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微量添加元素による銅配線材料の界面反応と機械的特性に関する研究

氏名 森 曉
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第614号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 微量添加元素による銅配線材料の界面反応と機械的特性に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 河合 晃
 副査 教授 高田 雅介
 副査 教授 佐藤 一則
 副査 准教授 岡元 智一郎
 副査 准教授 中山 忠親

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目次
第1章 序論 p.5
 1.1 概要 p.5
 1.2 背景 p.10
 1.2.1 資源を取り巻く環境の変化 p.10
 1.2.2 電子工業会における銅の役割 p.12
 1.2.3 フラット・パネル・ディスプレイ用銅薄膜配線 p.13
 1.2.4 半導体用ボンディング・ワイヤ p.19
 1.2.5 銅に与える微量添加元素の影響 p.24
 1.3 目的 p.26
 1.4 本論文の構成 p.27
 参考文献 p.29
第2章 窒素雰囲気中で加熱したC,Cu-Ca合金膜とSiO2界面の微細構造 p.30
 2.1 緒言 p.30
 2.2 実験方法 p.30
 2.3 実験結果 p.32
 2.3.1 密着性 p.32
 2.3.2 膜の結晶性及び断面観察 p.32
 2.3.3 比抵抗 p.43
 2.3.4 耐水素性 p.44
 2.4 考察 p.44
 2.4.1 窒素熱処理による純Cu膜の界面構造 p.44
 2.4.2 Ca添加の影響 p.46
 2.4.3 耐水素性 p.47
 2.5 結言 p.47
 参考文献 p.48
第3章 スパッタガスおよびターゲット中の酸素濃度と同膜の密着性 p.49
 3.1 緒言 p.49
 3.2 成膜条件と膜分析方法 p.49
 3.3 スパッタ膜の評価結果 p.50
 3.4 膜の密着性と酸素濃度 p.51
 3.5 結言 p.52
 参考文献 p.53
第4章 酸素添加したスパッタガスで成膜した銅膜の密着性改善機構の解明 p.54
 4.1 緒言 p.54
 4.2 スパッタ成膜条件と界面解析方法 p.54
 4.3 膜断面解析結果 p.55
 4.3.1 SEMおよびTEM観察結果 p.55
 4.3.2 AESによる深さ方向分析結果 p.57
 4.3.3 XPSによる界面近傍の分析結果 p.58
 4.4 密着性改善機構の検討 p.60
 4.5 結言 p.61
 参考文献 p.62
第5章 酸素添加したスパッタガスで成膜したCu-Ca合金膜の耐水素性 p.63
 5.1 緒言 p.63
 5.2 成膜方法と界面解析方法 p.63
 5.3 スパッタ膜評価及び界面解析結果 p.64
 5.3.1 比抵抗 p.64
 5.3.2 密着性 p.64
 5.3.3 TEMによる断面観察結果 p.65
 5.3.4 膜中のCaおよび酸素濃度 p.66
 5.3.5 XRDによる膜分析結果 p.68
 5.3.6 AESによる深さ方向分析結果による膜の深さ方向分析結果 p.68
 5.3.7 高分解能TEMによる膜界面分析結果 p.70
 5.3.8 XPSによる界面分析結果 p.72
 5.4 膜特性と耐水素性改善機構の検討 p.73
 5.4.1 比抵抗 p.73
 5.4.2 密着性 p.74
 5.5 結言 p.77
 参考文献 p.77
第6章 Cu-Ca合金膜中のCa濃度 p.78
 6.1 緒言 p.78
 6.2 スパッタガスの影響 p.78
 6.2.1 純Arスパッタガスによる成膜 p.78
 6.2.2 Ar-O2スパッタガスによる成膜 p.79
 6.2.3 吸着時間 p.80
 6.3 実験方法 p.80
 6.4 実験結果 p.81
 6.4.1 添加元素の膜とターゲットの濃度比 p.81
 6.4.2 スパッタガス中の酸素濃度と膜中のCa濃度 p.82
 6.4.3 比抵抗 p.84
 6.5 考察 p.85
 6.5.1 純Arスパッタガスによる成膜 p.85
 6.5.2 Ar-O2スパッタガスによる成膜 p.85
 6.6 結言 p.86
 参考文献 p.86
第7章 Cu膜の内部応力測定 p.87
 7.1 緒言 p.87
 7.2 実験方法 p.87
 7.3 実験結果 p.88
 7.4 考察 p.90
 7.4.1 二層構造膜の全応力 p.90
 7.4.2 温度と膜の内部応力 p.90
 7.5 結言 p.91
 参考文献 p.92
第8章 Cu薄膜の硬さ p.93
 8.1 緒言 p.93
 8.2 成膜及び膜評価 p.93
 8.3 結果 p.93
 8.4 考察 p.97
 8.5 結言 p.98
 参考文献 p.98
第9章 半導体用高純度銅の微量元素添加による特性改善 p.99
 9.1 緒言 p.99
 9.2 実験方法 p.99
 9.2.1 ボンディング・ワイヤ p.99
 9.2.2 引張試験 p.100
 9.2.3 ボール硬さ p.100
 9.2.4 ボール接合性 p.101
 9.2.5 ループ特性 p.102
 9.2.6 2nd部接合強度 p.102
 9.3 実験結果と考察 p.102
 9.3.1 ボンディング・ワイヤの引張試験結果 p.102
 9.3.2 ボール硬さ p.104
 9.3.3 ボール接合性 p.105
 9.3.4 ループ特性 p.106
 9.3.5 2nd部接合強度 p.107
 9.4 結言 p.109
 参考文献 p.109
第10章 結論 p.110
研究業績 p.113
 本論文に関する公表 p.113
 他の研究に関する公表 p.116
 図や式で使用した記号,用語一覧 p.120
 使用した主な分析,測定法とその使用条件等 p.121
謝辞 p.123

液晶ディスプレイ用薄膜配線に銅が使用されているが,その密着性や他の特性の改善のため,微量添加元素が検討されている。微量添加元素は,成膜や熱処理によって界面や表面に偏析し,膜内に拡散した雰囲気中のガス種と反応し銅配線膜と基板界面の反応に大きな役割を演じているが,特に雰囲気中の微量ガス成分の影響を含めた界面現象の解析は十分に行われていない。一方,半導体用ボンディング・ワイヤに,金が用いられているが,最近経済的な理由から,硬さや変形抵抗が金に近い特性を有する高純度銅の使用が広まっている。しかし,高純度銅の直進性は,金線より劣るため,微量添加元素による改善が検討されている。このように銅配線材のいろいろな性質の改善のため,微量添加元素の検討は重要である。
本研究では,微量添加元素の界面反応や固溶析出によって,銅薄膜配線や銅極細線が受ける影響を明らかにし,その機構を検討することを目的とする。
 本論文は全10章より構成される。第1章は序章である。銅配線材料における微量添加元素のはたらきについて論じる。窒素熱処理で界面に生成した酸化銅によって密着性を得た銅薄膜配線は,水素を含んだ雰囲気で加熱すると,界面にボイドが発生し,密着性が低下する。耐水素性改善が重要な課題であることを明らかにする。また,数十μm径の微細な半導体用銅ボンディング・ワイヤの直進性の問題は,高純度銅の再結晶温度を高めることで改善できることを述べる。
 第2章では,窒素熱処理した純CuおよびCu-Ca合金膜の密着性発現機構について論じる。純Cu膜は真空中では高温(800℃)に加熱してもSiO2と反応しないが,窒素雰囲気中では300℃で界面に酸化銅層が生じ,密着性が改善される。さらに,Cu-Ca合金膜では,純銅より低温(200℃)で密着性が得られ,400℃で窒素熱処理すると耐水素性も改善されることを明らかにする。界面分析結果よりこれらのメカニズムを示す。純銅およびCu-Ca合金膜の試験結果より,微量添加元素であるCaと窒素雰囲気中の酸素が界面反応に重要な役割を果たしていることを示す。
 第3章では,スパッタガス中の酸素が,Cu膜中の酸素や密着性,および比抵抗に与える影響について明らかにする。また,酸化銅を添加したターゲットでスパッタ成膜し,その結果を明らかにする。
 第4章では,スパッタガスに酸素を添加すると密着性が改善される機構について論じる。スパッタガスに酸素を添加すると,Cu2Oの分散した微細な組織を有するCu膜が形成され,このCu2OがSiO2へ拡散し,界面に微細な凹凸が生じ,アンカー効果が得られることを明らかにする。
 第5章では,Cu-Ca合金膜中のCaが,Cu2Oを含んだCu膜の耐水素性改善に有効であることを明らかにし,さらにそのメカニズムについて論じる。酸素含有雰囲気で成膜したCu-Ca合金膜を水素含有雰囲気中で加熱すると,銅膜中に発生した水がCaによって界面に安定化され,マイクロボイド発生の防止に有効であることを明らかにする。
 第6章では, Cu-Ca膜中のCaは,純Arスパッタガスによる成膜では膜にほとんど含有されない。しかし,酸素を添加したスパッタガスでは膜のCa濃度はターゲットのCa濃度に近づくことを明らかにし,この機構を解明する。10数種類の二元系銅合金ターゲットの成膜試験結果を基に,気化潜熱の小さい添加元素は物理吸着し難く,さらにCu中への固溶限も膜組成に影響を及ぼすことを示す。
 第7章では,密着性に影響を及ぼす膜の内部応力について論じる。ArスパッタガスではCu膜は引張応力を示すが,スパッタガスに酸素を添加すると圧縮応力に転じることを明らかにする。また,これ等を堆積した二層膜の膜厚を調整することによって,内部応力の低減が可能であることを示す。
第8章では、Ca添加によるCu膜の硬さや組織に与える影響について検討し、配線材料としての機械的特性を評価している。
 第9章では,銅塊の研究で得られた微量添加元素Bの知見を,数十μm径の微細な半導体用高純度銅(99.9999at%Cu)ボンディング・ワイヤに応用した結果について論じる。銅塊ではBは固溶すると再結晶温度は上昇し,高温強度を高める。一方,析出すると軟化することが知られている。ワイヤ部は再結晶温度が上昇し直進性が改善され,ワイヤ先端に放電加熱で形成されるボール部は,高純度銅より柔らかくなり,接合性も改善することを明らかにする。
 第10章では結論を述べた。 本研究であらたに得られた金属薄膜・極細線加工プロセスに関する知見によって,今後の銅配線材料のみならず,新たな異種材料間の接合技術の開発や,その技術を応用した金属とセラミックス等の複合材料開発,およびμmレベルの微細部品開発のブレーク・スルーに資すると結論する。

本論文は、「微量添加元素による銅配線材料の界面反応と機械的特性に関する研究」と題し、10章より構成されている。第1章は序章であり、微量添加元素の界面反応や固溶析出によって,銅薄膜配線や銅極細線が受ける影響を明らかにし,その機構の解明が本論文の目的であると位置づけている。第2章では,窒素熱処理した純CuおよびCu-Ca合金膜の密着性発現機構について論じている。純銅膜は真空中では高温(800℃)に加熱してもSiO2と反応せず,窒素雰囲気中では300℃で界面に酸化銅層が生じ,密着性が改善されることを示している。さらに,Cu-Ca合金膜では,純銅より低温(200℃)で密着性が得られ,400℃で窒素熱処理すると耐水素性も改善されることを示している。これらには、微量添加元素であるCaと窒素雰囲気中の酸素が、界面反応に重要な役割を果たすことを見出している。第3章では,スパッタガス中の酸素が,Cu膜中の酸素や密着性,および比抵抗に与える影響を明らかにしている。第4章では,スパッタガスに酸素を添加すると密着性が改善される機構について論じている。Cu2Oの分散した微細な組織を有するCu膜が形成され,このCu2OがSiO2へ拡散し,界面に微細な凹凸が生じ,アンカー効果が得られることを見出している。 第5章では,Cu-Ca合金膜中のCaが,Cu2Oを含んだCu膜の耐水素性改善に有効であることを明らかにしている。酸素含有雰囲気で成膜したCu-Ca合金膜を水素含有雰囲気中で加熱すると,銅膜中に発生した水がCaによって界面に安定化され,マイクロボイド発生の防止に有効であることを示している。第6章では, Cu-Ca膜中のCaは,純Arスパッタガスによる成膜では膜にほとんど含有されないが,酸素を添加したスパッタガスでは、膜のCa濃度がターゲットのCa濃度に近づくことを明らかにしている。10数種類の二元系銅合金ターゲットの成膜試験結果を基に,気化潜熱の小さい添加元素は物理吸着し難く,さらにCu中への固溶限も膜組成に影響を及ぼすことを示している。第7章では,密着性に影響を及ぼす膜の内部応力について論じており、ArスパッタガスではCu膜は引張応力を示すが,スパッタガスに酸素を添加すると圧縮応力に転じることを示している。第8章では、Ca添加によるCu膜の硬さや組織に与える影響について検討している。第9章では,銅塊の研究で得られた微量添加元素Bの知見を,数十ミクロン径の微細な半導体用高純度銅(99.9999at%Cu)ボンディング・ワイヤに応用した結果について論じている。ワイヤ部は再結晶温度が上昇し直進性が改善され,ワイヤ先端に放電加熱で形成されるボール部は,高純度銅より柔らかくなり,接合性も改善することを明らかにしている。第10章では結論を述べており、本研究で新たに得られた金属薄膜・極細線加工プロセスに関する知見によって,今後の銅配線材料のみならず,新たな異種材料間の接合技術の開発や,その技術を応用した金属とセラミックス等の複合材料開発などに寄与することを述べている。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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