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ポリエステル繊維系吸音材の実用化に関する研究

氏名 霊田 青滋
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第292号
学位授与の日付 平成23年11月30日
学位論文題目 ポリエステル繊維系吸音材の実用化に関する研究
論文審査委員
 主査 准教授 宮木 康幸
 副査 准教授 太田 浩之
 副査 准教授 高橋 修
 副査 名誉教授 丸山 暉彦
 副査 日本大学理工学部非常勤講師 藤田 肇

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目次
第1章 序論 p.1
 1.1 多孔質系吸音材について p.1
 1.2 ポリエステル繊維系吸音材の優位性 p.3
 1.3 多孔質系吸音材の吸音メカニズムと吸音特性 p.5
 1.4 ポリエステル繊維系吸音材の基本構造と構成材料 p.7
 1.5 本研究の意義 p.10
 1.6 既往の研究 p.11
 1.7 本論文の目的 p.14
 1.8 本論文の内容 p.15
 1.9 本論文の構成 p.16
 1.10 用語の説明 p.17
第2章 ポリエステル繊維系吸音材の基本構造:流れ抵抗調節タイプ Type I-S p.21
 2.1 はじめに p.21
 2.2 Type I-Sの構造 p.22
 2.3 Type I-Sの吸音特性 p.23
 2.4 流れ抵抗と垂直入射吸音率の関係 p.24

第3章 ポリエステル繊維系吸音材の吸音性能向上:膜振動機能を複合した構造 Type II p.27
 3.1 はじめに p.27
 3.2 Type IIの構造 p.28
 3.3 Type IIの吸音性能 p.29
 3.4 膜振動の可視化 p.32
第4章 ポリエステル繊維系吸音材の吸音性能向上:表面層を多層化した流れ抵抗調節タイプ Type I-M p.41
 4.1 はじめに p.41
 4.2 Type I-Mの構造 p.42
 4.2.1 同種のスパンボンド不織布による多層構造 Type I-M(a) p.42
 4.2.2 異種のスパンボンド不織布による多層構造 Type I-M(b) p.42
 4.3 Type I-Mの吸音性能 p.44
 4.3.1 Type I-M(a)の吸音性能 p.44
 4.3.2 Type I-M(b)の吸音性能 p.46
 4.4 スパンボンド不織布の挿入位置を変えた場合の吸音性能 p.47
 4.5 表面層で流れ抵抗を調整する理由 p.48
 4.6 流れ抵抗と垂直入射吸音率 p.49
第5章 単位面積流れ抵抗、厚さと垂直入射吸音率の関係 p.51
 5.1 はじめに p.51
 5.2 母材を変えた場合のType I-Mの単位面積流れ抵抗 p.52
 5.3 Type I-Mの単位面積流れ抵抗 p.55
 5.4 Type I-Mの単位面積流れ抵抗垂直入射吸音率予測式 p.57

第6章 ポリエステル繊維系吸音材の繊維配向と吸音性能 p.61
 6.1 はじめに p.61
 6.2 ポリエステル繊維系吸音材の母材の製法と繊維配向 p.62
 6.2.1 クロスレイ製法(横配向) p.62
 6.2.2 エアレイド製法(ランダム配向) p.63
 6.2.3 バーチカル西方(縦配向) p.64
 6.3 母材の繊維配向と吸音性能 p.66
 6.3.1 測定試料の仕様 p.66
 6.3.2 繊維配向と垂直入射法吸音率 p.66
 6.3.3 繊維配向と流れの抵抗 p.70
 6.3.4 縦配向母材の流れ抵抗に関する考察 p.72
 6.4 更なる吸音性能の向上 p.74
 6.5 垂直入射吸音率予測式の有効性確認 p.77
第7章 結論 p.79
謝辞

本研究は、建設機械のエンジンルーム等に使用される吸音材の高性能化に関するものである。従来は、グラスウールやウレタンフォームが主要な吸音材として利用されていたが、環境意識の高まりとともに、リサイクル性、高耐久性に優位性をもつポリエステル繊維系吸音材が注目されるようになっている。また、近年、環境規制の導入が進み、スペースや重量など設計上の制約が年々厳しくなっていく中で、従来以上に高い吸音性能を要望されるようになってきた。
このような背景のもと、本研究は、ポリエステル繊維系吸音材について、厚みを持った母材と、音波の入射面にスパンボンド不織布という通気性を持った表皮材を熱融着し複合化した基本構造をもとに、吸音構造と吸音性能の関係について、広い周波数帯域を対象に、実験的な考察に基づいて把握し、様々な要求に高い吸音性能で応えられる実用的な手法、構造を確立することを目的として取組み、以下の成果と知見を得た。
1. 基本構造をもとに、表皮層に膜振動機能を複合化した構造、または、表面層の多層化により流れ抵抗を高める構造を導入することで、従来より、低中周波数帯域の吸音性能を高め、吸音材厚さを、従来より約25 %低減することに成功した。
2. 母材の製造方法による繊維配向という新しい着眼点から、吸音性能を含めた実用面での得失を明らかにし、その知見をベースに、新しい構造である縦配向母材を活かして、軽量、高性能な吸音構造を考案、実用化した。
3. 流れ抵抗、厚さと吸音性能の関係を、実験を通じて詳細に検討し、目標とする吸音性能を得るための吸音材設計を容易にすることができた。
以下に本論文の概要を述べる。
第1章は、序論である。多孔質系吸音材の概況、従来の多孔質系吸音材と比べたポリエステル繊維系吸音材の優位性、多孔質繊維系吸音材全般の吸音メカニズム、及び、本研究で基本となる吸音構造の説明をした。その上で、本研究に取り組んだ背景とともに、既往の研究との違いを明らかにし、本研究の目的を述べた。また、本研究での主要な用語と測定方法についても記載した。
第2章は、基本構造の吸音特性について、重要なパラメータである流れ抵抗と吸音率の関係を把握し、流れ抵抗には、大きすぎず、小さすぎず、熱エネルギーへの変換効率を高めるのに最適な領域があることを見出した。
第3章は、基本構造からの吸音性能向上のために、基本構造では母材と表皮材を、通気性を損なわないように熱融着パウダーで接着していたのを、熱融着フィルムに変更して膜振動機能を複合した構造を追究した。一般的に膜振動は、吸音効果が得られる周波数帯域が狭く、かつ、張力によって吸音特性が変わる欠点があるが、本研究では、表皮材と母材を熱融着フィルムで加熱接着し、膜振動と繊維の粘性抵抗を合わせた複合効果を利用することで、基本構造よりも中低周波数帯域で高い吸音効果が得られる構造を見出した。また、本構造の吸音メカニズムを確認するために、膜振動の可視化にも挑戦し、膜振動と吸音率に関係があることを明らかにすることができた。
第4章は、第3章で取り上げた構造より、さらに広帯域の吸音性能の向上を目的として、基本構造と同じく流れ抵抗に再注目し、音波の粒子速度の速い部分である表面層を多層化することで、基本構造より流れ抵抗を大きくとる構造を考案した。この構造により、前述の膜複合構造で、中低域の吸音性能向上のために犠牲にした2,000 Hz以上の高周波数領域の低下も抑制でき、より広帯域に吸音性能を向上させることが可能となった。
第5章では、表面層の多層化構造の研究結果をもとに、吸音性能に影響を与える主要なパラメータである厚さ、流れ抵抗、周波数と吸音特性との関係式の構築を試み、経験則と合う知見を得た。
第6章は、今まで見過ごされてきた母材の製造方法からくる繊維配向に注目した。代表的な繊維配向は3種類あり、それらが吸音性能に与える影響や、実用的な性能の違いを明らかにした。中でも最近登場した縦配向母材の特徴である厚さ方向の圧縮強度に着目して、軽量化を追究し、厚さ、重量、吸音性能の最適化を、より一層進めた吸音構造を見出し、実用化した。
第7章は、本研究の結論を述べた。ポリエステル繊維系吸音材の、製造方法、吸音構造、吸音性能の関係を、実験的な考察に基づいて体系的に把握し、従来より、広い周波数帯域を対象に、吸音性能の向上を図れる実用的な手法や構造を確立することができた。

本論文は「ポリエステル繊維系吸音材の実用化に関する研究」と題し7章より構成されている。建設機械のエンジンルーム等に使用される吸音材は、グラスウールやウレタンフォームが主要な材料として利用されていたが、環境意識の高まりとともに、リサイクル性、耐久性に優れたポリエステル繊維系吸音材が注目されている。また、近年、環境規制の導入が進み、スペースや重量など設計上の制約が年々厳しくなっていく中で、従来以上に高い吸音性能を要望されるようになってきた。このような背景のもと、本研究は、ポリエステル繊維系吸音材について、母材と表皮材を熱融着した基本構造をもとに広い周波数帯域を対象に様々な要求に応えられる実用的な手法、構造を提案している。
第1章「序論」では、本研究の背景と既往の研究について述べ、多孔質繊維系吸音材の吸音メカニズム、吸音構造に関し残されている課題を整理し、本研究の目的を示している。
第2章「ポリエステル繊維系吸音材の基本構造」では、母材と通気性膜による基本構造の吸音特性について、流れ抵抗と吸音率の関係を把握し、流れ抵抗には音響エネルギーから熱エネルギーへの変換効率を高めるのに最適な領域があることを見出している。
第3章「ポリエステル繊維系吸音材の吸音性能向上 膜振動機能との複合」では、表皮材を熱融着フィルムで加熱接着し膜振動機能を付加した構造を検討し、膜振動と繊維の粘性抵抗を合わせた複合効果を利用することで中低周波数帯域で高い吸音効果が得られる構造を見出している。また、膜振動の可視化にも挑戦し、膜振動と吸音率に関係があることを明らかにしている。
第4章「ポリエステル繊維系吸音材の吸音性能向上 表面層の多層化」では、流れ抵抗に再注目し、音波の粒子速度の速い部分である表面層を多層化することで流れ抵抗を大きくする構造を考案している。この構造により、前述の膜複合構造で犠牲にした2,000 Hz以上の高周波数領域の吸音率低下も抑制でき、吸音材厚さを、従来より約25%低減することに成功している。
第5章「単位面積流れ抵抗、厚さと吸音性能の関係」では、吸音性能に影響を与える吸音材の厚さ、流れ抵抗、周波数、吸音特性の間の関係式を構築し、目標とする吸音性能を得るための吸音材設計を容易にしている。
第6章「ポリエステル繊維系吸音材の繊維配向と吸音性能」では、母材の製造方法からくる繊維配向に注目している。繊維配向がが吸音性能に与える影響や、実用的な性能の違いを明らかにし、縦配向母材の特徴である厚さ方向の圧縮強度に着目して、軽量化を追究し、厚さ、重量、吸音性能の最適化をより一層進めた吸音構造を見出し、実用化している。
第7章「結論」では、本研究の結論を述べている。
以上のように、本論文は、ポリエステル繊維系吸音材の、製造方法、吸音構造、吸音性能の関係を、実験的な考察に基づいて体系的に把握し、従来より、広い周波数帯域を対象に、吸音性能の向上を図る実用的な手法や構造を提案しており、 資源保護の観点からも環境対策としても有効なものである。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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