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DNAを固定化した水晶振動子によるバイオセンシング

氏名 昆 喜知郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第604号
学位授与の日付 平成23年8月31日
学位論文題目 DNAを固定化した水晶振動子によるバイオセンシング
論文審査委員
 主査 教授 下村 雅人
 副査 教授 解良 芳夫
 副査 教授 政井 英司
 副査 教授 本多 元
 副査 准教授 城所 俊一

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目次
第1章 緒言
 1.1 背景 p.1
 1.1.1 バイオセンサー p.1
 1.1.3 水晶振動子ミクロ秤量法 p.2
 1.1.2 DNAプローブ法 p.4
 1.2 本研究の目的 p.7
 1.3 本論文の概要 p.12
 参考文献 p.15
第2章 DNA検出のための水晶振動子センサーの作製および測定条件の検討
 2.1 まえがき p.19
 2.2 実験 p.22
 2.2.1 試薬およびDNA試料 p.22
 2.2.2 基本発振周波数6MHzの水晶振動子ミクロ秤量(QCM)装置 p.23
 2.2.3 基本発振周波数21MHzの水晶振動子ミクロ秤量(QCM)装置 p.25
 2.2.4 プローブDNAの固定化および周波数測定 p.27
 2.2.5 ターゲットDNAの結合および周波数測定 p.28
 2.2.6 DNAプローブの固定化量を制御したDNAセンサーの作製およびターゲットDNAの検出 p.29
 2.2.7 発色反応を利用したプローブDNAの固定化およびターゲットDNAの結合の観察 p.30
 2.3 結果および考察 p.32
 2.3.1 測定条件の選定 p.32
 2.3.2 DNAプローブの固定化および測定温度の影響 p.36
 2.3.3 ターゲットDNAの結合および測定温度の影響 p.39
 2.3.4 DNA検出の選択性の評価 p.42
 2.3.5 基本発振周波数21MHzの水晶振動子を用いたDNAセンサーの特性 p.43
 2.3.6 DNAプローブの固定化量を制御したDNAセンサーの特性 p.45
 2.3.7 DNAプローブの固定化量を制御したDNAセンサーの定量性の評価 p.49
 2.3.8 発色反応を利用したDNAハイブリダイゼーションの確認 p.51
 2.4 まとめ p.54
 参考文献 p.56
第3章 環境水に含まれる汚染指標細菌の検出
 3.1 まえがき p.57
 3.2 実験 p.60
 3.2.1 試薬およびDNA試料 p.60
 3.2.2 装置 p.60
 3.2.3 p.60
 3.2.4 供試菌体 p.61
 3.2.5 環境水からの複合微生物群の分離 p.61
 3.2.6 16S rDNA部分塩基配列(527塩基対)のPCR増幅合成 p.62
 3.2.7 p.62
 3.3 結果および考察 p.63
 3.3.1 混在試料からのDNA検出 p.63
 3.3.2 精製試料からのDNA検出 p.65
 3.3.3 DNAプローブの固定化量を制御したDNAセンサーによる純粋培養菌DNAの検出 p.66
 3.3.4 DNAプローブの固定化量を制御したDNAセンサーによる河川水分離菌DNAの検出 p.69
 3.4 まとめ p.72
 参考文献 p.73
第4章 天然キノコにおける食中毒原因菌の識別
 4.1 まえがき p.74
 4.2 実験 p.76
 4.2.1 試薬 p.76
 4.2.2 供試菌体 p.76
 4.2.3 28S rDNA D2領域の増幅合成 p.77
 4.2.4 シーケンス分析 p.77
 4.2.5 DNAの合成 p.78
 4.2.6 水晶振動子ミクロ秤量(QCM)装置 p.78
 4.2.7 水晶振動子表面へのプローブDNAの固定化とターゲットDNAの検出 p.78
 4.2.8 28S rDNA D2遺伝子に含まれるツキヨタケの識別領域の検出 p.80
 4.2.9 キノコ子実体子混合物からのツキヨタケの検出 p.80
 4.3 結果および考察 p.81
 4.3.1 プローブDNAおよびターゲットDNA(ツキヨタケの識別領域)の塩基配列の選定 p.81
 4.3.2 プローブDNAの固定化およびターゲットDNAの結合による発振周波数の変化 p.83
 4.3.3 QCM法によるDNA検出の選択性 p.85
 4.3.4 ツキヨタケから抽出したDNA(28S rDNA D2領域)の検出 p.86
 4.3.5 異種キノコのDNAを含む混合物からのツキヨタケの検出 p.88
 4.4 まとめ p.90
 参考文献 p.92
第5章 DNA相補鎖体をターゲットとする細菌の識別
 5.1 まえがき p.93
 5.2 実験 p.96
 5.2.1 試薬 p.96
 5.2.2 p.96
 5.2.3 DNAの合成 p.96
 5.2.4 16S rDNAの増幅合成 p.98
 5.2.5 p.99
 5.2.6 水晶振動子ミクロ秤量(QCM)装置 p.99
 5.2.7 水晶振動子表面へのプローブDNAの固定化とターゲットDNAの検出 p.99
 5.2.8 N. winogradskyi から抽出したDNA相補鎖対の検出 p.101
 5.3 結果および考察 p.102
 5.3.1 プローブDNAの固定化およびターゲットDNAの結合による発振周波数の変化 p.102
 5.3.2 非ターゲットDNA混合物のDNA検出による選択性の評価 p.104
 5.3.3 p.105
 5.4 まとめ p.106
 参考文献 p.108
第6章 結言 p.109
付録 p.114
公表論文 p.116
1 学術論文 p.116
 1.1 公表論文 p.116
 1.2 参考論文 p.116
2 国際学会での発表 p.117
謝辞 p.118

 本論文は, DNAの2本鎖形成(ハイブリダイゼーション)を水晶振動子のミクロ秤量機能により検出するDNAセンサーを作製し,特定微生物に由来するDNAの塩基配列を選択的に検出することにより,複合微生物系における特定微生物の評価に適用した研究成果をまとめたものであり,以下の6章から構成されている。
 第1章では,DNAセンシングにおいて重要な役割を担うDNAプローブ法の特徴および問題点について述べ,この問題点を解決するために水晶振動子ミクロ秤量(QCM)技術を採用した理由について論じた。さらに,QCM法によるDNAセンシングを実現するうえで,DNAプローブ法とQCM法とが効果的に働く条件や環境を検討しなければならないことを説明し,複合微生物系における特定微生物の評価法として,どのような適用を考えているかを提示した。
 第2章では,DNAセンサーの作製において考慮すべきプローブDNAとQCM装置の特性について述べている。まず,これらに関する種々のパラメータを検討し,各々の相互関係を考慮して測定条件を決定することより,DNAハイブリダイゼーション検出のための測定系を提示した。次いで,実際にDNAセンサーの作製を試み,水晶振動子表面へのプローブDNAの固定化に関して,その固定化量が飽和するまで金電極をプローブDNA溶液に浸漬する方法と,QCM法により周波数測定を行いながら固定化量を制御する方法を検討し,異なる特徴を持つ2種類のセンサー,すなわち,前者の周波数変化の大きさを重視したセンサーと後者の定量性を重視したセンサーの作製法を提案した。また,合成したターゲットDNAの結合による両者の性能評価も行った。さらに, DIG標識したターゲットDNAを用いるin situハイブリダイゼーションの発色反応により,水晶振動子表面に結合しているプローブDNAとターゲットDNAの2本鎖形成を視覚的にも確認できることを示した。
 第3章では,第2章で述べた2種類センサーの複合微生物系からの特定微生物検出への適用として,環境水(河川水)中に含まれる汚染指標細菌(大腸菌)の16S rDNAに含まれる25塩基の特定の塩基配列を検出した結果を論じた。まず,実際の菌体から得られたDNA断片を検出対象としたセンシングを行い,各々のセンサーの特性について評価した。周波数変化を重視したセンサーでは,25塩基のプローブDNAと相補的な塩基配列を含む36塩基の1本鎖DNA断片を検出対象としたが,混在する非相補配列の断片によって非特異的な吸着が生ずるため,電気泳動後のアガロースゲルから抽出精製したDNA試料を用いると有効であることを示した。また,プローブDNAの固定化量制御によって定量性を重視したセンサーでは,25塩基のプローブDNAと相補的な塩基配列を含む527塩基の1本鎖DNA断片を検出対象とした。水晶振動子表面での立体障害の影響はあるものの,明瞭なセンシング結果が得られ,当該DNA断片が十分に検出可能であることを示した。さらに,河川水に含まれる複合微生物群からの大腸菌由来のDNA検出を行って527塩基の1本鎖DNAを定量検出し,培養法に依存することなく菌数が算定できることを明らかにした。
 第4章では,複合微生物系からの特定微生物の検出へのもう1つの応用として,天然キノコからの食中毒原因菌の識別について適用した結果について述べた。これまでの形態観察による菌種鑑別により食用キノコ(シイタケおよびヒラタケ)と誤認されることの多い毒キノコ(ツキヨタケ)を検出対象として,これらの28S rDNA D2領域をシーケンス分析することにより,ツキヨタケの識別に利用可能な25塩基の特異的な配列を選定し,これと相補的なプローブDNAの固定化量を制御したDNAセンサーを作製した。各々のキノコ(子実体)のわずか0.1 g程度の切片から調製した28S rDNA D2領域の1本鎖DNA(約300塩基)の検出を試みた結果,立体障害に起因すると考えられるハイブリダイゼーション効率の低下が見られたものの,顕著な発振周波数の変化を観測し,菌種の識別が可能であることを示した。また,3種のキノコDNAの混合試料からのツキヨタケの検出も可能であり,料理残や嘔吐物に含まれる食中毒原因菌の識別も可能であることを示した。
 第5章では,特異的な塩基配列を含むDNA断片(2本鎖)のうち,一方の1本鎖DNAのみを検出対象としてきたセンサーに対して,2種類のプローブDNAを用いることにより他方の1本鎖DNAも同時に検出する,すなわち,DNA相補鎖対を検出するセンサーを作製し,難培養性細菌(硝酸細菌)の検出に適用した結果をまとめた。相補鎖対の検出においては,2種類の1本鎖DNAの塩基配列のうち,プローブDNAとのハイブリダイゼーションに関与させる領域を互いにずらして選択することにより,これまでの1種類の1本鎖DNAの25塩基を対象とするセンシングに対して2倍の遺伝情報を持つ50塩基を検出対象とすることができる。硝酸細菌(Nitrobacterwinogradskyi)については16S rDNAの42塩基対を検出対象として,2種類のプローブDNAが各々の塩基配列に対応したターゲットDNAを検出できることを確認し,さらに,近縁種属の分類にも応用可能であろうとの展望も示した。
 第6章では,本論文にまとめたQCM法によるDNAセンシングとその応用についての研究成果を総括し,今後の展望と課題について述べた。

 本論文は,「DNAを固定化した水晶振動子によるバイオセンシング」と題し,6章から構成されている。
 第1章では,DNAセンサーの重要な構成要素となるDNAプローブ法の特徴および問題点について述べ,この問題点を解決すべく水晶振動子ミクロ秤量(QCM)技術を採用した理由について論じている。さらに,QCM法によるDNAセンシングを,複合微生物系における特定微生物の評価法として,どのように適用しうるかについて説明している。
 第2章では,まず,水晶振動子表面上でのプローブDNAとターゲットDNAの2本鎖形成(ハイブリダイゼーション)を水晶振動子の発振周波数変化として検出するための測定系を提案している。次いで,合成DNAを用いて実際にハイブリダイゼーションを観測した結果について述べ,さらに,発色反応を利用することにより水晶振動子表面でのハイブリダイゼーションを視覚的にも確認できることを示している。
 第3章では,QCM法によるDNAセンシングを環境水(河川水)中に含まれる汚染指標細菌(大腸菌)の16S rDNAに含まれる特定の塩基配列の検出に適用した結果を論じている。まず,水晶振動子表面に固定化したプローブDNAと相補的な塩基配列を含む大腸菌由来の527塩基の1本鎖DNA断片が検出可能であることを確認した。次いで,河川水に含まれる複合微生物群中の大腸菌についてDNAセンシングを行い,培養法に依存することなく菌数を算定できることを明らかにした。
 第4章では,食用キノコ(シイタケあるいはヒラタケ)と誤認されることの多い毒キノコ(ツキヨタケ)の28S rDNA D2領域の特定の塩基配列の検出にQCM法によるDNAセンシングを適用した結果をまとめ,キノコの子実体切片0.1 g程度を試料として菌種を識別しうると述べている。また,3種のキノコの混合DNAからツキヨタケを識別することも可能であり,料理残や嘔吐物中の食中毒原因菌を検出できることが示唆された。
 第5章では,2種類のプローブDNAを用いて,相補的な2種類の1本鎖DNAの同時検出を試みた結果をまとめている。この方法により硝酸細菌の16S rDNA断片(42塩基対)を構成する2種類の1本鎖DNAを検出できることを確認し,さらに,近縁種属分類への応用の可能性も示した。
 第6章では,本論文にまとめたQCM法によるDNAセンシングとその応用についての研究成果を総括し,今後の展望と課題について述べている。
 以上のとおり,本研究ではQCM法によるDNAセンシングを微生物の検出・評価に適用することに成功している。よって,本論文は工学上および工業上貢献するところが大きく,博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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