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高強度サイアロンの実用化に関する研究

氏名 薮田 和哉
学位の種類 工学博士
学位記番号 博甲第40号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 高強度サイアロンの実用化に関する研究
論文審査委員
 主査 助教授 植松 敬三
 副査 教授 松下 和正
 副査 助教授 弘津 禎彦
 副査 助教授 武藤 睦治
 副査 助教授 鎌田 喜一郎

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目次
第1章 緒言
第1節 構造用セラミックスについて p.1
第2節 窒化珪素
第1項 窒化珪素の結晶構造 p.2
第2項 窒化珪素の焼結助剤 p.3
第3項 窒化珪素粉の現状 p.4
第3節 サイアロン
第1項 サイアロンとは p.6
第2項 Si-Al-O-Nの状態図 p.6
第3項 サイアロンの既往の研究 p.8
第4節 HIP技術 p.8
第5節 本論文の目的と構成
第1項 本論文の目的 p.9
第2項 本論文の構成 p.10
第2章 β'-ο'複合サイアロン中のο'相の定量
第1節 実験方法 p.27
第2節 結果 p.28
第3節 考察 p.30
第4節 まとめ p.33
第3章 プロセス中に生じる窒化珪素粉の酸化が組織、緻密化挙動、強度に及ぼす影響
第1節 実験方法 p.41
第2節 結果 p.43
第3節 考察
第1項 プロセスによる酸化含有量の違い p.45
第2項 プロセスによる酸化とβ'相の格子定数の増加 p.46
第3項 液相の寿命と生成量 p.47
第4項 プロセスによる焼結時の緻密化挙動の違い p.48
第5項 熱酸化試料の焼結挙動 p.49
第6項 酸素含有量と液相組織の変化 p.50
第7項 液相組成の変化と生成相 p.52
第8項 相比と機械的性質 p.53
第4節 まとめ
第4章 HIP処理によるο'相体積分率の変化
第1節 実験方法 p.65
第2節 結果 p.66
第3節 考察
第1項 HIP時のο'相体積分率の変化 p.67
第2項 HIP中のβ'相の格子収縮 p.68
第3項 高圧状態の状態図 p.69
第4節 まとめ p.70
第5章 ガラスカプセルHIP焼結法によるサイアロンの特性
第1節 実験方法 p.77
第2節 結果 p.78
第3節 考察 p.79
第4節 まとめ p.80
第6章 製品への応用
第1節 β'-ο'複合サイアロンの強度 p.86
第2節 酸化特性 p.87
第3節 応用例
第1項 セラミックガスタービンの静翼 p.88
第2項 サイアロンダイス p.88
第3項 高炉用熱風制御弁 p.89
第7章 総括 p.94
謝辞 p.91

 近年、省エネルギー、省資源あるいは環境問題を背景に高温構造材料が注目を浴びており、窒化珪素、サイアロンや炭化珪素セラミックスが研究されている。なかでも、サイアロンセラミックスは、高い高温強度、低熱膨張率に起因する耐熱衝撃性、高い耐酸化性などに優れた特性を有する。特に、β'-ο'複合サイアロンは、焼結初期に形成される液相を窒化珪素と反応させ、粒界相の非常に少ない組織を形成させることにより作られる材料で、特に高い温度強度をもつ材料となることが期待されることから、その実用化が強く望まれている。しかしながら、従来の研究では、サイアロンの難焼結性を克服するために、焼結助剤を用いて解決する方法や焼結法にホットプレス法を用いて焼結性を向上させる方法が取られていた。前者では、焼結後に粒界に残された焼結助剤が、高温で軟化し、粒界すべりを起こすことにより本来サイアロンの有する高温高強度の特性を劣化させる原因となっていた。また、後者の方法では、実験室規模の小さな焼結体しか得られていなかった。そこで、この高温高強度、β'-ο'複合サイアロンの工業的な製造法を確立し、その実用化をはかることを目的に、一連の研究を実施した。
 本研究では、実用化の障害になっていた難焼結性の解決法として圧焼結とHIPを組み合わせる方法について検討した。また従来、定量的な検討が困難であった酸素含有量に焦点を当て、本研究で確立した酸素含有量定量法を有力な評価手法として研究を行った。この結果、サイアロンの非平衡液相焼結機構を介して進行する複雑な焼結挙動が、ほぼ酸素含有量の観点で説明されることがわかった。以下に各章で論じた内容の概略を述べる。
 "第1章 緒言"では、窒化珪素とサイアロンの既往の研究をまとめ、本研究の目標とする焼結体の組織について記述した。さらに、各章における目的とその達成のための手段について述べた。
 "第2章 β'-ο'複合サイアロン中のο'相の定量"では研究遂行上の重要な基礎となるο'相の定量法について検討した。試料には、成形体を熱酸化しSi/Alの比を一定に保ち、O/N比だけを変化させた緻密質サイアロンを使用した。試料研磨面について画像解析法を用いて各相の存在割合を調べ、X線解析法を用いた定量値を比較検討した結果、X線回折法による簡便なο'相定量法が確立でき、試料の酸素含有量を推定することが可能となった。
 "第3章 プロセス中に生じる窒化珪素粉の酸化及びその組織、緻密化挙動、強度に及ぼす影響"では、セラミックス製造に不可欠なプロセスである混合及び脱脂におけるプロセス条件が、窒化物系セラミックスの存在相の割合とその組織、緻密化挙動、機械的性質に及ぼす影響を調べた。プロセス中の酸化が激しいほど焼結体中のο'相の量は増加すること、またο'相の量が増加するに従いβ'の格子が広がることを状態図上で論じた。一方、機械的性質における硬度は、焼結体中のο'相の存在割合により支配されるが、高温強度は、それ以外に混合条件によっても強く影響を受けることを示した。
 "第4章 HIP中でο'相体積分率の変化"では、HIP前後のο'相量の変化に着目し、HIPがο'相の構造にどのような変化をもたらすかを調べた。この結果、HIP時の圧力により、ο'相の減少する反応が生じ、ガスが液相に溶け込むことがわかった。また、この反応により、β'相の格子定数が若干収縮することを論じた。
 "第5章 ガラスボトルHIP法によるサイアロンの特性"では、ガラスカプセルHIP法を用いてサイアロン焼結体を作製し、1600℃の温度で十分に緻密化することを示した。また、HIP温度を1600℃と1700℃の結果を比較し、密度、硬度は、1600℃で高く、強度は1700℃で高いことを、その構成相と組織から論じた。
 "第6章 特性と応用"では、本論文で作製した、β'-ο'複合サイアロンの強度と酸化特性について論じ、実用応用例(セラミックスガスタービンのノズル、ダイス、熱風制御弁)について述べた。
 "第7章 総括"では、本論文を総括した。
 以上の研究成果を基にして得られるサイアロンは高い高温強度と、優れた耐酸化性を有する。今後、この特性を十分に活かす用途開発に研究が移り、一層の用途開拓が進ものと考えられる。

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