究の具体的な主対象製品を自動車用アルミニウム合金鋳物として、ロボット化の目標を明確にした後、その目標を実現するために能率を重視して選定した工具、刃具、および試作したロボットの構造、システム構成、基本的性能について述べている。工具は、特に複雑形状鋳物の大きなバリを1パスで加工可能なものとして、高周波誘導電動機駆動によるエンドミルを調査選定した。またアルミニウム合金鋳物のバリ取り用に、動作範囲が大きく、高負荷下でも正確な軌跡を維持できる剛性に優れた円筒座標形6軸構造のロボットを開発した。
第3章では、負荷能力に制約のある工具とロボットの能力を有効に利用して、大きくしかも発生状況が一定でない鋳バリの高能率仕上げを実現するため、一定の工具負荷を越えないように工具の送り速度を制御する方法を提案した。負荷量の検出には、高周波誘導電動機工具の回転速度の変動を利用することとし、ロボットおよび工具の特性からのその制御性を検討している。そして、基本実験および実ワークに対する作業で検証することにより、提案した方法は100mm/sの送り速度からでも安定に制御ができ、高能率バリ取りに有効であることを明らかにした。
第4章では、第3章で述べた、負荷に応じて軌道速度が変化するロボットの軌跡の高精度化を実現するため、まず、これまで目標周期が一定の場合に応用が限られていた繰返し制御を、目標周期の変化に対応できるようにするために、補償器を複数個用意し、予めいくつかの目標周期について繰返しにより操作量パターンを形成させた後、目標周期の変化に応じて切換える手法を提案した。シミュレーションおよび実験によって、この手法によれば、目標周期の変化があっても収束動作がほとんど不要になり、位置偏差を大幅に低減できることを示した。さらに、1サイクルの中で2回以上現象の進行速度が変化し、繰返しによる操作量波形の修正が行われない状況では、補償器をループに入れないで、予め形成した複数の操作量波形からフィードフォーワード制御することを提案し、その効果を実験的に明らかにした。さらにこの制御を、工具負荷制御中の連続的な速度変化にも対応できる手段として、操作量を複数の操作量波形から内挿法でフィードフォワード操作で与える手法を提案し、ロボットで実現した。次いで、テストモデルでの工具負荷制御との総合加工実験を通じ、この内挿型可変速繰返し制御の有効性を明らかにした。
第5章では、本論文を総括し、第2~4章で述べた手法および機器構成によって、アルミニウム合金鋳物の高能率、高精度な鋳バリ取り加工が可能となり、本研究の目標が達成されることを結論すると共に、残された課題について述べている。