高温UASB反応器による廃水からの超高速メタンエネルギー回収技術の開発
氏名 多川 正
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第229号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文題目 高温UASB反応器による廃水からの超高速メタンエネルギー回収技術の開発
論文審査委員
主査 教授 原田 秀樹
副査 教授 桃井 清至
副査 助教授 大橋 晶良
副査 助教授 小松 俊哉
副査 岩手大学教授 海田 輝之
副査 木更津工業高等専門学校助教授 上村 繁樹
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1章 序論
1.1 本研究の背景と目的 p.1
1.2 論文の構成 p.5
第1章 参考文献 p.6
2章 既往の研究
2.1 高濃度脂質含有廃水に対する嫌気性廃水処理技術の適用 p.8
2.1.1 脂質の嫌気条件下での分解 p.8
2.1.2 高級脂肪酸の細菌群に対する阻害機構 p.11
2.1.3 高級脂肪酸の嫌気性処理プロセスに及ぼす問題点 p.12
2.1.4 高級脂肪酸阻害緩和策 p.17
2.1.5 脂質含有廃水の嫌気性処理プロセスパフォーマンス p.18
2.2 高温UASB廃水処理プロセスの開発現況 p.22
2.2.1 高温UASBプロセスの開発 p.22
2.2.2 実廃水への適用 p.25
2.2.3 高温UASBグラニュールのメタン生成活性 p.25
2.2.4 高温UASBの最適運転条件と問題点 p.28
2.2.5 高温培養グラニュール汚泥の微生物生態とその構造 p.30
第2章 参考文献 p.32
3章 新規の多段型高温UASB反応器による高濃度脂質含有廃水の嫌気性廃水処理特性と高級脂肪酸の阻害効果
3.1 はじめに p.38
3.2 実験方法 p.39
3.2.1 多段型UASBリアクター p.39
3.2.2 供給廃水 p.40
3.2.3 植種汚泥 p.40
3.2.4 メタン生成活性試験 p.41
3.2.5 バイアルによる高級脂肪酸阻害実験 p.41
3.2.6 SEM及び蛍光顕微鏡観察 p.42
3.2.7 分析方法 p.42
3.3 実験結果及び考察 p.42
3.3.1 多段型UASBリアクター廃水処理特性 p.42
3.3.2 グラニュレーションの進行と保持汚泥性状 p.45
3.3.3 多段型反応器高さ方向における基質・汚泥濃度プロファイル p.50
3.3.4 保持汚泥のメタン生成活性 p.52
3.3.5 高温培養グラニュールの高級脂肪酸阻害特性 p.53
3.4 小括 p.55
第3章 参考文献 p.55
4章 パイロットスケール多段型高温UASB反応器による油揚げ製造廃水のオンサイト実証実験
4.1 はじめに p.59
4.2 廃水の選択と高速嫌気性処理システム導入の意義 p.60
4.3 実験方法 p.61
4.3.1 多段型UASBパイロットスケールプラント p.61
4.3.2 油揚げ製造廃水性状 p.62
4.3.3 植種汚泥 p.64
4.3.4 メタン生成活性試験 p.64
4.3.5 X線回折(XRD)によるグラニュール内無機沈積物分析 p.64
4.3.6 サンプリング及び分析方法 p.64
4.3.7 反応器操作条件 p.65
4.4 実験結果及び考察 p.65
4.4.1 リアクタースタートアップ及び処理特性 p.65
4.4.2 反応器高さ方向のプロファイル及び保持汚泥性状 p.70
4.4.3 メタン生成活性の推移 p.73
4.4.4 酸生成反応による不溶性石鹸の生成 p.74
4.5 小括 p.76
第4章 参考文献 p.77
5章 Fluorescence In-Situ Hybridization (FISH)法による嫌気性汚泥内のメタン生成古細菌群の定量と高温グラニュールの生態学的構造解析
5.1 はじめに p.79
5.2 実験方法 p.80
5.2.1 供試嫌気性汚泥 p.80
5.2.2 グラニュール固定、内側-外側サンプル作成手順 p.80
5.2.3 in situ hybridization法 p.80
5.3 実験結果及び考察 p.81
5.3.1 各種嫌気性汚泥内のメタン生成細菌のポピュレーションサイズ p.81
5.3.2 メタン生成活性とメタン生成細菌存在密度との相関 p.83
5.3.3 高温培養グラニュール内側及び外側におけるメタン生成細菌の分布 p.84
5.4 小括 p.87
第5章 参考文献 p.87
6章 中温グラニュールを植種源とした高温グラニュール初期形成過程における中温性微生物叢のポピュレーションシフト
6.1 はじめに p.89
6.2 実験方法 p.90
6.2.1 UASB反応器 p.90
6.2.2 培養基質 p.90
6.2.3 温度シフト p.90
6.2.4 保持汚泥サンプリングと解析項目 p.91
6.2.5 メタン生成活性試験 p.91
6.2.6 グラニュール汚泥の切片化 p.91
6.2.7 in situ hybridization法 p.92
6.2.8 グラニュール汚泥からのDNA抽出 p.93
6.2.9 PCR及びクローリング p.93
6.2.10 RFLP及び塩基配列決定 p.94
6.2.11 Terminal-Restriction Fragment Length Polymorphisms(T-RFLP) p.94
6.3 実験結果 p.95
6.3.1 温度シフト後のリアクター処理特性 p.95
6.3.2 保持汚泥形態の変遷 p.96
6.3.3 メタン生成活性の推移と温度依存性 p.98
6.3.4 FISH法によるグラニュール汚泥中の中温性、高温性Methanosaetaの動態解析 p.100
6.3.5 中温及び形成されたグラニュール汚泥の各種嫌気性細菌の空間的分布 p.102
6.3.6 中温、高温グラニュール汚泥からのDNA抽出とPCR増幅 p.105
6.3.7 PCR-クローリングによるグラニュール構成微生物のコミュニティー解析 p.106
6.3.8 T-RFLPによる中温性微生物叢のポピュレーションシフト解析 p.112
6.4 考察 p.116
第6章 参考文献 p.119
7章 総括 p.123
謝辞
嫌気性廃水処理は産業廃棄物である余剰汚泥発生量が圧倒的に少なく、またエネルギー消費型廃水処理である好気性処理と異なり、廃水からメタンエネルギーを回収することができ、昨今の省エネルギー・環境保全という観点からは理想的な処理方法として注目されており、今後も着実に稼動実績を伸ばしていくと予想される。現在の嫌気性廃水処理装置の中核技術はUASB (Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法であり、高い処理性能とメンテナンスの容易さから、食品産業廃水を中心に全世界中で約 800基のフルスケールプラントが稼動しており、現在は化学工場廃水などの複雑で難分解な廃水種にまで、その導入が検討されている。
UASB型反応器の導入実績の高い、アルコール蒸留、製缶、紙・パルプ製造工場廃水など、蒸留あるいは煮沸といった熱加工工程からは、80~90℃以上と高温で、濃厚な廃水(BOD濃度で数千~数十万mg・L-1)を排出するため、従来から高温廃水の持つ温度を有効に利用した温度 (50~60℃) UASB法の導入が検討され、中温より数倍高い高負荷運転が可能である見解を得ている。これは、高温メタン発酵槽内に維持される高温嫌気性微生物が、中温微生物と比較して数倍高い代謝活性を有することによるもので、これらの高温嫌気性微生物をこれまでの反応器よりも高濃度に保持することが可能な、新規の反応器を開発することができれば、上記の廃水種のみならず、難分解な廃水種に対しても数倍高速な廃水処理装置となりうる。
本研究に先だって我々の研究グループでは、ガス-バイオマス分離装置の効率化により、高濃度微生物保持を実現した新規の多段型UASB反応器を開発し、アルコール蒸留実廃水を供した連続処理実験で容積負荷100kgCOD・m-3・d-1の超高速処理を実現し、その有効性が実証された。この“超”高速廃水処理装置の実現化は単なる産業廃水処理装置としての役割だけでなく、積極的に廃棄物よりエネルギーを回収する創エネルギーとしての新規産業分野を創造する可能性をも持っている。
そこで本研究では、排水量は年々増大しているにもかかわらず、これまでの嫌気性処理技術では困難視され、適応が見送られていた高濃度脂質、タンパク質及び有機性浮遊物質を含有した廃水種への高温UASB処理技術の適応について、反応器内保持微生物量を飛躍的に増大することが可能な新規の多段型UASB反応器を用いて、各種産業廃水からの積極的なメタンエネルギー回収技術の開発と実現化を目的として研究を行ったものであり、7章から構成される。
第1章では、超高速メタンエネルギー回収技術の開発の意義を明確にし、本研究の目的について言及している。第2章では、現在の処、嫌気性では処理が困難な脂質含有廃水の嫌気性処理特性や特徴、高温UASB法の研究動向及び高温グラニュール汚泥の微生物叢解析について、これまでの知見まとめ、今後解明すべき研究課題を提示し、本研究の目的及び役割を明確に示している。
第3章では、実験室規模の新規の多段型高温UASB反応器を用いて、高濃度脂質含有廃水を供給した長期連続処理実験を行い、流入水中の脂質成分が高温嫌気性処理プロセスに及ぼす影響、及び高温嫌気性微生物叢に対する高級脂肪酸の阻害効果を、連続実験及びバイアルを用いたバッチ実験によって明らかにし、また新規反応器による処理効率の向上を明確に示した。
第4章では、新規の多段型高温UASBプロセスの実現化を目指して、油揚げ製造工場オンサイトにてパイロットスケール規模の多段型高温UASB反応器を設計・製造し、600日間にわたる長期間の連続処理実験を行い、実用化に向けての問題点の抽出と最適な運転条件などを明らかにした。
近年の分子生物学的手法の進歩により嫌気性グラニュール汚泥の構成微生物叢の解析も微生物の属、種レベルまで解析が可能になり、より詳細な情報を得ることが可能となった。そこで第5章では、微生物の持つ16S rRNA遺伝子をターゲットとした蛍光遺伝子プローブを用い、培養温度、廃水種の異なる嫌気性グラニュール内のメタン生成細菌群を定量化し、メタン生成活性との相関関係や、高温グラニュール内におけるメタン生成古細菌の分布を定量化した。
引き続き第6章では、高温UASBプロセスの迅速かつ確実なスタートアップについての基礎的知見の収集のため、安定的に運転されている中温 (35℃) UASB反応器の温度を高温 (55℃) 条件にシフトさせ、温度シフトが中温グラニュールに与える影響や高温グラニュール汚泥のグラニュレーション機構及び構成微生物叢のポピュレーションシフトを、メタン生活活性試験に代表される、従来までのプロセス評価手法と分子生物学的手法の両側面より解析を行い、中温性微生物叢からのポピュレーションシフトをより明確に示した。
7章では本研究で得られた知見をまとめ、今後の高温UASBプロセスの実用性・普及について述べている。