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イオン注入窒化法を用いた高飽和磁化窒化鉄薄膜の作製とその磁性に関する研究

氏名 中島 健介
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第11号
学位授与の日付 平成2年9月19日
学位論文の題目 イオン注入窒化法を用いた高飽和磁化窒化鉄薄膜の作製とその磁性に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 高田 雅介
 副査 教授 長倉 繁麿
 副査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 山下 努
 副査 助教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 小松 高行
 副査 長岡工業高等専門学校長 岡本 祥一

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目次
第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 従来のα"-Fe16N2に関する研究とその問題点 p.6
1.3 イオン注入窒化法 p.9
1.4 本研究の目的 p.14
第2章 イオン注入窒化法による窒化鉄磁性薄膜の作製 p.17
(準安定相Fe16N2の合成を目的として)
2.1 はじめに p.17
2.2 イオン飛程理論 p.17
2.3 イオン注入装置 p.26
2.4 実験 p.28
2.5 実験結果および考察 p.30
2.5.1 大電流注入 p.34
2.5.2 低電流注入 p.34
2.5.2.1 窒素濃度分布 p.34
2.5.2.2 X線回折による窒化生成相の同定と膜構造の解析 p.36
2.5.2.3 メスバウアー分光分析 p.42
2.5.2.4 磁化特性と飽和磁化 p.46
2.6 まとめ p.48
第3章 規則相α"-Fe16N2の合成 p.51
3.1 はじめに p.51
3.1.1 α"-Fe16N2の結晶構造 p.51
3.1.2 X線回折パターンのシミュレーション p.53
3.2 実験 p.57
3.2.1 単結晶α-Fe薄膜の作製 p.57
3.2.2 窒素イオン注入条件 p.60
3.2.3 チャネリング臨界角 p.62
3.2.4 構造および磁気特性の評価法 p.64
3.3 実験結果および考察 p.64
3.3.1 窒素濃度分布 p.64
3.3.2 X線回折 p.66
3.3.2.1 窒化鉄相の同定 p.66
3.3.2.2 窒化鉄相の生成量 p.70
3.3.3 磁化特性 p.72
3.3.3.1 単結晶α-Fe薄膜 p.72
3.3.3.2 イオン注入窒化鉄膜 p.74
3.4 まとめ p.78
第4章 高飽和磁化窒化鉄薄膜の作製 p.79
4.1 はじめに p.79
4.2 注入窒素濃度の均一化 p.80
a.多重エネルギーイオン注入 p.80
b.チャネリング効果 p.82
c.増速拡散 p.83
4.3 多重注入窒化膜の作製 p.86
4.4 イオン注入窒化膜の特性評価 p.90
4.5 実験結果および考察 p.90
4.5.1 窒素濃度分布 p.90
4.5.2 bct窒化鉄の格子定数 p.92
4.5.3 bct窒化鉄の配向性 p.95
4.5.4 アニールによる窒素の規則化とα"-Fe16N2の生成量 p.98
4.5.5 磁気異方性 p.101
4.5.6 飽和磁化 p.104
4.6 まとめ p.108
第5章 高飽和磁化窒化鉄の磁気構造 p.109
5.1 はじめに p.109
5.2 α'-martensiteのメスバウアースペクトル p.111
5.2.1 鉄原子のサイトと内部磁場 p.111
5.2.2 正方晶歪と飽和磁化 p.113
5.2.3 磁化容易軸 p.115
5.3 メスバウアースペクトルの測定 p.116
5.4. 実験結果と考察 p.118
5.4.1 α"-Fe16N2のメスバウアースペクトル p.118
5.4.2 各サイトの鉄の磁気モーメント p.123
5.4.3 窒素原子の固溶位置 p.133
5.4.4 鉄原子の磁気モーメント変化の原因 p.137
5.4.5 α"-Fe16N2磁化容易軸と四重極分裂ε p.140
5.5 まとめ p.143
第6章 結論 p.145
謝辞 p.149
参考文献 p.151
付録 p.157
本研究に関わる研究発表 p.161

 窒化鉄系の磁性材料は高飽和磁化でかつ耐食生、耐摩耗性にも優れた特性を示すため、磁気ヘッドなどの材料として盛んに研究されている。なかでもFe16N2は、全物質中最大の飽和磁化(室温)を示すらしいと言われてきた。しかし、Fe16N2は準安定相であるが故に合成が難しく、工学的応用だけでなく学術的にも非常に興味深い物質であるにもかかわらず、正確な飽和磁化や磁気異方性あるいは磁気構造などの基礎的知見はほとんど不明のままであった。
 本研究では、非平衡状態での窒化反応が期待できるイオン注入窒化法に着目し、純鉄の薄膜を同方法により窒化してFe16N2を合成し、高飽和磁化特性に優れた窒化鉄薄膜を作製した。さらに、その窒化鉄膜を用いて高飽和磁化の原因となる窒化鉄相の磁性について詳細に検討した。
 本論文は「イオン注入窒化法を用いた高飽和磁化窒化鉄薄膜の作製とその磁性に関する研究」と題し、次の6つの章より構成される。
 第1章「緒論」では、まず、情報化社会の進展を背景にした磁気記録装置の高密度・大容量化とそれに伴う記録媒体の高保磁力化について説明し、高保磁力媒体が要求する飽和磁束密度の大きい磁気ヘッドに材料開発の現状を展望して、高飽和磁化の磁性材料を開発する意義について述べた。
 次に、飽和磁化の大きな窒化鉄系の磁性材料の中でも、特に巨大磁化とも言うべき大きな飽和磁化を示すFe16N2の発見から現在に至る研究状況を紹介し、Fe16N2の合成の困難さと問題点を指摘して、本研究の目的をFe16N2合成による高飽和磁化薄膜の実現並びにその磁性の解明と規定し、薄膜化が実現した場合に期待される工学的、学術的寄与について述べた。
 第2章「イオン注入窒化法による窒化鉄磁性薄膜の作製」では、注入した窒素イオンの分布を予測するための飛程理論を概説し、それによって決定した注入条件にしたがって実際にα-Fe薄膜への窒素イオン注入を行った。窒化生成物と窒化反応過程に及ぼす注入時のイオン電流密度の影響について詳細に検討した結果、0.7μA/cm2という低い電流密度で注入したとき、α-Feがそのbcc格子を膜厚方向に伸張して正方晶α'-martensiteに変化することを明らかにした。
 第3章「規則相α"-Fe16N2の合成」では、まず窒素位置が不規則なα'-martensiteと規則相であるα"-Fe16N2のX線回折パターンをシミュレーションによって詳細に検討した。次に、規則相であるα"-Fe16N2の生成を確認するため、単結晶のα-Fe薄膜をイオン注入窒化し、その後さらに150℃で2時間高真空中でアニールしてX線回折パターンと飽和磁化を測定した。その結果、注入直後において既に一部の窒素が規則化していること、アニール処理によって窒素の規則性が向上して規則相α"-Fe16N2の成分が増すことを明らかにした。また、窒化によって飽和磁化が上昇することを確認し、その原因がα"-Fe16N2とα'-martensiteであることを明らかにした。
 第4章「高飽和磁化窒化鉄薄膜の作製」では、注入イオンの分布を均一化して窒化生成物の量を増やすために、多重エネルギー窒素イオン注入法を採用して高飽和磁化窒化鉄薄膜を作製した。その結果、Fe70Co30合金に比肩し得る245emu/gという大きな飽和磁化を持つ優れた窒化鉄磁性膜の作製に初めて成功した。窒化鉄膜中に含まれる高飽和磁化相(α"-Fe16N2並びにα'-martensite)の飽和磁化は257emu/gであって、鉄1原子あたりの平均磁気モーメントは2.6μBに達し、現存する物質中最大であることを確認すると共に、これらの正方晶窒化鉄の磁化容易軸がc軸であることを明らかにした。
 第5章「高飽和磁化窒化鉄の磁気構造」では、内部転換電子法によって測定したメスバウアースペクトルを解析することによって、α"-Fe16N2とα'-martensiteの磁気構造および磁性について詳細に検討した。メスバウアースペクトルには内部磁場の異なる3つのスペクトルが観測されたが、それぞれのスペクトルは内部磁場の小さい順に窒素の最近接鉄原子、同第2近接鉄原子および同第3近接鉄原子のスペクトルと同定した。また、これらの鉄原子の磁気モーメントを次のように決定し、高飽和磁化の原因が第2近接と第3近接鉄原子の持つ大きな磁気モーメントであることを初めて明らかにした。
窒素最近接鉄原子:1.36μB
同第2近接鉄原子:2.56μB
同第3近接鉄原子:3.86μB
 窒化鉄相のスピンがc軸と平衡であることをメスバウアースペクトルから確認すると共に、四重極分裂εとスピンの方向の関係を矛盾無く説明した。
 第6章「結論」では各章の主な結果を要約し、最後に今後の問題点と展望を述べて結論とした。

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