間接押出とクロス線巻きプレスフレームの力学特性とその実用化
氏名 浅利 明
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第294号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 間接押出とクロス線巻きプレスフレームの力学特性とその実用化
論文審査委員
主査 教授 石崎 幸三
副査 大阪大学名誉教授 新原 皓一
副査 教授 鎌土 重晴
副査 准教授 南口 誠
副査 産学融合特任准教授 松丸 幸司
副査 中部大学教授 松下 富春
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目次
第1章 緒言 p.1
1.1 塑性加工 p.1
1.2 塑性加工用加圧装置 p.4
1.3 塑性加工についての学術的見地 p.4
1.4 本研究の目的 p.4
第2章 間接押出の力量的優位性およびプロセスの特性を活かした主なメカニズムの評価 p.6
2.1 押出加工および押出プレスの概要 p.6
2.2 間接押出法および直接押出法の具体的な優位性の比較 p.8
2.2.1 6063アルミニウム合金型材を直接および間接押出プレスで押出した場合 p.8
2.2.2 6063アルミニウム合金型材を同一断面,同一押出し比で押出した場合 p.9
2.2.3 4000tf間接押出プレスで押出せる断面のビレットを直接押出するのに必要なプレス力量 p.9
2.3 神戸製鋼所製間接押出プレス設備の高機能化 p.16
2.3.1 ベースメカニズムA(テールロッド方式複動形間接押出プレス) p.16
2.3.2 ベースメカニズムB(プルバック方式単動形間接押出プレス) p.17
2.3.3 ホット ビレット スカルパー の開発 p.18
2.3.4 間接押出プレスの2段ダイスの開発とその構造および機能 p.19
2.3.5 複動押出プレスのピアシング装置およびマンドレル装置の開発 p.20
2.3.6 プレス可動部材のフラット・セパレート案内機構の開発 p.24
2.3.7 テンションボルト・油圧ジャッキによる押出工具締結機構の開発 p.25
2.3.8 コンテナシーリング力量の押出し力量への負荷システムの開発(名称:ハイドロリックカップリングシステム) p.26
2.3.9 テールロッド形式ピアシング装置のピアサーロック装置の開発 p.26
2.4 結論 p.28
第3章 間接押出と直接押出の実操業における比較 p.41
3.1 間接押出と直接押出の比較 p.41
3.2 間接押出と直接押出における必要押出力量の実測,押出材の寸法精度およびマクロ組織 p.41
3.3 中空材の偏肉精度 p.42
3.4 ホットビレットスカルパーの経済効果 p.43
3.5 間接押出設備の納入実績 p.44
3.5.1 海外輸出間関係(8基) p.44
3.5.2 国内関係(19基) p.45
3.5.3 ホットビレットスカルパー(10基) p.45
3.6 結論 p.46
第4章 ピアノ線クロス線巻きプレスフレームの力学 p.57
4.1 緒言 p.57
4.1.1 プレスフレーム p.57
4.1.2 目的 p.57
4.2 計算条件 p.57
4.3 計算方法および結果 p.60
4.3.1 クロス線巻き p.60
4.3.2 ピアノ線単列巻き式 p.61
4.3.3 ピアノ線並列巻き式 p.62
4.4 考察 p.62
4.5 結論 p.63
第5章 クロス線巻きプレスフレームにおける線巻要領の検討 p.64
5.1 緒言 p.64
5.2 実験方法 p.64
5.3 結果および考察 p.68
5.4 ピアノ線,コラムおよび荷重等諸計算値 p.73
5.5 結論 p.77
第6章 クロス線巻きプレスフレームへの偏心過重負荷時のプレスフレームにかかる応力測定 p.78
6.1 緒言 p.78
6.2 実験方法 p.78
6.3 結果および考察 p.79
5.4 結論 p.86
第7章 クロス線巻きプレスフレームの実用化例と今後の方向性 p.87
第8章 総括 p.94
謝辞 p.96
付録[1]関連特許リスト p.97
付録[2]金属押出設備の新しい創出コンセプトに基づく新鋭化メカニズム p.122
金属に力を加えて所定の形状に加工する方法が塑性加工である.大量生産,低コスト,加工精度が要求される現在では,型を用いて所望の形状を得る塑性加工が生産量の大半を占めている。しかし、それら製品の製造装置に着目した研究は少ない.本論文では,更なる生産性向上を目指したアルミニウム合金素材の間接押出の開発と加工精度に関連する偏心挙動に優位性のあるクロス線巻きプレスフレームの開発を行った.
アルミニウム合金の型材に関して,間接押出の優位性を定量的な力学的モデル計算をもとに論じた.その結果、アルミニウム合金の型材(6063系)の押出加工において,少なくとも生産性が直接押出法に比し,間接押出法が1.5~1.7倍の優位性を有することが示された.加えて,間接押出では,コンテナシーリング力量の付加やマンドレルクロスヘッドのメカニカルロッキング装置による実行的な押出し力の増大が可能であり,さらに有利となる.
3000tf直接押出プレスと3600tf間接押出プレスを用いて実操業における生産性を比較した。
直接押出,間接押出共にコンテナサイズを10インチ相当にあわせて比較した場合,間接押出は、直接押出にくらべて生産性が2.4~8.7倍,歩留まりが1.08~1.25倍であった.
中間フレーム形間接押出プレスによって,押出された中空押出材の偏肉率の分布と,従来の押出プレスによって押出された中空押出材の偏肉率の分布を検討した.その結果,前者の偏肉率の平均値は0.79%であり,後者の偏肉率の平均値2.75%にくらべてはるかに優れていた.また,前者の内の94%が偏肉率2%以内の精度に入っている.
クロス線巻きプレスフレームが高剛性プレスフレームとして期待できること,偏心負荷に対して有効であることを提案した.加えて,一定の偏心荷重に対してコラム重心での荷重を静力学的にモデル計算し,実際に単列式および並列式との比較検討を行った.クロス線巻きプレスフレームは,モデル計算からも実験からも偏心荷重に対して安定した挙動を示すことが確認された.しかし,クロス線巻きプレスフレームのみの試作モデルしか試作できなかったので,今後実操業において,クロスヘッドに掛かる偏心荷重のコラムへの 影響など無視することはできない.それを考慮し標準より遥かに大きい偏心量を選択するとともに大きな負荷を掛け実際の偏心荷重に耐久性を有する等価の値を示したが,今後は本格的工業化レベルのプレスメカニズムとして力量・最大力量での許容偏心量を通常に減少した仕様のプレス設備を考えていく必要がある.
クロス線巻きプレスフレームは,偏心負荷に対する剛性を始め,メリットが大きいが,従来形の線巻フレームとの比較の意味で重量軽減は期待薄であり,加工工数の増加と合わせて,コスト低減要因は小さい.用途としてはプレス一般に適用可能と考えられる.ただし衝撃荷重の作用するものに対しては負荷テストで確認する必要がある.さらに今後の課題としてはヨーク部の線巻溝の構造簡略化とヨークの重量軽減法を検討していく必要がある.
一方,高圧プレス装置において,クロス線巻きプレスフレームは,コラムを4本配置して対角上のコラムにピアノ線を巻いたフレームであり,この方式では,偏心荷重への高強度化が期待できることが確認された.そのうえ,コラム側面をプレススライドの8面ガイドとして使用できる.また,巻付以外のコラムにも力が均一に分散するのでコラムの圧縮量を制御できるというメリットが生じることを明らかにした.加えて,X側,Y側の交差角度を任意にすることでプレス機の出し入れ制限もある程度解消することができる.
そのような利点から,クロス線巻きプレスフレームはすでに稼働実績はあるものの,普及しているとはまだ言えない状況である.今後,製造工程のさらなる削減とそれによるコストの低下が必要である.
本論文は、「間接押出とクロス線巻きプレスフレームの力学特性とその実用化」と題し、8章より構成されている。第1章「緒言」では、塑性加工の分類と加工装置の特徴を示すとともに、本研究の目的と範囲を述べている。
第2章「間接押出の力量的優位性およびプロセスの特徴を活かした主なメカニズム」では、アルミニウム合金の形材に関して、間接押出の優位性を定量的な力学的モデル計算をもとに論じている。その結果、アルミニウム合金の形材の押出加工において、生産性が直接押出法に比べて、1.5 ~ 1.7倍の生産性を有することが示され、加えて、間接押出ではコンテナシーリング力量の付加やマンドレルクロスヘッドのメカニカルロッキング装置による実効的な押出力の増大が可能であり、さらに有利となることが示されている。
第3章「間接押出と直接押出の実操業における比較」では、3000tf 直接押出プレスと3600tf 間接押出プレスを用いて実操業における生産性を比較している。直接押出、間接押出共にコンテナサイズを10インチ相当にあわせて比較した場合、間接押出は、直接押出にくらべて生産性が2.4 ~ 8.7倍、歩留まりが1.08 ~ 1.25倍であることが示されている。また、中間フレーム形間接押出プレスによって、押出された中空押出材の偏肉率の分布と、従来の押出プレスによって押出された中空押出材の偏肉率の分布を検討し、その結果、前者の偏肉率の平均値は0.79%で、後者の偏肉率の平均値2.75%にくらべてはるかに優れていること、また、前者の内の94%が偏肉率2%以内の精度に入ることも確認されている。
第4章「ピアノ線クロス線巻きプレスフレームの力学」では、クロス線巻きプレスフレームの剛性、偏心負荷に対する有効性をモデル計算により検討し、クロス線巻きプレスフレームは、高剛性であり、それに加えて偏心荷重に対して安定した挙動をとることが示されている。
第5章「クロス線巻きプレスフレームにおける線巻要綱の検討」では、ピアノ線の線巻方法を検討することにより、X溝、Y溝の最終応力条件を同一にする張力コントロール方法を提案し、実験的に検証している。
第6章「クロス巻きフレームにおける偏心荷重時のフレームにおける応力測定」では、クロス線巻きプレスフレームの剛性と偏心負荷に対する安定性を実験により検証し、クロス線巻きプレスフレームは、高剛性であり、偏心荷重に対して安定した挙動を示すことが述べられている。
第7章「クロス線巻きプレスフレームの実用化例と今後の方向性」では、高剛性と偏心負荷に対する有効性のあるクロス線巻きプレスフレームを超高圧アンビルに応用した例が示されている。
第8章「総括」では、本論文を総括し結言を述べている。
よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。