Selective Binding and Activation of Biorelevant Molecules via Multiple Interactions
(多点相互作用に基づく生体関連物質の選択的捕捉と活性化)
氏名 本村 忠広
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第58号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 Selective Binding and Activation of Biorelevant Molecules via Multiple Interactions(多点相互作用に基づく生体関連物質の選択的捕捉と活性化)
論文審査委員
主査 教授 青山 安宏
副査 教授 塩見 友雄
副査 教授 山田 良平
副査 助教授 戸井 啓夫
副査 助教授 陶山 明
副査 京都大学 教授 生越 久靖
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Contents
Introduction p.1
Part 1 Multiple Fixation and Activation of Substrates Using Rigid Porphyrin Model Host in Apolar Organic Media.
Chapter 1 Amide Bond Scission via Bifunctional Activation with Bimetallic Porphyrin Systems. p.6
Chapter 2 Multi-Point Interaction ofPhosphates with Protonaed Pyridylporphyrin; Discrimination of Monoalkyl and Dialkyl Phosphates. p.21
Part 2 Multiple Binding and Activation of Phosphate and Carboxylate Derivatives in Hydroxylic Media.
Chapter 3 Accumulation of Hydrogen-Bonding and Electrostatic Binding
Sites: Stabilization of Salts in Hydroxylic Media via Intramolecular Hydrogen Bonding. p.30
Chapter 4 Transition-State Stabilization via Dynamic Molecular Recognition: A Concerted Acid-Basa Bifunctional Catalysis in Ester Hydrolysis. p.56
Part 3 Application to Multiple Binding and Cleavage of Nucleic Acids.
Chapter 5 Multiple Electrostatic Interaction of Polycationic Chitosan Oligomers with Nucleic Acids: PolyaminePromoted Stabilization of the A-Form of RNA and DNA in Aqueous Solutions. p.75
Chapter 6 Cleavage of Double Strand DNA by a Bisresorcinol Derivative with a Metal-Ion Binding Site. p.98
General Conclusions p.108
List of Publications p.109
多点相互作用は生体系において、基質の選択的捕捉や活性化における本質的な相互作用である。生体系は、単独では弱い相互作用を複数個組み合わせることで、より強く、より高選択的な多点相互作用系を構築している。ことに、極性の高い生体関連物質(アミノ酸、核酸等)を水という極性溶媒中で、多点相互作用を用いることで巧みに認識・活性化している。本研究の目的は水中の様な極性の高い環境下で、極性化合物を選択的に認識、活性化することを可能としている多点相互作用の本質を理解し、その応用を検討することである。
第一部では、有機溶媒中で水素結合や金属配位、静電相互作用のような極性相互作用を組み合わせた多点相互作用がどのように機能するのかを検討した。そこで、rigidかつ、官能基を立体的に固定することが容易な多官能性ポルフィリンモデルを用い、検討を行った。ポルフィリンIa及びIbがベンゼン中で過塩素酸銀の存在下で、2に示すようなロジウムと銀の協同効果によって多官能的にエステルやアミドといった基質を活性化することを明らかにした。また、プロトン化ピリジルポルフィリン3がクロロホルム中、複数個の静電相互作用や水素結合によってモノアルキルリン酸エステルを選択的に捕捉することを明らかにした。このような第一部では、水素結合や金属配位、静電相互作用といった単独では弱い極性相互作用を有効に分子内へ配置することで高い基質選択性や活性化が行えることを明らかにした。
多点極性相互作用が、有機溶媒中で選択的な基質の捕捉や活性化に有効であることが示されたことを受けて、第二部では水の様な極性溶媒中でもこのような多点相互作用が有効に機能するのか検討を行なった。
ビスレゾルシンユニットとピリジル基を持つ化合物4がメタノール中でリン酸エステルを静電相互作用及び水素結合によって多点的に捕捉することが明らかとなった。一方、ビスレゾルシンユニットとイミダゾリル基を持つ化合物5が水中において酢酸p-ニトロフェニルを多官能的に加水分解する事も明らかにした。これは、同一分子内に存在する酸としての官能基(水酸基対)と塩素としての官能基(イミダゾリル基)が協同的かつ、有効に機能する為にこのような基質活性化が起こることがわかった。
このように多点相互作用が、水の様な極性溶媒中でも、基質の多官能的な捕捉や活性化に有効であることから、天然の核酸の選択的捕捉や開裂反応に応用し、検討を行なった(第三部)。核酸と多点的な静電相互作用が可能なポリカチオン性糖鎖であるキトサンオリゴマーは、その鎖長に応じて、核酸とのaffinityが変化する。このような相互作用によりB型のDNAがA型へと特異的にコンホメーション変化を起こす事を明らかにした。これらの現象はキトサンと核酸との間に働く多点的な静電相互作用に起因することがわかった。更に、前出のビスレゾルシンユニットとイミダゾリル基を持つ化合物5が、Cu2+存在下で、特別な還元剤の添加なしでDNAの開裂を起こす事も明らかになった。
本研究は、極性り高い多官能性化合物の多点相互作用様式を解明するとともに、核酸のような生体物質の水中における分子認識と活性化に重要な手掛かりを与えた。