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熱分析の新手法に関する研究-速度制御熱天秤法および同時熱重量

-質量分析法の開発-

氏名 有井 忠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第144号
学位授与の日付 平成9年3月25日
学位論文題目 熱分析の新手法に関する研究-速度制御熱天秤法および同時熱重量 -質量分析法の開発-
論文審査委員
 主査 教授 藤井 信行
 副査 教授 野坂 芳雄
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 新潟大学 教授 増田 芳男

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 本論文の概要 p.5
1.3 同時熱重量-質量分析法の歴史 p.7
1.4 速度制御熱分析法の歴史 p.9
文献 p.12
第2章 熱分析の新技法の開発 p.14
2.1 同時熱重量-質量分析(TG-MS)法の開発 p.14
2.1.1 序 p.14
2.1.2 TG-MS法の原理と定義 p.17
2.1.3 TG-MS装置の概要と装置構成 p.20
2.1.3.1 示差熱天秤(熱重量示差熱分析)部 p.20
2.1.3.2 質量分析計(MS)部 p.22
2.1.3.3 インターフェイス部 p.22
2.1.3.4 データ処理部 p.23
2.1.4 複合装置化として考慮した部分 p.24
2.2 速度制御熱天秤(CRTG)法の開発 p.28
2.2.1 序 p.28
2.2.2 従来の熱天秤法の問題 p.30
2.2.3 速度制御熱分析(CRTA)の定義 p.32
2.2.4 CRTAの基本原理 p.35
2.2.4.1 擬等温・擬等圧分析法 p.35
2.2.4.2 階段状等温TG法 p.36
2.2.4.1 速度制御EGD法 p.36
2.2.5 速度制御TG法の原理 p.37
2.2.6 速度制御TG装置の構成 p.41
2.2.7 CRTAの原理的利点 p.43
文献 p.45
第3章 無機塩の脱水反応への応用 p.46
3.1 序 p.46
3.2 実験 p.48
3.2.1 装置 p.48
3.2.2 試料 p.48
3.3 結果及び考察 p.48
3.3.1 硫酸カルシウム二水和物の脱水反応 p.48
3.3.2 硫酸マグネシウム七水和物の脱水反応 p.51
3.3.3 硫酸銅五水和物の脱水反応 p.53
3.4 結論 p.55
文献 p.56
第4章 固相の反応速度論への応用 p.57
4.1 序 p.57
4.2 固相の反応速度 p.59
4.3 速度論的なモデル関数 p.64
4.4 定着している反応速度論 p.65
4.4.1 収縮幾何学型の反応(界面律速反応・界面減少反応) p.66
4.4.2 拡散によって制御された収縮幾何学(拡散律速・界面減少反応) p.67
4.5 速度制御TG法(CDRC)による反応速度論的解析 p.68
4.6 実験 p.70
4.7結果と考察 p.71
4.7.1 シュウ酸カルシウム一水和物の脱水反応の速度論的解析 p.72
4.7.2 硫酸カルシウム二水和物の連続脱水反応の速度論的解析 p.76
4.8 結論 p.89
文献 p.90
第5章 医薬品原料中の水分測定への応用 p.91
5.1 序 p.91
5.2 実験 p.92
5.2.1 装置 p.92
5.2.2 試料 p.93
5.3 結果及び考察 p.93
5.3.1 キニーネ硫酸塩二水和物の脱水反応 p.93
5.3.2 グルコン酸カルシウム一水和物の脱水反応 p.97
5.4 結論 p.100
文献 p.100
第6章 高分子化合物の熱分解反応への応用 p.102
6.1 序 p.102
6.2 実験 p.104
6.2.1 試料 p.104
6.2.2 高分解能TG装置 p.105
6.2.3 TG-DTA/GC-MSシステム p.105
6.3 結果と考察 p.107
6.4 結論 p.112
文献 p.113
第7章 セラミック成形体の脱脂工程への応用 p.115
7.1 序 p.115
7.2 実験 p.118
7.3 結果と考察 p.120
7.4 結論 p.128
文献 p.129
第8章 総括 p.130
後記 p.135
謝辞 p.136

 今日、迅速かつ省力化・高精度化を目的とした機器分析法の占める役割は非常に大きい。機器分析における熱分析法の活用は、簡便でマクロ的な情報を迅速に提供する立場から、極めて汎用性に富んだ分析手法であるが、反面、現象の全てを解明する手段とならないことが問題視されている。新しい熱分析技法の開拓と研究開発における有用性の明示が必須である。本研究では、この熱分析の新技法として位置づけられる同時熱重量-質量分析(TG-MS)法による発生ガス分析法、ならびに速度制御熱分析(CRTA)としての速度制御熱天秤(CRTG)法の開発・実用化に着手し、基本的な性質を考察した。また、これらの新手法の有効性を物質の熱的挙動の新たな解明手段として応用した。応用研究では、数種の無機塩の脱水反応および反応速度論的な解析、医薬品原料中の水分測定、高分子材料の熱分解特性、セラミックス成形体の脱脂工程の各分野に適用し、新技法としての有用性を評価・考察した。
 第1章では機器分析法の中の熱分析の活用状況と問題点を明示すると共に、新技法に関する技法研究の意義を明確にし、TG-MS法とCRTA法に関する歴史的な背景を述べた。
 第2章では研究開発における両手法の原理・定義を明示する中で、具体的な装置構成と新たな提案・改良点を述べ、本手法の意義と役割を明確にした。示差熱天秤(TG-DTA)とガスクロマトグラフィ/質量分析計とを連結した同時TG-MS装置の開発・実用化には、逸早くから取り組み、インターフェイス部は、発生気体を連続的にMSに導入する直結型と、発生気体の一部を採取し、GC-MSにて定性分析できるトラップ型とが可能な装置構成を実現した。これにより、従来の温度/物理的性質の2次元的な熱分析に代わって、結果が3次元で得られる利点を持ち、より豊富に微視的情報を同時に得ることができた。一方、従来の温度制御方式に代わって、物質自体の転移速度(質量の変化速度)を直接制御する新しいCRTG法に基づいた2つの測定法を提案した。ダイナミック温度制御方式(DRC)は、試料の質量変化速度が増大傾向にあるときは、等温制御とし、質量変化速度の低下と共にその変化速度に応じて昇温速度を増大させた。さらに、電気炉部に熱的な応答性の速い赤外線加熱方式を採用した最適な装置構成を実現した。また、反応速度測定の目的から、このDRC法を拡張し、一定速度で反応が進行するように温度を制御する、一定分解速度制御(CDRC)法を開発した。これらの制御方式では、反応が加速する時に効果的に加熱速度を減少させ、反応変化の生じない温度領域では大きな加熱速度が利用できる。常時、反応速度に応答した昇降温速度が連続かつスムーズに変化する。この結果、反応による試料状態(環境)の均一化と質量変化曲線の分解能を大きく向上させた。
 第3章では、硫酸カルシウム、マグネシウム、銅の各水和物の脱水反応に対するCRTG法の応用を述べた。分解能を向上させたDRC法の利用によって、各脱水減量の分離能力が改善された。この高分解能特性によって、従来の熱天秤(TG)法では観測困難であった各脱水段階での中間生成物の存在を明瞭に判別、分離できた。さらに、比較的短時間で分解能の優れた測定結果をもたらす有用性が示された。
 第4章では、固相の反応速度測定と解析に対してCDRC法を応用した。これにより、反応速度式に対する扱いが簡略化されると同時に、高分解能特性と試料状態の均一化(反応環境の改善)とが相俟って、速度論的測定に有効であることが示された。これらの特長が、硫酸カルシウム2水和物の連続する2つの脱水反応を各々、別々に取り扱うことを可能とし、また、CDRCによる質量減少プロファイルから、反応様式を帰属すべき重要な情報が得られることを示した。結果として、2段階の反応メカニズムは、1段階目が核生成・成長型、2段階目が界面律速・界面減少型のモデルで進行することが示唆された。
 第5章では、CRTG法の高分解能特性を活かした応用として、医薬品原料中の水分測定における自由水と結晶水の分離定量への適用性を評価した。人体に投与する医薬品では、当然ながら薬効との関係から、主成分と水分との分解識別が必須であり、TG-MS法を用いた減量曲線と化学的な成分との相関を分析することが重要となった。この結果、日本薬局方との相関比較からも本法の有意性が示された。
 第6章では、耐熱高分子材料の熱劣化の問題に着目し、材料の耐久温度と分解過程をCRTG-GC/MS法を用いて評価した。CRTG法の持つ分離能力によって各成分の熱分解過程を細分割し、各々の減量段階をGC/MS分析することで、結果を簡略かつ明瞭化し分析精度の向上が図られた。
 第7章では、超硬材料成形体の脱バインダー過程の効率化に着目し、成形体から揮発する気体の量と質の二つの問題の関連性を調べた。脱脂工程での発生ガスによる応力が原料粉末とバインダー間の結合力を超えるとサンプル内の欠陥の原因となる。この問題解決のために、CDRC法とTG-MS法との複合化法を採用した。一定の重量減少速度を維持するCDRC法によって、揮発性低分子成分の突発的なガスの発生が防止できることをMSデータで支持した。熱処理後のSEMの断面観察からは、試料内の均質性が実証された。この手法は、分析データと実際の製造工程との間を補完すべき有効的な手法として位置づけられ、得られた温度プロファイルが、実工程に応用できる効率的な最適温度プログラム条件を与えることを強調した。
 第8章では本研究で得られた諸結果を総括的にまとめると共に、今後に向けての提言について述べた。

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