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集積回路用抵抗膜の高性能化に関する研究

氏名 反町 嘉夫
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第8号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 集積回路用抵抗膜の高性能化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 津端 一郎
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 山下 努
 副査 助教授 神林 紀嘉
 副査 助教授 宮内 信之助

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目次
第1章 序論 p.1
1-1 研究の背景(必要性と有用性) p.1
1-2 配線の遅延特性に関する検討 p.8
1-3 抵抗素子の抵抗値と精度に関する検討 p.10
1-4 過電流保護素子の厚膜化に関する検討 p.16
1-5 本研究の目的と進め方 p.25
1-6 参考文献 p.28
第2章 集積回路用抵抗膜材料 p.30
2-1 はじめに p.30
2-2 電極配線・抵抗素子金属シリサイド薄膜 p.31
2-3 過電流保護素子用厚膜材料 p.40
2-4 まとめ p.46
2-5 参考文献 p.47
第3章 高速信号伝送薄膜(低抵抗化) p.48
3-1 はじめに p.48
3-2 金属シリサイド薄膜の抵抗率とその低下機構 p.49
3-3 イオン照射による抵抗率増加とその回復特性 p.62
3-4 金属シリサイドおよび酸化物超伝導薄膜の形成 p.74
3-5 まとめ p.96
3-6 参考文献 p.99
第4章 精密抵抗薄膜(高抵抗化と低TCR化) p.103
4-1 はじめに p.103
4-2 固相反応法による鉄シリサイド薄膜の形成とその特性 p.105
4-3 イオン照射による鉄シリサイド薄膜のTCR制御 p.123
4-4 同時スパッタ法による鉄シリサイド薄膜の形成とその特性 p.129
4-5 まとめ p.142
4-6 参考文献 p.144
第5章 厚膜過電流保護素子(厚膜化と高安定化) p.146
5-1 はじめに p.146
5-2 抵抗膜の熱的・電気的分布特性 p.147
5-3 過電流保護素子の厚膜化 p.163
5-4 過電流保護素子の高安定化 p.168
5-5 まとめ p.177
5-6 参考文献 p.179
第6章 結論 p.180
謝辞 p.184
本研究に関する主な発表論文 p.185
その他の研究に関する主な発表論文 p.188

 本論文は集積回路用抵抗膜の高性能化を目的に、高速信号伝送薄膜、精密抵抗薄膜、過電流保護用厚膜の電気的、構造的、熱的諸特性を抵抗膜形成条件との関連で実験的かつ理論的かつ考察したものである。本論文を要約する。
 第1章では、集積回路用抵抗膜における現在の課題を整理し、1)高速信号伝送薄膜では低抵抗化、2)精密抵抗薄膜では高抵抗・低温度計数化、3)過電流保護用厚膜では高安定化、等が高密度、高速、高精度な集積回路の実現に重要であることを示す。そして本研究の目的と意義について述べている。
 第2章では、金属シリサイドの分類、特性、形成法、評価法を概観した上で、高速信号伝送薄膜、精密抵抗薄膜の観点から、主として電気抵抗特性に注目した材料選択を検討した。次に過電流保護用厚膜として、カーボンブラックとポリマーの複合材料であるカーボンブラックグラフトポリマーの作成法と主な特性を述べている。
 第3章では、電極配線用シリサイド薄膜の低抵抗化の観点から、配向性Pb2Siの低抵抗率低下機構を検討した。すなわち、Pd2Si薄膜の抵抗率は、基板、形成温度、膜厚などのシリサイド形成条件に依存し、結晶性や結晶粒径と密接に関連する。そして、シリサイド薄膜の電気抵抗はほとんど金属的であり、金属薄膜での形状効果や粒界散乱効果の理論がシリサイド薄膜でも良く適合する。これらの理論と実験との一致から、シリサイド薄膜での低抵抗化の一方法として、結晶性を改善することが有用であることを示した。
 次に、電極配線材料はセルフアライン用のマスクとしての機能も要求されるので、イオン注入したシリサイドおよびその後の熱処理したシリサイドの電気的、構造的特性を考察した。その結果、シリコンリッチのシリサイドでは、注入量の増加と共に抵抗値は増加し、アモルファス状態になる。メタルリッチのシリサイドでは、注入量の増加と共に抵抗値は徐々に増加するが、1×1016ions/cm2程度の注入量までは結晶性は大きく低下しない。イオン注入後の熱処理特性は、アモルファス化しなかったものは配向性が回復するが、アモルファス化した場合にはシリサイドの相変化が起こり得る。イオン照射されたシリサイドの抵抗値は、熱処理によってほとんどの元に戻ること等を明らかにした。
 最後に電気抵抗零の配線材料として、超伝導V3Si薄膜をVとSiO2との固相反応で形成する手法を検討した。その結果、V3Si相を形成するためには熱処理温度に依存したSiO2の最小薄膜が存在すること、SiO2基板が単結晶基板の場合には配向性が高く、△Tcの小さなV3Siが得られること、10K以上のTcを得るには、1500Å以上のV膜厚が必要なことなどを明らかにした。
 第4章では、金属シリサイド中でも高い抵抗率を有する鉄シリサイドに注目し、高抵抗、低温度計数化の手法と限界を導いた。まず、鉄シリサイド薄膜をスパッタされたシリコン膜と鉄膜間の固相反応によって製作し、その形成条件と結晶学的・電気的特性との関連を調べた。その結果、形成された鉄シリサイド薄膜はFeSiとβ-FeSi2からなる混合相であり、電気抵抗特性はFeSiの金属的特性とβ-FeSi2の半導体的特性の合成特性となり、500~1000μΩ・cmの高抵抗率と+500~-100ppm/℃の温度係数が実現できることを明らかにした。
 次に、この鉄シリサイド薄膜にイオン照射を行うと、温度係数は+500ppm/℃~-500ppm/℃まで連続的に変化するので、鉄シリサイド薄膜の温度係数はイオン照射で制御できること、イオン照射による温度係数の変化は、金属的FeSiと半導体的β-FeSi2とでは照射損傷量が異なるために発生すること等を明らかにした。
 最後に同時スパッタ法による鉄シリサイド薄膜も作製し、その構造と電気的特性を調べた。その結果、約54at.%Siの組成で温度係数が零になること、膜構造と電気的特性の関連から温度係数が零になる膜構造を推定できること、固相反応法と比較して形成温度が低く、高抵抗・低温度係数の鉄シリサイド薄膜が得られること等を明らかにした。
 第5章では家電流保護素子の厚膜化と高安定化を検討した。まず抵抗率の温度依存性に注目し、素子の自己加熱時における熱的・電気的分布特性を2次元モデルで解析した結果、素子中央部が極端に高温・高電界の特異な分布特性になることを理論的に導いた。そして、この特異な分布特性が厚膜の安定性に影響することを確かめ、厚膜の熱伝導率を増加する等その対策を明らかにした。
 また、素子の動作温度は電圧倍率、素材のガラス転移温度、抵抗温度係数に大きく左右されること、素子の高速作動には、厚膜素材と基板間に熱絶縁層を挿入することが不可欠であること等も明らかにした。
 第6章では、本研究で得られた結果を要約し、本論文の結論について述べている。

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