本文ここから

テレビジョン信号の記録再生画質の向上と映像機器の多機能化に関する研究

氏名 尾鷲 仁朗
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第82号
学位授与の日付 平成8年6月19日
学位論文の題目 テレビジョン信号の記録再生画質の向上と映像機器の多機能化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 花木 眞一
 副査 教授 松田 甚一
 副査 教授 吉川 敏則
 副査 北陸先端化学技術大学院大学教授 宮原 誠

平成8(1996)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.5
1.1 研究の背景と目的 p.5
1.2 VTRに要求される基本事項 p.8
1.3 本論文の概要 p.11
PART1 基礎・理論
第2章 視知覚特性に基づいた画像歪の検知限と物理的設計基準の検討 p.15
2.1 まえがき p.15
2.2 NTSC信号の特徴と信号処理上のポイント p.15
2.3 VTRの信号処理と課題 p.23
2.3.1 VTRの記録方式
2.3.2 VTRの仕様
2.3.3 VTRの多機能化・記録再生画質向上の課題
2.4 高度視知覚特性からとらえた画像歪の検知限 p.35
2.5 多機能化・記録再生画質向上に必要な物理的設計基準の検討 p.40
2.5.1 色フリッカ低減処理に対する物理的設計基準の検討
2.5.2 時間軸補正装置に対する物理的設計基準の検討
2.5.3 3次元処理に対する動き検知のための物理的設計基準の検討
2.6 むすび p.58
第3章 局所適応Y/C分離方式とその広帯域VTR用LSIへの応用の検討 p.61
3.1 まえがき p.61
3.2 2ライン局所適応Y/C分離回路 p.63
3.2.1 2ライン局所適応Y/C分離回路の構成
3.2.2 非相関検出方式
3.2.3 狭帯域フィルタ
3.2.4 ソフトミックス技術
3.2.5 特性評価と非相関検出方式の考察
3.2.6 2ライン局所適応Y/C分離LSIの構想
3.3 3ライン局所適応Y/C分離回路 p.71
3.3.1 3ライン局所適応Y/C分離方式
3.3.2 3ライン局所適応Y/C分離回路とLSIの構成
3.3.3 性能評価と考察
3.4 再生モードにおける輝度信号処理 p.80
3.5 むすび p.82
第4章 広帯域VTR用フィールドメモリシステムにおける色フリッカの抑圧の検討 p.83
4.1 まえがき p.83
4.2 メモリ静止画時の色フリッカの抑圧 p.83
4.2.1 フィールドメモリシステムの構成
4.2.2 色フリッカの抑圧
4.3 フィールドメモリを用いた編集機能の画質向上 p.90
4.3.1 フィールドメモリを用いた編集機能
4.3.2 編集時の色フリッカの抑圧方式
4.3.3 実験結果
4.4 むすび p.95
PART2 VTRへの応用
第5章 高速応答時間軸補正信号処理の検討 p.97
5.1 まえがき p.97
5.2 MUSE信号のVTR記録方式の検討 p.99
5.2.1 TBCの基本方式検討
5.2.2 MUSE信号のVTR記録時の問題点
5.2.3 MUSE信号の記録方式の検討
5.3 MUSE方式VTR用TBCの検討 p.104
5.3.1 バーストインジェクション方式クロック発生回路
5.3.2 インジェクション方式の書き込みクロック周波数の安定化
5.3.3 同期信号の保護及び欠落補正
5.4 MUSE方式VTRの緒特性と考察 p.109
5.5 時間軸補正機能の民生用VTR高機能化への応用 p.112
5.5.1 開発目標
5.5.2 システム構成
5.5.3 2映像信号の混合
5.5.4 スキューレスサーチ
5.5.5 特殊効果
5.5.6 ノイズリデューサ
5.5.7 開発結果とその考察
5.6 むすび p.136
第6章 動き適応信号処理を用いたVTRの可変速再生方式の検討 p.139
6.1 まえがき p.139
6.2 3次元Y/C分離 p.141
6.3 動き適応走査線変換 p.142
6.3.1 ライン間の信号を用いた走査線変換
6.3.2 フィールド間の信号を用いた走査線変換
6.3.3 レベル比較型走査線変換
6.3.4 動き検出方式
6.4 動き適応フィールド変換回路 p.152
6.4.1 構成
6.4.2 信号不連続部分での信号処理
6.4.3 逆転再生
6.5 開発結果 p.155
6.6 結び p.155
第7章 現行映像設備を活用した圧縮HDTVシステムの検討 p.159
7.1 まえがき p.159
7.2 圧縮方式HDTVシステム p.159
7.2.1 圧縮方式HDTVシステムの提案
7.2.2 VTRに適した圧縮方式の検討
7.3 現行ディジタルVTR対応圧縮伸長回路の構成 p.162
7.4 記録フォーマット p.165
7.4.1 ブロックの構成と圧縮信号処理
7.4.2 記録フォーマットの検討
7.5 評価結果 p.171
7.5.1 フィールド内符号化とフレーム内符号化の比較
7.5.2 ダビング特性の評価
7.5.3 試作結果
7.6 むすび p.174
第8章 結言 p.177
謝辞 p.181
参考文献 p.183
著者発表論文 p.187

氏名 尾鷲 仁朗
 映像機器の画質向上に関する研究は主に波形歪の改善、S/N比向上の観点から行われてきた。しかし、録画再生機器(主にVTRを対象とする)の大きな特長である時間軸変換機能に関連した信号処理についての検討は十分にはなされていない。そこで本研究ではこの問題を解析、検討し、それに基づいた記録再生画質の向上と映像機器の多機能化を目的としている。
 本論文は、「テレビジョン信号の記録再生画質の向上と映像機器の多機能化に関する研究」と題し、その内容は大きく2つに分けられる。前半(第2章~第4章)は基礎理論に関するもので、映像機器の設計仕様の決定、従来機器の問題点とその解決法を論じている。後半(第5章~第7章)は基礎理論で得られた結果をVTRへ応用し、多機能、高画質記録再生装置の実現について記述している。
 第1章では、本研究の背景と目的を述べるとともに、本論文の構成を示している。
 第2章では、これまでの研究成果である高度視知覚特性からとらえた画像歪の検知限をまとめることから始め、これをベースに記録再生画質(時間軸変換処理)の向上に必要な物理的設計基準を求めている。まず、現行コンポジット・テレビジョン信号をメモリ静止画処理やフィールド変換処理する時に発生する色フリッカについて、その発生原理を明確にしている。設計基準は、輝度信号中の残留搬送色信号成分については-45dB、残留ジッタについては、MUSE信号の画像歪の観点からその許容限として5nsp-pに定め、その根拠を視知覚特性の面から論じている。
 第3章では、現行コンポジット・テレビジョン信号を処理するうえでの究極の課題である、Y/C分離回路の検討を行っている。特に3ライン局所適応Y/C分離回路では、各ラインの信号レベルを直接比較する方式を提案している。この方式の特長は、従来方式の欠点である、分離特性の入力信号レベル依存性がなく、かつ、輝度信号、搬送色信号のいずれの垂直過渡部でもクロストークが少ない点である。ゲートアレイを試作し、実験的にその性能を確認している。
 第4章では、色フリッカの抑圧について2方式を提案し、実験的にその性能を確認している。1つは、フィールド長を色副搬送波周期の整数倍となるように伸縮する方法で。これによりフィールド間で信号レベルの変動をなくすことができ、色フリッカの完全除去を実現している。もう1つは、フィールドノイズリデューサを用いて、輝度信号中の残留搬送色信号成分を抑圧する方法である。
 以上の基礎検討で得た技術を応用し、多機能、高画質記録再生装置の実現について第5章~第7章で論じている。
 第5章では、ハイビジョン放送用信号であるMUSE信号をアナログセグメント記録、再生する技術について検討している。VTRではトラック毎に信号が不連続になるため、MUSE受信機で用いている周期性を利用した同期分離は利用できない。そこで、MUSE信号を時間圧縮し、得られた隙間に負極の同期信号とバースト信号を付加して記録する方式を提案している。再生時には付加した負極同期信号でスキューを除去し、バースト信号に位相同期したクロックを発生するバーストインジェクション回路で、ジッタを抑圧している。基礎実験により、負極同期信号を基準にクロック信号を発生した場合に比べ、約20dBのS/N比改善効果があり、映像S/N比25dB以上で設計基準とした残留ジッタ5nsp-p以下を実現している。これらの技術を用いることで、民生用レベルのMUSE信号記録VTRを世界ではじめて実現している。さらに、このインジェクション方式時間軸補正回路を現行の家庭用VTRに応用し、スキューレスサーチや、ワイプ、フェードなどの編集機能を簡単な回路構成で実現している。
 第6章では、現行コンポジット・テレビジョン信号の放送用VTRにおける可変速再生の画質向上について検討を行っている。従来の信号処理ではライン間の信号を用いてフィールド変換を行っているため、スローモーション再生時などで解像度劣化、画像の上下動、色フリッカなどが生じる。そこで本研究では、動き適応処理を採用し、静止画部ではフィールド間の信号を用いている。さらに、動画と判断した部分でも、ライン間の信号と他フィールドの信号のレベルを比較し補間信号を得る方式を提案し、劣化を最小限におさえている。これにより、動き検出感度をあげることができ、スローモーション再生時にも標準速再生画質に匹敵する画質を実現している。このVTRは可変速再生に動き適応処理を用いた実用レベルの唯一の機種としてNHK他の放送局で運用されている。
 第7章では、スタジオ規格HDTV信号をビット圧縮することで、現行コンポジット・テレビジョン信号用ディジタル放送設備をハイビジョン設備として流用できることを示し、実現のため具体的な検討を行っている。放送設備を想定しているため編集性を重視して、フレーム内処理とし、圧縮にはDCT、可変長符号化を用いている。圧縮率を10分の1とし、現行システムでの使用禁止コードを回避することで、VTRでの記録、シリアル回線などの現行設備での使用の可能性を示している。画質的にはDCTのブロック位置がシフトするような圧伸の繰り返しで劣化が激しく、今後の圧縮技術の改善が必要であることを指摘している。
 第8章では、本研究で得られた結果がまとめられている。

平成8(1996)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る