本文ここから

X線マスクメインブレン用アモルファスB-N膜及びB-N-C膜の作製と評価

氏名 榊原 正彦
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第61号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 X線マスクメンブレン用アモルファスB-N膜及びB-N-C膜の作製と評価
論文審査委員
 主査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 弘津 禎彦
 副査 教授 井上 泰宣
 副査 教授 鎌田 喜一郎
 副査 助教授 安井 寛治
 副査 助教授 石黒 孝

平成3(1991)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 緒論 p.1
第1節 諸言-集積回路と露光技術- p.1
第2節 本研究の目的と概要 p.6
第2章 X線リソグラフィ技術とX線マスクメンブレン p.9
第1節 緒言 p.9
第2節 X線リソグラフィの原理と特徴 p.10
第3節 X線リソグラフィ用マスクメンブレン p.17
第4節 X線マスクメンブレンの作製方法と評価方法 p.20
第3章 a-BN膜の作製条件とメンブレン特性 p.24
第1節 緒言 p.24
第2節 実験方法 p.25
3-2-1 減圧CVD装置および成膜条件 p.25
3-2-2 膜の特性評価方法 p.25
3-2-3 SOR照射による評価 p.29
第3節 実験結果および考察 p.31
3-3-1 成膜条件と特性 p.31
3-3-2 SOR照射による評価 p.35
第4節 結言 p.37
第4章 a-BNC膜の作製条件とメンブレン特性 p.39
第1節 緒言 p.39
第2節 実験方法 p.40
4-2-1 成膜条件 p.40
4-2-2 膜の特性評価方法 p.41
第3節 実験結果および考察 p.42
4-3-1 成膜温度と特性 p.42
4-3-2 反応ガス流量比と特性 p.42
4-3-3 反応圧力と特性 p.46
4-3-4 組成と特性 p.51
4-3-5 a-BN膜とa-BNC膜との比較 p.51
4-3-6 SOR照射による評価 p.54
第4節 結言 p.56
第5章 高温成膜したa-BNC膜のX線マスクメンブレンとしての評価 p.57
第1節 緒言 p.57
第2節 実験方法 p.58
5-2-1 成膜条件 p.58
5-2-2 膜の特性評価方法 p.58
第3節 実験結果および考察 p.62
5-3-1 高温成膜条件と特性 p.62
5-3-2 組成と残留応力、光吸収係数の関係 p.66
5-3-3 組成と熱膨張係数の関係 p.66
5-3-4 組成と真性応力の関係 p.71
5-3-5 膜中水素量と真性応力の関係 p.75
5-3-6 SOR照射による評価 p.78
第4節 結言 p.86
第6章 a-BN膜およびa-BNC膜の残留応力と膜中水素量 p.88
第1節 緒言 p.88
第2節 実験方法 p.89
6-2-1 膜の作製および熱処理 p.89
6-2-2 膜の評価 p.89
第3節 実験結果および考察 p.92
6-3-1 残留応力のアニールによる変化 p.92
6-3-2 膜中水素量のアニールによる変化 p.92
第4節 結言 p.102
第7章 結論 p.104
第1節 結果の概要 p.104
第2節 今後の課題と将来の展望 p.107
第3節 総合結論 p.109
謝辞 p.111
本研究に関連した論文 p.112
本研究に関連した口答発表 p.114

 ICからLSIさらにVLSIへと、半導体素子の高集積化技術の開発は止まるところを知らない。それと共に加工寸法はサブミクロンが要求され、可視光から紫外/遠紫外線露光(リソグラフィ)技術が主流となってきた。さらに次世代のULSIプロセスでは、SOR(Synchrotron OrbitalRadiation)によるX線リソグラフィが中心技術と考えられている。これが現在X線リソグラフィ用マスクメンブレンの開発が精力的に行われている理由である。これまで、X線マスクメンブレンとして、X線透過率の良好なSi, SiN, SiC, BN, Cなど軽元素薄膜材料が検討された。その中BN(特にアモルファスB-N(a-BN))はX線透過率が最も高く、X線マスクメンブレン材料として最適と考えられ、その可能性が多数検討された。しかし、X線マスクメンブレンに要求される次の三つの膜特性、1)Si基板に対して引っ張り残留応力であること、2)マスクアライメント用光透過率が高いこと、3)SOR損傷がないこと、を満足するa-BN膜は得られず、特にSOR損傷に関する解決のメドは全くなかった。
 本研究はこの問題を解決する目的で、a-BN膜にX線吸収の少ないCを添加した3元系アモルファスB-N-C(a-BNC)膜のX線マスクメンブレンとしての可能性を検討した。低温成膜したa-BNC膜は高い光透過率を示したが、SOR損傷は大きく、なお改善が必須であることが分かった。一方、高温成膜したa-BNC膜は若干低い光透過率であったが、SOR損傷がなく10万回露光に耐えるものであった。ここに初めて、X線リソグラフィ用マスクメンブレンの試作に成功した。
 本論文は以上の事柄を纏めたもので「X線マスクメンブレン用アモルファスB-N膜及びB-N-C膜の作製と評価」と題し、以下の7章から構成される。
 第1章「緒論」では、半導体素子の高集積化のトレンドから最も重要な将来技術は何かを予測し、それがSORによるX線リソグラフィであり、これに必要なX線マスクメンブレンの開発が如何に急務であるかを述べた。
 第2章「X線リソグラフィ技術とX線マスクメンブレン」では、始めにX線リソグラフィの原理と特徴について触れ、次いでそれから演繹されるX線マスクメンブレンの具備すべき条件及びその評価方法について述べた。
 第3章「a-BN膜の作製条件とメンブレン特性」では、減圧CVDによる成膜条件(温度、ガス比)とメンブレン特性の関係を検討し、このメンブレンは光透過率が悪く、SOR損傷が大きく、実用に耐えないことを確認した。
 第4章「a-BNC膜の作製条件とメンブレン特性」では、a-BN膜の欠点を補うべくC添加を試み、3元系としたa-BNC膜の成膜条件(温度、ガス比、圧力)とメンブレン特性の関係を検討した。光透過率が大きく、かつSOR損傷に若干改良の余地を残した膜となった。このSOR損傷は次章に述べるように膜中水素含有量に原因する。
 第5章「高温成膜したa-BNC膜のX線マスクメンブレンとしての評価」では、先の低温成膜に対して高温成膜化の効果を検討した。光透過率は若干低下するが、SOR損傷(10万回の露光)のない優れた膜がえられた。この膜の水素含有量は分析の結果、極めて低いものであることが分かった。
 第6章「a-BN膜およびa-BNC膜の残留応力と膜中水素量」では、メンブレン特性の一つ引っ張り残留応力が如何なる条件下で生じるかその応力発生機構を探ることを目的に、膜中の残留応力及び水素量に対するアニール効果を調べた。成膜温度を越えるアニール処理はa-BN膜で残留応力の増大を、a-BNC膜で減少を示した。分析の結果、この現象は膜中水素含有量に関係し、両者間に比例関係が成立することが見出された。
 第7章「結論」はこれらの結果を総括したもので、減圧CVD法により高温成膜したa-BNC膜がX線リソグラフィ用マスクメンブレンとしての可能性を有しており、実用化への展開が図られることを結論した。

ページの先頭へ戻る