本文ここから

スペクトル拡散通信方式の基礎的性能の向上に関する研究

氏名 太刀川 信一
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第16号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 スペクトル拡散通信方式の基礎的性能の向上に関する研究
論文審査委員 主査 教授 丸林 元
 副査 教授 大竹 孝平
 副査 教授 宮原 誠
 副査 教授 松田 甚一
 副査 助教授 荻原 春生

平成2(1990)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次
第1章 序論 p.1
1.1 まえがき p.1
1.2 スペクトル拡散通信方式の歴史 p.3
1.3 スペクトル拡散通信方式の原理と方式 p.5
1.3.1 直接拡散方式 p.7
1.3.2 周波数ホッピング方式 p.10
1.3.3 その他の方式 p.10
1.4 本論文の概要と位置付け p.11
1.4 文献 p.18
第2章 チップインタリーブを用いた直接拡散/スペクトル拡散通信(DS/SS)方式の研究1(バースト雑音抑圧のためのチップインタリーブ:スペクトル時間拡散通信(ST/SS)方式) p.20
2.1 まえがき p.20
2.2 DS/SS方式におけるチップインタリーブ p.21
2.3 チップインタリーブ用符号系列(遅延系列)とその特性 p.23
2.3.1 多元(2K元)M系列 p.23
2.3.2 TLP系列 p.27
2.4 電灯線データ伝送への適用 p.31
2.4.1 送受信機の構成 p.31
2.4.2 バースト雑音拡散効果の実験 p.36
2.4.3 実際の電灯線での実験 p.40
2.5 むすび p.40
付録 p.41
文献 p.44
第3章 チップインタリーブを用いた直接拡散/スペクトル拡散通信(DS/SS)方式の研究2(多元接続数増加のためのチップインタリーブ:遅延変換(DT)方式) p.46
3.1 まえがき p.46
3.2 スペクトル拡散多元接続(SSMA)と相関関数 p.47
3.2.1 SSMAモデル p.47
3.2.2 拡散行列と逆拡散行列 p.51
3.3 符号系列設計のパラメータ p.55
3.3.1 自己相関パラメータ p.55
3.3.2 相互相関パラメータ p.58
3.3.3 平均干渉係数のスペクトル表現 p.60
3.4 多元接続数の増加法 p.64
3.4.1 自己相関関数の改善と平均干渉係数の低い系列の組合せ p.64
3.4.2 スペクトルを高密度のまま分散する多元接続通信方式 p.67
3.5 むすび p.71
文献 p.72
第4章 M-ary/SSMAの周波数利用効率に関する研究 p.74
4.1 まえがき p.74
4.2 直交符号によるM-ary/SS方式と誤り率 p.75
4.3 M-ary/SSMAと周波数利用効率 p.78
4.3.1 M-ary/SSMAとその特徴 p.78
4.3.2 周波数利用効率とその限界 p.81
4.4 リードソロモン符号を用いた方式 p.86
4.4.1 リードソロモン符号を用いた縦列接続符号 p.86
4.4.2 SSMAへの適用と周波数利用効率p.90
4.4.3 リードソロモン符号のパラメータとS/N改善比、周波数利用効率の関係 p.93
4.4.4 シミュレーション結果 p.99
4.5 むすび p.99
付録 p.101
文献 p.105
第5章 DS/SS方式における高速同期捕捉のためのM系列多数決合成系列の研究 p.107
5.1 まえがき p.107
5.2 M系列を使った多数決合成系列(M-MAJ系列) p.108
5.2.1 M-MAJ系列の構成 p.108
5.2.2 M-MAJ系列の相関関数 p.112
5.3 M-MAJ系列と他の合成系列との比較 p.120
5.3.1 相関関数による比較 p.120
5.3.2 平均同期捕捉時間による比較 p.127
5.4 M-MAJ系列の相互相関関数について p.131
5.5 むすび p.134
付録 p.135
文献 p.141
第6章 総括 p.143
謝辞 p.149
発表論文一覧 p.150

 高度情報化社会である現代において、通信はますます身近なものとなっている。特に、パーソナル通信、コンシーマ通信(微弱無線や電灯線データ伝送等で利用者が自主的に管理する通信)とよばれる、簡易で、個々が独立していて、全体の管理者のいない通信方式は、便利であり急速に普及してきている。しかし、一方で、利用者が増えるに従い、それを収容するための局数の増加対策や他局との干渉等多くの問題点が生まれ、技術的にも新たな段階を迎えている。一般に、これらの通信が用いられる伝送路では、伝送特性が不安定であり、各種の雑音や妨害の存在する劣悪な状態である。このような環境下でも安定な通信が可能で、且つ、秘話性を保ち、他に妨害を与えず、しかも他からの妨害に強く、そして、多元接続数の多くとれる方式が摸索されている。そのような中で、スペクトル拡散通信方式(SS方式)は、スペクトルを広く利用するがゆえに得られるシステム設計上の多くの自由度から、これらの問題点に答えるべく次代の方式として期待されているものである。本論文は、このスペクトル拡散通信方式について、重要な問題である、時間軸上での耐雑音妨害性能、周波数利用効率、そして、同期捕捉時間の問題についてその解決策を試みたものである。
 まず、第2章では、バースト雑音や妨害の存在する伝送路において、これらの影響を除去するため、直接拡散(DS)/SS方式でのチップインタリーブ(あるデータを負荷した疑似雑音(PN)系列のチップと、他のデータの負荷したPN系列のチップとのインタリーブ)を提案する。これをスペクトル時間拡散(ST/SS)方式とよぶ。この方式では、PN系列の同期が従来通り確保できるように畳み込み形のチップインタリーブを用いる。その系列としては、各チップを一様に且つランダムな間隔で拡散するためTLP系列を利用し、また、その特性を検討する。次に、電灯線データ伝送での実験を行い、データ誤り率に関して大幅な改善が得られることを示す。本SS方式により、従来のCW性妨害のみならず、バースト性の雑音にも強い方式が実現できる。
 第3章では、前章でのチップインタリーブによる系列の形式をそのまま利用し、これを新たな拡散系列とみなして、多元接続通信(SSMA)を行い、その多元接続数の増加を図る。これを先の方式と区別して、遅延変換(DT)方式と呼ぶ。この方式により、優れた自己相関特性の系列とその相互相関の少ない組み合わせを求める方法、ならびに、スペクトルを細く部分的に集中させながら広く分散させ、そのすき間に各系列を割り当てるという方法を提案する。これはチップインタリーブにより系列を長くすることにより初めて可能となる。また、これにより、従来のDS/SS方式より多元接続数で10~60%の改善を得ている。
 第4章では、さらに、多元接続数を増加する方式としてM-ary/SS(送信機に2m個の系列を用意しておき、m bitのデータに応じて、その中の1つを送信し、受信機では最尤推定による復調を行う方式)による多元接続(M-ary/SSMA)をとりあげ、他局間干渉雑音に基づいた新たな手法により、周波数利用効率(同一帯域、同一データ誤り率でのデータ速度と多元接続数の積)を導出し、これまで得られなかったチップ波形やデータ誤り率の各種条件による効率の限界を求める。その結果、直交符号では高効率なシステムを得るためには符号長を非常に長くしなければならないが、リードソロモン符号を用いた系列では符号長約4000で、BPSK/FDMAの周波数利用効率0.5が得られる。また、符号によっては最適な周波数利用効率を得るための符号化率、拡散比が存在することを示す。
 第5章では、DS/SS方式において符号長が長い場合、同期捕捉に時間がかかるという問題点について検討し、互いに素の長さのM系列を要素系列とした多数決合成系列(M-MAJ系列)を提案し、その同期捕捉時間の短縮化を図った。合成系列を用いた高速同期捕捉は、合成系列と要素系列の相互相関特性を生かして行うものであるが、本系列では、要素系列の特性を有効に合成系列に残すことができ優れた相関特性が得られる。それゆえ、従来の高速同期捕捉用のJPL系列や縦列接続符号より、入力が低S/Nであっても高速同期捕捉性能が維持できるようになる。これは特に長い系列を必要とする測距技術、あるいは、同期用PN系列の低S/N化という点からも有用である。
 最後の総括では、各章のまとめと、これらを複合したシステム(チップインタリーブ+M-ary/SSMA+同期用M-MAJ系列)の設計例を電灯線データ伝送に適用し、本論文全体としての有効性を示す。

平成2(1990)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る