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糖蜜廃液の脱色処理に関する研究

氏名 長野 晃弘
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第163号
学位授与の日付 平成12年12月13日
学位論文の題目 糖蜜廃液の脱色処理に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 原田 秀樹
 副査 教授 桃井 清至
 副査 教授 森川 康
 副査 助教授 大橋 晶良
 副査 助教授 小松 俊哉

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目次

第一章 総論 p.1
第1節 研究の目的 p.1
第2節 本論文の構成 p.2

第二章 研究の背景と既往の研究 p.4
第1節 糖蜜と糖蜜廃液 p.4
2.1.1 糖蜜とその利用 p.4
2.1.2 糖蜜廃液 p.5
参考文献 p.7
第2節 糖蜜廃液とその脱色方法 p.8
2.2.1 物理化学的処理法 p.8
2.2.2 化学的酸化法 p.14
2.2.3 熱処理法 p.15
参考文献 p.17
第3節 糖蜜色素の微生物脱色 p.19
2.3.1 微生物脱色の原理 p.19
2.3.2 糖蜜色素を脱色する微生物脱色の既往の研究 p.19
2.3.3 微生物脱色の特性 p.21
参考文献 p.23
第4節 電気分解による脱色方法 p.26
2.4.1 電気分解を使った脱色 p.26
2.4.2 電解脱色の原理とパラメータ p.27
参考文献 p.35

第三章 微生物を用いた糖蜜廃液の脱色処理 p.37
第1節 ミセリア.ステリリアを使った糖蜜廃液の脱色原理 p.37
3.1.1 はじめに p.37
3.1.2 実験方法 p.38
3.1.3 分析方法 p.39
3.1.4 実験結果と考察 p.40
3.1.5 小括 p.45
参考文献 p.46
第2節 糖蜜アルコール脱色処理におけるポリフェノールの脱色特性 p.48
3.2.1 はじめに p.48
3.2.2 材料と方法 p.48
3.2.3 結果 p.50
3.2.4 考察 p.53
3.2.5 小括 p.55
参考文献 p.57

第四章 電気分解を利用した糖蜜廃液の脱色処理 p.59
第1節 脱色効率に及ぼす電解条件の影響 p.59
4.1.1 はじめに p.59
4.1.2 実験方法 p.60
4.1.3 実験結果および考察 p.62
4.1.4 小括 p.68
参考文献 p.70
第2節 糖蜜色素の脱色特性と電解質の種類の影響 p.72
4.2.1 はじめに p.72
4.2.2 実験方法 p.72
4.2.3 実験結果及び考察 p.76
4.2.4 小括 p.83
参考文献 p.85
第3節 電極材料の影響と実用化の検討 p.86
4.3.1 はじめに p.86
4.3.2 実験方法 p.87
4.3.3 実験結果および考察 p.90
4.3.4 小括 p.96
参考文献 p.97

第五章 総括 p.98
第1節 糖蜜廃液の脱色処理結果の総括 p.98
5.1.1 生物学的脱色方法の総括 p.98
5.1.2 電気分解による脱色方法の総括 p.99
第2節 糖蜜とその利用技術に関する提言 p.102

論文リスト p.104

謝辞

 糖蜜は、さとうきびや甜菜を原料として蔗糖を生産する過程で副産物として生産される。この糖蜜の中には、精製されずに残った糖質が高濃度に含まれるため、安価な発酵原料としてアルコールやアミノ酸などの生産原料として利用される。しかしながら、糖蜜中には、原料に由来する蛋白質やポリフェノール類に加え、精製や加工の過程で褐色の色素が生じる。これらの色素は生物分解をされない性質であり、有機物を分解する生物処理では分解することができず排水処理後の処理液にそのまま移行してしまう。この色素は非常に着色が強く、色度は下水処理場の処理水の数万倍にも達する。この液を直接河川や近海に放流すると、環境中の水が茶褐色に染まってしまい、景観を著しく損なってしまう。そのため、これまでは外洋に海洋投棄されてきたが、海洋投棄を禁止するロンドン条約の発効により他の処分方法を模索する必要がでてきた。
 これまでに凝集や活性炭吸着などの物理化学的手法によって処理の研究がなされたが、汚泥等の二次廃棄物が生成するため、実用化されていない。このような二次廃棄物を生成しないようにするためには、色素を酸化分解することが望まれ、オゾン酸化についても研究されてきた。本論文では、微生物による脱色方法と電気分解による脱色方法について検討した。
 微生物による脱色方法は、生物難分解性の糖蜜由来の色素を分解できる特殊微生物によって脱色する方法で、当初は担子菌類のなかの白色腐朽菌とよばれるサルノコシカケ科の微生物にその特性があることが知られていた。それを機に多くの脱色活性をもつ微生物が検索された。その中から、無胞子不完全菌のMycelia sterilia M-1株を選出した。この菌は、単一菌で90%を越える脱色率を示した。また、他の脱色菌と異なりコストのかかる有機窒素源を要求しない点についても優れている。また、この菌は低分子量から高分子量の幅広い色素を脱色することができることがわかった。同時にpHを制御すると脱色率が著しく低下した。そこで、pHについてさらに詳細に検討し、脱色過程で着色を伴ったpH上昇と脱色を伴ったpH低下の反応があることを見いだした。この現象に着目することで、M-1が高度に脱色するメカニズムについて探る端緒を得た。糖蜜廃液を脱色する過去の研究においてはメラノイジンの脱色が主眼であった。メラノイジンは抗酸化物質であり、メラノイジンを酸化脱色できることは糖蜜脱色菌の検索の必要条件である。しかしながら、メラノイジンのみの脱色では実際の処理過程で着色が生じて十分な脱色ができなかったり、処理後に着色が起こったりする。その原因の一端は、ポリフェノール類にあることを見いだした。ポリフェノールは糖蜜を構成する色素の中では分子量1万以下の比較的低分子の色素で、酸化の過程で著しい着色を生じる。また、着色の際pHの上昇を伴い、pHが上昇することで酸化が促進されることを示した。また、着色を生じたポリフェノール酸化物はメラニンに似た物質であり、この物質がさらに酸化され脱色していく過程でpHが低下することを DOPA を使ったモデル実験によって明らかにした。pHの低下はカルボン酸の生成によるものであることを赤外分析スペクトルの変化によって裏付けた。このような糖蜜廃液の成分組成と脱色反応に関する知見は、実用的な処理方法の検討として電気分解による脱色の検討にも強く受け継がれている。しかしながら、脱色活性の発現にはグルコース等の栄養源が必要で実用化にまで踏み込むことはできなかった。
 電気分解による脱色は、M-1が脱色するときに細菌類のコンタミネーションを嫌うため電解による前処理を実験したときに見いだした。その後、文献調査等を行い電気分解による脱色手法は、1980年代後半より検討が行われており、染色廃液の脱色の研究が非常に有望であることを見いだした。電気分解を行うと電気エネルギーの消費が問題になることから、電気エネルギーの消費量を削減する条件について検討を進めた。実験により、脱色できる量は電気量に依存し、電気分解を起こす電圧さえあれば電圧に依存しなおすことを実験で確かめた。これにより電気エネルギーをかなり削減できる目処をえた。さらに塩化ナトリウムを添加するなどして溶液中の塩素イオン濃度を高めてやると、同じ電気量でも多くの色を脱色できることを明らかにした。このような効果は、硫酸イオンや炭酸イオンでは得られなかった。これらの脱色条件は、アルコール蒸留廃液を中心に検討を行ったが、精糖工場におけるイオン交換排水の再生水やグルタミン酸製造工場廃水、甜菜糖の工程液についても適用できることを示した。さらに、色素成分についても脱色特性を検討し、アルコール蒸留廃液の脱色特性はカラメルに近いことがわかった。脱色反応が陰極において発現すること、脱色時に陽極からは、ほとんど理論電解量に近い水素が回収され、陰極から発生するガスは酸素と二酸化炭素であることを実験により明らかにした。また、酸素の発生量が多くなると、脱色の効率が低下することも見出した。塩素イオン存在下で、酸素の発生量を抑えるためには、電極材料が重要であるが、これまでの実験で使用した白金に加え、他の4種類の材料で電極を作成し、酸化パラジウムとグラファイトが酸素発生を抑制して脱色効率を増加させることがわかった。さらに、グルタミン酸排水の処理方法について、パイロットスケールの実験を実施し、メタン発酵処理後海水で希釈したものを脱色する方法が有効であることを示した。これにより有効な糖蜜廃液処理のトータルシステムを構築した。実験で行った条件において試算を行い、電気分解脱色に必要なエネルギーの70%を回収したメタンガスと水素を原料に発電することでまかなえることがわかった。これらの結果から技術を実用化できる可能性が高まった。

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