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高温UASB反応器におけるグラニュール形成機構と保持微生物叢の生態物学的構造に関する研究

氏名 珠坪 一晃
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第147号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 高温UASB反応器におけるグラニュール形成機構と保持微生物叢の生態物学的構造に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 桃井 清至
 副査 助教授 大橋 晶良
 副査 講師 小松 俊哉
 副査 茨城大学 助教授 古米 弘明
 副査 長岡工業高等専門学校助教授 荒木 信夫

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目次
第1章 序論
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の目的 p.3
1.3 論文の構成 p.8
第一章 参考文献 p.10

第2章 既往の研究(高温メタン発酵に関する研究動向)
2.1 緒論 p.12
2.2 高温嫌気性消化の特徴 p.12
2.2.1 高温嫌気性消化のアドバンテージ p.12
2.2.2 高温嫌気性消化のウイークポイント p.15
2.3 高温性メタン生成細菌の生態学的特徴 p.17
2.3.1 高温性酢酸資化性メタン生成細菌の至適温度域 p.17
2.3.2 高温性酢酸資化性メタン生成細菌の基質親和性 p.20
2.3.3 高温性メタン生成細菌の増殖特性 p.21
2.4 酢酸酸化・水素生成経由のメタン生成反応 p.25
2.5 高温UASB法のプロセスパフォーマンスとその特徴 p.27
2.6 高温培養汚泥のメタン生成活性とその温度依存性 p.35
2.7 高温グラニュール汚泥の形態学的特徴 p.41
2.8 まとめ p.42
第2章 参考文献 p.43

第3章 高温消化汚泥を植種源に用いた、高温(55℃)UASBリアクタースタートアップ期間におけるグラニュレーション特性とSRTの変化
3.1 はじめに p.50
3.2 実験装置と方法 p.51
3.2.1 UASBリアクター p.51
3.2.2 供給廃水 p.51
3.2.3 植種汚泥 p.53
3.2.4 メタン生成活性試験 p.53
3.2.5 生菌数の測定 p.54
3.2.6 顕微鏡(SEM、蛍光顕微鏡)によるリアクター保持微生物の形態学的観察 p.55
3.2.7 分析方法 p.55
3.3 実験結果及び考察 p.56
3.3.1 リアクター処理性能 p.56
3.3.2 グラニュレーションの進行と保持汚泥の形態学的構造変化 p.58
3.3.3 スタートアップ期間における保持汚泥量の変化とSRTの算定 p.63
3.3.4 メタン生成活性の温度依存性の推移と生菌数の推移 p.69
3.4 小括 p.72
第3章 参考文献 p.74

第4章 中温グラニュール汚泥を植種源とした、高温(55℃)UASBリアクタースタートアップ期間における保持微生物群の(中温菌から高温菌への)ポピュレーションシフト p.76
4.1 はじめに p.76
4.2 実験装置と方法 p.77
4.2.1 UASBリアクター p.77
4.2.2 供給廃水 p.77
4.2.3 植種汚泥 p.78
4.2.4 メタン生成活性試験 p.79
4.2.5 顕微鏡(SEM、蛍光顕微鏡)によるリアクター保持微生物の形態学的観察 p.79
4.2.6 分析方法 p.80
4.3 実験結果及び考察 p.81
4.3.1 アルコール蒸留廃水処理状況 p.81
4.3.2 グラニュレーションの進行とその影響因子 p.85
4.3.3 反応器保持微生物の中温菌から高温菌へのポピュレーションシフト p.88
4.3.4 保持汚泥の構造的変化 p.95
4.4 小括 p.99
第4章 参考文献 p.101

第5章 高温グラニュール汚泥中の沈積無機元素の定量、同定とその沈積メカニズムの調査
5.1 はじめに p.103
5.2 実験装置と分析方法 p.104
5.2.1 供試汚泥 p.104
5.2.2 ICPによる無機元素の定量化 p.104
5.2.3 EDXによる無機元素のグラニュール割断面における面・線分析 p.104
5.2.4 X線回折(XRD)による無機沈積物の同定 p.105
5.3 実験結果及び考察 p.106
5.3.1 反応器運転状況と供試汚泥の性状 p.106
5.3.2 高温グラニュールの無機元素の定量 p.109
5.3.3 EDXによる、面・線分析 p.110
5.3.4 XRD(X線回折)による、無機沈積物の同定 p.111
5.3.5 pC-pH diagram構築による、Ca5(PO4)3OH形成に及ぼすイオン濃度と温度の影響調査 p.113
5.4 小括 p.117
第5章 参考文献 p.118

第6章 高温メタン発酵系における酢酸酸化・水素生成経由のメタン生成経路の生態学的意義
6.1 はじめに p.119
6.2 実験条件と方法 p.121
6.2.1 供試汚泥 p.121
6.2.2 メタン生成活性試験 p.121
6.2.3 酢酸分解バイアル実験 p.122
6.2.3.1 酢酸酸化反応の自由エネルギー変化量の算定 p.122
6.2.3.2 酢酸分解バイアル実験手順 p.123
6.3 実験結果及び考察 p.124
6.3.1 供試汚泥の培養状況とメタン生成活性の温度依存性 p.124
6.3.2 酢酸分解バイアル実験 p.127
6.3.3熱力学的考察による検証 p.132
6.4 小括 p.133
第6章 参考文献 p.135

第7章 新規高温UASBリアクターによるアルコール蒸留廃水処理特性と反応器内の水素文圧、上昇線流速の挙動
7.1 はじめに p.138
7.2 実験条件と方法 p.139
7.2.1 UASBリアクター p.139
7.2.2 供給廃水 p.140
7.2.3 植種汚泥 p.141
7.2.4 メタン生成活性試験 p.141
7.2.5 FISH(Fluorescence in-situ hybridization)法による保持汚泥中の古細菌(メタン生成細菌)の検出 p.141
7.2.6 分析方法 p.142
7.3 実験結果及び考察 p.142
7.3.1 反応器運転状況(アルコール蒸留廃水処理状況) p.142
7.3.2 グラニュレーションの進行とその影響因子 p.145
7.3.3 新規高温UASB反応器における系内の水素分圧の低減効果 p.150
7.3.4 新規高温UASB反応器における上昇線流速の低減効果 p.155
7.3.5 保持汚泥の顕微鏡観察結果 p.159
7.3.6 保持汚泥のメタン生成活性 p.162
7.4 小括 p.163
第7章 参考文献 p.165

第8章 乾燥ペレット汚泥の開発と、UASB植種源としての有効性評価
8.1 はじめに p.167
8.2 実験方法 p.167
8.2.1 乾燥ペレット汚泥の作成方法 p.167
8.2.2 UASB実験 p.169
8.2.3 メタン生成活性試験(メタン生成バイアル実験) p.169
8.2.4 メタン生成細菌の菌数測定 p.170
8.3 実験結果及び考察 p.170
8.3.1 乾燥ペレット汚泥の生態学的特徴 p.170
8.3.2 UASB実験におけるプロセスパフォーマンス p.173
8.3.3 UASB実験における保持汚泥の物理的性状の変化 p.176
8.3.4 UASB実験における保持汚泥の生物学的構造の変化 p.178
8.3.5 UASB実験におけるメタン生成能の発現 p.181
8.4 小括 p.182
第8章 参考文献 p.183

第9章 総括
9.1 高温条件下におけるグラニュール形成機構とその影響因子 p.184
9.1.1 高温消化汚泥からのグラニュール形成機構 p.184
9.1.2 中温グラニュール汚泥からのグラニュール形成機構 p.185
9.2 高温グラニュール汚泥の生態学的特徴 p.185
9.2.1 高温培養汚泥のメタン生成活性とその温度依存性 p.185
9.2.2 高温グラニュール汚泥の形態学的構造 p.186
9.2.3 酢酸酸化・水素生成経由のメタン生成反応 p.187
9.2.4 高温グラニュール汚泥中への無機元素の沈積現象 p.187
9.3 高温UASB法のプロセスパフォーマンス p.188
9.4 乾燥ペレット汚泥の作成とその有効性評価 p.189
9.5 高温UASB反応器の最適運転条件、設計手法の提示 p.190

 UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法とは、嫌気性微生物の持つ自己固定化(Self-immobilization)機能を巧みに利用し、グラニュー状の微生物集塊を増殖させ、その結果反応器内への微生物の高濃度保持を実現し、廃水の高速処理を可能にする高速メタン発酵型の嫌気性廃水処理プロセスである。近年、有機性産業廃水への適用が活発に進展しているが、その殆どは中温度域(25-35℃)で運転されている。
 一般に、有機原料の蒸留、煮炊きなど加熱加工工程を含む、多くの食品加工工場等からは、高温(80-90℃)高濃度廃水が排出されており、高温・高速メタン発酵型の廃水処理プロセスの開発、適応が望まれる。また、高温嫌気性微生物は、中温微生物と比較して数倍高い活性を持つことから、高温(50-60℃)UASB法においても、良好なグラニュール生物体が形成出来れば、中温UASB法の数倍の有機物処理能力を実現しうる。
 しかし、現在のところ、UASB法が高温廃水処理に適応された例は無い。これは、高温度域におけるグラニュール形成機構に関する知見が著しく乏しく、高温UASBプロセスの適切な運転管理手法が確立されていないためである。
 本論文は、UASB(上昇流嫌気性スラッジブランケット)反応器を高温培養条件に適用し、従来型中温プロセスよりも飛躍的に高い有機物負荷を許容する超高速水処理バイオリアクターの開発を目的として、高温メタン発酵系の保持微生物叢のグラニュール化増殖機構と生態学的構造を実験的に解析したものであり、9章から構成される。
 第1章では、高温UASB法開発の意義と解決すべき問題点を整理し、本研究の目的につい述べている。第2章では、高温嫌気性菌の生理・菌学的特性、増殖力学的特性、高温グラニュールの形成機構と生態学的構造等に関する既往の研究動向を考察し、高温UASBプロセスの開発に必要とされる研究課題を明示することで、本研究の目的と位置づけを明確にしている。
 第3章では、高温培養嫌気性消化スラッジを植種源とする高温(55℃)UASB反応器のスタートアップ実験を行い、形成されたグラニュール増殖体の物理化学的および生物学的・生態学的特性を綿密に検討し、保持微生物滞留時間とバイオガスの生成による上昇線速度の相互関係を定量的に把握し、高温グラニュールの形成機構に関する重要知見を得ている。
 第4章では、高温UASBプロセスの実用化への足がかりとして、中温培養グラニュールを植種源(スタートアップの短縮化)として、アルコール蒸留廃水(実廃水への適応)を供したスタートアップ実験を行い、構成菌叢の中温から高温系への生態学的ポピュレーション・シフトの動態を調査した。その結果、中温菌から高温菌へのポピュレーション・シフトは、短時間で速やかに遂行されることを解明し、中温グラニュール植種の有効性を示した。
 第5章では、高温培養グラニュール内の特異的無機物組成・沈積物構造と分布をX線分析(EDX、X線回折)、ICP分析などにより定量化し、さらに化学的特性に対する熱力学・化学平衡論的根拠を考察し、グラニュールの沈降性・保持性の人為的コントロール手法を提示している。
 第6章では、酢酸の嫌気的条件下における分解に関与する、各トロフィック・グループの基質と中間生成物の濃度を意図的に操作するバイアル実験系を構成することによって、酢酸酸化・水素生成経由のメタン生成速度の温度依存性を検討し、この2者共生系の高温メタン発酵系における生態学的意義を明らかにした。
 第7章では、ガスー菌体分離装置の高効率化により、高濃度微生物保持を可能にするため新規のバイオリアクター型式を提案し、アルコール蒸留廃水を供した連続処理実験を行い、有機物負荷100kgCOD・m-3・d-1という超高速廃水処理プロセスの実現に成功した。
 第8章では、現行のUASB反応器の最も大きな技術的弱点であるスタートアップ期間の短縮化・安定化を図るために、含水率10%未満の新規の植種源「乾燥ペレットスラッジ : PDS」を提唱し、スタートアップ実験、メタン生成バイアル実験等によってフィージビリティを検討し、その有効性に対する微生物学的根拠を与えている。
 第9章では、本研究で得られた結果を総括し、さらに今後の展望について述べている。以上のように、本論文は、高温培養グラニュール汚泥の微生物生態学的構造に関する重要な基礎的知見を多く与えており、さらに新規の超高速水処理バイオリアクター型式と新規の乾燥ペレット植種源の提唱とその有効性を実証しており、高温UASB法の実用化に大きく道を開くものである。

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