垂直重力場における電気化学反応 -デンドライト析出および腐食反応解析への応用
氏名 三浦 誠
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第343号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 垂直重力場における電気化学反応 -デンドライト析出および腐食反応解析への応用
論文審査委員
主査 教授 山田 明文
副査 教授 野坂 芳雄
副査 教授 梅田 実
副査 助教授 小林 高臣
副査 助教授 松原 浩
副査 職業能力開発総合大学校教授 青柿 良一
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目次 p.i
第1章 序論 p.1-1
1.1 はじめに p.1-2
1.2 目的 p.1-3
1.3 本論文の構成 p.1-3
1.4 第1章の参考文献 p.1-7
第2章 垂直重力場での電極反応-重力電極における拡散過程の解析 p.2-1
2.1 はじめに p.2-2
2.2 理論 p.2-2
2.2.1 重力の発生 p.2-2
2.2.2 重力ゆらぎ p.2-3
2.2.3 ゆらぎ方程式 p.2-5
2.2.4 境界条件 p.2-7
2.2.5 対流拡散層の自己形成 p.2-8
2.3 実験 p.2-15
2.4 結果と考察 p.2-16
2.5 まとめ p.2-18
付録A p.2-20
付録B p.2-28
付録C p.2-33
付録D p.2-40
第2章の参考文献 p.2-42
第3章 銅の腐食の重力効果 p.3-1
3.1 はじめに p.3-2
3.2 実験 p.3-2
3.3 結果と考察 p.3-3
3.4 まとめ p.3-5
第3章の参考文献 p.3-7
第4章 垂直重力場中の銀の置換めっきにおける多層2Dデンドライト成長の形態変化 p.4-1
4.1 はじめに p.4-2
4.2 実験 p.4-6
4.3 結果と考察 p.4-7
4.4 まとめ p.4-14
第4章の参考文献 p.4-15
第5章 垂直重力場における重力電極を応用した鉄の孔食の解析 p.5-1
5.1 はじめに p.5-2
5.2 理論 p.5-6
5.3 実験 p.5-12
5.4 結果と考察 p.5-14
5.5 まとめ p.5-16
第5章の参考文献 p.5-18
第6章 総括 p.6-1
研究業績一覧 p.I
謝辞
本論文は、電極面に垂直な高重力場中での電気化学反応に伴って生じる、さまざまな現象について検討を試みたものである。
近年、宇宙技術の一環として微小重力場の効果に注目が集まる一方で、高重力場のほうはもっぱら遠心力分離技術に応用されてきたにすぎない。しかしながら、一連の研究で明らかになったように、遠心力分離における沈降平衡の場合とは異なり、非平衡状態における電極反応のもとでの重力効果は、重力対流をともなう、きわめて動的な現象であることが明らかになってきている。また通常の遠心力場では、コリオリ力の発生により、地上とは異なる複雑な加速度が生じるが、この点を解決して、地上と同様に質の良い高重力場を得るには、電極近傍に一方向成分の重力場を作り出すことのできる「重力電極」が極めて有効である。
ここではまず、垂直重力場中の流れのゆらぎ成分である、対流セルの自己組織化過程を検討する。次にこの重力対流セルと、腐食反応およびデンドライト生成反応における濃度や電極電位などの物理量の非平衡ゆらぎとの相互作用について取り扱うことにする。
本論文は全6章から構成されており、各章の概要は以下の通りである。
第1章は序論であり、これまでの重力場おける電気化学的な研究の背景を解説し、その目的と論文全体についての概説をおこなった。
第2章では、垂直重力場中の電極反応の基本現象として、電極面上に生じる数十ミクロンの寸法をもつ対流セルの自己組織化過程を明らかにした。その結果、対流セルによる物質移動促進効果に対応する拡散電流密度の式として次式が求まった。
i=Bα1/3|ΔCs| (1)
ここで、Bは定数であり、αは重力加速度、|ΔCs|は電極表面とバルクの濃度差である。よって、平均拡散電流密度iは重力加速度αの1/3乗に比例し、電極表面とバルクの濃度差|ΔCs|の1乗に比例することが明らかになった。また、650 Gまでの垂直重力加速度では、フェロシアンおよびフェリシアンイオンの拡散係数に対して、重力による影響は観察されなかった。
第3章では、銅の腐食の重力効果を取り扱った。ここでは電極面に垂直のみならず、平行な重力場における硝酸溶液での銅の腐食反応について検討した。まず、はじめに硝酸の濃度が3000 molm-3と高い場合には重力加速度の増加に伴い銅の腐食が抑制されることがわかった。これは、自己触媒反応である銅の溶解反応とともに発生した非平衡ゆらぎが重力対流セルと相互作用して干渉しあった結果、反応の抑制が引き起されたものと結論された。一方、硝酸の濃度が低い場合は全体の反応が水素イオンの物質移動に律速されるようになるために、上述のような非平衡ゆらぎと対流のゆらぎの干渉がおこらなくなるために、銅の腐食は逆に重力加速度とともに促進されることが明らかになった。
第4章は、重力対流セルと非平衡ゆらぎの干渉条件をさらに詳細に調べるために、硝酸銀溶液から銅板への銀のデンドライト成長における重力効果の検討をおこなった。その結果、重力が増すにつれ重力対流セルと非平衡ゆらぎの干渉作用により、デンドライト成長は抑制されることが明らかとなった。また、垂直重力場中では、高密度デンドライト層と通常の低密度デンドライト層の二重構造を持つ特殊なデンドライトが形成されることが明らかとなった。この高密度デンドライト層は、重力対流セルとデンドライト成長に伴う非平衡ゆらぎの相互作用によって形成され、厚さは一定でありセルの寸法にほぼ等しい。一方、低密度層は通常の場合と同様に静止溶液中で形成されるために、その厚さは析出時間に比例して増加する。デンドライト形成に付随する非平衡ゆらぎの寸法はデンドライトの寸法と同程度であると考えると、以上の結果は対流セルによる非平衡ゆらぎへの干渉は非平衡ゆらぎの寸法が対流セルの寸法と同程度になった時にだけ現れることを示している。また、重力サイクルを繰り返すことで、高密度層と低密度層が交互に積層した多層構造を作り出せることが明らかとなった。
第5章では、重力電極の新しい応用を検討するために、垂直重力場における溶存酸素による鉄の孔食現象の解析をおこなった。その結果、垂直重力場中での腐食電位変化を表す式として、
ΔEcorr=BE(θ)α1/3 (2)
が求まった。ここで、BE(θ)は不動態皮膜の被覆率θの関数である。自然重力のもとでの腐食電位からの差である腐食電位差ΔEcorrは重力加速度αの1/3乗に比例して増加することが実験的にも確認された。このことは、対流セルと非平衡ゆらぎが干渉されないことを意味し、単に溶存酸素の物質移動過程のみが、促進されたことを意味する。また、重力パルスを加えることで、(2)式における不動態皮膜の被覆率θを腐食電位の測定のみで決定する新しい測定方法を確立できた。この方法により、電流や電位を腐食系に加えることなく、腐食状態を変化させずに被覆率を測定することが可能となった。
第6章では以上述べたことを総括し、結論とした。