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低酸素圧雰囲気中における高温超伝導酸化物の作製に関する研究 -二重Cu-O鎖を有するYBC系超伝導酸化物の作製とBi系超伝導酸化物の元素置換-

氏名 岩井 裕
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第233号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 低酸素圧雰囲気中における高温超伝導酸化物の作製に関する研究 -二重Cu-O鎖を有するYBC系超伝導酸化物の作製とBi系超伝導酸化物の元素置換-
論文審査委員
 主査 教授 高田 雅介
 副査 教授 松下 和正
 副査 教授 植松 敬三
 副査 教授 小松 高行
 副査 教授 齋藤 秀俊

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目次

第1章 緒論 p.1

1 高温超伝導酸化物に関する既往の研究例 p.1
 1-1 超伝導と高温超伝導体 p.1
 1-2 La系超伝導酸化物 p.1
 1-3 Y系超伝導酸化物 p.2
 1-4 Bi系、Tl系、Pb系およびHg系超伝導酸化物 p.5
 1-5 炭酸塩系 p.6
 1-6 無限層構造 p.6
 1-7 超伝導酸化物の設計 p.6

2 Y系超伝導酸化物の固体化学 p.7

3 Bi系超伝導酸化物の固体化学 p.7
 3-1 平均構造 p.8
 3-2 変調構造 p.12
 3-3 格子欠陥と不定比性 p.14
 3-4 変調構造の消滅[55,76] p.15
 3-5 Bi-Pb系超伝導酸化物の構造と超伝導性 p.16

4 本研究の目的 p.17
 4-1 本論文の構成 p.19
 4-2 超伝導酸化物における化学式および化合物名の扱い p.20

第2章 Y系超伝導酸化物124相の酸素1気圧下における作製 p.28

1 緒言 p.28

2 実験 p.31

3 結果および考察 p.33

4 結言 p.37

第3章 Y系超伝導酸化物247相の酸素1気圧下での作製 p.40

1 Y系247相の酸素1atm条件下における生成温度領域 p.40
 1-1 はじめに p.40
 1-2 実験 p.40
 1-3 結果および考察 p.41

2 247相の生成過程 p.48
 2-1 はじめに p.48
 2-2 実験 p.48
 2-3 結果および考察 p.49

3 シード法の適用による反応助剤の抑制 p.53
 3-1 はじめに p.53
 3-2 実験 p.53
 3-3 結果および考察 p.54

4 酸素1atm条件で作製したY系247相の酸素アニールと超伝導性 p.55
 4-1 はじめに p.55
 4-2 実験 p.55
 4-3 結果 p.56
 4-4 考察 p.59

5 結言 p.60

第4章 BI系2201相の作製と元素置換 ― BI2.13-XPBXSR1.87CUOYおよびBI2SR2-XPBXCUOYにおけるPBOの固溶限 ― p.62

1 緒言 p.62

2 実験 p.63
 2-1 試料組成 p.63
 2-2 試料の作製およびキャラクタリゼーション p.64

3 結果 p.69
 3-1 Bi2.13-xPbxSr1.87CuOyにおけるPbOの固溶限 p.69
 3-2 Bi2Sr2-xPbxCuOyにおけるPbOの固溶限 p.73
 3-3 Bi2.13-xPbxSr1.87CuOyおよびBi2Sr2-xPbxCuOyの電気的性質におよぼすPbO濃度の影響 p.76

4 考察 p.79
 4-1 元素置換機構と置換元素の固溶限 p.79
 4-2 Pb元素の位置 p.81
 4-3 Bi系超伝導酸化物の組成と元素置換 p.82
 4-4 PbO固溶限の決定因子 p.85
 4-5 Bi系2201相におけるBi、PbおよびCuの価数 p.86

5 結言 p.88

第5章 BI系2212相の作製と元素置換 ― BI2-XPBXSR2CACU2OYのPBO固溶限の酸素分圧依存性 ― p.93

1 緒言 p.93

2 実験 p.94

3 結果および考察 p.96
 3-1 Bi2-xPbxSr2CaCu2OyにおけるPbOの固溶限 p.96
 3-2 Bi2Sr2Ca1-xYxCu2OyにおけるY2O3の固溶限 p.102
 3-3 (Bi1-xPbx)2Sr2(Ca1-zYz)Cu2O8+yの作製と超伝導性 p.103

4 結言 p.104

第6章 BI系2223相の低酸素雰囲気下における相安定性 p.107

1 緒言 p.107
 1-1 2223相の単相化とPbOの作用 p.107
 1-2 Y2O3 の固溶限 p.108

2 Pb添加Bi系2223相の作製 p.109
 2-1 はじめに p.109
 2-2 実験 p.109
 2-3 結果および考察 p.110

3 Pb濃度の低い2223相の作製 p.117
 3-1 はじめに p.117
 3-2 実験 p.117
 3-3 結果および考察 p.118
 3-4 電子線回折から見た2223相の構造 p.121
 3-5 高分解能電顕像から見た2223相の変調構造 p.122

4 低酸素分圧下でのPb置換2223相の安定性 p.125
 4-1 はじめに p.125
 4-2 実験 p.126
 4-3 結果および考察 p.126

5 Y203を含む系における2223相の安定性 p.132
 5-1 はじめに p.132
 5-2 実験 p.132
 5-3 結果 p.133
 5-4 考察 p.140
 5-5 本節の結論 p.140

6 考察 p.141
 6-1 PbO濃度が変調構造に与える影響 p.141
 6-2 酸素量とBiおよびCuの原子価 p.142
 6-3 La、Y置換Bi系超伝導酸化物におけるBiとCuの価数 p.143
 6-4 低酸素分圧下における2223相の安定性 p.144
 6-5 PbOの役割と2223相の安定性 p.147

7 結言 p.148

第7章 結論 p.154

研究業績 p.157

謝辞 p.161

 1986年に発見された高温超伝導酸化物は、合成時の酸素分圧により様々な酸化状態を示すとともにその電子状態も変化し超伝導性を含む多様な物性上の変化がもたらされることで知られるが、各種超伝導酸化物相の相安定性に対しても著しい影響が現れる。従って、超伝導酸化物の安定性や安定領域の変化を雰囲気酸素分圧との関係で解明することは、良質な超伝導材料を再現性良く作製する上で重要な技術的課題であるといえる。
 本研究は、高温超伝導酸化物をPO2=1atm以下の酸素雰囲気中で作製する可能性と問題点について検討するものである。始めに高酸素圧下でのみ合成可能と考えられていたY系超伝導酸化物、YBa2Cu4O8(124相)とY2Ba4Cu7O10(247相)に対し、相対的に低酸素分圧寄りといえる酸素1気圧条件下で合成することを試みた。また、各種のBi(Pb)系超伝導酸化物に対しても、PO2=1~10-4atmの各酸素分圧で、Bi位置へのPb原子の最大置換量(固溶限)が作製時の酸素分圧に伴い系統的に変化することを明らかにした。またBi超伝導酸化物高TC相(2223相)に関しては、元素置換(Ca位置へのY置換)や低酸素分圧下での2223相の安定性について併せて検討した。
 Y系124相に関しては、硝酸塩分解法で得られた原料からシード法を用いることで酸素 1気圧下でも作製し得ることを明らかにした。同じく安定領域が高酸素側にあるY系247相についても、シード添加は247相の生成を促進し、単相化に必要な助剤量を抑制できることが明らかとなった。247相については所定の各温度条件下酸素気流中で酸素アニールを行い、交流磁化率測定から得られた臨界温度とアニール温度との関係を求めたが123相と互いに共通した電気特性を示した。
 Bi 系 2201 相を空気中および低酸素分圧雰囲気中で作製し、置換元素の固溶限について検討した。始めに、Bi に Pb を置換した2201相 Bi2.13-xPbxSr1.87CuOy に対し PbO の固溶限と焼成雰囲気酸素分圧の関連を調べたところ、 PbO 固溶限は低酸素分圧側で大きくなることが明らかとなった。Sr に Pb を置換した2201相 Bi2Sr2-xPbxCuOy に関しても同様に PbO 固溶限を検討したところ、Sr の約 5%以上 25%以下の領域においてほぼ単相の 2201 相を得た。この相では PbO 固溶限の酸素分圧依存性は認められなかった。そのため、PO2 10-2atm の条件下では、Bi位置よりも Sr 位置に置換した Pb の方が高い固溶限を示した。同様に、Bi(Pb)系 2212 相、Bi2-xPbxSr2CaCu2Oy におけるPb 固溶限についても検討したところ、2201と同様な傾向の存在が認められた。
 2223相は、Bi の一部を Pb で置換することと、硝酸塩法で作製した原料を用い、粉砕、成形および焼成にわたるプロセスを繰り返すことで、単相化を実現した。2223 相の単相化も核生成成長機構によることで説明できることから、予め 2223 相粉末をシードとして原料に添加し2223 相の成長を促進するシード法を試みた。この方法によりPbO濃度の小さい2223 相を作製することができた。PbO の存在は 2223 相の安定化に寄与すると考えられるが、PbO濃度が非常に小さい組成からも適当な条件を与えれば 2223 相が安定に得られることも示された。
 オーバードープ状態にあるBi2212相のCaをY置換した化学ドーピングによりTCが上昇することが報告されている。そこで、2223相における同様な効果を期待して(Bi,Pb)2.13Sr1.87Ca2-xYxCu3Oyを作製した。しかし、Y の固溶限は x 0.030 にとどまり x= 0.04 組成では、2223 相は分解し 2212 相となった。また、2223 相の安定領域は雰囲気酸素分圧の低下に伴い狭くなり、740℃で PO2=1.8×10-3atm 以下の酸素雰囲気中で Y の有無にかかわらず安定性が失われた。
 BiPb 系 2223 相の低酸素圧下の安定性を Pb 濃度との関連においても検討したが、740℃で PO2=1.5×10-4atm の雰囲気中では Pb 濃度にかかわらず 2223 相は分解し 2212 相となった。従って、このような低酸素分圧下では、2223 相は2212 相に比して不安定となり、PbOの影響はほとんどないことが明らかとなった。
 2223 相はPO2 7.7×10-2atm の低酸素分圧下での作製が単相化に有利とされるが、上記のように PO2<10-3atm まで酸素分圧が低下するとむしろ2223相は不安定となった。2223 相と2212 相のペロブスカイトブロックの構造比較を行い、2223 相格子内の Cu の原子価は、2212 相のそれよりも小さいという報告を考え合わせることで、2223 相は低酸素圧雰囲気中で 2212 相よりも相対的に不安定となり、かつ Y3+の存在によってその傾向は著しくなると考えた

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