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リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)と水溶液中フッ化物イオンの反応と応用

氏名 袋布 昌幹
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第232号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)と水溶液中フッ化物イオンの反応と応用
論文審査委員
 主査 教授 松下 和正
 副査 教授 山田 明文
 副査 教授 佐藤 一則
 副査 助教授 大橋 晶良
 副査 岡山大学 工学部教授 尾坂 明義

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 フッ素に関する環境問題 p.2
 1.2 リン酸カルシウムの転化反応 p.4
 1.3 本論文の目的および意義 p.6
 1.4 本論文の構成および内容 p.7
 第1章の参考文献 p.8

第2章 DCPDと水溶液中低濃度フッ化物イオンとの反応機構 p.11
 2.1 緒言 p.12
 2.2 実験 p.13
 2.2.1 試料および試薬 p.13
 2.2.2 実験装置 p.13
 2.2.3 実験方法 p.13
 2.3 結果と考察 p.16
 2.3.1 DCPD添加による水溶液中フッ化物イオン濃度およびpH変化 p.16
 2.3.2 DCPD粒子表面の変化 p.18
 2.3.3 反応の量的関係 p.22
 2.4 結言 p.25
 第2章の参考文献 p.28

第3章 フッ化物イオンと特異な反応性を有するナノ表面DCPDの生成 p.29
 3.1 緒言 p.30
 3.2 実験方法 p.30
 3.2.1 試料および試薬 p.30
 3.2.2 実験装置 p.30
 3.2.3 実験方法 p.32
 3.3 結果と考察 p.32
 3.3.2 反応温度が遅れ時間に及ぼす影響 p.32
 3.3.3 溶液内イオン濃度が遅れ時間に及ぼす影響 p.36
 3.4 結言 p.40
 第3章の参考文献 p.40

第4章 DCPDを用いた水溶液中微量フッ化物イオンの固定 p.43
 4.1 緒言 p.44
 4.2 実験方法 p.45
 4.2.1 試薬および実験装置 p.45
 4.2.2 実験方法 p.45
 4.3 結果と考察 p.45
 4.4.1 化学平衡論的検討 p.45
 4.4.2 フッ化物イオン固定に及ぼす水溶液pHの影響 p.53
 4.4.2 検量線 p.53
 4.4.3 実試料による検討 p.53
 4.4 結言 p.57
 第4章の参考文献 p.59

第5章 DCPDを用いた地下水中微量フッ化物イオンの簡易定量法の開発 p.61
 5.1 緒言 p.62
 5.2 実験方法 p.63
 5.2.1 試料および試薬 p.63
 5.2.2 リン酸カルシウムの溶解特性 p.65
 5.2.3 水試料中の微量フッ素濃縮・定量 p.65
 5.3 化学平衡論的検討 p.65
 5.3.1 フッ化物イオンの解離平衡 p.65
 5.3.2 FApの溶解平衡 p.67
 5.3.3 暖衝溶液 p.73
 5.4 結果と考察 p.73
 5.4.1 キレート剤を用いたリン酸カルシウムの溶解 p.73
 5.4.2 DCPDによる水溶液微量フッ化物イオンの濃縮 p.75
 5.4.3 実試料による検討 p.75
 5.5 結言 p.78
 第5章の参考文献 p.78

第6章 DCPDを用いた大気中微量フッ化物の簡易モニタリング p.81
 6.1 緒言 p.82
 6.2 実験方法 p.84
 6.2.1 試薬 p.84
 6.2.2 実験装置 p.84
 6.2.3 分析方法 p.84
 6.3 化学平衡論的検討 p.84
 6.3.1 フッ化物イオンの解離平衡 p.84
 6.3.2 DCPDの溶解度 p.87
 6.3.3 DCPDの溶解に伴う緩衝能 p.91
 6.4 結果と考察 p.91
 6.4.1 DCPD共存下におけるイオン選択性電極によるフッ化物イオンの定量範囲 p.91
 6.4.2 大気モニタリング実験 p.92
 6.5 結言 p.95
 第6章の参考文献 p.95

第7章 総括および今後の展望 p.97
 7.1 本論文の総括 p.98
 7.2 今後の展望 p.99

謝辞 p.104

本研究に関する発表論文 p.106

本研究に関する国際会議での発表 p.108

その他の発表論文 p.109

特許出願 p.110

 リン酸カルシウム塩は多くの化学的形態をもっているが,その中でリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O,以下DCPD)は歯科用研磨剤や各種リン酸カルシウムの原料として広く用いられている物質である。1970年代に歯のう蝕予防のプロセスの研究から,DCPDは水溶液中のフッ化物イオンと反応してより溶解度の低いフッ素アパタイト(Ca10(PO4)6F2,以下FAp)に転化する反応が見いだされ,これを契機にリン酸カルシウムの転化反応による歯科用セメントの開発等が行われてきた。この反応は,我が国において近年,環境基本法,水質汚濁防止法,土壌汚染対策法において規制が強化されている,環境中フッ素の分析,固定技術に適用できることが期待されるが,適用の基礎となるDCPDと低濃度フッ化物イオンとの反応について,これまで検討された例はほとんどない。
 本論文はDCPDと水溶液中低濃度フッ化物イオンの反応機構を明らかにし,その反応を生かした環境中微量フッ素の固定・分析技術の開発を行ったものである。論文は以下の7章から構成される。
 第1章では,リン酸カルシウムの転化反応および環境中フッ素の現状を述べ,本研究の目的と意義を明らかにした。
 第2章では,20mgdm-3のフッ化物イオンを含む水溶液中にDCPD試薬を添加し,溶液中のフッ化物イオン等の化学成分の分析を行った。結果,フッ化物イオンを含む水溶液中にDCPDを添加すると,数時間フッ化物イオン濃度が変化しない遅れ時間が存在することが分かった。粒子の結晶相解析および電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた粒子表面の微量構造観察により,DCPDは水溶液中フッ化物イオンと直接反応してFApを生成するのではなく,まず水溶液中でDCPD表面に数十nmの大きさの微小粒子を生成し,その後速やかにフッ化物イオンと反応してカルシウム欠損型のFApを生成すること,遅れ時間はDCPD粒子表面にナノスケールの粒子を生成するために要する時間であることを明らかにした。
 第3章では,第2章で見いだされたDCPD粒子表面にナノスケール粒子を生成する時間,すなわち遅れ時間に影響を及ぼす因子について検討した。反応温度と遅れ時間はArrhenius関数で表現できる関係にあり,遅れ時間は何らかの化学反応に起因することが示唆された。また,水溶液中のフッ化物イオンによりナノスケール粒子の生成反応を妨害することが示された。これらの結果を用いてフッ化物イオンを含まない純水中でもDCPD粒子表面にナノスケール粒子を生成することができることを示した。得られたナノ表面DCPD粉末を用いることにより,遅れ時間を生じることなく速やかに水溶液中フッ化物イオンと反応してFApを生成するDCPDを得ることができることを見いだした。
 第4章では,DCPDとフッ化物イオンとの反応を生かした環境中微量フッ化物の固定・濃縮について化学平衡論的および実験的に検討した。結果,DCPDは水溶液中で若干溶解してリン酸イオンを生成し,これが緩衝剤となって溶液のpHを中性付近の一定値にすることが分かった。実験的検証により,pH調整を行うことなく,水溶液中の微量フッ化物を定量的に固定できることを明らかにした。
 第5章では,第4章で示したDCPDを用いた水溶液中微量フッ化物固定を実用的な分析技術に展開することを目的に,水溶液中の微量フッ化物イオンを固定して生成したFApを効率的に溶解して,イオン選択性電極(ISE)にてフッ素量を簡易に分析できる溶解液組成について化学平衡論的および実験的に検討した。結果,キレート剤および中性領域で緩衝能を有する生化学緩衝剤を用いることにより,中性付近でFApを溶解させて,FApに固定されたフッ化物イオン濃度をISEにより容易に測定できる溶液の組成を明らかにした。また,水環境中の微量フッ化物イオンを定量的にFApに固定できるDCPDの添加量についても明らかにし,これらの結果を用いて富山県内の地下水中に含まれる数十mgdm-3レベルの微量フッ化物を定量する方法を確立した。
 第6章では,DCPDを水に懸濁させた混合物に大気を通気することにより,大気に含まれている数十ngm-3オーダーの微量フッ化物を固定,分析する技術の開発を試みた結果を述べた。
 第7章では本論文を総括し,今後の展望を述べた。

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