凍結Z解作用を受けた不飽和粘性土のせん断特性に関する基礎的研究
氏名 西村 友良
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第46号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文題目 凍結-融解作用を受けた不飽和粘生土のせん断特性に関する基礎的研究
論文審査委員
主査 教授 小川 正二
副査 教授 清水 敬二
副査 教授 桃井 清至
副査 教授 丸山 暉彦
副査 助教授 杉本 光隆
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目次
第1章 序論 p.1
1-1 まえがき p.1
1-2 凍結-融解作用が与える工学的問題 p.6
1-2-1 路床・路盤における被害と対策 p.6
1-2-2 法面における被害と対策 p.8
1-2-3 トンネル・付帯施設における被害 p.9
1-2-4 凍害対策のための調査要素と設計 p.10
1-3 凍上および凍結-融解土の性質に関する既往の研究 p.14
1-3-1 凍上現象と凍上力 p.14
1-3-2 不凍水 p.15
1-3-3 土の熱伝導率 p.16
1-3-4 土の凍上性 p.17
1-3-5 凍上性の判定方法 p.18
1-3-6 凍結-融解作用を受けた土の性質に与える要因 p.20
1-3-7 凍結-融解作用による土のせん断強さの変化 p.21
1-3-8 凍結-融解土のせん断強さへの外的・内的要因の影響 p.22
1-3-9 土の物理・化学的性質に与える凍結-融解の影響 p.24
1-4 本研究の目的 p.27
参考文献 p.29
第2章 共試体作成法、試験装置および試験方法 p.36
2-1 まえがき p.36
2-2 試料の物理的性質 p.37
2-3 共試体の作成法 p.39
2-3-1 突固めによる動的締固め法 p.39
2-3-2 静的締固め方法 p.41
2-3-3 締固め方法が密度分布およびせん断特性に与える影響 p.43
2-4 凍結-融解試験装置 p.46
2-5 不飽和土のサクション力の測定法 p.49
2-5-1 不飽和土のサクション力 p.49
2-5-2 加圧板法とセラミックスディスクの物性 p.51
2-5-3 セラミックスディスクの間隙圧の伝導性 p.54
参考文献 p.56
第3章 非排水・非排気装置で凍結-融解作用を受けた不飽和粘性土の体積変化 p.58
3-1 まえがき p.58
3-2 凍結-融解試験法 p.59
3-3 凍結-融解中の経時的体積変化 p.61
3-3-1 経時的体積変化の分類 p.61
3-3-2 凍結過程の体積変化のメカニズム p.66
3-3-3 融解過程の体積変化のメカニズム p.68
3-4 凍結時の体積変化率と乾燥密度、飽和度、拘束圧力の関係 p.70
3-4-1 体積変化率と飽和度の関係 p.70
3-4-2 体積変化率と乾燥密度の関係 p.74
3-4-3 体積変化率と拘束圧力の関係 p.76
3-5 融解後の体積変化率と乾燥密度、飽和度、拘束圧力の関係 p.78
3-5-1 体積変化率と飽和度の関係 p.78
3-5-2 体積変化率と乾燥密度の関係 p.80
3-5-3 体積変化率と拘束圧力の関係 p.82
3-6 凍結時の体積変化率と融解後の体積変化率の関係 p.84
3-7 まとめ p.86
参考文献 p.88
第4章 凍結-融解度の強度と圧縮特性とサクション力 p.91
4-1 まえがき p.91
4-2 応力-ひずみ曲線 p.92
4-3 せん断強さと乾燥密度、含水比の関係 p.94
4-4 せん断強さと体積変化の関係 p.97
4-5 凍結-融解作用を受けた土の強度測定 p.99
4-6 不飽和土のサクション力 p.101
4-6-1 等方拘束圧力の間隙比の関係 p.103
4-6-2 非凍結土の等方圧縮時のサクション力の変化 p.106
4-6-3 凍結-融解土の等方圧縮時のサクション力の変化 p.107
4-6-4 飽和度とサクション力の関係に与える凍結-融解の影響 p.108
4-7 凍結-融解作用によるサクション力の変化への温度勾配の影響 p.111
4-7-1 温度勾配(凍結速度)が土の凍上性に与える影響 p.111
4-7-2 温度勾配と体積・サクション力の変化の関係 p.112
4-7-3 温度勾配とサクション力の変化の関係 p.115
4-8 サクション力が凍結-融解による体積変化の関係に与える影響 p.117
4-9 まとめ p.119
参考文献 p.121
第5章 凍結-融解のサクション力とせん断特性の関係 p.126
5-1 まえがき p.126
5-2 土の有効応用理論 p.127
5-2-1 飽和土の有効応用理論 p.127
5-2-2 不飽和土の有効応用理論 p.128
5-3 等方圧縮時の凍結-融解土のせん断特性 p.130
5-3-1 非排水・排気三軸圧縮試験での応力-ひずみ曲線 p.130
5-3-2 せん断強さと飽和度、サクション力の関係 p.133
5-3-3 凍結-融解度の破壊規準 p.136
5-4 凍結-融解時の体積変化がせん断強さに与える影響 p.140
5-4-1 融解後の体積収縮がせん断強さに与える影響 p.140
5-4-2 体積変化を制御した凍結-融解土の応力-ひずみ曲線 p.143
5-4-3 体積変化を制御した凍結-融解土のサクション力の変化 p.145
5-4-4 体積変化を制御した凍結-融解土のせん断強さとサクション力、等方拘束力の関係 p.146
5-4-5 q/(σc-ua)□と(ua-uW)□/(σc-ua)□の関係に与える含水比、乾燥密度の影響 p.152
5-4-6 サクション力を考慮した破壊規準の定数への凍結-融解の影響 p.158
5-5 凍結-融解土の一軸圧縮強さとサクション力の関係 p.160
5-6 凍結-融解作用による有効応力の変化 p.163
5-6-1 飽和土の等有効応力線 p.163
5-6-2 不飽和土の等有効応力線 p.165
5-6-3 等有効応力線に与える凍結-融解の影響 p.166
5-6-4 等せん断応力線 p.170
5-7 凍結-融解土のpとqの関係 p.172
5-8 まとめ p.180
参考文献 p.183
第6章 結論 p.186
謝辞 p.191
わが国の北海道や東北地方の寒冷地あるいは山梨県、群馬県の標高の高い山岳地域では冬期の凍上現象や凍結-融解作用によって路床・路盤、切土・盛土などに多くの被害が発生している。これらの被害を解明するために凍結-融解作用を受けた土の研究が種々行われているが、いまだにその土のせん断特性についての定量的な解明がなされていないので凍害防止対策に研究の成果が十分に生かされていない。本研究は原位置で見られるクローズドシステムの状態で凍結-融解作用を受けた不飽和土の体積変化、凍結-融解後の等方圧縮特性および凍結-融解土のせん断強さと不飽和土の有効応力成分であるサクション力の関係を明白にして、凍結-融解による不飽和土のせん断強さの低下の原因を定量的に明らかにすることを目的とし行われている。
第1章では、凍結-融解を受ける地域の位置する分布、その広さおよび凍結-融解作用によって形成された特徴的な地形について述べている。特にこれらの地域で生じる凍上現象や凍結-融解作用による被害の特徴や対策工法、また凍害対策のための調査要素と設計方法についての工学的問題を指摘して、さらに凍害対策のために現在まで行われてきた既往の基礎的研究を凍上現象、凍結-融解作用を受けた土の性質に分類して、凍結-融解土に関する過去の研究の問題点を指摘し、本研究の目的を述べている。
第2章では、供試体の作成法、試験装置、試験法について述べている。本研究に用いた資料は凍上性が高いシルト質粘性土であり、供試体はこの試料を用いて突固め法、静的締固め法により作成した供試体の特性の比較の結果から静的締固めで作成している。凍結-融解試験は熱サイクル三軸圧縮試験機で凍結-融解と凍結-融解後の三軸圧縮試験を一環して行っている。また、不飽和土のせん断特性に大きな影響を与えるサクション力の測定法などの試験方法についても検討している。
第3章では、非排水・非排気状態で凍結-融解作用を受けた土の体積変化のメカニズムおよび飽和度、乾燥密度、拘束圧力が凍結時・融解後の体積変化に与える影響について検討している。その結果によると凍結過程においては凍結部では氷晶の成長による体積膨張のために凍上現象が生じ、凍結面近傍の未凍結部では脱水作用にともなう体積の収縮による圧縮現象が生じる。また、凍結時に土の飽和度が増すにつれて体積膨張量が大きくなるが、融解後は凍結時の体積変化による土構造の乱れや土粒子周囲の吸着水膜の減少によって間隔が収縮する構造に変化するので、土の体積は凍結前よりも収縮する。しかし、その収縮量への飽和度、乾燥密度の影響は見られず、拘束圧力の大きさが体積収縮率の大きさを支配している。
第4章では、非排水・非排気状態で凍結-融解を受けた土のせん断強さへの含水比、乾燥密度の影響、および非排水・非排気状態で凍結-融解作用を受けた土の等方圧縮過程におけるサクション力について検討し、凍結-融解を受けた土のサクション力は非凍結土に比較して低下し、飽和度に逆比例して直線的に現象することを述べている。また、凍結前のサクション力が大きい土では、凍結時の体積膨張率が小さく、融解後の体積収縮率も減少し、凍結-融解を受けた土のサクション力と等方拘束圧力による体積変化の関係曲線の勾配は非凍結土の関係曲線の勾配よりも小さくなる。さらに、凍結時の体積変化は凍結-融解時の温度勾配の影響を受けるが、融解後の体積収縮は温度勾配の影響を受けない。
第5章では、凍結-融解土のせん断強さと体積変化、サクション力の関係および凍結-融解による有効応用力の低下について検討している。非排水・排気状態で凍結-融解を受けて体積収縮を生じた土のせん断強さは非凍結土のせん断強さよりも大きいが、凍結-融解時の体積収縮を拘束された土のせん断強さは非凍結土のせん断強さより小さい。いずれにせよ、凍結-融解作用の有無に拘わらず土のせん断強さとサクション力、等方拘束力の間には[q/(σc-ua)=A(ua-uW)/(σc-ua)+B]なる直線関係があり、この直線関係よりサクション力を考慮した土の破壊規準は[τ=n(ua-uW)+(σc-ua)・tanφとなる。これらの関係より凍結-融解作用を受けた土のせん断強さの低下はサクション力の減少による有効応力の低下であることが明らかになった。また、土のせん断破壊時の主応力差と平均有効応力、等方拘束圧力の関係は非凍結土、凍結-融解土に拘わらず一つの直線関係[(q/p)=-3(σc-ua)/p+1]で表現される。
第6章は結論であり、本論文の総括を行っている。