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高温構造材料の経年劣化損傷の超音波法による検出と余寿命推定に関する研究

氏名 橋本 昌光
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第56号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 高温構造材料の経年劣化損傷の超音波法による検出と余寿命推定に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 岡崎 正和
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 教授 栗田 政則
 副査 教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 武藤 睦治
 副査 東京大学 教授 小泉 尭

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目次
第1章 緒論 p.1
1-1 研究の背景 p.2
1-2 高温構造材料の劣化損傷検出と余寿命推定に関する研究の趨勢 p.2
1-2-1 国内外の研究の趨勢
1-2-2 従来までの各種損傷検出手法
1-2-3 超音波法による損傷検出に関する従来までの研究
1-2-4 実機長時間使用材の強度に関する従来までの研究
1-3 本論文の構成 p.6
第1章の参考文献 p.9
第2章 経年劣化損傷の非破壊的検出のための基礎的アプローチ p.11
2-1 緒言 p.12
2-2 理論 p.13
2-2-1 空孔の発生によるエネルギ減衰率の変化
2-2-2 空孔の存在による超音波縦波の反射にともなう周波数スペクトルの重心周波数の移動量の変化
2-3 実験方法 p.19
2-3-1 供試材
2-3-2 実験装置
2-3-3 実験方法
2-4 実験結果 p.21
2-4-1 焼結試験片を用いた実験結果
2-4-2 焼結試験片を用いた実験結果と理論計算結果との比較
2-4-3 長時間加熱にともなうエネルギ減衰率と重心周波数の移動量の変化
2-5 考察 p.27
2-5-1 空孔の直径、大きさの変化にともなうエネルギ減衰率と重心周波数の移動量の変化
2-5-2 空孔の非破壊検出の精度向上のための対策
2-6 結言 p.35
第2章の参考文献 p.38
第3章 塑性変形にともなうエネルギ減衰率の変化 p.39
3-1 緒言 p.40
3-2 実験方法 p.40
3-2-1 供試材
3-2-2 実験方法
3-3 実験結果 p.42
3-3-1 冷間圧延にともなうエネルギ減衰率の変化
3-4 考察 p.46
3-4-1 エネルギ減衰率の変化に及ぼす集合組織の影響
3-4-2 エネルギ減衰率の変化に及ぼす残留応力の影響
3-4-3 エネルギ減衰率の変化に及ぼす転位密度の影響
3-4-4 エネルギ減衰率の変化に及ぼす結晶粒径の影響
3-5 結言 p.63
第3章の参考文献 p.66
第4章 クリープ損傷にともなうエネルギ減衰率の変化と余寿命推定 p.68
4-1 緒言 p.69
4-2 実験方法 p.69
4-2-1 供試材
4-2-2 実験方法
4-3 実験結果 p.73
4-3-1 クリープ変形と損傷進行にともなう減衰率の変化
4-3-2 クリープ変形にともなう結晶粒形状の変化
4-3-3 クリープ変形にともなう転位構造の変化
4-4 考察 p.82
4-4-1 クリープ損傷の進行にともなうエネルギ減衰率の変化に及ぼす主要因子
4-4-2 超音波を用いたクリープ余寿命推定法の検討
4-5 結言 p.96
第4章の参考文献 p.99
第5章 高温疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化および強度評価 p.100
5-1 緒言 p.101
5-2 実験方法 p.101
5-2-1 供試材
5-2-2 実験装置
5-2-3 実験方法
5-3 実験結果および考察 p.107
5-3-1 長時間使用したボイラーチューブの高温疲労強度
5-3-2 使用材と未使用材における微小き裂進展
5-3-3 疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化
5-4 結言 p.120
第5章の参考文献 p.123
第6章 クリープ・疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化と余寿命推定法の検討 p.124
6-1 緒言 p.125
6-2 実験方法 p.126
6-2-1 供試材
6-2-2 実験装置
6-2-3 実験方法
6-3 長時間使用された2・1/4・Cr-1・Mo鋼の実機のクリープ・疲労強度 p.134
6-3-1 クリープ・疲労強度特性
6-3-2 き裂進展挙動
6-4 高温構造材料のクリープ・疲労損傷の非破壊的検出と余寿命推定法の検討 p.142
6-4-1 クリープ・疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化
6-4-2 超音波を用いた余寿命推定法の検討
6-5 結言 p.150
第6章の参考文献 p.152
第7章 電子ビーム溶接継手のクリープ・疲労破壊への適用 p.153
7-1 緒言 p.154
7-2 実験方法 p.154
7-2-1 供試材
7-2-2 試験方法
7-3 実験結果 p.160
7-3-1 溶接継手のクリープ・疲労強度特性
7-3-2 クリープ・疲労損傷の進行にともなう溶接継手中のエネルギ減衰率の変化
7-4 考察 p.167
7-5 結言 p.174
第7章の参考文献 p.176
第8章 結論 p.177
謝辞 p.183

 近年、既設の火力発電用プラントは年々老朽化が進んでいる。一方で、昼夜間の電力需要のアンバランス調整のための運転も強いられ、毎日の起動・停止あるいは頻繁な負荷変動が課せられるようになってきている。このような高温プラントの運用は、それらを構成する高温機器の構造材料に熱応力を発生させ、クリープ・疲労破壊を誘発することから、高温構造材料がこれまでに受けた経年劣化損傷を非破壊的に検出し、クリープ、あるいはクリープ・疲労破壊に対する余寿命を精度良く推定する技術の確立が急務となっている。
 本論文は、このような背景に鑑み、その場的、かつ非破壊的に損傷が検出できる可能性の高い超音波法に注目し、この手法により高温構造材料の時効、クリープ、疲労、クリープ・疲労等の種々の損傷を非破壊的に検出し、それらの情報をもとにクリープ、あるいは・クリープ・疲労破壊に対する余寿命を推定する手法について研究しており、以下の8章により構成されている。
 第1章「緒論」では、高温構造材料の損傷の検出と余寿命推定に関する従来の研究を概説し、本論文の意義と目的を述べている。
 第2章「経年劣化損傷の非破壊的検出のための基礎的アプローチ」では、高温構造材料の経年劣化損傷の代表的形態である(I)クリープの影響による材料内部における空孔の発生、(II)長時間時効による機械的性質の変化を取り上げ、これら損傷の検出指標として、超音波の原波形を周波数解析して得られるエネルギ減衰率、および、超音波の周波数スペクトルにおける重心周波数の移動量を抽出・提案し、それらを媒介とした損傷検出手法が有望であることを示している。また、上述の指標を媒介として損傷検出精度を向上させる方策についても理論的に論じている。
 第3章「塑性変形にともなうエネルギ減衰率の変化」では、高温構造材料の疲労、および、クリープ・疲労破壊には多かれ少なかれ塑性変形が重要な役割を果たすことから、種々の金属材料の塑性変形にともなうエネルギ減衰率の変化を測定し、第2章で抽出したエネルギ減衰率が塑性変形による損傷の検出に対しても有効であることを明らかにしている。また、これらの変化をもたらす主要な因子についても実験的・理論的に論じている。
 第4章「クリープ損傷にともなうエネルギ減衰率の変化と余寿命推定」では、実機ボイラ二次過熱器官として約10万時間使用されたSUS316鋼を主たる供試材としてクリープ試験を行い、超音波横波のエネルギ減衰率の変化を媒介としたクリープ損傷の非破壊的検出に関する検討を行っている。そして、各種材料のエネルギ減衰率はクリープ変形の進行とともに複雑な変化挙動を示すが、いずれの材料においても、振動方向が負荷方向と垂直な場合の超音波横波のエネルギ減衰率αstとそれが平行な場合のエネルギ減衰率αsLとの相対比率αst/αsLは、クリープ損傷の進行にともないほぼ単調に増加し、このような挙動には負荷応力、試験温度、材料などの因子の影響はほとんど見られないことを明らかにしている。また、エネルギ減衰率の絶対的変化は、クリープ損傷の進行にともなう結晶粒形状の変化、転位構造の変化、および、時効の影響を反映した結果を与えることを示し、この指標の絶対的、および、相対的変化がクリープ損傷検出に対して極めて有効であることも示している。さらに、以上の知見を総合し、高温構造材料のクリープ破壊に対する余寿命を推定する手法も提案し、この方法の適用により、本研究に供した実機使用材のクリープ余寿命を合理的に推定可能であることを示している。
 第5章「高温疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化および強度評価」では、第4章と同様のSUS316鋼実機使用材とその未使用材を用いて、それらの高温疲労強度特性および微小疲労き裂の進展挙動を実験的に調べ、使用材における微小き裂の進展速度は未使用材のそれより著しく大きいこと、使用材における微小き裂は未使用材の巨視き裂の下限界J積分範囲以下の領域でも進展すること、したがって、長時間使用された高温構造材料に発生するき裂は安全性評価は、未使用材のき裂進展に関する情報のみにより行うのは危険であることを指摘している。さらに、疲労損傷の進行にともなうエネルギ減衰率の変化も調べ、この指標が疲労損傷の非破壊的検出のためにも有望であることを示している。
 第6章「クリープ・疲労損傷にともなうエネルギ減衰率の変化と余寿命推定法の検討」では、実機ボイラ二次過熱器官として約10万時間使用された2. 1/4Cr-1・Mo鋼とその未使用材、および、長時間時効材を用いて、それらのクリープ・疲労強度特性を調べ、使用材のクリープ・疲労強度は未使用材のそれに比べ低下するが、時効材のそれらとほぼ同等であることを実験的に示している。また、エネルギ減衰率の変化を指標としたクリープ・疲労損傷の非破壊的検出に関する検討も行い、この指標がクリープ・疲労損傷検出に対しても有効であることも示している。さらに、これらの知見と前章までに得られた知見を総合し、高温構造材料のクリープ・疲労破壊に対する余寿命を推定する手法を提案し、この方法の適用により、本研究に供した実機使用材のクリープ・疲労破壊に対する余寿命を矛盾なく推定可能であることを示している。
 第7章「電子ビーム溶接継手のクリープ・疲労破壊への適用」では、2・1/4Cr-1・Mo鋼電子ビーム溶接継手の長時間時効継手、および、非時効継手のクリープ・疲労強度を調べるとともに、前章までに得られた知見の溶接継手への適用の可能性について検討している、そして、溶接継手のクリープ・疲労強度は母材のそれよりも低下すること、長時間時効した溶接継手のクリープ・疲労強度は非時効継手に比べ若干低下すること、および、これら溶接継手の破損箇所はいずれも熱影響域の中でも特に細粒部であることを実験的に示している。また、クリープ・疲労損傷を与える前の溶接継手における超音波横波のエネルギ減衰率は、溶接継手中の母材部、溶接金属部、熱影響部などの各部位の結晶粒径の分布、および、それらの形状の方向依存性を反映した結果を与えることから、この値の分布の測定により各部位の識別ができることを示している。さらに、溶接継手中のエネルギ減衰率の分布はクリープ・疲労損傷の進行にともない変化するが、とりわけ熱影響域中の細粒部における上昇が著しく、この位置は最終破損位置と良く一致すること、加えて、この指標の変化から抽出される各部位の損傷発達傾向は合理的な情報を与えることから、本研究で検討した手法が溶接継手のクリープ・疲労破損検出に対しても有効であることを示している。
 第8章「結論」では、以上から得られた結果を要約している。

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