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大気熱環境空間の改善を目的とした舗装技術に関する研究

氏名 吉中 保
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第229号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 大気熱環境空間の改善を目的とした舗装技術に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 丸山 暉彦
 副査 教授 鳥居 邦夫
 副査 助教授 宮木 康幸
 副査 助教授 下村 匠
 副査 中央大学 理工学部教授 姫野 賢治

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目次

第1章 序論 p.1
 1-1 本研究の背景 p.1
 (1)地球規模での大気熱環境の変化 p.1
 (2)都市規模での大気熱環境の変化 p.3
 (3)地球温暖化とヒートアイランド現象 p.6
 (4)舗装表面温度の高温化防止への取組み -ヒートアイランド対策- p.7
 (5)舗装事業からのCO2排出削減への取組み -地球温暖化対策- p.8
 1-2 本研究の目的 p.9
 1-3 本論文の構成 p.9

第2章 路面温度低減技術[遮熱性舗装] p.12
 2-1 2章の目的 p.13
 2-2 熱収支 p.13
 (1)地球規模での熱収支と熱環境 p.13
 (2)エネルギー入射と放射 p.15
 (3)路面の熱収支と路面温度低減化 p.17
 (4)遮熱性舗装の温度低減メカニズムと熱環境 p.19
 2-3 遮熱性舗装の概要と特徴 p.20
 (1)概要 p.20
 (2)特徴 p.22
 2-4 遮熱性舗装の特徴と特殊材料 p.23
 (1)熱反射性顔料 p.23
 (2)中空微細粒子 p.24
 2-5 表面温度特性(供試体レベル) p.25
 (1)遮熱性舗装の色調と温度低減効果 p.25
 (2)夏期晴天時の表面温度特性 p.27
 (3)曇りや雨天時の表面温度特性 p.29
 (4)冬期の表面温度特性 p.31
 2-6 表面温度の上昇抑制率 p.33
 2-7 長波放射量と顕熱輸送量の特性 p.35
 2-8 遮熱コート材の耐久性と施工 p.37
 (1)母体舗装との付着性 p.37
 (2)遮熱コート材の塗膜性状 p.39
 (3)日射反射性能の長期持続性 p.39
 (4)施工性と養生時間 p.40
 2-9 2章のまとめ p.42

第3章 遮熱技術の排水性舗装への適用検討 p.43
 3-1 3章の目的 p.43
 3-2 表面温度特性(実道レベル) p.43
 (1)晴天日や降雨日が観測された期間における測定 p.45
 (2)晴天や曇りなど日照時間の差が観測された期間における測定 p.47
 3-3 低騒音性や雨水浸透性等との機能両立 p.49
 3-4 3章のまとめ p.51

第4章 遮熱性舗装の高性能化に関する検討 p.52
 4-1 4章の目的 p.52
 4-2 反射特性の改善 p.52
 4-3 日射反射率の向上 p.55
 4-4 高性能遮熱舗装の表面温度特性 p.56
 (1)50サンプルの表面温度特性(供試体レベル) p.56
 (2)実道レベルでの表面温度特性 p.58
 4-5 4章のまとめ p.60

第5章 遮熱性舗装の熱環境改善効果の定量化 p.61
 5-1 5章の目的 p.61
 5-2 都市大気への影響 p.61
 (1)シミュレーションモデルの概要 p.61
 (2)試算結果 p.63
 (3)他の工法との効果の比較 p.64
 5-3 顕熱輸送量の低減(熱帯夜問題からの効果) p.65
 5-4 反射日射の大気による吸収 p.66
 5-5 反射日射が周囲建物に及ぼす影響 p.67
 5-6 歩行環境への影響 p.69
 (1)被験者実験による暑熱感の申告評価 p.69
 (2)WBGTによる暑熱環境評価 p.73
 (3)サーモグラフィを用いた被験者着衣の表面温度測定 p.75
 5-7 5章のまとめ p.78

第6章 CO2排出削減技術[中温化技術] p.79
 6-1 6章の目的 p.79
 6-2 加熱アスファルト混合物の製造温度低減化と舗装品質 p.79
 (1)中温化技術の概要 p.79
 (2)施工時の温度条件の低減化と舗装品質 p.81
 6-3 実施工による舗装品質の検証 p.83
 (1)施工概要 p.83
 (2)中温化技術を適用する加熱アスファルト混合物の配合設計 p.84
 (3)実道での施工実施とその効果 p.87
 6-4 CO2排出量の削減効果 p.95
 (1)加熱アスファルト混合物製造時の材料加熱抑制とCO2 排出量の削減効果 p.95
 (2)締固め性向上効果を利用した舗装機械編成の簡略化とCO2 排出量の削減効果 p.99
 6-5 製造温度の更なる低温化検討 p.103
 (1)高性能中温化技術の概要 p.103
 (2)更なる温度低減化のための中温化添加剤の開発 p.104
 a)微細泡による締固め効果 p.106
 b)滑性剤による締固め効果 p.107
 c)微細泡と滑性剤の組み合わせによる締固め効果 p.108
 d)締固め効果の持続時間 p.109
 (3)高性能中温化技術を適用した加熱アスファルト混合物の性状 p.110
 a)密粒度アスファルト混合物での検討 p.110
 b)粗粒度アスファルト混合物での検討 p.112
 (4)試験施工による適用性の検討 p.115
 a)混合物性状 p.117
 b)舗装体性状 p.119
 (5)製造温度低温化によるCO2排出量の削減効 p.122
 (6)実工事での施工事例 p.122
 6-6 6章のまとめ p.125

第7章 結論と今後の展望 p.126
 7-1 結論 p.126
 7-2 今後の展望 p.131
 (1)遮熱性舗装 p.131
 (2)中温化技術 p.132

関連発表論文・特許・新聞報道・テレビ放映等 p.133

参考文献・用語解説 p.140

謝辞 p.147

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3次評価報告書(2001)では、地球上の気温は1861年以降上昇を続けており、20世紀100年間での気温の上昇量が約0.6℃と過去1000年のいかなる世紀よりも著しく高く、また温暖化の原因の大部分が人間の活動に起因していると指摘されている。日本は平成14年6月に京都議定書を締結してCO2排出削減目標を6%に設定しているが、基準年の1990年総排出量12億3,700万tonに対して2002年度実績で7.6%増加しており、実質14%程度削減しなければならない状況にある。
 一方、地球温暖化の影響で全世界的に気温が上昇傾向にある中で、東京の平均気温は過去約100年間に2.9℃上昇したことが観測されている。最高気温が30℃を超えた状態では熱中症を発症した救急搬送者数が急増することが東京消防庁のデータから明らかとなっており、気温上昇が人の健康に影響を与え、そこに住む人の生活や社会活動を脅かしている。
 本論文では、地球規模での地球温暖化防止と、都市部等において局地的に気温が高温化するヒートアイランド現象の緩和をテーマに、大気空間の熱環境変化に対して道路舗装から貢献出来る技術として開発した遮熱性舗装と中温化技術について、技術的な概念と得られる舗装性能を示し、そこから生まれる周辺環境への波及効果について検討した結果を明らかにした。
 結果、遮熱性舗装は、表面色を既設舗装に近似した黒色系に保持しつつ、夏期の日中に高温化しやすいアスファルト舗装の表面温度を低減することが可能である。それに伴い、舗装表面から大気側に放出される顕熱輸送量や長波放射量が削減され、気象シミュレーションによって試算した結果からも都市気温の上昇を抑制出来る効果のあることが明らかとなった。合わせて、夏期の歩行者に対する効果についても、被験者実験による官能評価や暑熱環境計WBGTを用いた調査を通じて暑熱環境が緩和できることが判明し、歩行空間の快適化に貢献できる可能性を示すことができた。一方で、遮熱性舗装の日射反射による影響については、街路空間のキャノピーモデルによる試算によって建物壁面温度の上昇が僅かにあるものの、空間全体の反射率を向上できることから顕熱の発生量を削減して気温上昇を抑制できることがわかった。また、大気加熱の影響については、日射の大気吸収量と、舗装路面から放出される長波放射の大気吸収量に関する知見から、日射反射量を増やして舗装表面温度の上昇を抑制し、路面からの長波放射量を低減する方法について特に問題のないことを示した。歩行者に対する影響については、先に述べた被験者実験や暑熱環境計による結果の他に、被験者着衣温度をサーモグラフィで比較評価する方法を実施して、反射日射によって被験者表面温度が上がることはないことを実証した。
 一方の中温化技術については、加熱アスファルト混合物の製造時の混合温度条件を低減しても本技術の適用により舗装品質が保持できることを実施工の結果から明らかにして、地球温暖化防止に寄与できるCO2排出削減技術としての有効性を示した。さらに、CO2排出削減効果の拡大を図ることを目的に、更なる製造温度低減化を図れる高性能中温化技術を開発し、試験施工を通じて舗装性能を明らかにした。
 本論文は7章から構成している。
 第1章では、遮熱性舗装と中温化技術に関する研究の背景として地球温暖化とヒートアイランド現象の現状と原因を明らかにし、本研究の目的を示した。
 第2章では、遮熱性舗装と周辺環境との関係について熱収支の観点から示し、日射反射による温度低減効果のメカニズムを明らかにした。そして、さまざまな気象条件での基本的な表面温度特性を示すとともに、道路舗装用としての遮熱コート材の塗膜性状を示した。
 第3章では、排水性舗装に対する遮熱技術の適用性について、低騒音性や雨水浸透性と温度低減効果との機能両立が図れることを明らかにした。
 第4章では、ヒートアイランド対策としてより適用効果の高い技術を確立することを目的に、高性能遮熱性舗装を開発し、日射反射性能や温度低減効果について明らかにした。
 第5章では、遮熱性舗装を都市部に展開した場合の大気温度の低減効果について定量化を試みるとともに、大気や建物壁面温度、歩行者の暑熱環境への影響について検討した。
 第6章では、加熱アスファルト混合物の製造、舗設時の温度条件を低減できる中温化技術の舗装品質とCO2排出削減効果を明らかにするとともに、削減効果の拡大を目的とした高性能中温化技術を開発して有効性を示した。
 第7章では、本論文の結論と、遮熱性舗装と中温化技術に関する今後の展望を示した。

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