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電子移動型還元反応による活性反応種の生成・制御と有機合成への応用に関する研究

氏名 喜多 圭郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第170号
学位授与の日付 平成13年3月26日
学位論文の題目 電子移動型還元反応による活性反応種の生成・制御と有機合成への応用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 西口 郁三
 副査 教授 塩見 友雄
 副査 教授 五十野 善信
 副査 教授 塚本 伍郎
 副査 助教授 竹中 克彦
 副査 助教授 河原 成元

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目次

総合序論 p.1

参考文献 p.6

第一章 電子移動型反応を用いる種々のカルボニル化合物のシリル化反応
第一節 電子移動型反応を用いるα,β-不飽和カルボニル化合物のシリル化反応
緒言 p.8
結果および考察 p.9
電極還元反応による桂皮酸誘導体のシリル化反応 p.9
金属からの電子移動を用いた還元的シリル化反応 p.11
還元的シリル化反応の反応機構 p.14
α,β-不飽和アミドのジアステレオ選択的な還元的シリル化反応 p.16
実験の部 p.24
参考文献 p.37
第二節 金属MgとMe3SiClを用いるα,β-不飽和カルボニル化合物のハイドロダイマー化によるビス-(シリルエノールエーテル)化合物の合成
緒言 p.39
結果と考察 p.40
実験の部 p.44
参考文献 p.49
第三節 金属Mgを用いる芳香族カルボニル化合物のシリル化反応
緒言 p.50
結果と考察 p.51
実験の部 p.57
参考文献 p.64
第四節 金属Mgを用いる脂肪族カルボニル化合物のシリルエノールエーテル化反応
緒言 p.65
結果と考察 p.66
実験の部 p.74
参考文献 p.79
第五節 反応機構の考察 p.81
実験の部 p.84
参考文献 p.84
第六節 金属Mgを用いる3級アルコールのO-シリル化反応
緒言 p.85
結果と考察 p.85
実験の部 p.89
参考文献 p.92

第二章 電極還元によるジヒドロピリジン類の合成と生成物の有機合成への利用
緒言 p.94
結果と考察 p.96
ピリジンジカルボン酸ジメチルの電極還元反応 p.98
テトラヒドロピリジンへの選択的変換反応 p.102
ジヒドロピリジン5aの還元的シリル化反応 p.104
実験の部 p.106
参考文献 p.114
結言 p.116

謝辞 p.120

 有機合成化学分野において、環境保全が要望されている現在、目的物質をいかにして無公害かつ短いプロセスで効率的に合成することができるかが重要な点である。
 有機電極反応は、穏和な条件下、簡便な操作で“電子”というクリーンな試薬を用いてラジカルイオンなどの特異な反応性を持つ活性種を生成させることができ、また、反応条件を変えることで、それらを容易に制御できることが知られている。
 一方、Na、Li、Mgなどの典型金属やSm、Ybなどの希土類元素はそれ自身高い還元ポテンシャルを持ち、電極還元反応と同様に、その他の有機分子に電子を与える能力を持っている。
 本研究では、電極あるいは、金属Mg表面からの電子移動反応を用いる種々のカルボニル化合物のシリル化反応を検討し、新しい有機ケイ素化合物合成法の開発を行った。また、ピリジンジカルボン酸誘導体に対して電極還元反応を行い、位置選択的な水素添加反応により、医農薬中間体として有用なジヒドロピリジン類が高収率で得られることを見いだした。
 第一章では、電極反応あるいは金属(主にMg)表面からの種々の活性オレフィンやカルボニル化合物への電子移動反応により生じた反応活性種(ラジカル、アニオンあるいはアニオンラジカル)をトリアルキルクロロシランで求電子的に捕捉することで高選択的な還元的シリル化反応が起こり、有機合成上有用な種々の有機ケイ素化合物を合成することを検討した。
 第一章第一節ではトリアルキルクロロシランをシリル化剤として用いて、桂皮酸誘導体のような、β位に芳香族置換基を持つα,β-不飽和カルボニル化合物の還元的シリル化反応について検討した。電解法では金属Mgを電極に用いることで反応装置に無隔膜セルを用いる簡便な方法を開発した。その結果、位置選択的にβ-位にシリル基が還元付加した化合物が30-79%合成できることを見いだした。
 また、金属表面からの電子移動反応を用いる、電気の通電を必要としない、還元的シリル化法を検討し、入手が極めて容易な金属Mg(通常の Grignard 反応用削状)を用いることで、電解法と同様の還元的β-シリル化反応が常温常圧下、電解法と同程度の収率で進行した。
 さらに本反応を利用して光学活性なアミド基を持つ桂皮酸誘導体を基質として、ジアステレオ選択的なシリル化反応を検討し、最高52%deでβ-位のシリル基を不斉に導入することができた。この方法は5原子も離れた位置の不斉点が反応に関与しており、興味深いと思われる。
 第二、第三および第四節では、第一節で開発したDMF 中で金属Mg存在下、トリアルキルクロロシランをシリル化剤として用いる方法を、種々のカルボニル化合物に対して適用した反応した結果について述べた。芳香族カルボニル化合物からは、カルボニル基の炭素原子および酸素原子にそれぞれシリル基が結合したジシリル化合物が高収率で得られ、また、脂肪族カルボニル化合物からは、対応するシリルエノールエーテルが、さらに脂肪族α,β-不飽和カルボニル化合物からはハイドロダイマー化したビスシリルエノールエーテルがそれぞれ高い収率で選択的に得られた。このように本条件下では、用いるカルボニル化合物によってシリル化生成物が全く異なるということが明らかになった。
 第五節では、第一節から第四節で明らかになった生成物の選択性の違いについて考察した。それぞれの基質における還元電位の差が反応機構および生成物に影響を与えているのだと推察している。
 第二章では第一章で見い出したトリアルキルクロロシラン/Mg/DMF を用いる条件をアルコール類に対して適用し、1級や2級アルコールだけでなく、立体的に混み合った3級アルコールでも簡便に、かつ高収率(77-99%)で対応するシリルエーテル化合物へ誘導きることが判明した。
 第三章ではピリジンジカルボン酸ジメチルのメタノール中、隔膜付き電解セルを用いる電極還元反応について検討した。その結果、選択的な水素添加により、対応するジヒドロピリジン類が67-92%という良好な収率で合成できることを見いだした。
 水素添加位置の選択性は、置換しているカルボメトキシ基の位置によって影響され、例えば、2,3-および2,5-ピリジンジカルボン酸ジメチルの還元反応からは、それぞれ1,2-ジヒドロピリジン化合物が得られるが、2,6-、3,4-および2,4-ピリジンジカルボン酸ジメチルからは対応する1,4-ジヒドロピリジン類が選択的に得られることが判明した。
 またさらに、得られたジヒドロピリジン誘導体の、活性オレフィン部位への種々の還元法による水素添加反応や、第一章で見いだしたトリアルキルクロロシラン/Mg/DMF を用いるシリル化反応を検討し、選択的にテトラヒドロピリジン類を得る合成法を開発することができた。

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