Fe-Al-Si系合金薄膜の磁気特性と構造解析
氏名 宮崎 雅弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第65号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 Fe-Al-Si系合金薄膜の磁気特性と構造解析
論文審査委員
主査 教授 松下 和正
副査 助教授 小松 高行
副査 教授 一ノ瀬 幸雄
副査 教授 井上 泰宣
副査 助教授 弘津 禎彦
副査 教授 鎌田 喜一郎
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目次
第1章 序論
§1-1 研究の背景 p.2
§1-2 磁気ヘッド材料 p.5
§1-3 センダスト合金と物性 p.9
§1-4 本研究の目的 p.13
§1-5 本論文の構成 p.13
§1-6 参考文献 p.15
第2章 実験方法
§2-1 はじめに p.18
§2-2 薄膜の作製法 p.18
§2-3 熱処理条件 p.19
§2-4 薄膜の評価法 p.22
2-4-1 膜厚 p.22
2-4-2 化学分析 p.22
2-4-3 磁気特性 p.22
2-4-4 電気抵抗 p.26
2-4-5 構造分析 p.26
§2-5 内部転換電子メスバウアー分光法 p.28
2-5-1 原理 p.30
2-5-2 測定方法 p.34
§2-6 参考文献 p.36
第3章 Fe-Si合金薄膜における磁気的、電気的特性と規則化挙動
§3-1 はじめに p.38
§3-2 薄膜の形成法 p.39
§3-3 実験結果 p.39
3-3-1 X線回折によるFe-Si膜の構造解析 p.39
3-3-2 Fe-Si膜の磁気特性 p.45
3-3-3 Fe-Si膜の電気特性 p.47
3-3-4 Fe-Si膜のメスバウアースペクトル p.52
§3-4 考察 p.62
3-4-1 Fe3Si型規則構造の形成におけるSi濃度の効果 p.62
3-4-2 Fe3Si型規則構造の電子状態 p.64
§3-5 まとめ p.70
§3-6 参考文献 p.71
第4章 Fe-Al合金薄膜における磁気的、電気的特性と規則化挙動
§4-1 はじめに p.74
§4-2 薄膜の形成法 p.75
§4-3 実験結果 p.75
4-3-1 X線回折によるFe-Al膜の構造解析 p.75
4-3-2 Fe-Al膜の磁気特性 p.82
4-3-3 Fe-Al膜の電気特性 p.84
4-3-4 Fe-Al膜のメスバウアースペクトル p.87
§4-4 考察 p.89
§4-5 まとめ p.91
§4-6 参考文献 p.92
第5章 Fe-Al-Si合金薄膜の微細構造と磁気特性
§5-1 はじめに p.94
§5-2 薄膜の形成法 p.96
§5-3 実験結果 p.96
5-3-1 センダスト薄膜の磁気特性と電気特性 p.96
5-3-2 センダスト薄膜とメスバウアースペクトル p.101
5-3-3 センダスト薄膜のメスバウアースペクトル p.101
§5-4 考察 p.103
5-4-1 センダスト薄膜の熱処理に伴う構造変化 p.103
5-4-2 磁気特性と構造変化の関係 p.112
§5-5 まとめ p.114
§5-6 参考文献 p.115
第6章 Fe-Al-Si-Ni合金薄膜の作製および特性評価と構造変化
§6-1 はじめに p.118
§6-2 薄膜の形成法 p.119
§6-3 実験結果 p.120
6-3-1 スーパーセンダスト薄膜の磁気特性 p.120
6-3-2 スーパーセンダスト薄膜の電気抵抗 p.126
6-3-3 スーパーセンダスト薄膜のX線回折とSIMS分析 p.129
6-3-4 スーパーセンダスト薄膜のメスバウアースペクトル p.133
§6-4 考察 p.136
6-4-1 スーパーセンダスト薄膜の熱処理に伴う構造変化 p.136
6-4-2 スーパーセンダスト薄膜の構造モデル p.147
§6-5 まとめ p.153
§6-6 参考文献 p.154
第7章 結論 p.155
謝辞 p.160
本研究に関する発表論文 p.163
Fe-Al-Si(センダスト)系合金薄膜は優れた軟磁気特性と物理的特性を有することから、磁気ヘッド材料として広く使用されている。一般にセンダスト薄膜は作製後400~600℃の熱処理によって軟磁性を示し、この原因として結晶構造がこの温度付近で不規則なα構造からDO3型規則構造へ相転移するためであると報告されている。しかしながら、センダスト合金薄膜における規則-不規則相転移りメカニズムについてはまだ明らかにされていない。また、この材料にNiを数%添加すると軟磁気特性を損なわず飽和磁束密度を増加させることが可能である。いわゆるスーパーセンダストと呼ばれる材料である。磁気ヘッド材料に要求される高飽和磁束密度を有しかつ軟磁性を示しスーパーセンダストは、次世代の磁気ヘッド材料として期待されるにもかかわらず、この系の研究はほとんどされていない。
本研究では、磁気ヘッド用薄膜材料を得るために最も広く用いられているスパッタリング法により、DO3型規則構造を形成するFe-Si、Fe-Al薄膜およびセンダスト薄膜を作製し、基本物性と熱処理による構造変化を詳細に調べた。さらに、スーパーセンダスト薄膜の磁気ヘッドの可能性ならびに軟磁性発現時の結晶構造についてメスバウアー分光法により検討した。
本論文は『Fe-Al-Si系合金薄膜の磁気特性と構造解析』と題し、以下の7章から構成される。
第1章「序論」では、高度情報化社会の発達とともに磁気記録デバイスの小型化、大容量化が進み、高密度記録の要求が高まっている現状について概観し、高飽和磁束密度を有する磁気ヘッドの開発の重要性を指摘すると同時に、本研究の位置付けと目的を述べた。
第2章「実験方法」では、薄膜の作製条件および評価法について述べ、特にメスバウアー分光法の原理ならびに測定法について詳しく解説した。
第3章「Fe-Si合金薄膜における磁気的、電気的特性と規則化挙動」では、DO3型規則構造の基本系であるFe-Si合金薄膜を作製し、組成および熱処理温度による磁気特性、電気特性の変化について検討した。さらに、メスバウアースペクトルを解析することにより内部磁場と飽和磁束密度の関係、相転移による構造変化について知見を得た。その結果、未熱処理試料において内部磁場と飽和磁束密度との間に比例関係が成り立つことが判明し、Si濃度が約20at.%以上の薄膜は、500℃以上の熱処理でCO3構造を形成することが明らかとなった。
第4章「Fe-Al合金薄膜における磁気的、電気的特性と規則化挙動」ではFe-Si合金薄膜と同様にDO3型規則構造の基本系であるFe-Al合金薄膜を作製し、組成および熱処理温度による磁気特性、電気特性の変化について検討した。さらに、メスバウアースペクトルの変化から超微細構造を考察し、磁気特性および電気特性との関連について述べた。その結果、Al濃度が25at.%以下の規則相は熱的に非常に不安定であり、700℃でAl原子が偏析を起こすことが判明した。
第5章「Fe-Al-Si合金薄膜の微細構造と磁気特性」では、3、4章で得られた知見をもとにセンダスト合金薄膜を作製し、熱処理温度による磁気特性、電気特性の変化について観察を行なった。さらにメスバウアースペクトルの結果から、400℃付近の熱処理によって規則-不規則変態が起きることが示唆され、500℃前後でほぼ完全なDO3型規則構造を形成することが確認できた。また、センダスト合金薄膜はFe-Al合金薄膜と同様に600℃以上の熱処理によって、Al原子の偏析が生じることを明らかにした。
第6章「Fe-Al-Si-Ni合金薄膜の作製および特性評価と構造変化」では、スーパーセンダスト合金薄膜を作製し、センダスト合金薄膜における諸特性との比較を行なった。さらに、熱処理温度による磁気特性、電気特性およびメスバウアースペクトルの変化を測定することにより、結晶構造と軟磁性発現との関連について考察を行なった。その結果、スーパーセンダスト合金薄膜は高飽和磁束密度を有し、かつセンダスト合金薄膜と比較しても遜色のない優れた軟磁気特性を示すことから、新しい磁気ヘッド材料として有望であることが確認できた。またスーパーセンダスト合金の規則構造モデルを提案し、それより軟磁性が得られる構造はDO3型とB2型の2種類の規則相が混在し、Ni原子はbccのコーナーに存在していることが判明した。
第7章「結論」では、これらの結果を総括し、本研究の主な結論および今後の問題点と展望について述べた。