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CoCr垂直磁化膜の微細構造と磁化状態の観察に関する研究

氏名 本多 幸雄
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第15号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 CoCr垂直磁化膜の微細構造と磁化状態の観察に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 一ノ瀬 幸雄
 副査 教授 内藤 祥雄
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 弘津 禎彦
 副査 東京工業大学 教授 入戸野 修

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第1章 序論 p.1
第1節 緒言 p.1
1.1 本研究の背景 p.1
1.2 垂直磁気記録媒体に関する研究状況 p.1
1.3 本研究の目的 p.5
第2節 参考文献 p.6
第2章 垂直磁気記録用CoCr膜の成長過程の観察 p.7
第1節 緒言 p.7
第2節 実験方法 p.7
2.2.1 薄膜の形成方法 p.7
2.2.2 薄膜の微細構造の観察 p.9
第3節 実験結果 p.12
2.3.1 CoCr薄膜の表面,破断面組織の観察結果 p.12
2.3.2 断面試料の作製方法による微細組織の比較 p.12
2.3.3 CoCr膜の成長形態の観察 p.15
2.3.3.1 膜面垂直方向からのTEM観察 p.15
2.3.3.2 CoCr膜断面のTEM観察 p.18
第4節 考察 p.21
第5節 結言 p.23
第6節 参考文献 p.24
第3章 CoCr膜の結晶配向性に及ぼす下地材料の影響 p.26
第1節 緒言 p.26
第2節 各種下地層上に形成したCoCr膜の結晶配向性 p.26
3.2.1 実験方法 p.26
3.2.2 実験結果 p.29
3.2.3 考察 p.32
3.2.4 まとめ p.35
第3節 Ge下地層上に形成したCoCr膜の結晶配向性 p.37
3.3.1 実験方法 p.37
3.3.2 実験結果 p.38
3.3.2.1 形成条件と結晶配向性 p.38
3.3.2.2 蒸着粒子の入射角と薄膜の微細組織 p.45
3.3.2.3 Ge下地層の応用例 p.48
3.3.3 考察 p.50
3.3.4 まとめ p.52
第4節 CoCr薄膜の結晶配向性と記録再生特性 p.54
3.4.1 実験方法 p.54
3.4.2 実験結果と考察 p.54
3.4.3 まとめ p.59
第5節 結言 p.59
第6節 参考文献 p.60
第4章 CoCr膜の磁気特性に及ぼす雰囲気ガスの影響 p.63
第1節 緒言 p.63
第2節 実験方法 p.63
第3節 実験結果 p.64
4.3.1 CoCr/ポリイミド薄膜の磁気特性 p.64
4.3.2 CoCr/Ge/ポリイミド薄膜の磁気特性 p.68
4.3.3 CoCr膜の化学分析結果 p.70
第4節 考察 p.72
第5節 結言 p.75
第6節 参考文献 p.75
第5章 CoCr膜の微細構造と磁気特性 p.77
第1節 緒言 p.77
第2節 CoCr膜の静磁気特性と結晶配向性 p.77
5.2.1 はじめに p.77
5.2.2 実験方法 p.78
5.2.2.1 媒体の作製と磁気特性の測定 p.78
5.2.2.2 六方稠密晶構造の磁気トルク曲線の性質 p.78
5.2.3 実験結果 p.80
5.2.3.1 CoCr薄膜のM-H特性 p.80
5.2.3.2 垂直磁気異方性と結晶配向性 p.91
5.2.4 考察 p.99
5.2.5 まとめ p.102
第3節 CoCr膜の磁気特性に及ぼす加熱、加圧処理の影響 p.103
5.3.1 はじめに p.103
5.3.2 実験方法 p.103
5.3.2.1 媒体の作製と磁気特性の測定 p.103
5.3.2.2 加熱、加圧処理の方法 p.104
5.3.3 実験結果 p.104
5.3.4 考察 p.108
5.3.5 まとめ p.112
第4節 結言 p.112
第5節 参考文献 p.114
第6章 ビッター法による磁化状態の観察 p.117
第1節 緒言 p.117
第2節 実験方法 p.117
6.2.1 CoCr薄膜の作製と磁気特性の測定 p.117
6.2.2 磁気記録の方法 p.118
6.2.3 加熱、加圧処理による減磁特性の測定 p.118
6.2.4 ビッター法による磁化状態の観察 p.121
第3節 実験結果 p.121
6.3.1 CoCr膜の減磁特性に及ぼす加熱,加圧処理の影響 p.121
6.3.1.1 一方向に磁化した場合の減磁特性 p.121
6.3.1.2 垂直磁気記録した場合の減磁特性 p.123
6.3.2 ビッター法による垂直磁化状態の観察 p.123
第4節 考察 p.128
第5節 結言 p.130
第6節 参考文献 p.131
第7章 電子線ホログラフィ法による垂直磁化状態の観察 p.133
第1節 緒言 p.133
第2節 電子線ホログラフィ法の観察原理 p.134
7.2.1 電子線ホログラムの撮影 p.134
7.2.2 干渉顕微鏡像の光学再生 p.137
7.2.3 垂直磁気記録における記録磁化量 p.138
第3節 電子線ホムグラフィ法による磁化状態の観察法 p.140
7.3.1 試料の作製 p.140
7.3.2 磁気記録 p.141
7.3.3 電子線ホログラフィ観察用の切片試料の作製 p.142
7.3.4 電子線ホログラフィによる磁化状態の観察 p.144
第4節 実験結果 p.145
7.4.1 CoCr膜の結晶配向と磁化状態 p.145
7.4.2 CoCr垂直磁化膜の記録磁化量 p.148
7.4.3 磁性膜表面の磁界強度分布 p.149
第5節 結言 p.155
第6節 参考文献 p.157
第8章 結論 p.159
謝辞 p.163
本研究に関する発表論文 p.165

 近年、情報の大型化に伴い、より高い記録容量の磁気記録システムの開発が要求されている。将来の磁気記録システムでは、記録ビット長がサブミクロンオーダー、トラック幅が数ミクロンレベルになるものと予想されている。この様な高密度磁気記録を達成するためには、記録媒体の微細組織や磁気記録現象をマイクロマグネティクスの立場から理解することが極めて重要になっている。
 現在の磁気記録用媒体は塗布型媒体が主流であるが、より高密度化を図るためにCo基合金を始めとする薄膜媒体が開発されており、既に一部では実用化がなされている。これら実用化されている記録方式は記録磁化が記録面に平行な面内記録方式である。面内記録方式は、隣合う磁化の境界で N極とN極、あるいはS極とS極がお互いに突き合うように媒体が磁化されるため、記録磁化は強い反磁界を受ける。この反磁界が高密度記録における磁区の形成に影響を及ぼし、高密度記録を阻害する原因となっている。これに対して東北大の岩崎らが提案した垂直磁気記録方式は記録媒体面に垂直に記録磁化を形成する方式で、隣合う磁化が互いに反平行に形成されるため反磁界の影響が小さく、高密度磁気記録が期待できる。
 本研究では、垂直磁気記録用媒体として六方稠密(hcp)構造を持つCoCr合金からなるCoCr単層膜媒体を取り上げ、高密度磁気記録に適したCoCr垂直磁化膜の微細構造と静磁気特性や磁化状態の関係を明らかにすることを目的とした。
 真空蒸着法やスパッタリング法で非磁性基板上に形成したCoCr合金薄膜の微細構造を透過電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡により膜の平面方向や断面方向から観察した。その結果、高密度の垂直磁気記録に適した媒体は、基板界面付近の薄膜成長の初期過程を制御して磁化容易軸のC軸を基板面に垂直に高配向させることが必要であることを明らかにする。C軸を高配向化するための下地層材料について検討し、非晶質状のGeの下地層がCoCr結晶の磁化容易軸であるC軸を基板面に垂直に高配向化するのに適していることを示す。また、M-H曲線や磁気トルク曲線の測定により求めた静磁気特性と膜の微細構造との関係を示す。さらに、C軸分散の異なるCoCr媒体に垂直磁気記録を行い、媒体の表面側と裏面側から磁化状態を電子線ホログラフィ法やビッター法により観察し、媒体の微細構造が安定な垂直磁区の形成に重要な影響を及ぼすことを示す。
 各章の内容を総括すると以下のようになる。
 第1章『序論』では、塗布型媒体から薄膜媒体へ移行しつつあること、さらに高密度記録に適した垂直磁気記録方式の実用化を目指した研究が注目されていることを述べ、本研究の背景を概観する。
 第2章『垂直磁気記録用CoCr膜の成長過程の観察』では、非磁性基板上に真空蒸着法やスパッタリング法でCoCr薄膜を形成し、薄膜の表面形態や断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、薄膜の微細構造や膜の成長過程を調べた。その結果、NaClやSi、ポリイミドフィルムなどの非磁性基板上に形成したCoCr薄膜は、基板界面から80-100nm以下の領域では成長軸方位の異なる結晶粒が形成され、薄厚の増大と共に結晶粒径が大きく成長する。さらに、基板界面から100nm以上の領域でCoCr結晶のC軸が基板面に垂直に配向した結晶成長が支配的になり、粒径もほぼ一様になることを示す。また、CoCr薄膜断面の微細構造や成長過程を詳細に調べるための試料作成法について検討し、Arイオンビームシニング法が最も有効であることを示す。
 第3章『CoCr膜の結晶配向性に及ぼす下地材料の影響』では、磁化容易軸のC軸が基板面に垂直に高配向したCoCr薄膜を形成するには薄膜成長の初期過程を制御することが重要であることを示し、CoCr結晶のC軸配向核生成を促進するのに適した下地材料について検討する。その結果、非晶質状のGe、Si下地層がCoCr薄膜のC軸配向を改善するのに有効な下地層材料であることを示す。特に、非晶質状のGe下地層上に形成したCoCr薄膜は成長の初期段階からC軸配向した結晶核が生成され、下地層界面から膜の表面までほぼ一様な太さの柱状結晶が膜面に垂直に形成されることを明らかにする。さらに、Ge下地層上に形成したCoCr薄膜は比較的広い組成領域で高配向が保たれることを示す。また、C軸分散の異なるCoCr媒体の記録再生特性を測定し、高配向の媒体が高密度の垂直磁気記録を行うに適していることを明らかにする。
 第4章『CoCr膜の磁気特性に及ぼす雰囲気ガスの影響』では、真空蒸着法で形成したCoCr膜の磁気特性と膜構造に及ぼすO2、H2O、N2、CH4、Ne、H2などの残留ガスの影響を調べた。Ge下地層及び下地層を設けないで直接ポリイミドフィルム上に10-6Paから10-2Paの範囲の各種ガス圧力の下で同時にCoCr膜を形成し比較した。その結果、CoCr膜の垂直磁気異方性は、雰囲気ガス圧力の増加と共に減少し、この減少の傾向はガスの種類により、O2>H2O》N2~CH4~Ne~H2、のように変化することがわかった。特に、O2ガスにおいて垂直磁気異方性を劣化させる極限のガス圧力は約10-5Paであることを明らかにする。またGe下地層は、これを設けない時に比べてCoCr薄膜の垂直磁気異方性に及ぼす雰囲気ガスの影響が緩和される効果が見出された。
 第5章『CoCr膜の微細構造と磁気特性』では、CoCr薄膜の結晶配向性や微細構造と静磁気特性との関係について検討する。その結果、Ge下地層上に形成した高配向のCoCr薄膜は、ポイミドフィルム上に直接形成した低配向の膜に比べて磁化反転が急俊に起き易く、垂直磁気異方性が優れていることを明らかにする。またGe下地層上に形成したCoCr薄膜は、C軸分散が6度以下の高配向を保ちながら飽和磁化や保磁力などの磁気特性を広範囲に変化できることを示す。さらに、CoCr膜の磁気特性に及ぼす加熱、加圧処理の影響について検討し、成膜時の基板温度以上での熱処理により飽和磁化は減少するが、逆に垂直方向の保磁力と角型比および垂直磁気異方性は増大することが明らかになった。これは主に熱処理時のCrの拡散によるものと解釈された。
 第6章『ビッター法による磁化状態の観察』では、20kFCI以下の低記録密度領域で垂直磁気記録した膜の磁化状態とCoCr薄膜の構造との関係、及び減磁特性に及ぼす加熱、加圧処理の影響について検討した。その結果、膜面に垂直に一方向に磁化した時に比べて垂直磁気記録を行った方が加熱、加圧処理による減磁の量は小さく、記録密度が高いほど垂直磁区が安定に保たれることを明らかにする。さらにCoCr膜の表面と裏面側からビッター法により磁化状態を観察し比較した結果、Ge下地層上に形成した高配向のCoCr膜はポリイミドフィルム上に形成した低配向の膜に比べて、垂直磁区が膜の表面から裏面まで垂直に媒体のより深くまで安定に形成され易いことを半定量的に明らかにする。
 第7章『電子線ホログラフィ法による垂直磁化状態の観察』では、100~300kFCIの高度密度領域で垂直磁気記録を行い記録媒体断面の空間における漏洩磁束の分布状態を電子線ホログラフィ法により観察し、CoCr薄膜の結晶配向度と磁気記録状態を比較した。さらに媒体表面における漏洩磁界強度を定量的に調べた。その結果、100kFCLで垂直磁気記録したCoCr媒体の表面側と裏面側の干渉顕微鏡像の干渉縞の数の比較から、Ge下地層上に形成した高配向のCoCr媒体は垂直磁区が膜の表面から裏面までほぼ垂直に形成されることを明らかにする。また300kFCIとさらに高密度記録した媒体の表面の漏洩磁界強度分布を測定し、表面の漏洩磁界強度の減衰係数は-55(dB)と計測された。この結果は理想的に垂直記録した時の漏洩磁界強度の減衰係数の理論値と良く一致し、Ge下地層上に形成した高配向のCoCr媒体は垂直磁気記録に適した膜構造を持つ媒体であることを示している。
 第8章『結論』では、本研究の総括的なまとめを行う。

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