本文ここから

光学的手法を用いた強誘電性液晶の物性に関する研究

氏名 川井田 正広
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第22号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 光学的手法を用いた強誘電性液晶の物性に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 赤羽正志
 副査 教授 岡本 祥一
 副査 教授 金田 重男
 副査 助教授 小林 迪夫
 副査 助教授 高田 雅介
 副査 教授 飯田 誠之

平成元(1988)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
1-1 本研究の背景 p.1
1-2 本研究の目的 p.3
1-3 本研究の意義 p.4
1-4 本論文の構成及び内容 p.4
第2章 強誘電性液晶について p.7
2-1 緒言 p.7
2-2 カイラルスメクティックC(SmC*)相とその構造 p.7
2-3 Landau-de Gennesの自由エネルギー p.9
2-4 弾性エネルギーの密度の表現 p.12
2-5 セルの種類 p.13
2-6 強誘電性液晶の特徴とその応用 p.14
2-6-1 高速応答性 p.14
2-6-2 メモリー性 p.15
2-6-3 応用方法 p.15
2-7 物性定数について p.17
2-8 結言 p.19
第3章 理論解析 p.20
3-1 緒言 p.20
3-2 選択反射の概要 p.20
3-2-1 電界が印可されていない場合 p.20
3-2-2 電界をらせん軸に垂直に印可した場合 p.21
3-3 らせん構造の電界による変形 p.21
3-3-1 分子配向分布の電界依存性 p.21
3-3-2 計算結果 p.28
3-4 固有モード p.33
3-4-1 計算手法 p.33
3-2-2 計算結果 p.36
3-5 透過率スペクトルの計算 p.40
3-6 結言 p.42
第4章 選択反射検出の実験方法及び実験装置 p.43
4-1 緒言 p.43
4-2 セルの作製 p.43
4-2-1 用いた液晶 p.43
4-2-2 スペーサ p.44
4-2-3 ガラス基板の洗浄とホメオトロピック配向処理 p.44
4-2-4 セルの組立 p.46
4-2-5 液晶と注入の封止 p.46
4-2-6 液晶の配向方法 p.47
4-3 実験装置 p.49
4-3-1 恒温槽 p.49
4-3-2 分光器 p.50
4-3-3 選択反射測定システム p.52
4-4 選択反射の検出 p.52
4-5 結言 p.55
第5章 選択反射の測定と各種物性定数の決定 p.56
5-1 緒言 p.56
5-2 チルト角の測定 p.56
5-3 自発分極の測定 p.61
5-4 電界無印加時の選択反射 p.63
5-4-1 選択反射の温度依存性 p.63
5-4-2 らせんピッチの温度依存性 p.66
5-5 電界印可時の選択反射 p.68
5-5-1 各次数における選択反射の電界依存性 p.68
5-5-2 らせんピッチの電界依存性と弾性定数の決定 p.74
5-6 弾性定数の温度依存性 p.76
5-7 らせんの解けるしきい値電界の温度依存性 p.76
5-8 固有ツイストの温度依存性 p.80
5-9 結言 p.82
第6章 屈折率の測定 p.83
6-1 緒言 p.83
6-2 測定原理 p.84
6-2-1 基本原理 p.84
6-2-2 実際のセルの場合 p.86
6-3 実験方法 p.90
6-3-1 セルの作製 p.90
6-3-2 実験装置 p.93
6-3-3 測定手順 p.93
6-4 実験結果及び考察 p.94
6-4-1 セル厚の温度依存性 p.94
6-4-2 屈折率の波長依存性 p.96
6-4-3 屈折率の温度依存性 p.100
6-5 結言 p.104
第7章 結論 p.105
謝辞 p.107
参考文献 p.108
本研究に関する発表論文 p.115
付録
A 誘電率の異方性を無視した時のらせんの解けるしきい値電界 p.118
B 透過率及び反射率の計算方法 p.122
C 高次の選択反射を用いたらせんピッチの測定 p.126
D アルミニウム表面での光の反射について p.129

 第1章 序論
 強誘電性液晶(FLC)は、表示素子用として現在広く用いられているネマティック液晶の欠点を、ほぼ完全にカバーする可能性を持つ液晶として1975年に登場した。FLCは、自発分極を持つため電界に対し高速応答を示し、また、メモリー性(電界を切ってもその配向を維持する)も合わせ持つことから、次世代の表示素子用として期待されている。しかしながら、現在まで実用化には至っていない。これは、マネティック液晶に比べて、FLCの弾性定数をはじめ重要な物性定数が未だ明らかにされておらず、理論的な解析ができないことが1つの原因ともなっている。
 そこで、本研究においては、まずFLCのらせん軸に垂直に電界を印可した時の弾性変形を理論的に解析し、またその変形をらせん軸に沿って伝播する光の選択反射を利用することによって実験的に検出し、その両方の結果から弾性定数を決定した。さらに、その他の物性定数間の関係についても明らかにした。また、セルの光学特性の解析に重要であるにもかかわらず、未だ有効な測定方法の確立されていない屈折率を、Fabry-Perot干渉を利用することによって測定することを試みた。
 第2章 強誘電性液晶について
 FLCは、カイラルスマクティック(SmC*)相において強誘電性を示す。この相は、マネティック相に比べて液晶分子の配列が規則正しく、分子長程度の間隔で層構造を形成している。また、液晶分子が層法線にたいして一定角度傾き、その傾く方向が層から層へ少しずつずれ、全体としてらせん構造をとっている。セル厚を薄くすると(1μm程度:SSFLCセル)、そのらせん構造は消滅し、液晶分子がらせん軸から±θ傾いたドメインを得る。これらの2つのドメイン間を電界によって高速にスイッチさせ、偏光板との組み合わせによって明暗を得ることが可能である。これらのFLCの特徴の他、FLCの対称性、解析の基本となる弾性エネルギー密度の表現、また、主な物性定数に対する説明も行われている。
 第3章 理論解析
 FLCのらせん軸に垂直な電界が印可された時のらせん構造の変形を、連続体理論にもとづいて解析した。らせんピッチ(らせん構造の周期)は、らせんの解けるしきい値電界近辺で急激に延び、最終的にらせん構造は消滅することが分かった。FLCはその周期構造のため、Braggの条件式を満たす波長の光を選択的に反射する。そこで、電界印可時に、らせん軸に沿って伝播する光の固有モードについても解析した。その結果、反射の各次数において、電界が弱いうちは、2つの前進モードのうちの1つのモードのみが反射され、電界が強くなると2つのモードとも反射されることが分かった。したがって、実験において、特に2次の選択反射領域における反射率は、電界印可とともに初期の50%からいったん増加し、最終的には0%に減少していくことが予想される。
 第4章 選択反射検出の実験方法及び実験装置
 FLCのらせん軸がガラス基板に垂直で、欠陥のない均一な配向(ホメオトロピック配向)は、ガラス基板をクロム錯体で処理することによって比較的容易に得ることができる。また、選択反射による透過率の低下は、SmC*相における透過光強度スペクトルを選択反射の生じないSmA相の透過光強度スペクトルで割ることによって明確に検出できることが分かった。
 第5章 選択反射の測定と各種物性定数の決定
 選択反射は、厚いセルを用いることによって選択反射が弱くなるSmC*-SmA相転移温度傍においても明確に測定でき、その温度依存性かららせんピッチの温度依存性を決定することができた。また、らせん軸に垂直に電界が印可された時の1次、2次、3次の選択反射は明確に検出され、それらは理論計算結果と定性的に一致することが確認された。この結果から、らせんピッチの電界依存性を決定できた。その結果とその理論計算結果とのカーブフィッティングから弾性定数を決定することができた。また、それと同時に、らせんの解けるしきい値電界と固有ツイストも決定することができた。このように、FLCの弾性変形から各種物性定数を決定したのは本研究が初めてである。また、物性定数決定の際に悪影響を及ぼすガラス基板界面での液晶分子の拘束力は、ホメオトロピックセルを用いた場合、無視できることが分かった。
 第6章 屈折率の測定
 通常のセルでガラス基板間のFabry-Perot干渉を検出するのは非常に難しい。そこで、本研究では、ガラス基板にアルミニウムを半透明になるように蒸着し、液晶とその蒸着膜との境界での反射率を上げることによって干渉を検出した。また、セル厚が非常に薄い(約3μm)ため、干渉次数を決定し、その次数での屈折率を決定することができる。その結果、本研究で用いた液晶の屈折率(n∥、n⊥):FLCを1軸性と仮定した時のダイレクタ方向(液晶分子の平均的な配向方向)とそれに垂直方向の屈折率)の波長依存性は正常分散を示し、選択反射の実験で用いる近赤外領域の波長(約1~2.5μm)においては、屈折率はほぼ一定であることが分かった。このFLCの屈折率の測定は本研究が初めてである。
 第7章 結論
 らせん軸に垂直に電界が印可された時、らせん構造の変形に伴う、1次、2次、3次の選択反射を検出することは可能であり、それらはBraggの条件式を満足している。これから、らせんピッチの電界依存性を決定し、弾性定数、らせんの解けるしきい値電界、固有ツイストを決定することができる。
 SmC*相における屈折率は、SSFLCセルにおいて電界をセル厚方向に印可しながら、Fabry-Perot干渉法によって測定できる。その際、セル厚の変動に十分注意しなければならない。

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る