無電解金属皮膜抵抗器に関する研究
氏名 青木 博夫
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第20号
学位授与の日付 平成4年3月25日
学位論文の題目 無電解金属被膜抵抗器に関する研究
論文審査委員
主査 教授 神林 紀嘉
副査 教授 一ノ瀬 幸雄
副査 教授 飯田 誠之
副査 教授 山田 明文
副査 教授 赤羽 正志
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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.1.1 無電解めっきの概要 p.1
1.1.2 無電解めっきの応用 p.4
1.1.3 抵抗器全般 p.6
1.2 研究の目的 p.10
1.3 本論文の概要 p.10
第2章 Ni-Cr-P抵抗体 p.17
2.1 まえがき p.17
2.2 試料の作製 p.18
2.3 結果と検討 p.22
2.3.1 熱処理と抵抗温度特性 p.22
2.3.2 熱処理による抵抗値変化 p.32
2.3.3 TCR p.34
2.3.4 耐湿改善 p.35
2.3.5 基体の影響 p.38
2.4 あとがき p.40
第3章 Ni-W-P低抵抗体 p.42
3.1 まえがき p.42
3.2 試料の作製 p.43
3.3 結果と検討 p.44
3.3.1 タングステン酸ナトリウム量と抵抗値,TCR p.44
3.3.2 熱処理と抵抗値,TCR p.52
3.3.3 信頼性試験 p.54
3.4 あとがき p.56
第4章 Ni-W-P低抵抗体の量産化 p.59
4.1 まえがき p.59
4.2 試料の作製 p.59
4.3 結果と検討 p.60
4.4 あとがき p.73
第5章 Ni-W-P中抵抗体 p.75
5.1 まえがき p.75
5.2 試料の作製 p.75
5.3 結果と検討 p.76
5.3.1 感受性化液の比較 p.76
5.3.2 めっき成長と抵抗値の減少 p.77
5.3.3 タングステン酸ナトリウム量による影響 p.84
5.3.4 活性化後の加熱乾燥 p.88
5.3.5 溝切り後の信頼性試験 p.90
5.4 あとがき p.92
第6章 Ni-W-P抵抗体の改善 p.93
6.1 まえがき p.93
6.2 試料の作製 p.93
6.3 結果と検討 p.96
6.3.1 活性化時の超音波印加 p.96
6.3.2 タングステン酸ナトリウム量による影響 p.99
6.3.3 熱処理温度および時間の影響 p.100
6.3.4 めっき温度による影響 p.105
6.3.5 めっき前温水浸漬の効果 p.106
6.3.6 周波数特性および信頼性試験 p.107
6.4 あとがき p.109
第7章 Ni-P高抵抗体 p.110
7.1 まえがき p.110
7.2 試料の作製 p.110
7.3 パルス印加装置 p.112
7.4 結果と検討 p.114
7.5 あとがき p.124
第8章 結論 p.125
謝辞 p.131
文献 p.132
現在使用されている抵抗器のほとんどは、炭素皮膜抵抗器と金属皮膜抵抗器で占められている。炭素皮膜抵抗器は生産性に優れているが、TCR(抵抗温度係数)値は、-数百ppm/℃と大きく、精密な用途には適さない。一方金属皮膜抵抗器は、TCR、安定性において格段に優れた特性を有しているが、皮膜作成法として真空蒸着法またはカソードスパッタリング法を用いる関係上、大がかりな真空装置を必要としコストが高くなるということ、および小さなTCRを有する抵抗値範囲が数百Ωと狭いという欠点が存在する。
ところで無電解のめっき法は、簡単な設備で大量生産向きであるため、コストの引き下げが可能となる。まためっき液の量を調節することで、生産規模において柔軟性を持たせることができる。このような特長があるため、一部低抵抗分野ではこの方法によって作製される抵抗器が、以前より実用になっている。しかし最も一般的な無電解Ni-Pめっき抵抗器の場合では、TCRが200ppm/℃程度と大きいことと、抵抗値が数Ω以上のものが得られないという欠点がある。
そこでこれらの欠点を改善する目的で、Ni-Pめっきに第三の金属としてCrを共析させることを試みる。その結果、従来Cr単独では理論的に析出困難とされていたものが、Ni-Pめっき液を基本とする液にCrイオンを含有させることで、Ni-Cr-P三元合金めっきが可能となる。この場合皮膜中のCr成分を微量(約3%)含有させること、および適切な熱処理を施すことで、TCRは30ppm/℃以下となり、従来のものより大幅に改善可能となる。またNi-P皮膜は非晶質であるが、Ni-Cr-P皮膜では熱処理を行わなくとも、めっき直後よりすでに結晶質であることが判明する。
次に従来の方法では作製が、困難であった1Ω以下でかつ小TCRの抵抗体を、Ni-W-Pめっき膜を用いて開発する。また実用化する上で重要となる各種信頼性試験の結果、いずれも中抵抗値の精密級金属皮膜抵抗器の性能と比較して、同等またはそれ以上の性能であることが確認される。
また実用化を想定して1ロット3万本の試料を作製し、従来からのNi-Pめっき抵抗器と比較しながらステップストレス等の試験を実施する。その結果、ほとんど全ての面でNi-W-Pめっき抵抗体の優位性が明らかとなる。なおこれらすべての試験において、メカニカルカッティングとレーザーカッティングの両方式を比較し、全般的にレーザーカッティングが、優れていることがわかる。
このような1Ω程度の抵抗体の作製法では、抵抗値が数十ΩになるとTCRは負の大きな値を示す。そしてより高抵抗側まで小TCRの状態を保つためには、膜厚を均一にする必要があるとする。そこで前処理の感受性化剤を、塩化第1スズの塩酸溶液からふっ化第1スズの水溶液にすること、前処理の活性化処理中に超音波を印加すること、およびめっき液中のタングステン酸ナトリウム量を多くすることで、未調整抵抗値で2kΩ程度までTCRを25ppm/℃以内に納めることが可能となる。
無電解めっきの抵抗値減少の機構について、めっきは触媒核を中心として同心半球状に成長するとしてモデルを作成し、シミュレーションを行う。その結果、実際の抵抗値の減少傾向とよく一致することがわかる。またカッティング後の信頼性試験結果から、従来の金属皮膜抵抗器と同等の性能を有することを確認する。
さらに大きな面積抵抗を有する皮膜の可能性についても検討する。Ni-W-P皮膜は数kΩ以下の中抵抗分野では、各種無電解めっき皮膜中で特に優れためっき皮膜であるが、そのめっき析出形態が極微小ではあるが粒状であるため、膜が薄くなるとその影響が現れ、TCRは急激に負の方向に大きくなる傾向にある。一方Ni-P皮膜は比較的基体表面の凹凸に沿って緻密に析出するため、低速度でめっき可能ならば、薄い膜の場合でも膜厚が均一なめっきをつけることができる。そのような方法で、膜厚を薄くすることにより現れる形状効果を利用することで、本来TCRが大きな値であったものを、10kΩ以上の高抵抗領域で、TCRを50ppm/℃以下に小さくすることが可能となる。ここで膜厚が薄くなるための悪影響は、電極部処理やパルスエージングで除去する。
次に、熱処理前後の抵抗値変化の様子を調べ、抵抗値の変化には抵抗値の大小によって、2種類のパターンがあることを見い出す。そこでそれぞれについて、皮膜表面酸化と抵抗値との関係のモデルを作成し、シミュレーションを行い実験結果とよく一致することを確認する。
以上、従来の精密級金属皮膜抵抗器と、同等またはそれ以上の抵抗器を無電解めっき法によって、低廉なコストでかつ再現性よく作製可能であることが明らかとなる。