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高負荷油圧駆動装置の高出力化に関する研究

氏名 小林 俊一
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第13号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 高負荷油圧駆動装置の高出力化に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 池谷 光栄
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 助教授 佐久田 博司
 副査 助教授 金子 覚
 副査 横浜国立大学 教授 山口 惇

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目次
主要記号
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 従来の研究 p.7
1.3 本研究の目的および内容 p.9
参考文献 p.10
第1部 油圧モータの高圧化対処策-斜板式アキシアルピストンモータのピストン球部・スリッパ軸受に関して-
第2章 ピストン球部・スリッパ軸受の構造解析(スリッパ軸受が油膜で浮いていない状態) p.17
2.1 緒言 p.17
2.2 解析 p.18
2.2.1 解析方法 p.18
2.2.1.1 ピストン球部・スリッパの形状 p.18
2.2.1.2 仮定事項 p.18
2.2.1.3 軸受弾性問題 p.19
2.2.1.4 解析モデルおよび解析手順 p.20
2.2.2 解析結果および考察 p.23
2.2.2.1 基準摩擦係数の場合 p.23
2.2.2.2 摩擦係数に対する影響 p.26
2.3 実験による検討 p.29
2.3.1 実験装置および方法 p.29
2.3.2 リング装着解析モデル p.31
2.3.3 実験結果および解析結果との比較 p.32
2.4 結言 p.36
参考文献 p.36
第3章 ピストン球部・スリッパ軸受の構造解析(スリッパ軸受が油膜で浮いている状態) p.39
3.1 緒言 p.39
3.2 解析 p.41
3.2.1 解析方法 p.41
3.2.1.1 仮定事項 p.41
3.2.1.2 シールランド潤滑基礎式 p.41
3.2.1.3 軸受弾性問題 p.48
3.2.1.4 解析モデルおよび解析手順 p.48
3.2.2 解析結果および考察 p.51
3.2.2.1 標準仕様の場合 p.51
3.2.2.2 パッド厚変更による検討 p.55
3.2.2.3 ピストン球部・スリッパ間摩擦係数変更による検討 p.63
3.3 実験による検討 p.67
3.3.1 実験装置および方法 p.67
3.3.2 実験結果および解析結果との比較 p.69
3.3.2.1 斜板角が0°の場合 p.69
3.3.2.2 斜板角の影響 p.72
3.4 結言 p.73
参考文献 p.74
第2部 減速機の潤滑油かくはん損失の低減方策
第4章 減速機内部潤滑油流れ挙動の考察 p.79
4.1 緒言 p.79
4.2 実験装置および方法 p.80
4.2.1 実験装置 p.80
4.2.2 可視化原理と撮影方法 p.82
4.2.2.1 可視化原理 p.82
4.2.2.2 撮影方法 p.82
4.2.2.3 実験装置全体構成 p.84
4.2.3 各パラメータ設定・計測方法 p.86
4.2.3.1 回転速度および位相 p.86
4.2.3.2 潤滑油動粘度 p.88
4.2.3.3 潤滑油量 p.88
4.2.3.4 潤滑油温度 p.89
4.2.3.5 損失トルク p.89
4.3 低速回転時での流れ挙動 p.90
4.3.1 ホイールの運動 p.90
4.3.1.1 ケース・ホイール間のすきま変化 p.90
4.3.1.2 ホイール・キャリアコラム間のすきま変化 p.92
4.3.2 低速可視化実験 p.93
4.3.2.1 実験条件 p.93
4.3.2.2 I部での流れ p.94
4.3.2.3 II部での流れ p.106
4.3.3 速度変化による影響 p.109
4.3.3.1 実験条件 p.109
4.3.3.2 可視化結果 p.110
4.3.4 動粘度変化による影響 p.114
4.3.4.1 実験条件 p.114
4.3.4.2 可視化結果 p.114
4.4 高速運転時での流れ挙動 p.117
4.4.1 実験条件 p.117
4.4.2 可視化結果 p.118
4.4.2.1 ホイールBとキャリアコラム間の流れ(スリット位置RS3) p.118
4.4.2.2 ホイールBとホールドフランジ間の流れ(スリット位置RS4) p.118
4.4.2.3 ホールドフランジとカバー間の流れ(スリット位置RS5) p.118
4.4.2.4 ケースとホイール間の流れ(スリット位置AS3) p.119
4.4.2.5 全体的な流れと総括 p.124
4.5 潤滑油量に対する流れ挙動 p.125
4.5.1 実験条件 p.215
4.5.2 可視化結果 p.126
4.5.2.1 ホイールBとキャリアコラム間の流れ(スリット位置RS3) p.126
4.5.2.2 ホイールBとホールドフランジ間の流れ(スリット位置RS4) p.126
4.5.2.3 ホールドフランジとカバー間の流れ(スリット位置RS5) p.126
4.5.2.4 ホイールとキャリアコラム間の流れ(スリット位置AS1) p.126
4.5.2.5 全体的な流れと総括 p.130
4.6 結言 p.132
参考文献 p.133
第5章 減速機内部形状に対する潤滑油流れ挙動とかくはん損失の相関 p.135
5.1 緒言 p.135
5.2 キャリア・ホールドフランジ形状変更 p.136
5.2.1 変更事項 p.136
5.2.2 可視化実験および結果 p.137
5.2.2.1 実験条件 p.137
5.2.2.2 可視化結果 p.137
5.2.3 かくはん損失測定 p.139
5.2.3.1 測定方法 p.139
5.2.3.2 かくはん損失特性 p.140
5.2.3.3 潤滑油流れ挙動とかくはん損失の関係の考察 p.142
5.3 内部循環流れ阻止板装着 p.143
5.3.1 変更事項 p.143
5.3.2 可視化実験および結果 p.144
5.3.2.1 実験条件 p.144
5.3.2.2 可視化結果 p.144
5.3.3 かくはん損失測定 p.146
5.3.3.1 測定方法 p.146
5.3.3.2 かくはん損失特性 p.146
5.3.3.3 潤滑油流れ挙動とかくはん損失の関係の考察 p.147
5.4 結言 p.149
参考文献 p.149
第6章 結論 p.151
6.1 研究成果の総括 p.151
6.2 今後の展望 p.155
謝辞 p.157
付録 FEMプログラム"MARC Ver. K3"の基礎理論と構成内容 p.159
発表論文一覧 p.165

 本研究は高負荷適用を図る油圧駆動装置の高出力化への設計指針を与えることを主眼目とする。近時、産業界では駆動装置のより一層の増大要求が強まっている。これに対処するために本研究は斜板式アキシアルピストンモータを例に取り、その高出力化として高圧化方策を採ることとし、使用/設計条件の最苛酷なことが予想されるピストン球部・スリッパ軸受の構造解析を行い、潤滑挙動への影響を検討した。その結果、同部が高圧下で要求機能を果すに十分な最適設計条件の基礎資料を提供することができた。また、出力トルク増大の要求に応ずるために、駆動側に付加すべき減速機構、遊星歯車型式の高効率化を図るよう、減速機構内潤滑油の攪拌損失低減を課題とした。ここでその損失の低減方策を潤滑油流れの可視化により明確化、提示した。
 上述に基づき、高負荷油圧駆動装置の高出力化としての高圧化方策を第1部に、減速機構内潤滑油の攪拌損失低減方策を第2部にまとめ、各章を以下の通りに構成し、その概要を示す。
 第1章では、研究の背景と従来の研究に対する概説を通じ、高負荷油圧駆動装置の高出力化のための問題点を明らかにし、本研究の位置づけ、意義、目的を述べている。
 第1部第2章では斜板式アキシアルピストンモータのピストン球部・スリッパ高圧下における構造解析を、第一段階としてスリッパが油膜で浮かず、斜板に接触している状態で行った。まず始めにピストン球部・スリッパ間、スリッパ・斜板間の摩擦を考慮したモデルを作成し、応力分布と変形を解析した。これより応力集中はピストン球部・スリッパ接触面最下部とスリッパシールランド内周部で生じることを明らかにした。特に最大応力はスリッパシールランド内周部で生じ、スリッパが斜板に対して接触・摺動して起こる焼き付きが同部であることの解析的な確認を可能にした。また、ピストン球部・スリッパ間摩擦係数、スリッパ・斜板間摩擦係数を増加させることにより、応力集中を緩和できることを提示した。次に、変形量の一部について実験を行い、解析値と比較・検討した結果、実験結果と解析値は定性的に一致し、解析値についてはスリッパ・斜板間摩擦係数を増加させることで減少できることを提示した。
 第1部第3章では斜板式アキシアルピストンモータのスリッパが油膜で浮いている起動時静的平衡状態において、まず始めにピストン球部・スリッパの弾性問題と潤滑問題を連立させ、同部の応力分布・変形と潤滑状況についてスリッパパッド厚を変化させて解析した。これよりピストン球部・スリッパ接触面最下部で応力集中が生じるが、ピストン球部・スリッパ間摩擦係数を増加させることにより低減することが可能であること、相当応力はスリッパ軸受円筒形絞り部付近で高い値をとることを明らかにした。また、パッド厚が小さな領域ではシールランドの変形が大きく、スリッパシールランド・斜板間の油膜厚さと流量が減少し、パッド厚が大きい領域ではシールランドの変形は僅かではあるがスリッパ外側からみて凸形状となることも明らかにした。次にその解析の評価を行うためにスリッパシールランド・斜板間の流量を測定し、供給圧力29.4MPaにおけるパッド厚と流量の関係においては、円筒形絞り流量が実験式の場合での解析値は実験結果より高いが同傾向であること、供給圧力と流量の関係においても、円筒形絞り流量が実験式の場合での解析値は実験結果より高いがほぼ似通った傾向であることを示した。更に斜板角と流量の関係を実験の立場から検討し、斜板角の増加に伴い流量は増加し、パッド厚に対する流量の変化は斜板角が0°でない場合ばらつきが大きくなるが、斜板角が0°の場合とほぼ似通った傾向であることを示した。以上の結果から高圧化への設計指針として、本研究で採用したスリッパの仕様ではパッド厚をむやみに増加することは好ましくなく、パッド厚を8mmまで増加するのが望ましいことを提示した。
 第2部第4章では減速機内の攪拌状況を解析するため、透明な減速機中に透明な流動パラフィンを潤滑油として用いる可視化方法を考案、実験装置を作成して内部潤滑油流れの可視化を行った。まず、低速回転下、パラフィン動粘度を実用減速機使用の潤滑油の室温状態と同等に設定して可視化実験を行った結果、各部の大半の流れはホイールの公転に伴うケースとホイール間、ホイールとキャリア間のすきま変化に起因され、装置を半径方向に3等分した各部においてはそれぞれ120°の位相差で同様な流れを呈することを明らかにした。また、低速回転域で回転速度を変化させて行った結果、各部の流速は回転速度にほぼ比例し、潤滑油温上昇時に相当せしめて動粘度を低下させて行った結果、流れの変化はほとんどみられないことを明らかにした。次に高速回転での流れの可視化をするため、レイノルズの相似則を適用して可視化実験を行った結果、実機通常運転条件とほぼ同等のレイノルズ数2.23×104では、円錐ころ軸受とその支持する中空クランクシャフトに起因すると考察される内部循環流れが生じることを明らかにした。更に実機作動条件と同様、パラフィン量を減少して可視化実験を行った結果、前と同様のレイノルズ数2.23×104では、流れは装置内部がパラフィンで充満しているときと較べて大きく変化し、これはパラフィンを減量した場合、パラフィンに浸されている部分の形状がアンバランスになるために起因されると考察された。
 第2部第5章では減速機内部形状に対する潤滑油流れ挙動と攪拌損失の関係を調べるため、攪拌損失が少なくなると想定される内部形状変更を試み、内部潤滑油流れの可視化と攪拌損失の測定を行った。これより、低速回転域で支配的なホイールの公転に伴う、ケースとホイール間およびホイールとキャリア間のすきま変化に起因される流れを損失なくするには、潤滑油量を増加させずに形状変更すべきであることを示した。また、内部循環流れが生じる高速回転域では、内部循環流れ阻止板を装着することによって攪拌損失を低減出来ることを提示した。
 第6章では本研究を総括した結論及び今後の展望を述べている。

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