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2のべき乗係数を用いたディジタルフィルタの構成に関する研究

氏名 戸高 千明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第21号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 2のべき乗係数を用いたディジタルフィルタの構成に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 作田 共作
 副査 教授 大竹 孝平
 副査 助教授 荻原 春生
 副査 助教授 吉川 敏則

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目次
第1章 まえがき
1・1 本研究の背景と目的 p.1
1・2 本研究の概要 p.2
第2章 サンプリングレート変換の基礎
2・1 はじめに p.4
2・2 サンプリングレート変換の概念 p.4
2・3 間引きによるサンプリングレート変換 p.6
2・4 補間によるサンプリングレート変換 p.11
2・5 補間・間引きによるサンプリングレート変換 p.15
2・6 間引き器と補間器の基本構成 p.19
2・7 まとめ p.23
第3章 IIR形補間器の構成
3・1 はじめに p.24
3・2 IIR形補間器の構成 p.25
3・3 阻止域形成フィルタの構成 p.28
3・4 IIR形通過域補正フィルタの構成 p.35
3・5 設計例 p.40
3・6 まとめ p.48
第4章 線形位相FIR形補間器の構成
4・1 はじめに p.49
4・2 線形位相FIR形通過域補正フィルタの構成 p.50
4・3 線形位相FIR形通過域補正フィルタの設計 p.54
4・4 設計例 p.57
4・5 まとめ p.67
第5章 マルチレートディジタルフィルタの構成
5・1 はじめに p.68
5・2 補間フィルタを基本とした基準LPFの構成 p.69
5・3 任意のカットオフ周波数を持つマルチレートディジタルフィルタの構成 p.76
5・4 エリアジング誤差の影響 p.79
5・5 線形位相FIRフィルタにおける間引きのタイミング p.81
5・6 設計手順 p.82
5・7 設計例 p.86
5・8 まとめ p.97
第6章 2次元ディジタルフィルタの構成
6・1 はじめに p.98
6・2 2次元ディジタルフィルタの構成 p.99
6・3 設計手順 p.111
6・4 設計例 p.122
6・5 まとめ p.131
第7章 あとがき p.132
謝辞 p.136
参考文献 p.137

 近年のディジタル信号処理技術の発展に伴って、通信システム、音声処理システム、アンテナシステム、レーダーシステムなど幅広い分野において、2つ以上のサンプリング周波数を含むマルチレートディジタル信号処理が非常に重要になりつつある。
 本論文は、マルチレートディジタル信号処理の中で特に重要なサンプリングレート変換器のハードウェア量の低減と演算量の軽減を目的として、乗算器係数を2のべき乗のみに限定したサンプリングレート変換器を構成する方法を示している。またこれらの構成法を拡張して、2のべき乗係数のみで高域通過特性や帯域通過特性なども実現可能としたマルチレートディジタルフィルタと多角形近似された周波数特性を持つ2次元ディジタルフィルタの構成法を示している。
 はじめに、サンプリングレート変換のハードウェア量の低減と演算レートの軽減を目的として、2のべき乗係数を用いたIIR形補間器の構成法と設計法を示している。本方法は、IIR形の通過域補正フィルタ、零補間器、RRSを用いた阻止域形成フィルタの縦続構成からなり、ほぼ等価な特性を持つ従来の楕円フィルタを用いた補間器と比較して、ハードウェア量や演算レートが低減されていることを設計例により確認している。本IIR形補間器の特徴は、1)乗算器を用いていないため係数語長や係数感度を考慮する必要がないこと、2)簡単な構成で実現できるためハードウェア量が低減されること、3)演算レートが非常に低いことである。しかし乗算器を使っていないため通過域リップルを任意に設定できない欠点を有するが、通過域リップルは入力許容周波数比が0.95以下の場合、約0.1dB以上であれば実現可能である。
 次に、2のべき乗係数のみを用いた線形位相FIR形補間器の構成法と設計法を示している。本方法は、線形位相FIR形の通過域補正フィルタ、零補間器、RRSを用いた阻止域形成フィルタの縦続構成からなり、ほぼ等価な特性を持つ従来の直接型の線形位相FIRフィルタを用いた補間器と比較してハードウェア量と演算レートが改善されることを設計例により確認している。線形位相FIR形補間器の特徴は、IIR形補間器の特徴1)、2)、3)を有しているが、遅延器数が増加する欠点を持っている。また通過域リップルは、入力許容周波数比が0.85以下の場合、約0.1dB以上であれば実現可能である。
 さらに、LPF、HPF、BPF、BEF処理におけるハードウェア量の低減を目的とし、2のべき乗係数のみを用いた補間フィルタを応用したマルチレートディジタルフィルタの構成法を示している。このマルチレートディジタルフィルタは、零補間器、阻止域形成フィルタ、通過域補正フィルタそして間引き器の縦続で構成される。阻止域形成フィルタは、RRSの縦続構成からなり、通過域補正フィルタとして線形位相FIR形による構成とIIR形による2つの構成法を示している。そして2のべき乗係数を用いた補間フィルタを基にして基準LPFを構成し、周波数変換により基準HPFを構成できることを示している。更に任意のカットオフ周波数をもつマルチレートLPF、HPFを基準LPFから簡単に作ることができ、これらを組み合わせることによって任意のBPFやBEFを構成することができる。設計例によってハードウェア量の低減に有効であることを確認している。本方法の特徴は、IIR形補間器の特徴1)、2)を有している。但し、厳しい通過域リプルが要求されるフィルタの実現は困難であるが、いくつかの設計例からFIR形では約0.5dB、IIR形では約0.2dB以上の仕様に対しては非常に有効であることを確認している。
 最後に、2次元のディジタルフィルタ処理における演算の簡単化とハードウェア量の低減を目的とし、2のべき乗係数からなる補間フィルタを応用した1次元ディジタルフィルタの縦続で構成される2次元ディジタルフィルタの構成法を示している。設計例によって本方法がハードウェアの低減に有効であることを確認している。また本方法は、乗算器を用いていないため零係数感度特性を持ち、マクレラン変換で実現することができない楕円形や多角形の2次元LPFも近似でき、一般的な2次元ディジタルフィルタを乗算器を用いずに少ないハードウェア量で実現することができる。ただし、厳しい通過域リプルが要求されるフィルタの実現は困難であるが、いくつかの設計例からFIR形では約1.0dB、IIR形では約0.3dB以上の仕様に対しては非常に有効であることを確認している。

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