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Rhodococcus jostii RHA1における二成分制御システムの分子機構解明

氏名 下平 潤
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第607号
学位授与の日付 平成23年12月31日
学位論文題目 Rhodococcus jostii RHA1における二成分制御システムの分子機構解明
論文審査委員
 主査 教授 福田 雅夫
 副査 教授 政井 英司
 副査 准教授 岡田 宏文
 副査 准教授 高橋 祥司
 副査 准教授 小笠原 渉

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目次
序章 p.1
 0-1. ポリ塩化ビフェニア (polychlorinated biphenyl; PCB) について p.1
 0-2. 微生物によるPCB分解 p.2
 0-3. Rhodococcus jostii RHA1 株 p.4
 0-4. BPH/PCB 分解 p.6
 0-5. Rhodococcus jostii RHA1 株 p.7
 0-6. bphS1T1とbphS2T2について p.9
 本研究の目的 p.13
1 bphT1およびbphT2の解析とシグナル伝達 p.14
 1-1. 緒言 p.14
 1-2. 材料と方法 p.15
 1-2-1. 使用菌株・培地・培養条件・プラスミド・試薬 p.15
 1-2-2. DNA操作 p.16
 1-2-3. 大腸菌からのプラスミドの抽出 p.16
 1-2-4. Rhodococcus属からのプラスミド抽出 p.17
 1-2-5. エレクトロポレーション p.17
 1-2-6. シークエンス解析 p.19
 1-2-7. Rhodococcus属からのroral DNA抽出 p.19
 1-2-8. 遺伝子破壊プラスミドの構築 p.19
 1-2-9. 遺伝子破壊株の作製 p.20
 1-2-10. bphT1T2二重破壊株の作製 p.21
 1-2-11. コロニーダイレクトPCR p.21
 1-2-12. サザンハイブリダイゼーション p.21
 1-2-13. 生育曲線の作製 p.22
 1-2-14. 遺伝子破壊株の芳香族化合物質化能 p.22
 1-2-15. bphT1のリン酸化解析 p.22
 1-2-16. SDS-PAGE p.23
 1-2-17. Phos-tag acrylamid (Pass-tag Consortium)SD-PASE p.23
 1-2-18. ウェスタンブロッィング p.24
 1-2-19. ルシフェラーゼアッセイ p.25
 1-3. 結果 p.26
 1-3-1. bphT1、bphT2破壊株の作製 p.26
 1-3-2. bphT1T2二重破壊株の作製 p.26
 1-3-3. 遺伝子破壊株のBPHせいいくきn p.28
 1-3-4. bphS、bphT各種破壊株の芳香属化合物資化能 p.29
 1-3-5. BphS-BphTシグナル伝達経路の解析 p.30
 1-4. 考察 p.32
2 BphSTによるbiphenyl/PCB上流代謝遺伝子群の制御 p.35
 2-1. 緒言 p.35
 2-2. 材料と方法 p.36
 2-2-1. 使用プラスミド p.36
 2-2-2. Rhodococcusからの抽出 p.37
 2-2-3. プライマー伸長法 p.37
 2-2-4. etbAa2p欠失プラスミドおよびbphAap変異導入プラスミドの作製 p.40
 2-2-5. In vivo footprinting p.41
 2-3. 結果 p.43
 2-3-1. etbAd、etbD1の転写開始点の決定 p.43
 2-3-2. etbAa2pの欠失解析 p.45
 2-3-3. ハイブリットプロモーターによるBphST制御領域の検証 p.46
 2-3-4. 24-bpコンセンサス配列への変異導入 p.50
 2-3-5. bphAapの24-bpコンセンサス配列への1塩基変異導入 p.52
 2-3-6. In vivo footprinting p.57
 2-4. 考察 p.66
3 終章 p.72
4 謝辞 p.75
5 参考文献 p.76

ポリ塩化ビフェニル (PCB) は難分解性の環境汚染物質である。PCBは世界的に使用が禁止され、汚染浄化に向けた取り組みが行われている。中でも微生物を利用した浄化法 (バイオレメディエーション) が期待されている。
Rhodococcus jostii RHA1株は強力なPCB分解菌であるが、biphenyl (BPH) やethylbenzene (ETB) などの分解酵素の誘導基質がなければPCBを分解できない問題がある。本研究では、RHA1株が持つ分解酵素遺伝子の転写制御メカニズムを改変することで、誘導基質非存在下PCB単独でも分解酵素系を誘導高発現して強力な分解能を発揮する菌株の作出を目指し、PCB分解酵素遺伝子プロモーター群 (bphAap、etbAa1p、etbAa2p、etbAdp、etbD1p) の転写制御を担う二成分制御システムについて解析を行った。二成分制御システムでは、Sensor histidine kinase (HK)が誘導物質を感知してResponse regulator (RR)を活性化し、RRが標的遺伝子の転写プロモーターからの転写を制御するとされており、RHA1株ではHKと推定されるBphS1及びBphS2と、RRと推定されるBphT1及びBphT2の2組の二成分制御システムがPCB分解酵素系遺伝子の転写誘導にかかわっていることが示されているが、制御機構の詳細は明らかになっていない。
 第1章では、まずbphT1破壊株、bphT2破壊株、bphT1T2二重破壊株をそれぞれ作製して生育を調べた。二重破壊株のみがBPHで生育しなかったことから、RHA1株においてbphT1とbphT2が共にBPHでの生育に関与していることが明らかとなった。上記破壊株に加えbphS1破壊株、bphS2破壊株、bphS1S2二重破壊株の芳香族化合物生育能を調べたところ、bphS1S2二重破壊株及びbphT1T2二重破壊株以外がETB、toluene、benzene、isopropylbenzene、及びo-xyleneに生育し、これら芳香族化合物での生育における分解遺伝子の誘導にbphS1とbphS2及びbphT1とbphT2がそれぞれ関与し、これらのみが誘導にかかわっていることを明らかにした。次にPhos-tag PAGEを用いて、BphS1T1またはBphT1のみを発現させたR. erythropolis IAM1399株におけるin vivoでのBphT1のリン酸化を調べ、BphS1と誘導物質のETBが存在してbphAaプロモーターからの転写が誘導高発現する場合にのみBphT1がリン酸化されることを示した。BphS1からBphT1へのリン酸基転移によるBphT1の活性化が起こって、強力な転写活性化が生じることを明らかにした。また、リン酸化が見られないBphT1でも弱い転写活性化が起こることも明らかにした。
 第2章ではBphS1T1の制御を受ける制御配列の解析を行った。まずetbAdp、etbD1pの転写開始点を決定し、bphAap、etbAa1p、etbAa2pと同様に18- bpコンセンサス配列が転写開始点から32-34 bp上流に存在することを確かめた。BphS1T1及びBphS2T2の制御下にないbenzoate dioxygenase遺伝子プロモーター (benAp) の部分配列に18 bp18-bpコンセンサス配列を連結したハイブリッドプロモーターを作製したところ、ETB存在下でのBphS1T1による転写誘導は見られなかった。bphS1T1の周辺領域の比較において18 bp18-bpコンセンサス配列を含む24 bp24-bpの配列が保存されていたことから、この24 bp24-bp配列をbenAp部分配列に連結したハイブリッドプロモーターを構築したところ、ETB存在下でのBphS1T1による転写誘導が見られた。またETBなしでBphS1T1により生じる低レベルの転写活性化も観察された。18 bp18-bpコンセンサス配列外側の6塩基に1塩基変異を導入した変異体では、BphS1T1による転写誘導や低レベルの転写活性化が損なわれ、24 bp24-bp配列が真の制御配列であることが示唆された。さらにbphAapの24 bp24-bp配列全体に様々な1塩基変異を導入したところ、ほとんどの変異でBphS1T1による転写誘導や低レベルの転写活性化に大きな影響が認められた。この結果にもとづき、24 bp24-bp配列がBphS1T1の制御を受ける真の制御配列であると結論した。変異体の中にはBphS1T1に依らない構成的なプロモーター活性示すものがあり、24 bp24-bp配列がBphS1T1の制御配列であると同時に独立した転写プロモーターとして機能し得ることが示唆された。制御配列を含むDNA断片にリン酸化BphT1が結合することを予想し、BphT1を精製して様々なリン酸化剤と組み合わせてin vitro gel shift assayを幾度も試みたが、BphT1の結合を示唆する結果は得られなかった。そこでBphT1単独ではなくBphT1と相互作用する転写複合体が制御配列付近に結合することを予想し、bphAapを対象としてin vivo footprintingを行った。BphS1T1の有無及びETBの有無によりパターンが変わり、プロモーター活性が著しく低下した制御配列変異体では更に異なったパターンが見られた。
以上の結果より、低レベル転写活性化をもたらす非リン酸化BphT1が存在する場合と高レベルの強い転写誘導をもたらすリン酸化BphT1が存在する場合で、転写複合体の結合状態が変化する転写制御モデルが考えられた。また本章で得られたBhS1T1にかかわる結論は、BphS2T2にも通用すると推定された。
 以上、本研究ではbphT1とbphT2がともにRHA1株におけるの多様な芳香族化合物の代謝における転写誘導に関与することと、誘導物質存在下でのみ起こるBphS1からBphT1へのリン酸基転移により生じるリン酸化BphT1が転写誘導をもたらすことを明らかにし、24 bp24-bpコンセンサス配列がその制御配列であることを示した。さらに制御配列付近での転写複合体の結合状態の変化が考えられる結果を示し、BphS1T1及びBphS2T2による転写制御メカニズムを明らかにした。24 bp24-bpコンセンサス配列の変異体を更に改変によりすることで、高効率な転写誘導システムの開発が期待される。また、明らかにした転写制御メカニズムにもとづくBphS1T1やBphS2T2の改変により、PCB単独でも分解酵素を誘導できる強力なPCB分解菌の開発も可能になると期待される。

本論文は、環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(PCB)の分解酵素の誘導発現を制御するシステムを対象とし、PCB分解酵素の誘導性の改良による微生物の汚染浄化能の向上をめざしたものである。「Rhodococcus jostii RHA1における二成分制御システムの分子機構解明」と題し、序章と1,2章そして終章より構成されている。
序章では、研究背景、目的、RHA1株におけるPCB分解酵素系の誘導発現を支配する2組の二成分制御システム、および誘導物質を感知したセンサーヒスチジンキナーゼにより活性化された応答制御因子が遺伝子発現を制御する同システムに関する従来の研究の概要を述べている。
第1章では、まずRHA1株に存在する2組つの応答制御因子BphT1とBphT2の破壊株を作製して生育を調べ、両者それぞれが2組つのセンサーヒスチジンキナーゼと同様にエチルベンゼンやトルエン、ベンゼンなどの多様な芳香族化合物での生育にかかわることを示し、さらにセンサーヒスチジンキナーゼBphS1とBphT1の遺伝子をもつ組換え体におけるBphT1のリン酸化を調べ、誘導物質が存在する場合のみBphS1によりBphT1がリン酸化され、分解酵素遺伝子の強力な転写誘導をもたらすことを明らかにした。また、リン酸化が見られないBphT1でも弱い転写活性化が起こることも明らかにした。
第2章では、BphT1の制御を受ける2つのプロモーターの転写開始点を解析して転写開始点から32-34 bp上流に共通配列が存在することを確かめた後、共通配列を用いたハイブリッドプロモーターや共通配列の個々の塩基についての一連の変異体を作製し、24 bp24-bp配列がBphS1T1の制御を受ける真の制御配列であることを示した。さらに制御配列を含むDNA断片にリン酸化BphT1と相互作用する転写複合体が結合することを予想して行ったDNAフットプリント解析の結果から、非リン酸化BphT1が存在する場合とリン酸化 BphT1が存在する場合で転写複合体の結合状態が変化する転写制御モデルを提案した。
終章においては、本研究の目的と各章で得られた研究結果をまとめている。
本研究で得られたPCB分解酵素系の誘導発現制御システムに関する知見は、高効率な転写誘導システムや強力PCB分解菌の開発につながるもので、学術的な価値が高いだけでなく、効率的な環境汚染浄化技術の実現に寄与する基盤を提供するものと考えられる。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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