本文ここから

カオスニューロンモデルと同期現象に関する研究

氏名 松崎 徹也
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博甲第329号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 カオスニューロンモデルと同期現象に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 中川 匡弘
 副査 教授 松田 甚一
 副査 助教授 石原 康利
 副査 助教授 北谷 英嗣
 副査 助教授 岩橋 政宏

平成16(2004)年度博士論文題名一覧] [博士論文題名一覧]に戻る.

目次

第1章 序論 p.1
 1.1 はじめに p.1
 1.2 歴史的背景 p.4
 1.3 カオスニューロンモデル p.8
 1.4 周期型カオスニューロンモデル p.13
 1.5 本研究の目的 p.18
 1.6 本論文の構成 p.21

第2章 カオスニューロンモデルの電子回路による実現 p.23
 2.1 はじめに p.23
 2.2 不変測度解析 p.28
 2.3 カオスニューロンモデルの不変測度解析 p.35
 2.4 周期型カオスニューロンモデルの不変測度解析 p.38
 2.5 双極型ロジスティックカオスニューロンモデル p.43
 2.6 電子回路による実現 p.46
 2.7 まとめ p.55

第3章 フラクショナルカオスニューロンモデル p.57
 3.1 はじめに p.57
 3.2 フラクショナル微分 p.60
 3.3 フラクショナルカオスニューロンモデル p.62
 3.4 Lyapunov解析 p.64
 3.5 解析結果 p.65
 3.6 まとめ p.73

第4章 カオスニューロンモデルにおける同期現象 p.77
 4.1 はじめに p.77
 4.2 大域結合モデルでの同期現象 p.79
 4.3 自己想起モデルでの同期現象 p.87
 4.4 Lyapunov指数の制御 p.91
 4.5 まとめ p.103

第5章 総括 p.105

謝辞 p.117

研究業績一覧 p.119

 ヒト脳における情報処理機能を模倣した工学的モデルとして近年カオスニューロンモデルが注目されており,情報創生能力を有する脳型コンピュータの実現が期待されている.しかしながら,カオスニューロンモデルにおけるカオスの効率的な制御法,並びに,それを実現するハードウェアに関する基礎的研究は,まだまだ萌芽的段階にある.
 そこで,本論文においては,新規カオスニューロンモデルを提案し,そのカオスダイナミクスの解析とハードウェアによる具現化に関する研究を行った.具体的には,双極型ロジスティックカオスニューロンモデルとフラクショナルカオスニューロンモデルを提案し,そのカオスダイナミクスをカオス分岐図,並びに,リアプノフ指数の観点から解析した.さらに,カオスニューラルネットワークへの応用として自己想起モデルを取り上げ,その同期現象と想起性能の関係を定量的に論じた.その結果,本提案ニューロンモデルのカオス制御は,比較的少ないパラメータで容易に実現可能であり,また,想起能力・記憶容量とカオスダイナミクス,並びに,同期現象の間には密接な関係が存在することを見出した.以下に,本論文の各章の要旨を述べる.
 第1章では,ニューラルネットワークに関連する歴史的な背景と,これまでに提案されているカオス的な応答が行われるニューロンモデルとしてカオスニューロンモデルと周期型カオスニューロンモデルを取り上げ,これらのニューロンモデルの性質について分岐図やリターンマップを用いて古典的なカオス力学系の観点から説明を行い,本研究の目的と本論文の構成について述べた.
 第2章では,はじめにカオスニューロンモデルと周期型カオスニューロンモデルについて,Frobenius-Perron方程式を用いることにより,離散写像の方程式によって生成されるカオスの統計的な性質を表す不変測度を求め,周期型カオスニューロンモデルでは,カオスニューロンモデルで不可能な不変測度の対称性を有するカオス応答が可能であることが確認された.次に,不変測度の対称性を持つよりハードウェア化を行うことが容易なモデルとして周期型カオスニューロンモデルの活性化関数の1周期分を2次関数で近似することによって簡略化したモデルとして,双極型ロジスティックカオスニューロンモデルを提案し,電子回路モデルと数理モデルとの特性の比較を行った.その結果,双極型ロジスティックカオスニューロンモデルでは,周期型カオスニューロンモデルと同様に不変測度の対称性を維持したカオス応答が可能であることが確認された.電子回路によって構成した場合においても,活性化関数の形状,分岐特性,不変測度に関して数理モデルと定性的に符合した特性が得られることを確認した.
 第3章では,周期型カオスニューロンモデルの動作方程式について,従来の整数階の差分方程式から遅延を含むフラクショナル微分方程式に拡張したモデルとして,フラクショナルカオスニューロンモデルの提案を行い,方程式中に含まれる遅延項,微分階数が生成されるカオスの特性に与える影響について検討した.内部状態に関する時系列と2次元平面状に再構成したアトラクターの構造から,このモデルの動作方程式が非整数階の微分方程式によって記述される場合においても,カオス的な挙動が見出された.そこで,そのカオス性を検証するために,従来の1次元系に対するLyapunov指数の方程式を遅延系に拡張を行いLyapunov解析を行った.その結果,実際にこのモデルにおいてもカオス応答が実現されることが確認された.
 第4章では周期型カオスニューロンモデルの結合系で起こる同期現象について検討を行った.先ず,2つの周期型カオスニューロンモデルを相互結合した最も単純な結合系に関して解析を行った.分岐特性,アトラクター,Lyapunovスペクトラムなどの比較を行った.その結果,周期型カオスニューロンモデルの結合系においてもカオス同期が起こることが確認された.次に,より機能的なネットワークである自己想起モデルについて検討を行った結果,自己想起モデルにおいても記憶パタン数の2に対するべき乗がニューロン数よりも小さい範囲内で,記憶パタン数の2に対するべき乗個のクラスターが形成される同期が生じることが見出された.この結果は,情報処理を行うネットワークである自己想起モデルにおいても同期現象が関与していることを示唆している.さらに,Lyapunov指数と想起の性能について明らかにするために, Lyapunov指数の制御を行い想起特性の評価を行った.その結果,周期型カオスニューロンモデルを用いた想起モデルでは,記憶パタン数がニューロン数の15%程度までの範囲では全てのLyapunov指数のうち約1%のLyapunov指数,記憶パタン数が15から30%程度までの範囲では約3%のLyapunov指数が正である状態が高い想起性能が実現されるカオス状態であることが確認された.
 第5章では以上の検討によって得られた結論をまとめた.本研究の結果,本論文で提案したカオスニューロンモデルの有用性,並びにニューラルネットへの応用に関して新機軸が確立された.

平成16(2004)年度博士論文題名一覧

お気に入り

マイメニューの機能は、JavaScriptが無効なため使用できません。ご利用になるには、JavaScriptを有効にしてください。

ページの先頭へ戻る