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波動場における砂漣上の浮遊砂流と漂砂現象に関する研究

氏名 辻本 剛三
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第12号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 波動場における砂漣上の浮遊砂硫と漂砂現象に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 早川 典生
 副査 教授 服部 賢
 副査 教授 小川 正二
 副査 助教授 小池 俊雄
 副査 東北大学 教授 沢本 正樹

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目次
第1章 序論 p.1
第2章 砂漣上の浮遊砂硫の乱流構造 p.6
2.1 緒言 p.6
2.2 L.D.A.による流速測定 p.9
2.2.1 実験方法、装置 p.9
2.2.2 実験条件 p.12
2.3 清水流中の流れ p.12
2.3.1 位相変化 p.12
2.3.2 流速成分 p.12
2.3.3 加速効果 p.24
2.3.4 定常流成分 p.24
2.3.5 乱れエネルギー p.30
2.4 浮遊砂を含む流れ p.39
2.4.1 位相変化 p.39
2.4.2 鉛直分布 p.45
2.4.3 加速効果 p.45
2.5 結論 p.53
第3章 砂漣上の砂粒子の輸送機構 p.54
3.1 緒言 p.54
3.2 可視化実験 p.55
3.2.1 実験方法、装置 p.55
3.2.2 渦の観察 p.57
3.2.3 渦の循環値 p.61
3.3 シャープクレスト砂漣上における渦の発生・発達 p.61
3.3.1 実験方法、装置 p.63
3.3.2 渦度分布 p.63
3.3.3 循環値と剥離領域 p.68
3.3.4 vorticity fraction係数 p.68
3.3.5 渦の形成位相・寿命期間 p.71
3.4 ポテンシャル理論による流れの解析 p.74
3.4.1 循環値の定量化 p.74
3.4.2 流速分布 p.80
3.5 底面近傍および浮遊中の砂粒子の移動機構 p.83
3.5.1 実験方法、装置 p.83
3.5.2 実験結果 p.87
3.5.3 運動方程式 p.95
3.5.4 砂粒子に働く揚力 p.95
3.5.5 計算結果 p.98
3.6 浮遊砂濃度の測定 p.98
3.7 結論 p.103
第4章 砂漣上の岸沖漂砂量 p.104
4.1 緒言 p.104
4.2 実験方法、装置 p.106
4.3 砂漣上の岸沖漂砂に関連するパラメーター p.106
4.4 移動方向 p.108
4.5 正味の漂砂量算定式 p.111
4.6 粒子レイノルズ数と限界シールズ数の関係 p.114
4.7 振動流場の岸沖漂砂の扱い p.114
4.8 波動場と振動流場の岸沖漂砂の相違 p.118
4.9 結論 p.121
第5章 乱流モデルによる砂漣上の浮遊砂流の解析 p.122
5.1 緒言 p.122
5.2 基礎方程式の誘導 p.124
5.2.1 基礎式 p.125
5.2.2 乱流モデルの概念 p.126
5.2.3 デカルト座標系での統一的表示 p.129
5.2.4 直交曲線座標系での表示 p.130
5.3 k-εモデルのタイプ p.131
5.4 境界条件の与え方 p.133
5.4.1 流速成分 p.133
5.4.2 浮遊砂濃度 p.135
5.4.3 乱れエネルギーk p.135
5.4.4 乱れエネルギーε p.136
5.5 基礎方程式の離散化と計算方法 p.136
5.5.1 差分方程式の導出 p.136
5.5.2 速度補正と圧力補正 p.141
5.5.3 数値計算手順 p.142
5.5.4 具体的な計算条件 p.142
5.6 計算結果と実験結果の比較 p.145
5.6.1 流速成分 p.145
5.6.2 循環流 p.145
5.6.3 循環値 p.153
5.6.4 乱れエネルギー p.153
5.6.5 乱れエネルギーの収支 p.157
5.6.6 圧力分布 p.157
5.6.7 渦動粘性係数 p.157
5.7 浮動砂濃度の計算結果と実験結果の比較 p.161
5.7.1 浮遊砂輸送機構 p.161
5.7.2 浮遊砂濃度の鉛直分布 p.163
5.8 浮遊砂の混入による乱流構造の変化 p.163
5.9 結論 p.168
第6章 結論 p.170
6.1 結論 p.170
6.2 今後の検討課題 p.172
謝辞 p.173
参考文献 p.174
付録A 剥離や逆圧力勾配の存在する流れ場への乱流モデルの適用について p.181

 波動場の海底には一般に砂漣と呼ばれる波状底面の地形が形成されている。この様な地形上の流れはきわめて複雑であり、また砂粒子の移動が著しいために、その現象を理解することは海岸侵食や海浜過程を考える上できわめて重要である。本論文ではこのような波動場における砂漣上の流れと砂移動について実験的、理論的に検討した。
 第1章では、本研究の位置付けとその目的について述べる。第2章では、砂漣上の流れ場をレーザードップラー流速計を用いて詳細に測定し、その結果について述べる。第3章では、砂漣上における砂粒子の輸送機構を検討するために、可視化実験により渦の挙動を調べ、またより明確な渦を形成させるために、砂漣クレストが尖ったシャープクレスト砂漣上で流速測定を行い、さらに個々の砂粒子の挙動や浮遊砂濃度分布の測定をした。ポテンシャル理論を用いて流速分布や砂粒子の移動軌跡の再現を試みた。第4章では、前章の結果に基づいて、砂漣上の砂粒子の移動量と移動方向について新しい算出法を提案し、実験値との比較を行い本研究の算定法の妥当性を検討した。第5章では、砂漣上の浮遊砂流をk-ε乱流モデルを用いて数値計算で解析し流速分布、浮遊砂濃度、浮遊砂輸送機構について計算結果と実験結果を比較し、乱流モデルの適用性について検討した。第6章では、各章の結果をまとめて本論文の結論とした。各章で得られた成果を以下に要約する。第2章では、波動場の砂漣上の流速分布には場所的な位相差が存在することが実験により示された。流線の剥離は砂漣クレストとトラフの中間で最大流速付近の位相から発生・発達し、最終的には砂漣クレストより剥離する。砂蓮クレストで水平流速が加速される割合は、従来の一定値とする結果とは異なり、各位相においてその変動が著しい。循環流の形状は2重構造とはならず、岸側斜面にのみ1つ形成される。浮遊砂を含んだ流れでは清水流中と比較して、乱れエネルギーが小さくなり、また砂漣頂における水平流速の加速効果が減少することがわかった。
 第3章では、コヒーレントな渦は流線の剥離と共に急激に発達し、シャープクレスト砂漣においては通常砂漣と比較して剥離の発達が早い。渦度の分布から得られる循環値もシャープクレスト砂漣の方がその値が大きい。コヒーレントな渦の形成・寿命期間は砂漣波高を用いたレイノルズ数で評価でき、レイノルズ数の増加に伴い早い位相で渦の形成が始まり、その寿命期間も長くなる。従来よりコヒーレントな渦の循環値を評価する際に用いられたvorticity fraction係数は、一定値とする従来の考え方とは異なり、一周期間における変動が著しい。循環値の位相変化はコヒーレントな渦の発生・寿命期間を考慮した新しい考え方で算定することが可能である。砂漣上の浮遊砂の起源は砂粒子のクレストからの放出と底面からの巻き上げによることが実験により明らかとなった。砂漣上の砂粒子の挙動をシミュレーションすることができ、底面から浮遊する機構については揚力を用いて表現できる。その際の揚力係数はクーリガン・カーペンター数で表現できる。
 第4章では、砂漣上の岸沖漂砂に関与する重要なパラメーターにはシールズ数、アーセル数、粒子レイノルズ数の3つがあることに注目し、砂漣上の砂粒子の移動方向はアーセル数と粒子レイノルズ数で求められることを示した。正味の移動量はシールズ数と粒子レイノルズ数をパラメーターとして従来のパワーモデルで算出され、粒子レイノルズ数の増加に伴い限界シールズ数が増加し、その限界シールズ数の値はManoharの実験結果にきわめて近い値をとる。波動場だけでなく振動流における砂粒子の移動量についても、粒子レイノルズ数、シールズ数てで求められる。振動流場は波動場の波長がきわめて長い時に相当し、そのことを考慮することにより振動流場における砂粒子の移動方向の説明が可能になる。
 第5章では、乱流モデルによる計算により流速分布の場所的な位相差、砂漣頂における加速効果渦の形成などが再現された。剥離域が砂漣の斜面上で発生し、発達していく過程が計算で再現された。しかし反転後は剥離域が残っており実験結果とは異なる。砂漣上の循環流の形状はアーセル数に依存しており、流速波形が対称形に近い場合で1対の循環流が形成され、非対称度が増すにつれて岸側斜面にのみ循環流が見られる。乱れエネルギーの時間空間分布に関しては、ピーク値が反転後に増大する特徴を再現し、ピークにおける乱れエネルギー値の一致もよい。乱流モデルによる計算では常に乱れエネルギーが生じ、発生の様子が爆発的でない。
 砂漣上における浮遊砂の移動機構を数値計算で再現でき、一周期平均された浮遊砂濃度の鉛直分布を実験値と比較すると両者の一致はきわめてよい。また底面より砂漣波高と同程度の高さを境として濃度分布形が異なることが計算により示された。
 浮遊砂を含む流れでは、乱れエネルギーが清水流の場合と比べて小さくなることが数値計算においても示された。k-ε乱流モデルを用いることにより波動場における砂漣上の乱流構造や浮遊砂の移動機構をある程度定量的に算定することが可能となった。
 以上、本論文では砂漣上の漂砂現象について、実験及び乱流モデルを用いた数値解析を行うことにより、砂漣上の流動機構と浮遊砂の濃度分布特性の解明を試みた。その結果、波動場における漂砂の移動方向及び移動量、浮遊砂の輸送機構を実験的、理論的に明らかにした。

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