玉軸受の固有振動に関する研究
氏名 太田 浩之
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第31号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 玉軸受の固有振動に関する研究
論文審査委員 主査 教授 五十嵐 昭男
副査 教授 矢田 敏夫
副査 教授 久曽神 煌
副査 教授 矢鍋 重夫
副査 東京工業大学 教授 小野 京右
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目次
第1章 緒論 p.1
1-1 本研究の動機および目的 p.1
1-2 正常な玉軸受単体の振動に関するいままでの研究 p.2
1-2-1 Pesanteの研究 p.2
1-2-2 Hustonの研究 p.3
1-2-3 Gustafssonの研究 p.3
1-2-4 五十嵐の研究 p.5
1-2-5 まとめ p.6
1-3 本研究の方針 p.7
1-4 本研究の対象 p.7
1-5 振動および音響の測定について p.8
1-5-1 振動および音響の測定量およびその単位 p.8
1-5-2 振動および音響の測定器 p.9
1-6 記号 p.15
第2章 並径玉軸受の振動特性 p.24
2-1 緒言 p.24
2-2 振動の測定について p.24
2-3 実験 p.27
2-3-1 実験用玉軸受 p.27
2-3-2 実験方法 p.27
2-4 実験結果および考察 p.31
2-4-1 主なピーク p.31
2-4-2 f1およびf2のピーク p.52
2-4-3 f3~f10のピーク p.52
2-4-4 f´1~f´3のピーク p.52
2-5 結言 p.53
第3章 外輪の剛体モードの固有振動 p.54
3-1 緒言 p.54
3-2 実験 p.54
3-2-1 実験用玉軸受 p.54
3-2-2 実験方法 p.54
3-3 実験結果 p.57
3-4 解析および考察 p.57
3-4-1 外輪慣性モーメント系角方向固有振動fMI p.57
(i)Jonesの理論によるfMIの計算 p.57
(ii)f1のピークの周波数におよぼす接線方向剛性比Gxa/Gxiの影響 p.63
(iii)傾き方向ばねのばね定数の増加の機構 p.82
(iv)接線方向剛性比Gxa/Gxiを考慮したfMIの計算および計算値の精度 p.84
3-4-2 外輪質量系軸方向固有振動fAM p.87
(i)一自由度系におけるfAMの計算 p.87
(ii)二自由度系におけるfAMの計算および計算値の精度 p.89
3-5 結言 p.93
第4章 外輪単体の固有振動 p.94
4-1 緒言 p.94
4-2 実験 p.94
4-3 実験結果、解析および考察 p.94
4-3-1 音の周波数スペクトル p.94
4-3-2 外輪単体の面内振動 p.97
(i)半径方向曲げ固有振動 p.97
(a)Hoppeの理論による計算 p.97
(b)Kirkhopeの理論による計算 p.100
(ii)伸び固有振動 p.102
4-3-3 外輪単体の面外振動 p.104
(i)軸方向曲げ固有振動 p.104
(a)谷口・遠藤の理論による計算 p.104
(b)Kirkhopeの理論による計算 p.105
(ii)ねじり固有振動 p.108
4-4 結言 p.110
第5章 外輪の面内の固有振動 p.111
5-1 緒言 p.111
5-2 実験 p.111
5-2-1 実験用玉軸受 p.111
5-2-2 実験方法 p.111
5-3 実験結果 p.114
5-4 理論解析および考察 p.117
5-4-1 外輪半径方向曲げ固有振動fR(i-1)L,H p.117
5-4-2 外輪伸び固有振動fE(m+1)L,H p.127
5-4-3 f4~f10のピークと外輪の面内の固有振動 p.132
5-5 理論計算値の精度 p.134
5-6 結言 p.137
第6章 外輪の面外の固有振動 p.138
6-1 緒論 p.138
6-2 実験 p.138
6-2-1 実験用玉軸受 p.138
6-2-2 実験方法 p.138
6-3 実験結果 p.139
6-4 理論解析および考察 p.139
6-4-1 外輪の面外の固有振動数 p.141
6-4-2 外輪の面外振動の固有モードおよび種類 p.150
6-5 理論計算値の精度 p.152
6-6 結言 p.154
第7章 外輪の非線形振動 p.158
7-1 緒言 p.158
7-2 解析 p.158
7-3 実験および解析 p.164
7-3-1 線形ばね特性を持つ圧縮コイルばねで半径方向に支持された外輪の振動ピークの周波数 p.164
7-3-2 線形ばね特性を持つ圧縮コイルばねで半径方向に支持された外輪の振動のピークのモード形状 p.166
7-4 考察 p.168
7-5 外輪半径方向曲げ1次固有振動の低次振動3/4次超分数調波振動3/4fRILの計算および計算値の精度 p.171
7-6 結言 p.173
第8章 結論 p.174
8-1 緒言 p.174
8-2 並径玉軸受の振動特性 p.174
8-3 外輪の剛体モードの固有振動 p.174
8-4 外輪の面内の固有振動 p.175
8-5 外輪の面外の固有振動 p.175
8-6 外輪の非線形振動 p.176
8-7 外輪単体の固有振動 p.176
8-8 結言 p.176
謝辞 p.178
文献 p.179
転がり軸受単体の振動については、いままでに、いくつかの名番の玉軸受を用いて研究が行われている。これらの研究によって、正常な玉軸受単体の振動は軌道面の円周方向のうねりに関する振動と軸道輪に関する固有振動の二種類があることが明らかとなっている。このうち、前者の振動については、Gustafssonの理論的研究により、その振動数を正確に求めることができる。これに対して、後者の振動については、振動モードの解明および振動系に関する理論的解析は十分には行われていない。したがって、現在、軸道輪に関する固有振動の振動数を計算によって正確に求めることはできていない。そこで、本研究では、使用数が多く振動が問題になりやすい並径玉軸受単体の軌道輪に関する固有振動を解明することにした。
すなわち、本研究は、正常な並径玉軸受単体の軌道輪に関する固有振動を明らかにすることを目的としており、以下の8章より構成されている。
第1章「緒論」では、玉軸受の固有振動に関する研究の重要性および玉軸受単体の振動に関する現在まで行われてきた研究の概要を示すとともに、本研究の目的を明らかにした。
第2章「並径玉軸受の振動特性」では、一定の軸方向荷重が加わる15名番の並径玉軸受単体各三個の振動特性を詳細に調べた。その結果、20kHz帯域の外輪の合成振動の周波数スペクトルにはf1~f10のピークが現われ、さらに、外輪の軸方向振動の周波数スペクトルには、合成振動ではあまり現れないf'1~f'3のピークが現われることを見出した。そして、f1~f10およびf'1~f'3のピークはいずれも外輪に関する固有振動に関係して生ずると推定した。
第3章「外輪の剛体モードの固有振動」では、一定の軸方向荷重が加わる玉軸受の外輪の振動の周波数スペクトルに現われるf1およびf2のピークについて、各ピークの振動モードの測定を行った。その結果、f1およびf2のピークの振動モードは外輪の剛体モードに相当していることを見出した。さらに、これらのピークのうち、f1のピークは外輪慣性モーメント系角(傾き)方向固有振動fMI、f2のピークは外輪質量系軸方向固有振動fAMによるものであることを理論的に明らかにし、それぞれの固有振動について、振動数の計算式を提示した。
第4章「外輪単体の固有振動」では、15名番の並径玉軸受の外輪単体について、打撃実験を行い、その固有振動数を調べた。この結果、外輪単体の固有振動には、半径方向曲げ固有振動、伸び固有振動、軸方向曲げ固有振動、ねじり固有振動の四種類が存在することを見出した。さらに、これら外輪単体の固有振動数は、外輪の断面形状を矩形と見なすことにより、Kirkhopeの理論式またはLoveの理論式により求まることを明らかにした。
第5章「外輪の面内の固有振動」では、一定の軸方向荷重が加わる玉軸受の外輪の振動の周波数スペクトルに現われるf3~f10について、各ピークの振動モードの測定を行った。その結果、f3~f10のピークの振動モードは外輪の半径方向曲げ振動モードまたは外輪の伸び振動のモードに相当していることを見出した。さらに、これらのピークの中でf4~f10のピークは、外輪の半径方向曲げ固有振動または外輪の伸び固有振動、すなわち外輪の面内の固有振動によるものであることを理論的に明らかにし、これらの固有振動の振動数の計算式を提示した。
第6章「外輪の面外の固有振動」では、一定の軸方向荷重が加わる玉軸受の外輪の振動の周波数スペクトルに現われるf'1~f'3のピークについて、各ピークの振動モードの測定を行った。その結果、f'1~f'3のピークの振動モードは外輪の面外の曲げ振動のモードに相当していることを見出した。さらに、これらf'1~f'3のピークは、外輪の面外の固有振動のうち外輪軸方向曲げ固有振動によるものであることを理論的に明らかにし、この固有振動の振動数の計算式を提示した。
第7章「外輪の非線形振動」では、一定の軸方向荷重が加わる玉軸受の外輪の振動の周波数スペクトルに現われるf3のピークについて、解析を行った。その結果、f3のピークの振動は軸方向荷重が加わる玉軸受の外輪の非線形振動によって生ずることを見出した。そして、この外輪の非線形振動は、外輪半径方向曲げ1次固有振動の低次振動fRILの3/4次超分数調波振動3/4fRILであると推定し、この非線形振動の振動数の計算式を提示した。
第8章「結言」では、以上の各章で得られた玉軸受の固有振動についての結論をまとめた。