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カルコパイライト化合物半導体Cu(AlGa)S2系の格子振動とルミネッセンス

氏名 寺迫 智昭
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第134号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 カルコパイライト化合物半導体Cu(AlGa)S2系の格子振動とルミネッセンス
論文審査委員
 主査 教授 飯田 誠之
 副査 教授 作田 共平
 副査 助教授 上林 利生
 副査 助教授 打木 久雄
 副査 助教授 安川 寛治

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目次
第1章 序論
1.1 本研究の背景 p.1
1.2 カルコパイライト型半導体の概説 p.4
1.3 カルコパイライト型半導体エピタキシャル成長の研究の現状 p.8
1.4 本論文の目的 p.9
1.5 本論文の構成および各章の概要 p.12
参考文献 p.14
第2章 試料の成長と評価方法
2.1 結晶成長
2.1.1 ヨウ素輸送法によるバルク単結晶の作製 p.19
2.1.2 気相エピタキシャル成長法による試料の作製
(a)原料 p.20
(b)成長系 p.21
(c)成長手順 p.23
2.2 評価方法 p.24
2.2.1 X線回折 p.24
2.2.2 EPMA分析 p.26
2.2.3 ラマン散乱スペクトル測定 p.28
2.2.4 赤外透過スペクトル測定 p.28
2.2.5 定常状態のフォトルミネッセンス(PL)測定 p.29
2.2.6 フォトルミネッセンス励起(PLE)スペクトル測定 p.29
2.2.7 時間分解PLスペクトル測定と強励起PLスペクトル測定 p.30
2.2.8 抵抗率測定 p.30
参考文献 p.32
第3章 混晶Cu(A1xGa1-X)S2の格子振動特性
3.1 はじめに p.33
3.2 カルコパイライト半導体のフォノン周波数に関する予備的考察 p.33
3.3 結果
3.3.1 ラマン散乱周波数の混晶組成依存性 p.39
3.3.2 二フォノン赤外透過スペクトルと二次ラマン散乱スペクトル
(A)CuGaS2 p.45
(B)CuA1S2 p.47
(C)Cu(A1XGa1-X)S2 p.47
3.4 解析と議論
3.4.1 振動モードの混晶組成依存性
(A)A1(W1)振動モード p.51
(B)その他の振動モード p.52
3.4.2 CuGaS2とCuA1S2の2フォノンスペクトルに対するゾーン端フォノンの寄与 p.55
3.4.3 Cross-coupledモード p.55
3.5 結論 p.56
参考文献 p.58
第4章 混晶Cu(A1xGa1-X)S2エピタキシャル成長層のフォトルミネッセンス特性
4.1 はじめに p.60
4.2 実験結果と検討
4.2.1 成長条件、X線回折、EPMA、ラマン散乱測定 p.61
4.2.2 弱励起下でのPLスペクトル p.67
4.2.3 PLEスペクトルと混晶組成の決定 p.68
4.2.4 強励起下でのPLスペクトル p.73
4.2.5 強励起下での励起子領域の発光の起源 p.77
4.3 結論 p.81
参考文献 p.82
第5章 無添加CuGaS2エピタキシャル成長層の束縛励起子発光
5.1 はじめに p.83
5.2 実験結果
5.2.1 成長条件 p.85
5.2.2 X線回折、ラマン散乱測定 p.86
5.2.3 励起子領域のPLスペクトルと時間減衰特性 p.87
5.2.4 DAP発光 p.92
5.2.5 束縛励起子発光とDAP発光の相関 p.93
5.2.6 PLスペクトルのH2S供給量依存性 p.95
5.2.7 DAP発光の時間分解PLスペクトル p.95
5.3 予備考察
5.3.1 束縛励起子発光の結合エネルギー p.99
5.3.2 束縛励起子発光減衰時定数の理論計算 p.101
(a)RG理論 p.102
(b)SC理論 p.104
5.4 検討
5.4.1 I2発光線(2.493eV) p.107
5.4.2 I3発光線(2.499eV) p.108
5.4.3 I1発光線(2.486eV) p.109
5.4.4 RG理論とSC理論の比較 p.110
5.5 結論 p.111
参考文献 p.112
第6章 Zn添加CuGaS2エピタキシャル成長とフォトルミネッセンス特性
6.1 はじめに p.115
6.2 結果
6.2.1 成長条件とX線回折 p.116
6.2.2 PLスペクトルのZn原料温度依存性 p.118
6.2.3 PLスペクトルのGaCl3温度依存性 p.119
6.2.4 PLEスペクトル p.122
6.2.5 PLスペクトルの温度依存性
(a)PLピーク強度 p.124
(b)半値全幅(FWHM) p.125
(c)PLピークエネルギー p.126
6.2.6 PLスペクトルの励起強度依存性 p.128
6.2.7 ラマン散乱スペクトルにおけるZn添加効果 p.130
6.2.8 抵抗率 p.132
6.3 検討
6.3.1 高濃度Zn添加成長層で観察される発光の起源および機構についての検討
(a)発光起源 p.134
(b)発光機構 p.136
6.3.2 抵抗率についての考察 p.142
6.4 結論 p.143
参考文献 p.146
第7章 総括
7.1 はじめに p.148
7.2 第6章までの研究 p.148
7.3 今後の課題 p.152
7.4 本研究の成果 p.155
参考文献 p.156
謝辞 p.157
本研究に関する発表 p.158

 I-III-VI2族カルコパイライト半導体混晶Cu(AlX Ga1-x)S2は2.5eVから3.5eVの禁制帯幅を有し、可視域短波長発光素子用材料としての可能性を秘めている。しかしながら、その基礎物性については、不明な点が多い。本研究ではそのなかでも格子振動特性とフォトルミネッセンス(PL)特性に注目した。格子振動特性は混晶系における原子配列の規則性に関する情報を得ること、PL特性は混晶成長層の組成の確認、束縛励起子発光の起源の同定、CuGaS2中で両性不純物としての働きが期待されるII族Zn原子の添加効果解明を目的とした。
 格子振動に関する研究は、ヨウ素輸送法で作製された混晶Cu(AlGa)S2バルク単結晶の一次および二次ラマン散乱スペクトルおよび二フォノン領域の赤外透過スペクトルの測定によって行い、以下の1)~3)の結果が得られた。1)モード判別方法
 この混晶系では最も高周波数側に現れるIII-VI結合に関係する振動モードの格子振動周波数が混晶組成に対して2モード型(自己主張型)の挙動を示すことが明らかになった。これはElliottらによって提案された判別方法をこの振動モードに対応する形に修正して適用した結果とも一致した。またCu(InGa)S2やCuGa(SSe)2においても判別結果と報告とが一致することを見いだし、II-VI族およびIII-V族混晶系以外にI-III-VI2族カルコパイライト混晶系に対してもこの判別方法が適用可能であることを初めて明らかにした。2)クラスタリング効果
 A1(W1)振動モードのラマン散乱線のスペクトル形状と二フォノン領域に現れるcross-coupledモードの観察からこの混晶系において合金散乱を引き起こすと考えられるクラスタリング効果が本質的に抑制されていることも明らかになった。
3)二フォノンスペクトルの解析
 二フォノン領域のラマン散乱および赤外透過スペクトルには、一次ラマン散乱スペクトルとの比較からゾーンセンターのフォノンの寄与が支配的であるが、それ以外の領域のフォノンも寄与していることを明らかにした。
 PL特性の研究からは、以下の4)~6)に掲げる結果が得られた。
4)混晶エピタキシャル成長層の強励起下のPL特性
 金属塩化物(CuCl、AlCl3、GaCl3)と硫化水素(H2S)を原料として用いてGaP(100)基板上へのCu(AlGa)S2の気相エピタキシャル(VPE)成長を試みた。成長層のXeClエキシマレーザによる強励起下のPL測定では、水銀灯の輝線による励起下では観察されなかった励起子が関係すると考えられる発光が観察された。この発光は混晶組成xの増加に対応して高エネルギー側にシフトした。混晶組成の制御性や表面モフォロジーの改善など解決すべき課題はあるものの、この成長法でCu(AlGa)S2混晶の成長が可能であることが示された。
5)CuGaS2エピタキシャル成長層の束縛励起子発光の起源
 エピタキシャル成長条件とPL強度との相関、励起子束縛エネルギー、実測された減衰時定数と理論にもとづいて求めた減衰時定数との比較などから、混晶組成x=0.0のCuGaS2エピタキシャル成長層のPLスペクトルで観察される2.499eV、2.493eV、2.485eVの束縛励起子発光線がそれぞれイオン化ドナー束縛励起子発光線((D+,X))、中性ドナー束縛励起子発光線((D0,X))、中性アクセプタ束縛励起子発光線((A0,X))である可能性を初めて示した。
6)CuGaS2エピタキシャル成長層へのZn添加効果の解明
 両性不純物Znを添加したCuGaS2結晶はこれまでヨウ素輸送法で作製されたものに限られていたが、本研究では初めて素子化への適用を考慮してVPE法によるZn添加CuGaS2のエピタキシャル成長を試みた。その結果、エピタキシャル成長層の方が、バルク単結晶よりも高濃度にZnが添加可能であることが明らかになった。成長層で観察されるZn濃度とともに低エネルギーシフトを示すブロードな発光は、エピタキシャル成長条件、PLスペクトルおよびラマン散乱スペクトルとの相関から、Ga格子位置を置換するZn原子(ZnGa)が関与していると結論した。さらにPLスペクトルの温度依存性、PL励起スペクトル、PL励起強度依存性の測定から、この発光が高濃度に成長層中に取り込まれたZn原子によって引き起こされたバンドや不純物準位の空間的な揺らぎが関係する“擬ドナー・アクセプタ対発光”と考えるのが妥当であることを示した。
 本研究ではp型電導性を持つ成長層しか作製できなかったが、その抵抗率はZn原料温度およびGaCl3温度をかえることで20Ωcmから1.2×10の4乗Ωcmの範囲で変化すること、そして構成元素供給比によるZnGa濃度制御で抵抗率制御が可能であることを初めて明らかにした。

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