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農村地域における土地利用制度とその包括的運用に関する基礎的研究

氏名 松川 寿也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第344号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 農村地域における土地利用制度とその包括的運用に関する基礎的研究
論文審査委員
 主査 教授 中出 文平
 副査 教授 松本 昌二
 副査 助教授 樋口 秀
 副査 弘前大学 教育学部教授 北原 啓司
 副査 山口大学 工学部助教授 鵤 心治
 副査 長岡工業高等専門学校助教授 宮腰 和弘

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目次

第一章 序論
 1-1.地方都市とその周辺の農村地域を取り巻く土地利用制度の課題(研究の背景) p.1
 1-2.研究の目的 p.4
 1-2-1.農村地域を対象とした土地利用制度に関する既往研究の展開 p.4
 1-2-2.研究の問題意識としての着眼点 p.6
 1-2-3.研究目的 p.7
 1-3.研究の構成と基礎概念 p.8
 1-3-1.研究構成 p.6
 1-3-2.基礎概念の定義 p.10
 (補注)
[参考文献]

第二章 農村地域を管轄する土地利用法制度に関する制度上及び運用上の問題点
 2-1.農村地域を管轄する個別規制法による土地利用制度に関する基礎的概念 p.15
 2-1-1.国土利用計画法の体系とそれに基づく土地利用基本計画の5地域区分 p.15
 2-1-2.都市計画法と農振法による区域区分制度 p.16
 2-2.農村地域を取り巻く土地利用制度改正の動き p.22
 2-2-1.農民サイドの土地利用制度改正の動き p.22
 2-2-2.都市計画サイドの土地利用制度改正の動き p.25
 2-3.土地利用制度自体の問題点とその運用の問題点の整理 p.32
 (補注)
[参考文献]

第三章 農政サイドの法制度の運用を主体とした市街地拡大と包括的土地利用制度不在の実態
 3-1.はじめに p.36
 3-2.市町村毎に異なる農振線引きの管理実態 p.38
 3-2-1.農業の地域性と農振線引きとの関係 p.38
 3-2-2.農振計画策定初期の農振線引きとその後の農振除外・農振編入の動向 p.42
 3-2-3.農用地利用計画の見直しに対する取組みの違い p.46
 3-2-4.小結 p.51
 (補注)
 3-3.農振除外後の都市計画法からの対応に向けた課題 p.53
 3-3-1.非線引き用途地域と農用地区域からみる緩規制地域の動向 p.53
 3-3-2.農振除外による市街地拡大 p.57
 3-3-3.調査対象都市の市街地拡大パターンからの知見 p.64
 3-3-4.小結 p.71
 (補注)
 3-4.都市計画法の区域区分制度に関連した農振制度運用の問題点 p.73
 3-4-1.線引き都市計画区域外縁部での開発動向 p.73
 3-4-2.線引き都市計画区域外縁部における農政側の土地利用に対する考え方とその動向 p.87
 3-4-3.小結 p.99
 (補注)
 3-5.まとめ p.102
[参考文献]

第四章 行政側が主導的に取り組む開発規制区域解除と開発緩和区域指定の課題
 4-1.はじめに p.105
 4-2.農村地域活性化施策を活用した農振除外の実態 p.107
 4-2-1.土地利用調整を伴う農村地域活性化施策の比較検証 p.107
 4-2-2.新潟県における農村活性化土地利用構想の策定状況 p.126
 4-2-3.構想策定の計画性に着目した問題点 p.133
 4-2-4.小結 p.173
 (補注)
 4-3.都市計画法側からの開発緩和区域指定の実態 p.180
 4-3-1.平成12年計画法改正と開発緩和区域との関係 p.180
 4-3-2.指定既存集落の指定実態 p.188
 4-3-3.3483条例の条例で指定される区域の課題 p.203
 4-3-4.小結 p.212
 (補注)
 4-4.まとめ p.218
[参考文献]

第五章 計画白地で提示される市町村総合土地利用計画の課題
 5-1.はじめに p.222
 5-2.計画白地を対象とした市町村による土地利用方針の提示の課題 p.223
 5-2-1.新潟県内の都市計画マスタープランで定める白地地域等の土地利用方針について p.223
 5-2-2.開発想定地の指定の分析評価 p.228
 5-2-3.白地方針の作成過程を通じた農用地区域に依存する開発想定地の指定要因 p.234
 5-2-4.白地方針の作成過程を通じた農用地区域を尊重した白地方針の提示要 p.266
 5-2-5.小結 p.283
(補注)
 5-3.市町村土地利用計画に法的効果を付与させる場合の問題点と留意点 p.288
 5-3-1.新制度の創設経緯とその特徴 p.288
 5-3-2.新たな土地利用の枠組みとそれに関連する既存の制度との位置付け p.292
 5-3-3.新制度に対する市町村側の受け止め方 p.297
 5-3-4.市町村独自の土地利用調整における農振除外に対する考え方 p.304
 5-3-5.小結
(補注)
 5-4.まとめ p.321
[参考文献]

第六章 農村地域における包括的土地利用制度の構築に向けた制度論・計画論
 6-1.現行土地利用制度の運用の問題とそれに対応した包括的土地利用制度構築の課題 p.324
 6-2.農村地域における適切な包括的土地利用制度の構築に向けての制度論・計画論の提示 p.329
 6-3.今後の課題
[参考文献]

論文図表等一覧 p.336
公表・参考論文等一覧 p.340

 謝辞

本論文は、「農村地域における土地利用制度とその包括的運用に関する基礎的研究」と題し、農村地域での土地利用コントロールの主導権を握る農振制度に軸足を据えた独自の視点に着目した研究として、全6章から構成されている。

第一章では、農村地域を含む地方都市における土地利用上の問題の要因として、現行の土地利用法制度とその運用に不備があることを提起した。そして、農村地域が構造的課題を抱えている中で、市町村独自の包括的土地利用制度が構築されることへの課題とそのあり方を提示することの重要性を論じた。

第二章では、前章で提起した我が国の土地利用制度自体が抱える問題点として、都市計画法及び農振法の両法制度上の不備を指摘した。その不備は、制度創設時から既に存在していた訳だが、その後も「社会経済情勢の変革に対応する制度運用の改善」、「地域の実情に応じた制度構築」の名の下での相次ぐ規制緩和策によって、その不備が拡大してきた。そして、制度自体に止まらず、それを運用する側にも問題があり、土地利用制度が大幅な転換期を迎えた現在でも、依然として問題を抱えていることを論じた。

第三章では、農振線引きのされ方と、その管理実態を踏まえた上で、今まで明確にされていなかった都市計画側と農政側の双方の土地利用制度運用の問題点を指摘した。まず、農振除外が広く行なわれている反面、非線引き用途地域の指定が行なわれない制度的要因として、残存農地での開発優先を掲げる農政側の姿勢があることを明らかにした。こうした農政側の姿勢は、用途地域の過大指定を避ける意味でも理に適っていると言えるが、その農政側自らが行う農振除外や白地農用地での農地転用許可によって、用途地域内の土地利用転換を鈍らせている要因ともなっている。つまり、用途地域を指定する都市計画の側との一貫性を欠いた形で、農政側の土地利用制度が運用されている実態が指摘された。次に、都市計画法と農振法の法規制地域が、開発圧力の拡大を予見しなかった都市計画側と、逆に開発圧力の拡大を想定(期待)した農政側との見解のズレによって、整合しない形で指定及び除外された実態を示した。こうした両法制度運用の整合性の欠如が、線引き都市計画区域外縁部での集中した滲み出し開発の温床となっていることを指摘した。

第四章では、農業農村が抱える構造的課題等を背景として、現行制度の枠内で開発規制区域を解除する、或いは開発緩和区域を指定する制度の運用実態が抱える問題点を指摘した。まず、開発規制区域を解除する制度として、農振除外する側にとって汎用性・有用性が高い農村活性化土地利用構想を主に取り上げた。この構想で位置付けられた予定施設の殆どは、通常の農振除外が不可能である8年縛りに該当した農用地区域での農振除外を必要としている上、事業主体等からの個別の農振除外意向が構想策定の契機であった。それ故、構想策定着手に至る以前の段階で、既に農振除外地が決定しているため、事業主体の意向におもねる形で用地選定作業が行なわれる等、構想策定プロセスが形骸化していることで、農村地域活性化の目的以上に、農振除外手法が先行して活用されている活性化構想の実態が浮彫となった。次に、開発緩和区域を指定する制度として、開発許可制度の運用を緩和する指定既存集落とともに、更にその緩和を可能とする委任条例(3483条例)で指定する区域を取り上げた。前者の指定既存集落の指定に関しては、自治体によって運用形態が異なるものの、地方都市圏での幅広い運用が把握された。そのうち、即地的にその区域を指定する運用としている新潟県では、指定既存集落が農地等の土地を比較的広く含む形で低密に指定、及び拡大されており、地元農村集落や市町村個別の根強い開発意向を許容した結果、一部で農用地区域を含んだ区域指定がなされている実態を示した。また、3483条例で指定する区域についても同様であり、同区域が過大に指定された場合、農振除外によって指定対象外とされていた農用地区域が新たな開発可能地となる可能性の他、都市計画区域で設定された計画人口の達成にも大きな支障をきたす懸念が指摘された。

第五章では、第三章で指摘された問題に対して、市町村独自の包括的土地利用制度で対応するにしても、第四章で取り上げたような行政側の主導的取り組みの問題があることを踏まえる必要性を論じ、市町村土地利用計画を基本とした土地利用制度を展開させる上での課題を指摘した。まず、計画白地での土地利用コントロールを意図して市町村が受動的に提示した白地方針の案を対象とした調査では、農用地区域に広く依存して開発想定地を指定する方針図が多数確認された。その要因としては、過大な将来市街地を位置付けた上位計画の反映に止まらず、提示の時点での各自治体の政策的判断や個別の開発意向・開発計画の関与といった公式・非公式を含めた提示プロセスの存在が指摘された。これによって、結果的に土地利用制御を意図した方針図が、その一方で、将来の市街地拡大を提示する方針図へと変容した実態を明らかにした。次に、市町村土地利用調整条例(計画)に農振法等の法的効果を付与させる新制度の枠組みに関する調査では、新制度の狙い(農山村地域の魅力の維持・向上)に反した運用の素地が確認された。実際に現行制度の下でも、農振除外にともなう農振編入等を基本方針とする調整計画が存在する反面、農振除外に特別措置を講じる振興計画を調整計画とあわせて策定することにより、将来の農振除外を意図した調整計画に対して法的効果を付与させた策定形態も確認された。

第六章では、本論文で得られた結果をまとめるとともに、それを踏まえた上で「都市側と農業側の連携した現行法制度の運用による無秩序な市街地拡大の防止策」、「行政側が主導的に行う開発規制区域解除と開発緩和区域指定にあたっての留意事項」、「市街地拡大を前提としない市町村主導による包括的土地利用制度の展開」の3点に関する農村地域での包括的土地利用制度の構築に向けた制度論・計画論を提案した。

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