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仮想音源のバイノーラル再生と方向制御のための適応信号処理法に関する研究

氏名 堀内 俊治
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第322号
学位授与の日付 平成16年12月31日
学位論文題目 仮想音源のバイノーラル再生と方向制御のための適応信号処理法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 島田 正治
 副査 教授 神林 紀嘉
 副査 教授 荻原 春生
 副査 教授 吉川 敏則 副査 中村 哲

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 本研究の背景 p.2
 1.2 本研究の考え方と目的 p.4
 1.3 本論文の構成と概要 p.6

第2章 従来技術 p.9
 2.1 はじめに p.10
 2.2 ダミーヘッドを用いたバイノーラル録音とバイノーラル再生法 p.11
 2.2.1 原理 p.11
 2.2.2 問題点 p.12
 2.3 音源信号の到来方向推定法 p.13
 2.3.1 原理 p.13
 2.3.2 遅延和ビームフォーマ法 p.15
 2.3.3 一般化相互相関法 p.16
 2.3.4 問題点 p.16
 2.4 音響経路の伝達関数を用いた仮想音源合成とバイノーラル再生法p.18
 2.4.1 原理 p.18
 2.4.2 マイクロホン一体型ステレオイヤホンを用いた手法 p.20
 2.4.3 問題点 p.22
 2.5 音響経路の伝達関数の適応逆フィルタ推定法 p.25
 2.5.1 原理 p.25
 2.5.2 filter-xアルゴリズム p.26
 2.5.3 問題点 p.29
 2.6 まとめ p.30

第3章 方向制御のための音源方向の逐次推定法 p.33
 3.1 はじめに p.34
 3.2 定式化 p.36
 3.3 評価実験 p.41
 3.3.1 定常および非定常信号に対する有効性 p.41
 3.3.2 従来法との比較 p.45
 3.4 まとめ p.48

第4章 バイノーラル再生のための伝達関数の逐次推定法 p.49
 4.1 はじめに p.50
 4.2 定式化 p.51
 4.3 評価実験 p.54
 4.3.1 主観評価試験 p.57
 4.3.2 白色および有色性信号に対する有効性 p.64
 4.3.3 適応フィルタの初期値と収束時間の関係による従来法との比較 p.68
 4.4 まとめ p.72

第5章 結論 p.73

付録A 逆フィルタと所望伝達関数 p.77
 A.1 逆フィルタと所望伝達関数 p.78
 A.1.1 逆フィルタと所望伝達関数 p.78
 A.1.2 所望伝達関数の導入 p.78
 A.1.3 逆フィルタの最小二乗解 p.79

謝辞 p.83

参考文献 p.85

研究業績 p.91

音響信号処理技術の需要は,ディジタル信号処理技術の発展にともない益々高まっている.
特にサラウンドオーディオ分野の発展はめざましく,3次元音場技術なる用語がコンシューマベースのオーディオ機器においても頻繁に登場するように,この技術が大きく着目されていることを意味する.一方,3次元音場技術は,リスニングルームやシアターなどでのエンターテイメントを目的としたものだけでなく,テレコミュニケーション,バーチャルリアリティ,視覚障害者の支援など,ヒューマンコンピュータインターフェースあるいは人と人とのコミュニケーションのツールとしての応用が盛んに試みられている.今後,3次元音場技術の重要性は益々高まると予想される.3次元音場技術は,大別して,以下の3つのプロセスを経て実現されるものと考えられる.それぞれ,ダミーヘッドマイクロホンを用いた原音場での収音あるいはダミーヘッドや受聴者で測定された音響経路の伝達関数を利用した仮想音場の合成と原音信号の作成のプロセス,伝送あるいは記録のプロセス,ヘッドホン,ステレオイヤホン,あるいは2つ以上のラウドスピーカを用いた音場の再生のプロセスである.ここで,1のプロセスにおいて,前者はバイノーラル録音と,後者は仮想音源合成と呼ばれている.また,3のプロセスにおいて,ヘッドホンやステレオイヤホンを利用した再生手段はバイノーラル再生と,2つ以上のラウドスピーカを利用した再生手段はトランスオーラル再生と呼ばれ,区別されている.
本論文では,仮想音源合成とバイノーラル再生に着目し,以下の2つの事柄についての検討を行っている.仮想音源合成を行うにあたり,特にダミーヘッドや受聴者の頭部,耳介,外耳道の形状差に起因する伝達関数の特性差に関する問題が重要な研究課題となっている.
この問題に対して,受聴者ごとの音響経路の伝達関数をあらかじめ測定する必要をなくすために,適応信号処理によって伝達関数を推定し,仮想音源合成を行う手法が提案されている.しかしながら,この手法の適応逆フィルタ推定で使用されている構成手法は,推定対象である音響経路の伝達関数をあらかじめ何らかの方法で求めたモデル化フィルタを使用する必要があり,システムとしての利便性が低い.そこで,本論文の第1の目的として,仮想音源のバイノーラル再生のために,受聴者ごとの音響経路の伝達関数をあらかじめ測定する必要をなくすための適応逆フィルタを用いた伝達関数の逆フィルタ推定を行う手法において,有色性信号に対しても高速な収束特性を有する構成手法の構築を目指した.また,仮想音源合成を行うにあたり,仮想音源の方向制御あるいはその位置制御のためには,時々刻々変化する原音場の音源の方向あるいはその位置を何らかの方法で知ることが必要である.実音源の方向を推定する技術は,到来方向推定技術として知られており,これまでに提案されてきた到来方向推定手法では,短時間フレーム内で到来方向が一定あるいはその変化が緩やかであることを仮定しており,短時間フレーム内で到来方向が時々刻々変化する場合には,到来方向の推定精度が低くなるあるいはその推定が困難になることが懸念される.そこで,本論文の第2の目的として,仮想音源の方向制御のために,時々刻々変化する原音場の音源の方向を推定することが可能な手法の構築を目指した.本論文は,仮想音源のバイノーラル再生とその方向制御を実現するために,現状のいくつかの課題の解決を目指し,今後,重要性が益々高まると予想される3次元音場技術の発展に寄与することを目的とするものである.
第2章では,序論で概説した仮想音源のバイノーラル再生とその方向制御に関する従来技術について,より詳細な説明を加えている.
第3章では,仮想音源の方向制御のために,時々刻々変化する原音場の音源の方向を推定するための到来方向推定法である,音源方向の逐次推定法を提案している.この手法は,各マイクロホンの受音信号間の位相差とそのときの回転角度に依存する1つの評価関数を定義することで,到来方向の推定問題をこの評価関数の最小化問題として定式化している.
到来方向は,この評価関数を最小化問題の規範とする最急降下法を用いることで逐次推定している.提案する到来方向推定法である音源方向の逐次推定法の定式化および基礎検証を行った上で,到来方向が時々刻々変化する状況下で従来法との比較を行い,提案法の有効性を示している.
第4章では,仮想音源のバイノーラル再生のために,受聴者ごとの音響経路の伝達関数をあらかじめ測定する必要をなくすための適応逆フィルタを用いた音響経路の伝達関数の逆フィルタ推定手法において,有色性信号に対しても高速な収束特性を有する構成手法である,逐次逆フィルタ推定法を提案している.この手法は,マイクロホン一体型ステレオイヤホンを用いた仮想音源合成とバイノーラル再生手法における音響経路の伝達関数の逆フィルタ推定手法において,不安定な要素であるモデル化フィルタを必要としない構成手法を構築し,有色性信号に対しても高速な収束特性を有するアフィン射影アルゴリズムを適用している.提案する適応逆フィルタ構成手法である逐次逆フィルタ推定法の定式化,基礎検証,および主観評価試験を行った上で,従来法との比較を行い,提案法の有効性を示している.
第5章では,本論文で得られた結果を要約するとともに,今後検討すべき課題について述べている.

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