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超伝導量子干渉型高感度磁束計に関する研究

氏名 入江 晃亘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第60号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 超伝導量子干渉型高感度磁束計に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 濱崎 勝義
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 高田 雅介
 副査 助教授 弘津 彦
 副査 助教授 松下 和正
 副査 東北大学 教授 山下 努

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第1章 序論 p.1
1-1 SQUIDの応用と原理 p.1
1-2 SQUID磁束計の開発の歴史と現状 p.5
1-3 dc SQUIDのノイズ研究 p.6
1-4 本研究の目的及び本論文の構成 p.11

第2章 weak linkの作製 p.13
2-1 磁束計用デバイスとしてのweak linkの意義 p.13
2-2 平面型SWLの構造 p.14
2-3 電極材料の構造 p.17
2-4 エピタキシャルNbN/MgO薄膜 p.18
 2-4-1 MgO薄膜 p.19
 2-4-2 NbN薄膜 p.22
2-5 NbN SWLの作製工程 p.29
2-6 第2章のまとめ p.31

第3章 SQUIDの固有ノイズ p.32
3-1 Josephson接合におけるノイズ p.33
3-2 平面型SWL SQUIDのI-V,V-Φ特性の解析 p.37
 3-2-1 I-V特性におけるギャップ構造 p.37
 3-2-2 平面型SWL SQUIDのI-V,V-Φ特性 p.45
 3-2-3 RSJモデルによるI-V,V-Φ特性の解析 p.50
3-3 平面型SWLの電圧ノイズ p.54
 3-3-1 測定方法 p.54
 3-3-2 ショットノイズ特性 p.55
3-4 磁束ノイズ p.72
 3-4-1 ホワイト領域における固有磁束ノイズ p.72
 3-4-2 SWL SQUIDの磁束ノイズに対する外部ノイズの影響 p.79
 3-4-3 SWL SQUIDの超低周波ノイズ p.83
3-5 第3章まとめ p.91

第4章 磁束計システムにおけるノイズ p.93
4-1 磁束計システムの動作原理 p.93
4-2 磁束計システムにおける磁束ノイズ p.95
 4-2-1 ホワイト領域におけるノイズ p.100
 4-2-2 超低周波ノイズ(1/fノイズ) p.107
4-3 磁束計システムに対する外乱の影響 p.111
4-4 第4章まとめ p.119

第5章 総括 p.120

付録A p.123
付録B p.125
付録C p.128
付録D p.130

参考文献 p.133

用語 p.137
記号表 p.138
謝辞 p.142
本研究に関する発表論文 p.143

 超伝導量子干渉型(SQUID)磁束センサは、超高感度な磁気センサであり、脳磁波の様な微弱な生体磁気計測への応用が期待されている。現在SQUID磁束センサに用いられているジョセフソン接合は、良好なジョセフソン効果を示すトンネル接合がほとんどであるが、理論的には素子容量の小さいweak link(メタリックな接合を意味する)型素子の方が高感度であることが示されている。しかしながら、従来の超伝導薄膜作製技術では、良好なweak link型ジョセフソン接合を得ることが困難であったため、weak linkの理論的、実験的解析はあまり成されていなかった。本研究では、NbN/MgOエピタキシャル成長法、及び20nm程度以下の狭いギャップをもつエッジ部を利用する新しい平面型weak link形成法を用いることにより、weak linkの理論条件(link size~超伝導コヒーレンス長)を満たすweak linkを作製し、weak link型SQUIDのノイズ特性について詳細に調べている。
 第1章では、SQUID磁束センサの開発の歴史と現状について概説し、SQUID磁束センサ用ジョセフソン素子としてのweak link型ジョセフソン素子の意義について述べている。
 第2章では、weak linkの作製法について述べている。理想的なジョセフソン効果を示すweak linkを得るためには、その形状をweak link理論の条件を満たすようにしなければならずnmオーダの薄膜加工技術が必要となる。従来、このような条件を満たすweak linkの作製は、超伝導薄膜作製技術、及び微細加工技術が進展しておらず非常に困難であった。本研究では、NbN/MgOのエピタキシャル成長法を用いることにより、10nm程度の膜厚のNbN膜においてもこれまでの報告より高い15Kという臨界温度が得られることを示し、これらの基礎技術をもとに平面型weak linkの形成法により理論条件を満たすweak linkを作製している。
 第3章では、weak linkのノイズ特性について詳細な検討を行っている。まず、作製したweak linkのI-V特性を理論モデルを用いて解析することにより良好なジョセフソン接合であることを検証した後、これらの良好なweak linkについての電圧ノイズ特性を詳細に調べ、また理論的にも検討している。その結果、熱ノイズ領域においては、理論と実験とは定量的に一致することを示している。また、ショットノイズ領域においては、weak link長や形状によりバイアス電圧依存性が異なることから、weak linkの有効長や熱拡散効果を定性的に評価できることを述べている。weak linkに対する電圧ノイズ特性の詳細な検討は、本研究で初めてなされたものである。dc SQUIDの感度計算から、素子容量が小さいweak link素子は、原理的にトンネル型よりもエネルギー感度の高いセンサを作りうる。平面型weak link dc SQUIDの磁束ノイズエネルギーについて調べた結果、約20h(h:プランク定数)と小さい値を得、weak link型dc SQUIDが高感度のセンサとなることを実証している。
 第4章では、主にweak link型dc SQUIDを用いたSQUID磁束センサシステムのノイズ特性について述べている。SQUID磁束センサシステムは、一般的な磁束ロック回路方式を用いている。この磁束センサシステムの磁束ノイズは、3kHz以下のホワイト領域で3×10-5Φ0/√Hz(Φ0:磁束量子)が得られている。この値は、素子の固有ノイズと比較して1桁程度大きく、素子にあまり依存しないことからエレクトロニクスのノイズが支配的であることを示している。また、半導体増幅器の入力段のS/N比向上のため、現在考えられる増幅器の中で最も低ノイズであるSQUID増幅器をdc SQUIDと同一チップ上に集積化したものを作り、これを用いることにより、超低周波ノイズが低減されることを示している。電源ライン等から侵入してくるサージなどのインパルスノイズに対しては、システムのスルーレートを改善し、システムの安定性を向上させている。
 最後に第5章では、本研究で得られた結果を総括し、weak link型dc SQUIDが磁束センサ用デバイスとして有用であることを結論づけている。本研究の結果は、従来報告されてきたweak link型dc SQUIDの研究に比べ、大きな進展が得られたことを述べ、最後に、残された研究課題について検討している。

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