本文ここから

誘導電動機センサレスベクトル制御の高速・高精度化とその応用に関する研究

氏名 宮下 一郎
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第155号
学位授与の日付 平成12年6月21日
学位論文題目 誘導電動機センサレスベクトル制御の高速・高精度化とその応用に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 高橋 勲
 副査 教授 近藤 正示
 副査 助教授 大石 潔
 副査 助教授 野口 敏彦
 副査 明治大学助教授 久保田 寿夫

平成12(2000)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

第1章 序論 p.1
1.1 研究の背景 p.1
1.2 研究の目的 p.4
1.3 本論文の概要 p.5

第2章 誘導電動機の種々のセンサレスベクトル制御法と本研究の手法 p.10
2.1 まえがき p.10
2.2 誘導電動機ベクトル制御の原理 p.11
2.3 高速直接トルク制御の原理 p.13
2.4 トルク成分電流帰還を用いた速度推定法 p.19
2.5 モデル規範適応制御を利用した速度推定法 p.25
2.6 直接速度推定法 p.30
2.7 従来方法の問題点と本研究の位置づけ p.33
2.8 むすび p.36

第3章 センサレス高速トルク制御法とその高性能化 p.40
3.1 まえがき p.40
3.2 従来の高速トルク制御法の問題点 p.41
3.3 本論文での高速トルク制御法の原理 p.43
3.4 制御遅れへの補償方策 p.48
3.5 試験結果 p.50
3.6 再始動方法 p.60
3.7 むすび p.62

第4章 誘導電動機のセンサレス速度制御法とその高精度化 p.65
4.1 まえがき p.65
4.2 新しい磁束、トルク、速度の高性能推定法とその制御方式の原理 p.66
4.3 誘導電動機パラメータ計測方式 p.76
4.4 二次抵抗R2オンライン同定法 p.79
4.5 制御特性(実験結果) p.88
4.6 むすび p.98

第5章 センサレスベクトル制御法の拡張 p.102
5.1 まえがき p.102
5.2 高速直接トルク制御のリニアモータカーへの応用 p.106
5.3 センサレス速度演算を用いたパルスジェネレータの低速補間法 p.117
5.4 むすび p.125

第6章 センサレスベクトル制御の産業応用 p.129
6.1 まえがき p.129
6.2 新聞輪転機への適用例 p.130
6.3 印刷機への適用例 p.133
6.4 製紙機(塗工機)への適用例 p.134
6.5 パルプ抄取機への適用例 p.136
6.6 製鉄機械のロール組替台車への適用例 p.137
6.7 むすび p.139

第7章 結論 p.142
7.1 本研究の成果 p.142
7.2 今後の展望 p.145

謝辞 p.146

著者の発表論文 p.147

付録 変数と定数の定義 p.154

 本論文は7章から構成されている。
 第1章は本論文の序論として,電動力応用分野における可変速駆動方式の歴史的背景を述べるとともに,かご形誘導電動機を速度センサなしでトルク及び速度制御するドライブシステムが産業界から期待されている理由,及び可変速駆動方式のなかでどのような位置づけをされるかを明らかにする。
 第2章は本研究と目的を同じくする他の速度センサレスベクトル制御を概観すると,いくつかの典型的なシステムに分類することができる。多くの研究者が試みているモデル規範形適応制御システムを用いた速度推定法は,理論的に明快な安定性定理に基づくものであるが,速度制御系の過渡応答・安定性の点で検討の余地を残すことがわかった。
 一方瞬時ベクトル理論を応用したトルク及び速度演算は,従来のベクトル制御過渡応答・安定性が良好である。これより著者は,速度信号の導出を過渡応答がよい瞬時ベクトルによる速度演算で行い,電動機パラメータ変動などによる定常精度の低下を適応制御的に補償する方法が,一層合理的であると確信するに至った。
 第3章は著者が提案する速度センサレスベクトル制御の母胎となる,直接高速トルク制御方式のディジタル化と特性改善につき述べる。直接高速トルク制御方式は,誘導電動機の磁束とトルクの誤差信号を,インバータ出力電圧の簡潔なオンオフ制御に置き換えることによりインバータ出力電圧を直接操作する。このため従来のベクトル制御より演算が簡単で,演算時間に起因する遅れ時間が小さいためソフトウェア化が可能となった。
 第4章は直接高速トルク制御を基礎として,磁束と電流の瞬時空間ベクトル演算による電動機速度を演算する方法を提案する。速度の演算は電動機定数と回転子速度などを係数とする誘導電動機の電圧,電流に関する連立微分方程式を用いて行われる。このとき速度は演算された磁束とトルクを用いて直ちに演算できるものである。
 ドライブシステムでは高速応答性と同時に広範なトルク及び速度制御範囲が求められるが,低速度域ではインバータの出力電圧誤差及び演算器のオフセットなどにより磁束演算特性が劣化する。そこで磁束の演算方式を改良し,応答性に重点をおいた電圧モデル成分と,定常精度に重点をおいた電流モデル成分を複合した新しい磁束演算法を提案した。また電動機のトルク精度に影響が大きい二次抵抗変動を,磁束誤差の積分信号を用いて適応同定的に求めた。なおここに述べた制御原理は現在も量産インバータに適用されている。
 第5章は速度センサレスベクトル制御の拡張として,第一に低分解能速度センサのパルス間補間法を提案した。低速度域における信号パルス間の補間を,第4章で提案した速度演算信号を用いて行うものである。低分解能の速度センサはたとえば電気鉄道の主電動機制御に使用されている。鉄道車両などの空転・滑走を低減するためには,本方式を用いて過渡応答を向上させることが有効と思われる。
 第5章の第二の拡張例は常電導リニアモーターカーHSSTの低騒音化への適用である。直接トルク制御方式によるインバータのスイッチング方式は従来のPWM方式に比べて電流高調波がランダム的となるため,磁気騒音が分散し,聴感騒音が低減される。また,従来のPWM制御のような始動,加速時に電磁音のジャンプ(音跳び)がないのも特徴の一つである。
 第6章は一般産業用動力設備に適用された代表的な数例を挙げる。オフセット枚葉印刷機は市中に中小業者で広く使用されるため,故障しにくい構造が期待されている。しかし印刷品質向上のためには高精度,高速応答のドライブシステムを必要とする。
 新聞輪転機では複数台の電動機を同軸に配置し同期運転を行うため,構造的に速度センサが取り付けられない。しかも同期運転精度がよく,外乱に対する高速応答性が印刷品質を決定するので,高速・高精度の速度センサレスベクトル制御を必要とする。
 鉄鋼冷間圧延機のローラー交換台車は電気鉄道のように集電装置を設けるほどに移動距離は大きくないので,電源のインバータは電気室に設置し,給電用のケーブルを引き出しながら走行する。その際,速度センサのケーブルはぜひとも除去したいということが要求されている。
 これらの例は著者が試作開発から設計,適用の段階まで参画した過程で知り得た数例であるが,現在も引き続き生産設備として導入されつつある。今後さらに他の機械への適用が拡大されることが期待される。
 第7章は本論文の結論であり,本研究の成果と残された課題,今後の展望などにつき述べた。

平成12(2000)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る