ガスソース分子線エピタキシャル法による3C-SiCの低温成長に関する研究
氏名 本山 慎一
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第6号
学位授与の日付 平成2年3月26日
学位論文の題目 ガスソース分子線エピタキシャル法による3C-SiCの低温成長に関する研究
論文審査委員
主査 教授 金田 重男
副査 教授 岡本 祥一
副査 教授 飯田 誠之
副査 教授 長倉 繁麿
副査 教授 藤井 伸行
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目次
第1章 序論
1-1 はじめに p.1
1-2 SiCの物理的性質 p.2
1-3 SiC結晶成長に関する現在までの研究経過 p.6
1-4 本研究の目的と意義 p.9
第2章 分子線エピタキシャル(MEB)法による化合物半導体の成長法
2-1 はじめに p.11
2-2 MBE法の概要 p.11
2-2-1 個体ソース法 p.13
2-2-2 ガスソース法 p.14
2-3 ガスソースMBE法の利点 p.14
第3章 研究方針
3-1 はじめに p.20
3-2 三温度法と原料ガスの選択 p.20
3-3 炭化法 p.29
3-4 低温でのSiCのエピタキシャル成長のために p.30
第4章 試作実験装置
4-1 ガスソースMBE装置 p.36
4-1-1 全体装置 p.36
4-1-2 基板加熱法 p.38
4-1-3 原料ガス、不純物分子線の供給方法 p.39
4-1-4 分析装置 p.40
4-2 ArFレーザ装置 p.40
第5章 3C-SiCの成長実験法
5-1 基板の選定ならびに処理方法 p.42
5-2 分子線源用ガスの選定 p.43
5-3 結晶成長手順 p.43
5-4 結晶評価法 p.44
5-4-1 反射型高エネルギー電子線回析(RHEED)による"その場"観測 p.44
5-4-2 "その場"観測以外の結晶評価 p.44
第6章 実験結果
6-1 原料ガスを熱分解することにより生じる分子種 p.47
6-1-1 はじめに p.47
6-1-2 熱平衡計算結果 p.47
6-1-3 四重極質量分析器(QMS)による実測 p.51
6-1-4 考察 p.58
6-2 炭化法 p.62
6-2-1 はじめに p.62
6-2-2 定温炭化法 p.62
6-2-3 昇温炭化法 p.67
6-2-4 考察 p.79
6-3 3C-SiCの低温成長 p.81
6-3-1 はじめに p.81
6-3-2 SiHCl3-C2H4ガス系による3C-SiC成長 p.82
6-3-3 SiHCl3-C3H8ガス系による3C-SiC成長 p.90
6-3-4 考察 p.98
第7章 デバイス応用への有効性
7-1 はじめに p.107
7-2 pn制御のための不純物添加の試み p.107
7-2-1 pタイプ不純物添加 p.107
7-2-2 nタイプ不純物添加 p.117
第8章 結論 p.123
参考文献 p.126
謝辞 p.134
本研究に関する発表論文リスト p.135
著者は昭和59年4月に長岡技術学大学大学院工学研究科に入学以来、ガスソース分子線エピタキシャル法によるZnS、SiCの結晶成長に携わってきた。本論文は、ZnS成長での経験をもとに実施した立方晶(3C)SiC成長に関する研究成果をまとめたものである。
SiCは、熱的、化学的に安定であり耐放射線性にもすぐれている。更に、多数の結晶多形が存在し、それらの中には可視域での発行を可能にするものもあり魅力的な材料である。3C-SiCは他の結晶多形より電子的性質がすぐれており、またGaAs、Siと比較しても数々の長所を持つことから、高温、電力、高速用電子素子材料として有望である。
SiCの結晶成長は、最初昇華法(2500℃)、溶融法(1600℃)などの高温を要するバルク成長から開始され、また不純物制御(PN制御)にも高温を必要とした。しかし、半導体素子の主流がプレーナ型である現在ではヘテロエピタキシャル成長が可能なら必ずバルク結晶は必要はなく、低温で良質なエピタキシャル成長ができれば3C-SiCのすぐれた物理的性質を生かした電子素子が実現できることになる。このような考えから近年、成長中にPN制御が可能な化学気相堆積(CVD)法によるSi基板上への3C-SiC成長が注目されるようになってきた。この方法ではSiとSiC結晶の約20%の格子不整合緩和のためSi基板状にバッファ層となるSiC薄膜を形成した後(炭化法)主としてSiH4-C3H8-H2反応ガスにより行われている。しかし、その成長温度は1200℃以上のなおかなりの高温を必要とし、デバイス応用の隘路となっている。また炭化法の詳細や用いたガスからのSiC結晶化反応のメカニズム等も不明である。そこで著者は、ガスソース分子線エピタキシャル(GS-MBE)法を用いSi基板上への3C-SiCの低温成長を目的として研究を開始した。MBE法は非熱平衡条件下での成長であり低温成長に適している。また高エネルギー電子線解析により成長状況を"その場"観測できる利点をもっている。炭化法は、C2H4ガスを用いて行い、成長メカニズムについて検討した。3C-SiC成長は、MBE法の指導原理である三温度法に従った成長にするためにSiHCl3-C2H4、SiHCl3-C3H8の2つのガス系を用いた。これらのガスの熱解析により生じる分子種と基板の吸着サイトの関係から3C-SiCの成長メカニズムについて検討し、低温成長のために重要と思われる方法を提案した。また、低温成長のために用いたArFエキシマレーザ照射の影響について調べた。低温成長を行った後、PN制御のための不純物添加を行った結果デバイス応用への可能性が十分立証された。
本論文は、以下の全8章から構成される。
第1章は序論であり、SiCの物理的性質を述べその結晶成長に関する研究経過から本研究の必要性を明らかにし、目的と意義を明確にする。
第2章は、GS-NBE法について述べる。低温での結晶成長という点では個体ソースよりガスソースが有効であることをGaAs、ZnS、SiCの実験例から明らかにする。
第3章は、Si基板上への3C-SiC低温成長のための研究方針を述べる。MBE法の指導原理から炭化法にはC2H4、3C-SiC、C2H4及びC3H8を選んだことを示す。更に、基板上の吸着サイトであるフォローブリッジサイトの考察から、3C-SiCの成長メカニズムを予測する。
第4章では、試作したガスソースMBE装置、ArFエキシマレーザ装置について述べる。
第5章では、結晶成長手順、結晶評価法について述べる。
第6章は、実験結果を詳細に述べている。炭化膜は750-1050℃の任意の温度でSiが存在するときのみCHnと反応しエピタキシャル成長することを示す。炭化膜上への3C-SiCはSiHCl3-C2H4、SiHCl3-C3H8ガス系で、それぞれ1000℃、800℃という従来よりかなり低温でエピタキシャル成長することを示す。この成長はガスの熱分解によって生じる分子種分析の結果、MBE法の指導原理である三温度法を満たした成長であることを示す。更に、その成長メカニズムについて考察する。またArFレーザ照射の効果としてSiC結晶化反応が促進されることを示す。
第7章は、本研究で得られた成長膜のデバイス応用への有効性について述べる。他の研究機関の実施例と比較し、本研究で得られたエピタキシャル成長のための温度が最も低温であることを示す。1000℃での成長膜に蒸発の容易なHBO2を用いたB添加によりPタイプ制御が可能であることを示す。Nタイプを得るために用いたSbの蒸気圧は高く添加のために低温成長は必要である。850℃での成長膜にはSbが添加でき、更に添加量を増加させるために電界印可、ArFレーザ照射が有効であることを示す。
第8章では、以上の7章を総括し、本研究の結論を述べる。