PC床版連続合成2主桁橋の合理的設計、施工法の開発研究
氏名 大垣 賀津雄
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第159号
学位授与の日付 平成12年12月13日
学位論文題目 PC床版連続合成2主桁橋の合理的設計、施工法の開発研究
論文審査委員
主査 教授 長井 正嗣
副査 教授 林 正
副査 教授 丸山 久一
副査 早稲田大学教授 依田 照彦
副査 埼玉大学助教授 奥井 義昭
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本文で用いた記号一覧
第1章 緒論 p.1
1.1 研究の背景と意義 p.1
1.2 鋼桁橋の構造変遷 p.2
1.3 経済性と長寿命化を目指した合成2主桁橋の誕生 p.3
1.4 本研究の目的 p.4
1.5 本論文の内容 p.5
参考文献 p.6
第2章 連続合成2主桁橋の立体挙動と横桁配置に関する研究 p.11
2.1 緒言 p.11
2.2 解析内容 p.11
2.2.1 解析モデル p.11
2.2.2 荷重 p.14
2.3 予備解析 p.17
2.3.1 鋼桁モデルに関する検証 p.17
2.3.2 合成桁モデルに関する検証 p.17
2.3.3 断面変形の影響検討 p.18
2.4 構造各部の特性 p.19
2.4.1 主桁応力度 p.19
2.4.2 横桁応力度 p.20
2.4.3 床版橋軸直角方向応力度 p.21
2.5 パラメータ解析結果 p.22
2.5.1 下フランジ橋軸直角方向変位 p.22
2.5.2 下フランジ水平曲げ応力 p.22
2.5.3 横桁軸引張応力 p.25
2.5.4 ずれ止め作用偶力 p.25
2.6 横桁作用力の計算法検討 p.28
2.6.1 横桁軸力のFEM解析結果 p.28
2.6.2 横桁軸力の簡易計算法 p.29
2.6.3 FEM解析とFRAME計算の比較 p.30
2.7 ずれ止め作用偶力と最適横桁間隔の検討 p.30
2.7.1 横桁間隔とずれ止め作用偶力 p.30
2.7.2 ずれ止めの引抜き照査検討 p.30
2.7.3 最適横桁間隔の検討 p.32
2.8 結言 p.32
参考文献 p.33
第3章 合成2主桁橋のずれ止め設計法に関する研究 p.35
3.1 緒言 p.35
3.2 ずれ止め設計法に着目した構造解析 p.35
3.2.1 解析内容 p.35
3.2.2 荷重 p.36
3.2.3 荷重の組合せ p.37
3.2.4 ずれ止め作用力 p.38
3.3 床版-鋼桁接合部に関する実験的研究 p.42
3.3.1 実験内容 p.42
3.3.2 実験結果と考察 p.48
3.3.3 引抜きせん断耐力評価方法 p.59
3.4 ずれ止め作用応力の簡易計算法 p.63
3.4.1 軸方向応力の評価(簡易計算モデル) p.63
3.4.2 曲げ応力の評価 p.67
3.5 ずれ止め設計法の検討 p.67
3.5.1 ずれ止め作用力の評価 p.67
3.5.2 引抜きせん断耐力 p.68
3.5.3 ずれ止め設計手順 p.68
3.5.4 ずれ止め設計上の留意点と今後の課題 p.69
3.6 結言 p.70
参考文献 p.70
第4章 合成2主桁橋の鋼桁補剛設計法の合理化に関する研究 p.73
4.1 緒言 p.73
4.2 鋼桁補剛設計法に関する既往の研究 p.73
4.3 鋼桁少補剛薄板化設計法に関する実験研究 p.75
4.3.1 研究対象とした橋梁概要 p.75
4.3.2 少補剛薄板化設計の考え方 p.76
4.3.3 実験の概要 p.77
4.3.4 曲げ載荷実験の結果および考察 p.82
4.3.5 せん断載荷実験の結果および考察 p.88
4.3.6 載荷実験のまとめ p.90
4.4 鋼桁少補剛薄板化設計法 p.91
4.4.1 安全性の照査 p.91
4.4.2 設計上の適用方法 p.92
4.4.3 今後の課題 p.94
4.5 結言 p.94
参考文献 p.95
第5章 少補剛薄板化設計された合成2主桁橋の施工時安定性に関する解析的研究 p.99
5.1 緒言 p.99
5.2 研究対象とした橋梁の施工法 p.100
5.2.1 研究対象とした橋梁概要 p.100
5.2.2 鋼桁送出し架設 p.100
5.2.3 PC床版施工 p.101
5.3 施工上の留意点と照査方法 p.102
5.3.1 鋼桁送出し架設 p.102
5.3.2 PC床版施工 p.104
5.4 施工時の安定性解析 p.104
5.4.1 送出し架設 p.104
5.4.2 PC床版施工 p.108
5.4.3 今後の課題 p.111
5.5 結言 p.111
参考文献 p.112
第6章 PC床版連続合成2主桁橋の合理的設計・施工法 p.115
6.1 緒言 p.115
6.2 PC床版の設計・施工 p.116
6.2.1 床版形状 p.116
6.2.2 橋軸直角方向の設計 p.117
6.2.3 橋軸方向の設計 p.118
6.2.4 PC床版施工方法を反映した構造詳細 p.119
6.2.5 PC緊張管理 p.120
6.3 連続合成桁の設計・施工 p.121
6.3.1 プレストレスしない連続合成桁 p.121
6.3.2 連続合成桁の設計方針 p.121
6.3.3 ジャッキアップダウンによる橋軸方向プレストレス p.124
6.4 鋼桁部材の設計・施工 p.127
6.4.1 支間中央部の少補剛薄板化設計 p.127
6.4.2 中間支点部付近の鋼桁の安定性 p.129
6.5 ずれ止め設計・施工 p.133
6.5.1 ずれ止め設計手順 p.133
6.5.2 床版時施工時の界面剥離 p.134
6.6 結言 p.137
参考文献 p.137
第7章 結論 p.141
謝辞 p.145
本論文は,経済性の達成ならびに耐久性の向上という観点から,ここ数年で最も有力な橋梁形式の一つとして関係各所で注目され,設計施工事例が増加しつつあるPC床版を有する連続合成2主桁橋を対象に,その合理的な設計法や施工法の確立に資するために実施した一連の実験的ならびに数値解析的研究についてまとめたものである.本論文中では,PC床版2主桁橋の設計手法の提案が行われるとともに,設計,施工計画上の留意点が述べられており,この種の2主桁橋の設計,施工計画を行う上で,大きく貢献するものであるといえる.本論文は7章より構成されており,各章ごとの要旨は,以下の通りである.
第1章では,本研究の背景と鋼桁橋の構造の歴史的な変遷を概述した上で,本研究の対象とした合成2主桁橋が経済性と長寿命化を同時に達成し得る優れた構造形式であることを示した.本形式の橋梁が新しい形式であることから,その設計,施工法を早期に確立することの重要性を説明し,合理的設計法,施工法を確立する上で重要となる諸課題を整理した.
第2章では,広幅員合成2主桁橋の立体FEM解析を実施し,主に横桁配置の違いに起因する立体的力学挙動を明らかにした.横桁配置の変化は,下フランジの水平変位で評価した断面変形量,主桁のねじり変位,断面変形に伴う下フランジの付加応力および中間横桁軸力などに影響を与えるが,それらの物理量の変化は小さいことを示した.また中間横桁の応力は,横桁が上方に配置されるほど,また横桁間隔が広がるほど大きくなるが,常時荷重に対する応力は大きな値にならないことを示した.あわせて常時荷重に対する横桁発生軸力が評価できる簡単な骨組計算法を提案した.一方,ずれ止めには橋軸直角方向の曲げ引抜き力が横桁位置に集中して生じ,その値は横桁間隔の影響を受けており,設計上重要な検討課題となることを明らかにした.
第3章では,広幅員合成2主桁橋の橋軸直角方向の曲げモーメントにより,横桁位置近傍のスタッドに発生する軸方向応力および曲げ応力分布を実験的に明らかにした.スタッドが長く密に配置されるほど床版の変形性能(ねばり強さ)が大きくなることと,床版の橋軸直角方向応力は垂直補剛材近傍でスタッド高さや配置によって大きな差異が生じることを明らかにした.スタッド付近のコンクリートの破壊形態は,腹板上および最外側に配置されたスタッドの引抜きせん断破壊面が重複結合した台形形状となり,その事実に基づき終局強度計算方法を提案した.さらに,スタッド発生応力を求める簡易計算方法を提案し,ほぼ妥当な値が算出できることを示した.最後に,PC床版合成2主桁橋のずれ止め設計方法を提案するとともに,設計上の留意点をまとめた.
第4章では,合成2主桁橋の腹板補剛設計に関して,実験,解析による検討を行い,少補剛薄板化の合理性と,安全性照査方法や適用に当たっての条件等を示した.耐荷力実験から,アスペクト比α=3.0をもつ合成桁の終局曲げ耐荷力Muは,初期降伏モーメントMyより大きいことを示した.同様に,アスペクト比α=3.0の場合いおいても,腹板の終局せん断耐力Quは,Baslerの提案式で評価可能であることを示した.また支間部で正曲げモーメントを受け,床板と鋼桁が十分合成されている鋼桁の腹板は,フランジと腹板の降伏限界幅厚比の考え方を採用し,腹板厚を低減させてもよいことを示した.さらに,少補剛薄板化設計適用事例を示し,比較設計を実施して本設計法の適用効果を確認するとともに,その適用条件を定義した.
第5章では,上述の少補剛薄板化設計を適用した合成2主桁橋を対象に,施工時安定性に関する解析検討を行い,床版が合成されるまでの鋼桁全体座屈や腹板の局部座屈現象などに対する安定性照査法を示した.具体的には,床版コンクリートが十分硬化するまでの鋼桁は不安定になりやすいことから,送出し架設時において,エレクションノーズや,仮横構等の有効性を示すとともに,安定性照査フローチャートを示した.更に,鉛直方向局部荷重を受ける腹板の合理的照査方法を提案し,送出し架設時のために新たに必要となる垂直補剛材を減らすことが可能となることを示した.また有限変位理論による立体FEM解析により,橋梁全体の安全性を確認した検討事例を示した.
第6章では,PC床版連続合成2主桁橋の設計・施工上の留意点をまとめた.PC床版については,床版厚とハンチ形状,床版の死荷重曲げモーメント,PRC床版,中間支点部橋軸方向床版に関する設計の考え方等を示した.また連続合成桁については,プレストレスしない連続合成桁の合理性を紹介し,連続合成桁設計における荷重組合せ,床版打設順序,中間支点部の主桁仮定剛度,合成断面計算方法,クリープ,乾燥収縮の考え方等について示した.鋼桁部材については,FEM解析検討から得られた中間支点付近の鋼部材の安定性に関する検討結果と,中間横桁の所要剛度の考え方を示した.さらに,ずれ止めについては,その設計手順を示すとともに,鋼桁上フランジとコンクリート床版界面部分の応力性状等を解析ならびに実測から明らかにした.
最後に,第7章では,本論文で得られた結論をまとめた.