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鋼およびタングステン合金の衝撃荷重下における変形と破壊に関する研究

氏名 小林 訓
学位の種類 工学博士
学位記番号 博乙第17号
学位授与の日付 平成3年3月25日
学位論文の題目 鋼およびタングステン合金の衝撃荷重下における変形と破壊に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 田中 紘一
 副査 教授 矢田 敏夫
 副査 助教授 武藤 睦治
 副査 助教授 岡崎 正和
 副査 東北大学 教授 前川 一郎

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目次

第1章 緒論

1.1 はじめに p.1
1.2 衝撃力下の鋼材の塑性変形に関する従来の研究 p.1
1.3 本研究の目的 p.5
1.4 本論文の構成 p.6
文献 p.8

第2章 衝撃荷重による軟鋼の塑性変形

2.1 緒言 p.11
2.2 実験方法 p.12
2.3 衝撃力により生じる弾性応力 p.15
2.4 応力波の重畳による塑性波の発生 p.18
2.5 塑性域発生に対する静荷重と衝撃荷重の等価性 p.22
2.6 塑性域の表面状態 p.28
2.7 結言 p.36
文献 p.37

第3章 衝撃荷重による塑性域発生に及ぼす2個の試験片の接触状態の影響
3.1 緒言 p.38
3.2 実験方法 p.39
3.3 衝撃力による弾塑性波発生伝播に及ぼす複数個の試験片の接触状態の影響 p.41
3.4 静荷重作用下の衝撃力による塑性域発生 p.46
3.5 塑性域発生に対する試験温度の効果 p.51
3.6 塑性域の表面状態 p.56
3.7 結言 p.61
文献 p.62

第4章 衝撃荷重による切欠き材の塑性変形
4.1 緒言 p.63
4.2 試験片準備と実験方法 p.64
4.3 切欠き材の弾性波重畳による応力上昇 p.66
4.4 試験片のひずみと切欠き部周辺のひずみ分布 p.71
4.5 ひずみ分布に及ぼす切欠きと試験片端面の干渉 p.83
4.6 結言 p.86
文献 p.86

第5章 焼入れ焼戻し鋼の衝撃荷重による塑性発生
5.1 緒言 p.88
5.2 供試材料 p.89
5.3 有限長試験片の塑性波 p.91
5.4 塑性域長さとひずみの理論的関係 p.94
5.5 塑性域長さとひずみの実測値 p.97
5.6 塑性域のはりだし量と硬度分布 p.101
5.7 結言 p.107
文献 p.108

第6章 タングステン合金の衝撃荷重による変形と破壊
6.1 緒言 p.109
6.2 試験片準備と実験方法 p.110
6.3 衝撃圧縮による試験片内の応力上昇と試験片表面のひずみ分布 p.116
6.4 衝撃強度に及ぼす切欠き半径の影響 p.122
6.5 破面観察 p.124
6.6 破断面近傍の塑性ひずみ分布 p.127
6.7 破断に要する仕事の推定 p.131
6.8 結言 p.142
文献 p.142

第7章 結論 p.143

謝辞 p.148

 工業材料の衝撃荷重下における変形及び破壊特性の解明は、高速度塑性加工や機械・構造物の強度安全性の観点から重要である。そのため、従来より、衝撃負荷を受けた無限長棒或は半無限長棒内を伝播する塑性波の解析が行われ、応力・ひずみに及ぼす材料の機械的性質或は境界条件の影響などが検討されているが、実用上有用な有限体に対する研究は少なく不明な点が多い。
 一般に、塑性加工部材や機械構造部材には種々の形状寸法・材質及び接触状態のものが存在し、それらが応力波の反射・透過並びに波の重畳に影響を及ぼす。従って、有限長部材においては、高応力・高ひずみ状態を生じることが予想される。そこで、本論文では弾性波・塑性波の不連続面での反射・透過及び重畳などの応力伝播特性に着目し、有限長試験片の衝撃荷重下における変形及び破壊特性を力学的並びに材料組織学的観点の両面から明らかにすることを目指した。まず、鋼材の衝撃圧縮による塑性変形に及ぼす試験片形状・寸法、接触条件、切欠きの影響について検討した。次に調質鋼及び複合組織を有するタングステン合金を用い、衝撃荷重下の変形挙動に及ぼす材質並びに材料組織の影響を明らかにした。さらに、タングステン合金については衝撃強度についても検討した。
 第1章は緒論であり、従来の研究を総括するとともに本論文の目的を述べた。
 第2章では、衝撃荷重下の鋼の塑性域発生に及ぼす試験片寸法の効果を明らかにするため、角柱試験片の衝撃圧縮試験を行った結果について述べた。試験片に生じた塑性域発生範囲及び試験片の全ひずみには試験片長さの効果が顕著に認められ、いずれも短い試験片ほど大きかった。応力波伝播モデルはこれらの実験結果を良く説明した。静荷重を負荷した状態で衝撃荷重を作用させると、塑性変形のために必要な衝撃荷重は静荷重の増加により減少し、試験片長さの短い方がこの傾向は顕著であった。塑性変形域表面は静的圧縮の場合、リューダース帯の発生伝播により凹凸があるが、衝撃圧縮の場合すべり帯は微細化しており、比較的滑らかであった。
 第3章では衝撃荷重下の変形挙動に及ぼす試験片の接触状態の影響を明らかにするため、縦並びに重ねた2個の試験片を静圧縮を負荷した状態で衝撃圧縮試験を行った結果について述べた。塑性域は上・下端面と中間接触面から発生し、それらの塑性域長さは静荷重が増えると大きくなり、単一の試験片より塑性域長さが大きくなった。これは静荷重によって接触状態が良好になって試験片内の反射波が増大し、それらが重畳したためである。
 第4章では衝撃荷重下の切欠き材の変形挙動を明らかにするために半円孔型切欠きを有する鋼角柱試験片の衝撃圧縮試験を行った結果について述べた。切欠き試験片の全ひずみは試験片長さの短い方が大きくなった。これらの結果は、応力波伝播モデルに基づく応力解析結果と対応していた。格子法による切欠き近傍のひずみ分布の測定結果によれば、短い試験片の方が大きなひずみを示した。また、ひずみの大きな領域は切欠き底から約45°方向に生じていた。切欠き部と試験片端面からの反射波の干渉効果のために、試験片の全ひずみは切欠き位置が片端面に近くなると上昇し、切欠き近傍の局所ひずみも高くなった。
 第5章では、衝撃荷重下の塑性変形挙動に及ぼす材料の機械的性質及び結晶組織の影響を調べた。まず、弾直線硬化型の構成式を仮定し、塑性波伝播を考慮した有限長試験片に生ずる応力状態の解析結果から塑性域長さと全ひずみの関係を導いた。その関係式によればひずみ硬化係数と試験片長さが全ひずみに与える影響が大きく、ひずみ硬化係数が小さいほど、また試験片長さが短いほど全ひずみは増大した。調質処理を行った鋼の衝撃圧縮試験結果によると、実測値と理論値はひずみ硬化係数が大きくなるほど良く一致した。衝撃荷重下の塑性変形の微視的様相の観察結果によれば静荷重下の場合と異なり、フェライト相中のすべりのみならず、フェライト-パーライトの粒界段差や焼き戻しマルテンサイト中の溝状のすべりが認められた。
 第6章では、衝撃荷重下の変形と破壊挙動に及ぼす材料組織の影響をさらに検討するために、硬質のW粒子が軟質のNi-Fe母相中に存在する複合組織を有するタングステン合金を衝撃試験した結果について述べた。微視的変形の様相は鋼材のような均質材と異なり、主として変形がNi-Fe母相で起こり不連続・不均一であったが、巨視的全ひずみ及び組成変形域長さは、巨視的降伏応力及びひずみ硬化係数と相関があり、前章の機械的性質を変化させた調質鋼の場合と同傾向を示した。また、衝撃破壊形態にはW含有量の影響が顕著であり、W含有量が少ない材料ほど破壊までの吸収エネルギーが大きかった。
 第7章は結論であり、以上の結果を総括した。

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