遊星歯車装置内浮動歯車軸のセルフセンタリングと特異振動に関する研究
氏名 吉野 正信
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第161号
学位授与の日付 平成12年12月13日
学位論文の題目 遊星歯車装置内浮動歯車軸のセルフセンタリングと特異振動に関する研究
論文審査委員
主査 教授 矢鍋 重夫
副査 教授 久曽神 煌
副査 教授 金子 覚
副査 助教授 田辺 郁男
副査 助教授 太田 浩之
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目次
第1章 緒論 p.1
1.1 はじめに p.1
1.2 遊星歯車装置の荷重等配機構および振動に関する従来の研究 p.2
1.3 本研究の目的および本論文の構成 p.5
1.4 本論文で用いる主な記号 p.8
第2章 浮動太陽歯車軸のセンタリングおよび特異振動に関する実験 p.10
2.1 はじめに p.10
2.2 実験装置および実験方法 p.11
2.3 太陽歯車軸の可動範囲とセルフセンタリング軌跡 p.17
2.3.1 可動範囲 p.17
2.3.2 セルフセンタリング軌跡 p.18
2.3.3 静トルクとセルフセンタリング軌跡 p.20
2.4 太陽歯車の特異振動 p.22
2.4.1 太陽歯車軸の横振動応答 p.22
2.4.2 特異振動軌跡とセルフセンタリング軌跡 p.25
2.4.3 振動の周波数分析結果 p.27
2.4.4 太陽歯車軸の付加質量が特異振動応答に及ぼす影響 p.29
2.4.5 モータ側軸継手のねじり剛性が特異振動応答に及ぼす影響 p.31
2.4.6 太陽歯車軸横振動・軸系のねじり振動同時測定 p.32
2.4.7 打撃実験による系の固有振動数 p.35
2.4.8 振動応答と固有振動数の関係および特異振動発生機構 p.36
2.4.9 特異振動のトルク依存性 p.41
2.5 まとめ p.44
第3章 セルフセンタリングに関する静解析 p.46
3.1 はじめに p.46
3.2 可動範囲について p.47
3.2.1 可動範囲の計算法 p.48
3.2.2 計算結果と実験結果の比較 p.54
3.3 セルフセンタリング軌跡について p.55
3.3.1 セルフセンタリング過程における歯面のかみあい状態の変化 p.57
3.3.2 セルフセンタリング軌跡の計算 p.57
3.3.3 静的トルクと歯面力の関係(摩擦が小さい場合) p.62
3.3.4 歯面摩擦力の影響 p.66
3.4 まとめ p.68
第4章 実験に用いた回転軸系の力学モデルとパラメータの同定 p.69
4.1 はじめに p.69
4.2 実験に用いた回転軸系の力学モデル p.70
4.3 パラメータの同定 p.72
4.3.1 モータ側ダイアフラム継手のねじり剛性 p.73
4.3.2 遊星歯車支持用弾性ピンの横剛性 p.74
4.3.3 歯車およびスプラインのかみあいばね定数の同定 p.75
4.4 解析結果 p.76
4.4.1 軸系全体の固有振動数及びモード形状 p.76
4.4.2 主なばね定数の固有振動数への影響 p.78
4.5 まとめ p.81
第5章 簡易モデルによるシミュレーション p.82
5.1 はじめに p.82
5.2 簡易モデルおよび運動方程式 p.83
5.3 セルフセンタリングのシミュレーション結果 p.89
5.4 特異振動のシミュレーション結果 p.96
5.5 まとめ p.102
第6章 歯面間摩擦力を考慮した簡易モデルによるシミュレーション p.103
6.1 はじめに p.103
6.2 歯面間静摩擦係数測定 p.104
6.3 簡易モデルおよび運動方程式 p.107
6.4 シミュレーション結果および実験結果との比較 p.112
6.4.1 セルフセンタリング軌跡 p.112
6.4.2 セルフセンタリング過程における歯面力と摩擦力 p.115
6.4.3 特異振動軌跡 p.117
6.4.4 特異振動時における歯面力と摩擦力 p.121
6.5 まとめ p.124
第7章 軸系全体モデルによるシミュレーション p.125
7.1 はじめに p.125
7.2 全体モデルおよび運動方程式 p.126
7.3 シミュレーション結果 p.134
7.3.1 振動軌跡・振動波形および歯面かみあい力の計算結果 p.134
7.3.2 振動応答曲線の計算結果 p.137
7.4 シミュレーション結果と実験結果の比較 p.139
7.4.1 振動波形・振動軌跡 p.139
7.4.2 応答曲線 p.142
7.5 まとめ p.144
第8章 特異振動発生防止について p.145
8.1 はじめに p.145
8.2 特異振動発生メカニズムと防止策の概要 p.146
8.3 数値検討例 p.147
8.3.1 ダイアフラムカップリングのねじり剛性 Kt変更による固有振動数の変化 p.146
8.3.2 遊星歯車指示用弾性ピンの横方向ばね定数Kp変更による固有振動数変化 p.148
8.3.3 加振トルクTdの減少 p.149
8.4 まとめ p.151
第9章 結論 p.152
参考文献 p.159
遊星歯車装置は、入出力軸を同一線上に配置できる、遊星歯車間の荷重等配が実現できれば大きなトルクを伝達できる、速比に対して装置を小さく設計できる等の利点があり、ガスタービン発電機や蒸気タービン等の減速機として広く利用されている。速比や入出力軸の選び方に関して種々の歯車配置が提案されているが、遊星歯車を歯車ケースに固定したスター型が多い。荷重等配機構には、遊星歯車を弾性ピンやすべり軸受油膜で支持する方式および太陽歯車や内歯車の軸を軸受でなく遊星歯車とのかみ合いで支持する浮動歯車方式等がある。
本論文は、浮動太陽歯車軸をもつ1段スター型遊星歯車装置(遊星歯車3個、120°等間隔配置)を研究対象とし、この装置で特徴的に発生する浮動太陽歯車軸に回転開始時におけるセルフセンタリング特性および高速域における特異横振動について、その特性を実験的に明らかにするとともに、発生メカニズムについて考察している。あわせて、こうした現象を数値シミュレーションするための計算モデルを提案し、得られた結果がほぼ実験結果を説明し得ること、また、新たな知見を示唆することを述べ、最後に、特異振動発生防止に関する指針を示している。
本論文は以下の9章から成っている。
第1章“緒論”では、遊星歯車装置の構造・振動等に関連するこれまでの研究をレビューし、解明すべき事項を明確にするとともに、本研究の目的、位置付けについて述べている。
第2章“セルフセンタリングおよび特異振動に関する実験”では、浮動太陽歯車軸の可動範囲、セルフセンタリング軌跡および特異横振動応答・軌跡を種々の条件下で測定し、(1)可動範囲の境界は、3遊星の場合六角形、2遊星の場合台形であること、(2)セルフセンタリング軌跡は、3遊星の場合、歯面間摩擦力の大小によって異なるが、これが大きい場合、初期位置に依存する無数の経路が存在すること、2遊星の場合は、1本の折れ線の経路しか存在しないこと、(3)特異振動の発生回転速度は伝達トルクが大きいほど高速になること、主たる振動成分は内歯車回転速度の3倍の振動数であること、特異横振動の軌跡は、2遊星の場合、セルフセンタリング軌跡に極めてよく一致していること、特異横振動時のねじり振動は共振状態にあること、等を明らかにしている。以上から、浮動太陽歯車軸の特異横振動は、軸系のねじり共振時に歯車の歯面分離が生じ、太陽軸が支えを失って落下した後、再びセルフセンタリングする現象として理解できることを示している。
第3章“セルフセンタリングに関する静解析”では、まず、各種条件下で浮動太陽歯車が遊星歯車と接触しながら運動する軌跡として、可動範囲の境界やセルフセンタリング軌跡が計算から求まることを示している。次に、セルフセンタリング過程における各歯車のかみあい状態を明らかにし、これを基に、太陽歯車に作用する自重、歯面力、付加トルクのつりあい式を得ている。これらを解いて、付加トルクに対する各歯面力の変化やセルフセンタリングに必要な最小トルク式を導き、これらの結果が実験とよく一致することを示している。
第4章“シミュレーションのための実験系パラメータの同定”では、実験や計算を通して、カップリング、遊星歯車支持ピン、歯対のかみあい等のばね剛性を同定するとともに、これらの値を用いて実験系に対応する計算モデルの線形固有値解析を行っている。その結果、太陽と遊星歯車間に節をもつねじり1次モードの固有振動数が、特異横振動の振動数に近いことを示している。
第5章“粘性減衰力を考慮した簡易モデル系のシミュレーション”では、x,y,θの3自由度をもつ太陽歯車を、バックラッシをもつ6個のかみあいばねで支持した簡易モデルを考える。ここで、系には、重力、一定伝達トルク、加振トルク、粘性減衰力が作用するものとして運動方程式を導き、これらをルンゲ・クッタ法で数値積分することにより、歯面間摩擦力が小さい場合のセルフセンタリング軌跡や特異横振動の時刻歴・軌跡などを求めている。これらの結果は、おおむね実験と一致することが示される。
第6章「歯面間摩擦力を考慮した簡易モデル系のシミュレーション」では、前章の簡易モデルで、粘性減衰力を歯面間摩擦力に置き換えて計算を行っている。その結果、浮動太陽歯車の初期位置に依存する無数のセルフセンタリング経路が計算でき、特異横振動の計算も計算時間はかなり長くなるものの、前章とほぼ同様の特異横振動軌跡が得られることを示している。
第7章「粘性減衰力を考慮した軸系全体モデルのシミュレーション」では、軸系全体を15自由度系でモデル化し、5章と同様な計算を行っている。特異横振動発生時および正常振動時の振動の時刻歴、振動軌跡、応答曲線などを求め実験と比較し、特異振動はねじり共振時に発生するため、各要素のθ変位が大きな変動を示すほか、間欠的に歯面分離が生じ、太陽歯車のx,y,θ変位、遊星歯車の周方向変位は大きく複雑に変化することなどを明らかにしている。
第8章「特異振動発生防止について」では、浮動太陽歯車の歯面分離を防ぐ観点から、系に作用する加振トルクを小さくする、減衰力や伝達トルクを大きくする、ねじり共振を運転速度範囲外にする方策として、各部のばね剛性を高めることなどが考えられることを示している。
第9章“結論”では、各章で得られた結果をまとめて述べている。