圃場区画情報を参照した衛生画像による水稲作付け領域の高精度把握に関する研究
氏名 高橋 一義
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第236号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 圃場区画情報を参照した衛生画像による水稲作付け領域の高精度把握に関する研究
論文審査委員
主査 教授 向井 幸男
副査 助教授 力丸 厚
副査 教授 陸 旻皎
副査 東北大学大学院 農学研究科教授 斉藤 元也
副査 新潟大学 工学部教授 飯野 秋成
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目次
1章 序論 p.1
1.1 研究背景 p.1
1.2 衛生画像を用いた水稲作付面積高精度推定の実用化への課題 p.3
1.3 衛星画像を用いた水稲作付面積推定の概往研究 p.4
1.4 既往研究における実用化への課題対応状況 p.6
1.5 実用化への課題に対する本論文のアプローチ p.7
2章 圃場区画参照方式の提案 p.8
3章 圃場区画参照方式による面積集計精度向上の検証 p.14
3.1 はじめに p.14
3.2 テストサイトおよび使用データ p.14
3.3 方法 p.19
3.4 結果 p.22
3.5 比較検証 p.30
3.6 まとめ p.33
4章 圃場区画参照方式の適用性の検討 p.34
4.1 はじめに p.34
4.2 テストサイトと使用データ p.34
4.3 方法 p.35
4.4 結果 p.37
4.5 比較検証 p.42
4.6 まとめ p.45
5章 レーダセンサ衛星画像による圃場区画参照方式の高度化の検討 p.46
5.1 はじめに p.46
5.2 テストサイトと使用データ p.47
5.3 解析方法 p.53
5.4 結果 p.56
5.5 比較検証と誤判別要因の検討 p.59
5.6 まとめ p.65
6章 総括 p.66
謝辞 p.68
参考文献・引用文献・関連論文 p.69
水稲作付け領域の把握は,国の農政上重要な課題である米の収穫量推定や食糧自給調整などの基礎資料として,営農指導や地域内での適正な土地利用確立のため必要である.現在,水稲作付け領域は,現地調査やそれにもとづく統計推計により把握されている.しかし,調査自体に莫大な時間,費用,労力が必要であるため,調査の省力化,効率化,コスト低減が求められている.現行手法の問題点を解決するものとして,全面調査可能な衛星画像を利用した,我が国の農地規模や気候に適した経済的かつ効率的な手法開発が望まれている.
従来,衛星画像を利用した水稲作付け領域の把握手法では,衛星画像の画素単位で水稲作付け領域を把握していた(以下,画素単位方式と称す).このため,衛星画像の地上分解能向上が水稲作付け領域の高精度把握に必須であると考えられていた.しかし,地上分解能の向上は,画像単価の上昇や必要画像数の増加を招くため高頻度な利用は現段階で制限される.
そこで本研究では,地上分解能が圃場規模と同程度の衛星画像と圃場一筆の形状と位置を数値化した圃場区画情報を用いて,水稲作付け領域を地上分解能と無関係に高精度かつ高い経済性で把握可能な圃場区画参照方式を提案した.圃場区画参照方式では,衛星画像と圃場区画情報の位置合わせ誤差,圃場区画情報の形状・位置精度のバラツキを考慮する.また,圃場区画参照方式の適用地域や時期の幅を広げるため,画像取得時期,観測対象地域,画像情報量の違いにより多数提案されている画素単位方式での水稲作付け領域の判別手法を前処理として利用する.本研究では,従来の画素単位方式にくらべ圃場区画参照方式の有用性を実観測データにより実証した.まず,圃場区画参照方式により水稲作付け領域を高精度に把握可能かを検証するため,実観測した衛星画像を用いて従来手法の画素単位方式と比較検証を実施した.その結果,圃場区画参照方式では画素単位方式にくらべ面積推定精度が3%改善された.次に,圃場区画参照方式の複数の衛星画像への適用可能性を検討するため,我が国の代表的な圃場規模と同程度の地上分解能30mをもつ衛星画像を用いて,圃場区画参照方式と画素単位方式による水稲作付け領域の比較検証を実施した.その結果,圃場区画参照方式では,水稲作付け領域の空間分布の正答率97%を得た.さらに,圃場区画参照方式を全天候型レーダセンサ衛星画像への適用する場合,判別精度低下を招く画像中のスペックルノイズ低減手法を提案し,圃場区画参照方式の高度化を検討した.ここでは,圃場区画単位でレーダ後方散乱状態が同一であると考え,従来実施されているスペックルノイズ低減の空間規模を局所領域から圃場区画単位とした.現在利用可能なレーダセンサ衛星画像のうち最高地上分解能(8m)のレーダ画像に圃場区画参照方式を適用し,水稲作付け領域の計測を試みた.テストサイトでは,レーダセンサ衛星画像により8割の水稲作付け領域を正確に計測可能という結果を得た.また,レーダ観測時の圃場区画長手方向とレーダ照射方向の幾何学的な位置関係により,計測不能領域が生じる可能性を示した.
これらは,広域観測および低コストな衛星画像に対して圃場区画参照方式を適用することで水稲作付け領域の高精度把握が実現可能であることを示唆している.また,現在,圃場区画ベクトルデータの整備が全国規模で進行中であることから,圃場区画参照方式を適用可能な範囲が今後増加することが期待される.