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舗装体の層弾性係数の合理的推定法に関する研究

氏名 亀山 修一
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第142号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 舗装体の層弾性係数の合理的推定法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 丸山 久一
 副査 助教授 下村 匠
 副査 助教授 唐 伯明
 副査 北海道工業大学教授 笠原 篤

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目次
論文の要旨 p.1
第1章 研究の背景および目的
1-1 研究の背景 p.4
1-2 非破壊試験の概要 p.6
1-2-1 たわみ量測定装置 p.7
1-2-2 静的荷重によるたわみ量試験機 p.10
1-2-3 定常波振動によるたわみ量試験機 p.11
1-2-4 衝撃荷重によるたわみ量試験機 p.12
1-2-5 マルチモード荷重によるたわみ量試験機 p.13
1-3 FWDの概要 p.14
1-3-1 衝撃荷重発生装置 p.14
1-3-2 たわみセンサー p.16
1-3-3 載荷版 p.17
1-3-4 荷重測定装置 p.17
1-3-5 測定データ保存装置 p.17
1-4 わが国におけるFWDの現況 p.18
1-5 舗装の構造解析理論 p.20
1-5-1 構造解析理論の発展経緯 p.21
1-5-2 多層弾性論(Burmisterの理論) p.24
1-6 FWDたわみを用いた舗装体の支持力評価 p.28
1-7 逆解析理論 p.30
1-8 本研究の視点と目的 p.34
1-8-1 既往の研究および逆解析の問題点(第2章) p.34
1-8-2 舗装体の層弾性係数の逆解析における解の唯一性に関する検討(第3章) p.34
1-8-3 舗装体の層弾性係数の逆解析への遺伝的アルゴリズムの適用(第4章) p.35
1-8-4 測定誤差から見たFWDたわみセンサー位置の最適化(第5章) p.35
1-9 第1章の参考文献 p.36
第2章 既往の研究および逆解析の問題点
2-1 多層弾性論に基づく逆解析(線形-非線形逆解析) p.43
2-2 線形-非線形逆解析の問題点 p.54
2-3 逆解析の不安定性に関する既往の研究 p.56
2-4 FWDのPMSへの適用 p.58
2-5 第2章の参考文献 p.59
第3章 舗装体の弾性係数の逆解析における解の唯一性に関する研究
3-1 緒言 p.64
3-2 解析の流れ p.64
3-3 解析条件および方法 p.65
3-4 極小値の抽出 p.67
3-5 等RMS面の描画 p.68
3-6 逆解析における評価関数(RMS)の停留点 p.71
3-7 舗装体内に生ずる応力、ひずみの算出と疲労寿命の予測 p.72
3-8 2章の結論 p.75
3-9 2章の参考文献 p.76
第4章 舗装体の層弾性係数の逆解析への遺伝的アルゴリズムの適用
4-1 緒言 p.78
4-2 遺伝的アルゴリズムを応用した逆解析 p.79
4-2-1 入力条件 p.80
4-2-2 初期集団の生成 p.80
4-2-3 評価関数の算出 p.81
4-2-4 適応度の算出 p.81
4-2-5 選択・交配 p.82
4-2-6 交叉 p.83
4-2-7 突然変異 p.84
4-2-8 収束判定 p.85
4-3 計算たわみを用いた遺伝的アルゴリズムによる逆解析 p.86
4-3-1 入力条件 p.86
4-3-2 逆解析結果 p.87
4-4 逆解析の実測データへの適用 p.88
4-4-1 アスファルト舗装の逆解析 p.88
4-4-2 コンクリート舗装の逆解析 p.89
4-5 4章の結論 p.97
4-6 4章の参考文献 p.98
第5章 測定誤差から見たFWDたわみセンサー位置の最適化
5-1 緒言 p.101
5-2 解析条件 p.102
5-3 遺伝的アルゴリズムの適用 p.103
5-3-1 遺伝子の表現型 p.103
5-3-2 初期集団の生成 p.104
5-3-3 評価関数の算出 p.105
5-3-4 適応度の算出 p.107
5-3-5 淘汰および交配 p.107
5-3-6 収束判定 p.109
5-4 最適センサー位置の決定 p.110
5-5 モンテカルロシミュレーションによる最適センサー位置の検討 p.113
5-6 層弾性係数の変動と最適センサー位置 p.115
5-7 4層構造における最適センサー位置 p.117
5-8 実測データによる最適センサー位置の検証 p.119
5-9 構造モデル誤差が最適センサー位置に与える影響 p.121
5-10 5章の結論 p.125
5-11 5章の参考文献 p.126
第5章 結論 p.128
謝辞 p.131

 わが国における道路網の整備や舗装率の増加は、貴重な社会ストックであると同時に、近年、その維持修繕に多大な労力を要する段階にさしかかってきている。合理的かつ経済的に舗装の維持修繕計画をおこなうためには、舗装に関する全ての行為を体系づけ、一つのシステムとしてとらえる舗装マネジメントシステム(Pavement Management System : PMS)の導入が不可欠である。PMSは、ある解析期間において道路利用者に対するサービスを一定の水準以上に保つために必要な総費用を最小化するという経済解析に基づいている。PMSは計画調査・設計・維持・評価・データバンクの6つのサブシステムから構成されている。評価サブシステムの中では舗装体の支持力評価が重要な位置を占める。舗装体の寿命予測、修繕時期および修繕工法の選定のためには支持力評価のシステム化が不可欠である。通常、舗装の支持力はその舗装を構成する層の弾性係数で表される。弾性係数は室内試験によって求められるが、実際の舗装がおかれている環境および載荷条件が大きく異なることから、舗装体の支持力を評価するためには、現場における舗装体の層弾性係数を合理的に推定する必要がある。
 層弾性係数を推定する方法としては逆解析が広く用いられている。逆解析はFWDによって測定された表面たわみと多層弾性論から得られる計算たわみの差の自乗和を評価関数として選定し、これを最小にする層弾性係数(逆解析弾性係数)を決定するという一種の最適化問題として扱われる。しかしながら、弾性係数の初期値によっては、解が得られなかったり、得られたとしても工学的に不適切な解が求まる場合がある。これは、逆問題において適切な解を得るための条件(解の存在性、解の唯一性、解の安定性)の内、解の唯一性が欠如していることに起因している。また、逆解析は、仮定した舗装構造と実構造とのモデル誤差(層厚、ポアソン比等)や測定たわみに含まれる測定誤差、載荷板の荷重分布、および最適化手法など様々な因子によって影響を受けることから、解が不安定となる。
 このようなことから本研究では、逆解析において大きな問題となる、解の唯一性および安定性について検討した。さらに、これらの問題を考慮に入れた舗装体の層弾性係数の推定方法を開発することを目的とした。
 本研究は4章から構成されている。各章の内容および得られた知見は以下の通りである。
 第1章では、本研究の背景、目的について述べると伴に、FWDおよび逆解析に関する既往の研究例を概観し、逆解析における数値解析上の問題点を明らかにした。
 第2章では、逆問題における解の適切性の一条件である、解の唯一性についての検討をおこなった。適当な層厚、弾性係数、ポアソン比を持つ舗装体を仮定し、舗装表面に荷重を作用させたときに生じる表面たわみを多層弾性論により算出し、測定たわみとした。各層の弾性係数の広範囲に渡って変動させたときに計算される表面たわみと測定たわみの平均平方誤差(RMS)を求め、RMSの極小値を与える層弾性係数の組み合わせを抽出した。その結果、RMSの極小値はその最小値(真値)だけではなく、多数存在することが分かった。また、真値以外の極小値を与える層弾性係数を初期値に設定し、逆解析をおこなったところ、初期値近傍においてRMSの停留点が得られた。このことから、舗装体の層弾性係数の逆解析においては、解に唯一性がなく、初期値によっては局所解が得られることが分かった。
 第3章では、このように解の唯一性が保証されない逆問題の最適化手法に、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithms : GA)を採用し、逆解析をおこなった。本手法の妥当性を検証するために、多層弾性論によって算出されるたわみを測定たわみとして入力し、逆解析のシミュレーションをおこなった。その結果、従来広く用いられているガウス・ニュートン法と同程度の精度で逆解析弾性係数を推定できることを確認した。次に、アスファルト舗装とコンクリート舗装において測定されたFWDデータをGAによって逆解析し、ガウス・ニュートン法による逆解析結果と比較した。その結果、ガウス・ニュートン法では工学的に適切な逆解析弾性係数が得られなかった場合でも、GAを適用することにより、適切な逆解析弾性係数を推定できることを示した。また、GAでは、層弾性係数の初期値を設定する必要がないことから、ガウス・ニュートン法のように解が初期値によって影響されないこと、さらに、仮に局所解に陥った場合でも、交叉や突然変異等の遺伝子オペレータによって局所解から脱出し、適切な解を推定することが分かった。
 第4章では、逆解析における解の不安定性の原因の一つである測定誤差に着目し、測定誤差の逆解析弾性係数に与える影響が最小となるたわみセンサー位置、すなわち最適なたわみセンサーの位置をGAによって求めた。また、モンテカルロシミュレーションを用いて、たわみセンサー位置が各層の逆解析弾性係数に与える影響を検討し、得られた最適センサー位置の妥当性を検証した。次に、FWDのたわみセンサーを従来用いられている位置と最適位置に設置してFWD試験をおこない、測定されたデータを逆解析した。その結果、たわみセンサー位置を適切に選択することにより、推定される逆解析弾性係数のバラツキを軽減できるだけでなく、測定たわみにより合致するたわみを与える逆解析弾性係数を推定できることが分かった。さらに、測定誤差に加え、層厚およびポアソン比などの構造モデル誤差を考慮した場合、最適センサー位置がどのような影響を受けるのかについても検討した。その結果、最適センサー位置は構造モデル誤差の影響を受けにくい性質、すなわちロバスト性があることを示した。

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