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ポリアニオン系リチウムイオン二次電池正極材料の新規合成法に関する研究

氏名 長嶺 健太
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第616号
学位授与の日付 平成24年3月26日
学位論文題目 ポリアニオン系リチウムイオン二次電池正極材料の新規合成法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 小松 高行
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 梅田 実
 副査 准教授 内田 希
 副査 准教授 石橋 隆幸

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目次
第一章 序論 p.1
 1.1 はじめに
 1.2 リチウムイオン二次電池とは
 1.2.1 リチウムイオン二次電池の構成と課題
 1.2.2 リチウムイオン二次電池正極材料
 1.2.3 ポリアニオン系化合物
 1.3 ガラス結晶化法の特徴と利点
 1.4 本論文の目的
第二章 ガラス結晶化法によるLiVOPO4 p.16
 2.1 背景
 2.2 実験
 2.2.1 LVP111ガラスの作製
 2.2.2 LVP111結晶ガラスの作製
 2.2.3 LVP111結晶化ガラスに対する炭素被覆
 2.4.4 生成粒子の粒径評価と組成分析
 2.3 結果および考察
 2.3.1 LVP111ガラスの作製
 2.3.2 LVP111バルクガラスに対する熱処理結晶化
 2.3.3 LVP111ガラス粉末の結晶化挙動
 2.3.4 LVP111ガラスの結晶化挙動まとめ
 2.3.5 β-LiVOPO結晶およびLVP111ガラスの電気伝導率
 2.3.6 ガラス結晶化法により作製したβ-LiVOPO4結晶の充放電特性
 2.3.7 LVP111結晶化ガラスに対する炭素被覆および電池特性
 2.4 本章のまとめ
 参考文献
第三章 ガラス結晶化法によるLiVOPO4Li3V2(PO4)3の合成および還元条件の最適化 p.54
 3.1 背景
 3.2 実験
 3.3 結果および考察
 3.3.1 前駆体LVP323ガラスの特性
 3.3.2 空気中での熱処理結晶化
 3.3.3 グルコース添加,窒素雰囲気化での熱処理結晶化(還元条件1)
 3.3.4 水素/アルゴン雰囲気下での熱処理結晶化(還元条件2,3)
 3.3.5 炭素被覆Li3V2(PO4)3結晶化ガラスの炭素含有量
 3.3.6 炭素被覆Li3V2(PO4)3結晶化ガラスの電気伝導度
 3.4 本章のまとめ
 参考文献
第四章 ガラス結晶化法により作製したLiVOPO4Li3V2(PO4)3の構造と充放電特性 p.80
 4.1 背景
 4.2 実験
 4.3 結果および考察
 4.3.1 LVP323ガラス粉末の形態および充放電特性評価
 4.3.2 HM熱処理試料の表面・断面観察
 4.3.3 TEMを用いたHM熱処理試料の形態観察
 4.3.4 HM熱処理に対する充放電特性評価
 4.3.5 BMM熱処理試料の作製および形態観察
 4.3.6 BMM熱処理試料に対する充放電特性評価
 4.4 本章のまとめ
 参考文献
第五章 NASICON型Li3Fe2(PO4)3結晶化ガラスの作製と評価 p.110
 5.1 緒言
 5.2 実験
 5.2.1 LFNP323ガラスの作製
 5.2.2 LFNP323結晶化ガラスの作製
 5.2.3 LFNP323ガラス表面へのNd:YAGレーザー照射
 5.3 結果および考察
 5.3.1 LFNP323ガラスの作製
 5.3.2 LFNP323結晶化ガラスの作製
 5.3.3 LFNP323結晶化ガラスにおけるLi3V2(PO4)3
 5.3.4 LFNP323結晶化ガラスの相転移
 5.3.5 LFNP323結晶化ガラスにおける末結晶化部調査
 5.3.6 LFNP323結晶化ガラスの電気伝導性評価
 5.3.7 Nd:YAGレーザーによるLi3V2(PO4)3結晶化ライン書き込み
 5.4 本章のまとめ
 参考文献
第六章 粒径および熱処理雰囲気のリン酸鉄リチウムガラス結晶化に与える影響 p.147
 6.1 背景
 6.2 実験
 6.3 結果および考察
 6.3.1 各種雰囲気下における結晶化温度
 6.3.2 LFNP111結晶化ガラス中の析出結晶相
 6.3.3 LFNP111バルク結晶化ガラスの微細構造
 6.3.4 鉄イオンの価数と結晶化機構の関係
 6.3.5 LFNP111ガラス粉末の焼結挙動
 5.4 本章のまとめ
 参考文献
第七章 熱処理結晶化におけるリン酸鉄リチウムガラス中のLiFePO4生成機構 p.172
 7.1 緒言
 7.2 実験
 7.3 結果および考察
 7.3.1 H2/Ar雰囲気下におけるLFP111ガラス粉末の熱処理結晶化
 7.3.2 LFNP111結晶化ガラス粉末内部の形態観察
 7.3.3 LFNP111ガラス粉末のH2/Ar雰囲気下熱処理結に伴う結晶生成モデル
 7.4 本章のまとめ
 参考文献
第八章 総括 p.197
 8.1 総括
 8.2 今後の課題

 原著論文 p.203
 研究発表・業績等 p.205
 謝辞 p.209

リチウムイオン二次電池は軽量,高エネルギー密度といった優れた特徴を有する電池である。しかしながら,現行の正極材料LiCoO2には安全性や価格の面で問題があり,その代替材料として,サイクル特性や安全性に優れたリン酸金属リチウム(LMP)が注目を浴びている。LMPの電池特性の改善を目指して,数々の結晶合成手法を用いた合成・開発が進められている。近年,ガラス結晶化法によるLiFePO4結晶の合成が報告されているが,詳細な結晶化機構は明らかになっておらず,鉄以外のLMP結晶についても検討がなされていない。そこで本研究では,「ガラス結晶化法によるリン酸バナジウム系結晶の合成および特性評価」,および「リン酸鉄リチウムガラスの結晶化挙動およびLiFePO4の生成機構調査」を目的として以下の研究を行った。

第二章では33.3Li2O-33.3V2O5-33.3P2O5(LVP111)ガラスを作製し,空気中での結晶化挙動調査およびLiVOPO4結晶の合成を試みた。
LVP111ガラスの熱処理では,結晶化ピーク温度よりも低温ではα-LiVOPO4結晶が優位に析出し,高温ではβ-LiVOPO4結晶が優位に析出することが明らかとなった。そして,LVP111ガラス粉末を600oC,3時間熱処理することでβ-LiVOPO4結晶の単相合成に成功した。この合成条件は他の手法と比較して短時間であった。また,β-LiVOPO4結晶化ガラス粉末に対して,グルコースの熱分解により炭素被覆を試みた。しかしながら,炭素の還元作用によりLiVOPO4結晶が分解しLi3V2(PO4)3が生成した。炭素被覆を行うためには,他の手法が必要であることが明らかとなった。

第三章では,37.5Li2O-25V2O5-37.5P2O5(LVP323)ガラスの作製およびLi3V2(PO4)3結晶合成における還元条件最適化を試みた。
グルコース添加量(0, 10wt%)および雰囲気(H2/Ar, N2)を検討し熱処理を行った所,10wt%グルコース添加,H2/Ar雰囲気下における熱処理が最もLi3V2(PO4)3結晶合成に効果的であった。その条件において700oCの熱処理を行った場合,0.5時間の熱処理でもLi3V2(PO4)3結晶が生成しており,長時間熱処理による更なる結晶の成長や生成は確認されなかった。ガラス結晶化法を用いることで,前駆体ガラスの熱処理という簡便なプロセスにより短時間でLi3V2(PO4)3結晶が合成可能であることが明らかとなった。

第四章では,Li3V2(PO4)3結晶化ガラスの表面・内部形態および充放電特性の調査を行った。
LVP323ガラス粉末は粉砕・乾燥工程において,凝集体を生成していることが電子顕微鏡観察により明らかになった。乳鉢内でガラス粉末に対してグルコースを混合し,熱処理を行った試料では,炭素は凝集体表面のみに偏析し,内部に存在しなかった。そのため,充放電試験において,0.01Cでは理論容量の95%を達成したが,5Cでは49%まで減少した。一方,ボールミル混合試料では,結晶化ガラス粒子表面にグルコースが分散されたため,粒子同士の焼結・凝集は抑制された。充放電試験では,5Cにおいて70%(グルコース10wt%), 83%(グルコース20wt%)の放電容量を示した。これらの結果から,ガラス結晶化法で合成したLi3V2(PO4)3は,短時間熱処理で十分な結晶性を有していることが明らかとなった。しかしながら,グルコースによる炭素被覆は不均一であり,より均一な炭素層を形成することで更なる特性向上を図ることが出来ると考えられる。

第五章では,37.5Li2O-(25-x)Fe2O3-xNb2O5-37.5P2O5ガラスの作製・結晶化を行った。そして,結晶や電気伝導性の調査を試みた。LFNP323(x=2.5-10)ガラスに対して結晶化ピーク温度付近で1.5時間の熱処理を施す事によりγ-Li3Fe2(PO4)3の合成に成功した。この時,Al3+およびNb5+イオンは結晶中に固溶することが明らかとなった。Li3Fe2(PO4)3結晶化ガラスの電気伝導率は,室温で10-6 Scm-1程度であり,Nb2O5量が少ないほど高い結果となった。更にガラス上へNd:YAGレーザーを照射する事により,Li3Fe2(PO4)3結晶化ラインの作製に成功した。

第六章では,33Li2O-33Fe2O3-1Nb2O5-33P2O5(LFNP111)ガラス粉末を作製し,結晶化挙動および焼結について調査を行った。LFNP111ガラスのDTAにおける結晶化ピーク温度は,Ar,H2/Ar雰囲気において,粒径の減少に伴い低下した。この結果は,LFNP111ガラスの結晶化機構は表面結晶化である事を示している。一方,空気中では,粒径に依存せず不規則な変化を示した。これはガラス中のFe2+イオンの酸化が原因である。また,LFNP111ガラス成形体の焼結では,空気,Ar, H2/Ar雰囲気の順で収縮量が大きくなることが明らかとなった。これらの結果から,遷移金属イオンを含むガラスでは,その雰囲気や粒径が大きく,結晶化の挙動に影響を与えることが明らかとなった。

第七章では,33.3Li2O-33.3Fe2O3-33.3P2O5(LFP111)ガラス粒子中におけるLiFePO4の生成機構を調査した。350-800oC熱処理では,全ての温度においてLiFePO4が析出した。ガラス転移温度より低い350oCでは,40nm程度の粒径を有するリチウム欠陥LixFePO4(x~0.94)が生成した。そして,熱処理温度の上昇に伴い,LiFePO4結晶子が表面から内部へ成長している様子が観察された。これらの結果より,LFP111ガラス中において,LiFePO4はバルク結晶化(均一核生成プロセス)機構により生成するが,H2/ArやグルコースによるFe3+のFe2+への還元が必要であるため,表面から内部へと進行することが明らかとなった。

第八章では,本論文を総括した。本研究により,ガラス結晶化法は他の手法と比較し簡便で,良好な特性を持つ材料を合成可能であるだけでなく,条件を変化させることにより,形態を制御することができることが明らかとなった。ガラス結晶化法を用いることで合成プロセスのコストを低減させることが可能であり,産業的な応用にメリットがある手法であると結論づけられる。

本論文は、「ポリアニオン系リチウムイオン二次電池正極材料の新規合成法に関する研究」と題し、八章より構成されている。
第一章「序論」では、リチウムイオン二次電池、特に正極材料の現状、問題点を明らかにし、本研究の必要性と意義を述べている。
第二章「ガラス結晶化法によるLiVOPO4結晶の選択的合成と評価」では、33.3Li2O-33.3V2O5-33.3P2O5ガラスにおいてLiVOPO4結晶の合成を試みている。結晶化ピーク温度よりも低温ではα-LiVOPO4結晶が生成するが、ガラスを600oC,3時間熱処理することでβ-LiVOPO4結晶が単相で合成できることを明らかにしている。
第三章「ガラス結晶化法によるLi3V2(PO4)3の合成および還元条件の最適化」では、37.5Li2O-25V2O5-37.5P2O5ガラスでのLi3V2(PO4)3結晶合成における還元条件の最適化を試みている。グルコース添加(10wt%)と7%H2/Ar雰囲気下では、700oCという低温、30分という短時間の熱処理でもLi3V2(PO4)3結晶の合成が可能であることを見出している。
第四章「ガラス結晶化法により作製したLi3V2(PO4)3の構造と充放電特性」では、合成したLi3V2(PO4)3結晶の表面と内部での形態および充放電特性を調査している。ボールミルを用いた混合により、結晶化ガラス粒子表面にグルコースが比較的均一に分散され、充放電試験では,5Cにおいても高い放電容量を示すことを明らかにしている。
第五章「NASICON型Li3Fe2(PO4)3結晶化ガラスの作製と評価」では、37.5Li2O-(25-x)Fe2O3-xNb2O5-37.5P2O5ガラスの結晶化挙動を調べている。結晶化ピーク温度付近で1.5時間の熱処理を施す事によりγ-Li3Fe2(PO4)3の合成に成功すると共に、Nd:YAGレーザーを照射する事により,Li3Fe2(PO4)3結晶をガラス表面にパターニングすることに成功している。
第六章「粒径および熱処理雰囲気のリン酸鉄リチウムガラス結晶化に与える影響」では、33Li2O-33Fe2O3-1Nb2O5-33P2O5ガラス粉末の結晶化挙動および焼結について調査を行っている。ガラスの結晶化機構は表面結晶化であること、熱処理雰囲気やガラス粉末の粒径が結晶化挙動に大きく影響を与えることを明らかにしている。
第七章「熱処理結晶化におけるリン酸鉄リチウムガラス中のLiFePO4生成機構」では、 33.3Li2O-33.3Fe2O3-33.3P2O5ガラス粒子におけるLiFePO4の生成機構を調査している。ガラス転移温度以下の350oCでは,リチウム欠陥LixFePO4(x~0.94)が生成し、熱処理温度の上昇に伴い,Fe3+のFe2+への還元と共にLiFePO4結晶がガラス表面から内部へ成長することを明らかにしている。
第八章「総括」では、各章の結論を総括している。
 本論文は以上のようにガラス結晶化法で創製されたポリアニオン系結晶が次世代リチウムイオン二次電池正極材料に有効であることを実証している。よって、本論文は工学上及び工業上貢献するところが大きく、博士(工学)の学位論文として十分な価値を有するものと認める。

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