反応性スパッタによる磁気記録用CoNi磁性薄膜の研究
氏名 遠藤 重郎
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第14号
学位授与の日付 平成元年9月30日
学位論文の題目 反応性スパッタによる磁気記録用CoNi磁性薄膜の研究
論文審査委員
主査 教授 一ノ瀬 幸雄
副査 助教授 弘津 禎彦
副査 教授 長倉 繁麿
副査 教授 松下 和正
副査 東京工業大学 教授 直江 正彦
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目次
第1章 緒論 p.1
第1節 緒言 p.1
第2節 従来の磁気記録用薄膜媒体の研究 p.6
第3節 本研究の目的 p.9
第2章 CoNi薄膜の製造条件と磁気特性 p.11
第1節 緒言 p.11
第2節 実験方法 p.15
§2-2-1 実験に使用したr.f.ダイオードパッタ装置および成膜条件 p.15
§2-2-2 実験に使用したマグネトロンスパッタ装置および成膜条件 p.16
§2-2-3 真空熱処理および磁気特性測定等 p.18
第3節 反応性スパッタによるCoNiN薄膜 p.21
§2-3-1 予備実験 p.21
§2-3-2 r.f.高周波ダイオードスパッタによるCoNiN薄膜の基礎検討 p.24
§2-3-3 マグネトロンスパッタによるCoNiN薄膜の高速成膜化の検討 p.35
§2-3-4 CoNiCr(N)薄膜 p.51
第4節 結言 p.54
第3章 実用媒体としての電磁変換特性評価 p.57
第1節 緒言 p.57
第2節 高密度記録特性 p.57
第3節 信号対雑音比の評価 p.67
第4節 結言 p.71
第4章 CoNiN薄膜の磁気特性と微視構造 p.73
第1節 緒言 p.73
第2節 r.f.ダイオードスパッタCoNiN薄膜の微視構造解析 p.74
第3節 CoNiN膜加熱時微視構造挙動の直接観察 p.87
第4節 高温熱処理によるCoNiN薄膜の磁気特性と微視構造および磁区構造の関係 p.101
第5節 D.C.マグネトロン高速スパッタCoNiN薄膜の微視構造の解析 p.128
第6節 高S/N比の原因 p.140
第7節 結言 p.147
第5章 総括 p.149
第1節 結果の概要 p.149
第2節 今後の課題と将来の展望 p.152
第3節 総合結論 p.154
謝辞 p.157
参考文献 p.159
(付録) p.169
第1章 緒論
高度情報化社会を支える一つの基盤技術として磁気記録技術の発展の姿と重要性を考慮し、本研究の動機とその意義を述べた。すなわち、磁気記録技術はポールセンによる発明以来約90年の歴史を有するが、現在では、民生機器から科学技術分野に至るまであらゆる面に利用されており、高度情報化社会を支える情報蓄積手段として欠かせない重要な役割を担うに至っている。特に近年のパーソナルコンピュータの発展には著しいものがあり、その外部記憶装置としてはリジッドディスクドライブが用いられる傾向にある。情報蓄積および処理のコスト低減から、リジッドディスクドライブの小型、大記憶容量化すなわち高密度記録化の要請は強く、ディスク記録媒体にあっては高保磁力化、薄膜化が求められている。このため記録媒体には従来の塗布型に代って、薄膜媒体の研究開発が盛んになって来ている。中でもスパッタによるCo基磁性薄膜ディスクは物理的化学的に優れているばかりでなく、コスト/性能比からも優位であり、その実用化研究は極めて重要であり、本論文で取り上げる研究の意義を明らかにした。
第2章 CoNi薄膜の製造条件と磁気特性
薄膜媒体製造の基本要素であるスパッタ雰囲気中窒素濃度の磁気特性に対する影響および成膜速度、基板温度、熱処理条件等の影響について実用的見地から検討を行った。その結果、(1)D.C.マグネトロンスパッタによる毎分700Åの高速成膜においてもスパッタ雰囲気中窒素濃度の調整により、r.f.ダイオードによる低速成膜におけると同様の目標磁気特性が得られることが判った。(2)また、基板は液体窒素による冷却の必要はなく、100℃の近傍の基板温度でも目標磁気特性が達成出来ることが明らかとなり、本製法によるCoNi薄膜媒体の工業化可能性を明らかにした。
第3章 実用媒体としての電磁変換特性評価
Cr2O3浴による耐熱アルマイト表面硬貨処理を行った4N高純度Al基板を用いて、130mm径薄膜磁気ディスクを実際に製造し電磁変換特性の評価を行った。その結果、(1)本媒体が高保磁力であることから、強い磁化能力を有するメタルインギャップ磁気ヘッドとの組合せ実用化により、25KFCI(Kilo Flux Change Per Inch)を越える高線密度記録が可能であること、(2)またCoNiPt薄膜媒体等に比較して記録時の信号対雑音比も高く、この点からも、本研究における薄膜媒体は高密度記録用として優れていることを示した。
第4章 CoNi薄膜の磁気特性と微視構造
CoNiN薄膜に及ぼすスパッタ雰囲気中窒素濃度の影響を、透過型電子顕微鏡を用いた微視構造の解析から究明し、併せて保磁力発生の機構を解明した。要約すると次の通りである。
(1)スパッタ雰囲気中窒素濃度の増大に伴いアズスパッタ膜の磁気が失われるのは、微細な(CoNi)3N、(CoNi)2N等の窒化物が形成されることにある。
(2)この窒化物は300℃近傍の温度で分解し、(CoNi)結晶を形成する。アズスパッタ膜がアモルファス状態の(CoNi)2Nになる様な窒素濃度においてスパッタした場合には、熱処理後に形成される(CoNi)粒子は単磁区粒子寸法で、かつ大きな一軸結晶磁気異方性定数を有するhcp構造のみとなり、しかもこのhcp(CoNi)結晶粒は(CoNi)の窒化物から形成されるアモルファス物質および空孔から成る100~200Åの非磁性粒界層で隣接粒子同志が分離される様になる。この時に薄膜の保磁力は大きな値を示し、非磁性粒界層がよく発達した微細組織を有する膜ほど高保磁力である。
(3)窒素濃度が高すぎるとHcは低下する傾向にある。これは本薄膜を構成する通常数100~1,000Åのhcp(CoNi)単磁区粒子が微細化し超常磁性を示す限界寸法40Åに近くなったため、粒子が熱擾乱の影響を受易くなったことも一要因である。しかし、もっと大きな原因は粒子同志が直接接触するようになり、粒子間の磁気的相互作用が増大するためであると考えられる。
(4)窒素濃度が低すぎる場合には、熱処理後立方晶系の比較的小さな結晶磁気異方性定数を有するfcc(CoNi)粒子が多量に出現するため保磁力は低い。
(5)以上総合して、高保磁力の発生機構は次の様に考えられる。すなわち、よく発達した非磁性粒界層の存在が、hcp(CoNi)単磁区粒子の粒子間交換結合(exchange coupling)等を減少又は消滅させ、粒子の磁化反転を困難にするため、保磁力が高くなると考えられる。
(6)実用化媒体の断面微視構造の解析により、本媒体の高い記録時S/N比はやはり比磁性粒界層の形成による隣接粒子間交換結合の減少又は消滅による遷移領域の減少にあることを提案した。
第5章 総括
以上の様に本研究により、(Ar+Ni)混合雰囲気中スパッタによるCoNi薄膜の工業的実用化の可能性を確認すると共に、本研究による薄膜の高保磁力性、および信号記録時の高い信号対雑音比の得られる原因は媒体を構成する粒子が互いに隔離されていることにあることを示した。本薄膜は連続薄膜でありながら、粒子性の優れた特性も兼ね備え、面内記録媒体としてすぐれたものであることが判明した。
今後は耐ヘッド摺動性等信頼性の検討を行うと共に、高密度記録性を実現するためメタルインギャップ磁気ヘッドとの組合せによる実用化研究が必要である。