油圧システムの能動制御に関する基礎研究
氏名 黄 鋭
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第51号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文題目 油圧システムの能動制御に関する基礎研究
論文審査委員
主査 教授 池谷 光栄
副査 教授 宮田 保教
副査 助教授 増田 渉
副査 助教授 佐久田 博司
副査 助教授 金子 覚
副査 助教授 川谷 亮治
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目次
主要記号
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 従来の研究 p.3
1.3 本研究の目的および概要 p.4
第2章 能動制御方式の油圧システムに関する基本構想および基本構成 p.7
2.1 緒言 p.7
2.2 負荷感応制御方式の基本特性 p.7
2.2.1 動作原理 p.7
2.2.2 圧力-流量特性 p.9
2.3 油圧システムの能動制御方式に関する基本構想 p.13
2.4 能動制御方式に基づく油圧システムの基本構成 p.15
2.5 強制圧力 p.18
2.5.1 圧力系の圧力-流量特性 p.18
2.5.2 強制圧力動特性 p.22
2.6 本章の総括 p.25
第3章 能動制御方式に基づく油圧システムの基本式および適応制御則 p.27
3.1 諸言 p.27
3.2 基礎式 p.28
3.3 位置系の動特性 p.31
3.4 線形定数ゲインを用いた非干渉制御則の検討 p.34
3.4.1 制御則の導出 p.34
3.4.2 シミュレーション結果 p.39
3.5 MRACに基づく非干渉制御則の導出 p.42
3.5.1 制御則の導出 p.42
3.5.2 シミュレーション結果 p.46
3.6 実験装置 p.49
3.7 本章の総括 p.51
第4章 出力軸固定状態の圧力制御特性 p.53
4.1 諸言 p.53
4.2 静特性および動特性 p.53
4.3 動特性に関する適応ゲイン係数の影響 p.57
4.4 本章の総括 p.61
第5章 出力軸運動状態の圧力制御特性 p.63
5.1 諸言 p.63
5.2 強制圧力の影響 p.63
5.3 強制圧力の低減効果 p.69
5.4 安定性 p.74
5.5 制御精度 p.79
5.6 本章の総括 p.83
第6章 能動制御方式の有用性に関する検証と考察 p.85
6.1 諸言 p.85
6.2 位置系応答特性の改善 p.86
6.2.1 位置系の固有特性の補償 p.86
6.2.2 パラメータ変化による位置系の応答に及ぼす影響の低減 p.99
6.3 位置系微速特性の改善 p.105
6.4 本章の総括 p.109
第7章 結論 p.111
7.1 研究成果の総括 p.111
7.2 今後の展望 p.113
謝辞 p.115
参考文献 p.117
一般に、機械の挙動はその機械固有の特性に加えて、そこに与えられる負荷および周囲環境の変化(外乱)の左右された結果として規定される。本研究は、機械、特に油圧機械の挙動が負荷変動の影響を受け、悪化するため、能動的にその特性を改善することを目的とする。この目的を実現するための基本的な考え方は、機械が仕事を行う時に出力する運動と力とを分離して、運動が力(負荷)の影響を受けないように能動的の制御することである。具体的な方法は、油圧機械に能動力制御系を付加して負荷変動を補償する力を出力し、油圧機械の特性を人間の希望する理想特性に合わせるように改善することである。
本論文は、最初に現時点で負荷変動に最も強いと評価され、かつ実用化されている負荷感応制御方式に基ずく油圧システムの特性を解明し、問題点を初めて明らかにした。この問題点に対して、新たな能動制御方式の基本構想を提案し、同方式による油圧システムを構成した。次に同システムに存在する干渉や非線形要素などの問題に対して、モデル規範形適応制御に基づく非干渉制御則を油圧システムに初めて適用し、その制御特性を検討した。さらに、実験により本制御方式の有用性を検証した。
本論文において第1章では、従来の研究における課題を明らかにして、本研究の位置付けと意義、目的を明確にした。
第2章では、まず負荷感応制御方式に基づく油圧システムの持つ特性を議論した。その結果、負荷感応方式の特性は、負荷圧力の変動の影響を受け出力流量が変動することを明らかにした。これに対して、新たな能動制御方式の基本構想を提案した。そして、その構想に基ずく能動制御方式の油圧システムを構成し、本システムに存在する干渉、すなわち強制圧力の問題を提示し、その特性を解明した。その結果、一般の油圧機械に相当する位置系の上限周波数内では強制圧力は出力軸速度に比例することを明らかにした。
第3章では、本システムに対する基礎式を導出し、強制圧力の問題に関して、非干渉制御則を検討した。ここで、本システムには非線形要素の存在により、線形定数ゲインの非干渉制御則が十分ではないことを示した。その上で、非線形要素や時変要素に強いとされるモデル規範形適応制御理論に基づく非干渉制御則を導出し、その有用性を確認した。本研究で提案したモデル規範形適応制御に基づく非干渉制御則の油圧システムへの適用は初めての試みである。
第4章では、能動力制御系に相当する圧力系の出力軸固定状態の圧力制御特性(静特性および動特性)を検討した。それにより、圧力系の応答性は位置系よりも十分高く、折点周波数が50Hzの一次遅れ系で記述される規範モデルに追従できること、また追従特性に対して、前向き回路ゲインの積分係数の影響が大きいことを明らかにした。
第5章では、圧力系の実際の使用状態となる出力軸運動状態の圧力制御特性について、本論文で提案した非干渉制御則を用いる圧力系の強制圧力低減効果、安定性および制御精度を検討した。本非干渉制御方法は、出力軸の運動振幅が大きい場合の強制圧力低減効果がより顕著であり、その低減率は50%以上に達した。また、圧力系は良好な安定性を示し、かつ適応ゲインは収束することを明らかにした。さらに、本制御則は圧力の制御精度を向上することができ、たとえば単純な圧力フィードバック制御と比べれば、追従誤差低減率は40~65%に達することを明らかにした。また、圧力系の入力が低周波域では強制圧力が制御精度に大きな影響を与え、高周波域になると規範モデル出力と基準入力間の誤差が大きな影響を与えることも示した。
第6章では、本研究の最終目的となる能動制御方式の有用性に関して検証を行うために、位置系に対する応答特性と微速特性の改善を検討した。能動制御方式を用いることにより、周波数特性を向上することができ、開ループゲインと駆動する負荷の変動による応答特性に及ぼす影響が低減できることを確認した。また、位置系の微速特性に関して、スティック・スリップ現象が改善された。さらに、圧力系に対する基準入力を検討した。比例型基準入力を用いた場合、比例ゲインをその安定限界値の約70%に設定すれば、安定性と良好な特性改善の両者を満足できることが判明し、比例+積分型基準入力を用いることにより、位置系の定常誤差を低減できることが明らかとなった。
第7章では、本研究の成果を総括し、さらに今後の研究課題とその位置付けについて展望を述べた。