有限要素解析のための知的支援システムに関する研究
氏名 永澤 茂
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第18号
学位授与の日付 平成3年12月18日
学位論文の題目 有限要素解析のための知的支援システムに関する研究
論文審査委員
主査 教授 宮田 保教
副査 教授 吉谷 豊
副査 教授 服部 賢
副査 教授 高田 孝次
副査 助教授 佐久田 博司
副査 九州工業大学 助教授 小林 史典
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 緒言 p.1
1.2 本研究の位置付け p.2
1.2.1 従来の研究状況 p.2
1.2.2 本研究の範囲 p.9
第2章 有限要素法と支援の課題 p.12
2.1 緒言 p.12
2.2 有限要素法プログラムの形態 p.13
2.3 モデル化の一般的手順 p.15
2.4 解析モデル p.19
2.4.1 圧延熱と熱伝達境界のモデル p.19
2.4.2 圧延材料の変形とロール接触モデル p.25
2.4.3 異種接合材の熱変形応力モデル p.30
2.4.4 鋳造変形モデル p.35
2.4.5 粘性流れモデル p.42
2.4.6 ポテンシャル流れと弾性境界の連成モデル p.47
2.5 問題点の特徴 p.52
2.6 結言 p.60
第3章 汎用有限要素法におけるデータ構造 p.61
3.1 緒言 p.61
3.2 入力データの形式 p.62
3.3 多機能モデルの分類 p.65
3.4 非線形条件の分類 p.70
3.5 知識モデルの分類 p.72
3.5.1 プロセッサ指向 p.72
3.5.2 ユーザ指向 p.73
3.6 規格化知識のモジュール構造 p.75
3.6.1 識別キーワード p.75
3.6.2 特性キーワード p.76
3.6.3 可変型のための補助モジュール p.77
3.7 経験知識のモジュール構造 p.79
3.8 アクティブなモジュール分析法 p.80
3.8.1 パッシブな入力データのモジュール構造 p.80
3.8.2 アクティブな分析とユーザ指向モデル p.80
3.8.3 モジュールの階層的写像 p.82
3.9 入力データの仕様 p.84
3.10 入力データの解説方法 p.86
3.10.1 コメントの付加 p.86
3.10.2 テンプレート表現 p.87
3.10.3 マクロ言語記述法 p.96
3.11 結言 p.98
第4章 支援システムの設計論 p.100
4.1 緒言 p.100
4.2 支援の基本形態 p.101
4.3 プロセッサ指向モデルの形態と機能 p.103
4.3.1 キーワードの属性 p.103
4.3.2 入力データの属性 p.104
4.3.3 ブラウザの基本機能とメッセージ構文 p.106
4.3.4 設計規則の属性 p.110
4.4 クラス階層とカテゴリ属性 p.111
4.4.1 キ-ワードの形態 p.111
4.4.2 設計規則の形態 p.112
4.5 規格化知識の階層状表現法 p.114
4.5.1 ブラウザ基本要素の構造 p.114
4.5.2 マルチ・ウインドウの構造 p.115
4.5.3 階層化マニュアル p.116
4.6 ユーザ指向モデルとモデル・ジェネレータ p.118
4.6.1 要素フレーム p.118
4.6.2 境界・拘束条件 p.118
4.6.3 材料特性 p.119
4.7 事例データベースに基づく支援 p.121
4.7.1 知識の蓄積と検索方法 p.121
4.7.2 中間部品の大きさ p.124
4.7.3 段階的選別法と補充法 p.125
4.8 支援手法の効果 p.128
4.9 結言 p.129
第5章 支援手法の適用 p.130
5.1 緒言 p.130
5.2 言語環境 p.131
5.3 ブラウザによる支援 p.133
5.4 モデル・ジェネレータによる支援 p.140
5.4.1 材料物性の温度依存性 p.140
5.4.2 要素フレームの接触境界条件 p.140
5.5 分散環境における実行形態 p.141
5.6 結言 p.143
第6章 結論 p.148
6.1 研究のまとめ p.148
6.2 今後の展望 p.151
謝辞 p.153
参考文献 p.154
用語の説明 p.164
コンピュータのめざましい進歩に伴い、様々な工学的解析、設計問題において、人間の経験知識や従来の解析手法だけでは解決が困難であった、大規模で複雑な問題をコンピュータによって、迅速にしかも高い信頼性を持って処理できるようになってきた。これらは、一般に、コンピュータ支援と言われるが、時代に即した最適な支援形態が求められている。
支援対象であるユーザと支援手段の中核をなすアプリケーション・ソフトウェアとのインターフェースは、支援システムと言われ、アプリケーションの効率的、効果的利用と簡易な操作性が提供されるよう、構築されることが求められている。
本研究は、構造力学・材料工学などにおいて、主要な数値解析法である有限要素解析(finiteelement analysis)のための支援システムの構築原理に関するもので、従来のルールベースやフレームベースによる独立した知識支援システムとは異なる、統合化された知的支援環境を実現するための新しい知識モデルとその表現方法を提唱して、その有効性と問題点を明らかにしている。本論文は、以下の6章より構成されている。
第1章「緒論」では、研究の背景と従来の研究に対する概説を通して、有限要素解析の適用に際して発生する問題点を明らかにし、本研究の位置づけ、ならびに意義・目的を示している。
機械設計などのコンピュータ支援は、(1)汎用的な有限要素解析の利用、(2)設計エキスパートシステムの開発、(3)知識データベースの構築、(4)簡易なマクロ言語による開発などの総合的研究から発展してきた。本章ではまず、従来の研究の多くは、上記(1)~(4)の個々の項目に焦点を絞ったものであり統合化が十分ではないことと、近年の解析需要の大規模化、複雑化に対して、ユーザ層の大衆化、高度な専門知識の不足が問題となっていることを指摘している。そのうえで、支援の中核である有限要素解析システムに関する従来の研究が、自動分割と精度向上に偏り、それを有効に使うための経験知識の蓄積や操作性の向上が不十分であるため、解析のための入力データの編集設計に、高機能な支援が必要であることを述べている。
第2章「有限要素法と支援の課題」では、汎用プログラムならびに自作プログラムによる有限要素解析の事例を通して、支援システムの仕様を設計する際に必要となる入力データの基礎特性と課題点を整理している。
材料工学などの基礎分野で、有限要素解析を適用することが多い分野として、(1)熱伝導・熱伝達問題(非定常)、(2)塑性加工問題(大変形、大歪)、(3)複合・接合材料問題(残留応力、変形挙動)、(4)凝固問題(潜熱、固液2相、熱収縮)、(5)流れ場問題(圧力分布の解析、弾性境界体との連成)、を取り上げて、各分野におけるモデル化と実行上の問題点を分析した。
これにより、有限要素解析のための入力データを統一的に設計し、生成するために、知識を構造的に分類し、効率的なシステムの構築法と効果的な知識表現が重要であることを述べている。
第3章「汎用有限要素法におけるデータ構造」では、複数の汎用プログラム(MARC、SAP)を題材にして、有限要素法に内在する性質に基づいて、入力データが有する一般的構造特性を明らかにし、支援のための知識モデルの概念を述べている。
まず、データ・モデルの物理的属性に関する分類を行い、非線形問題を統一的に扱い得ることを示している。次に汎用プログラムの入力データは、解析条件を記述するために、機能分割されたオプションとして詳細な文法が規格化されている一方で、これらのオプションを経験的に組み合わせる知識が必要であるため、オプションに対応した機能モジュール(キーワード)を基準とする知識ベースの構築の有効性と問題点を述べている。さらに、簡易操作性を指向したモデルのデータ表現(ユーザ指向モデル)を検討し、支援システムの設計では、2階層の知識モデルを考慮する必要があることを述べている。また、具体的な知識の提供方法についても考察している。
第4章「支援システム設計論」では、第3章で示した知識モデルを基に、入力データの編集と知識支援を行うシステムの設計概念と実現の基本形態を述べ、従来手法と比較したときの優位性を示している。
まず、支援システムの基本構成について検討し、機能モジュールの部品化、マニュアルや要素ライブラリの配置、専用の構造エディタ(ブラウザ)の実現方法などを明らかにする。ついで、ユーザ指向モデルに基づく編集手段として、モデル・ジェネレータの概念を採用し、マクロな知識支援として有効であることを確認する。その結果、ブラウザによるミクロな基底の表現と、モデル・ジェネレータによるマクロな知識表現に基づくハイブリッド型の支援が、汎用有限要素解析の設計支援方法として重要であることを述べている。さらに、事例データベースを利用して編集する場合に、本支援方法が有効であることを確認している。
第5章「支援手法の適用」では、第4章で述べた支援システムの適用による効果と開発環境を概観している。
第6章「結論」では、本研究の総括を行い、キーワードを基準とする規格化知識のデータ隠蔽と、ユーザ指向モデルに基づくモデル・ジェネレータの考え方が、知的支援システムの新しい設計原理となり得ることを結論付けている。