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ガス絶縁機器の試験電圧の合理的決定法に関する研究

氏名 新開 裕行
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 博乙第235号
学位授与の日付 平成17年3月25日
学位論文題目 ガス絶縁機器の試験電圧の合理的決定法に関する研究
論文審査委員
 主査 教授 八井 浄
 副査 教授 入澤 壽逸
 副査 助教授 江 偉華
 副査 助教授 末松 久幸
 副査 新潟大学自然科学系 工学部教授 小椋 一夫
 副査 財団法人電力中央研究所電力技術研究所 上席研究員重点課題責任者・機器絶縁領域リーダー 八島 政史

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目次

第1章 序論 p.1
 1.1 ガス絶縁電力機器 p.1
 1.2 GISの基本構造とSF6の基礎絶縁性能 p.3
 1.2.1 GISの基礎構造 p.3
 1.2.2 SF6の物理特性 p.4
 1.2.3 実効電離係数と絶縁破壊 p.6
 1.3 GISに発生する過電圧 p.8
 1.4 ガス絶縁電力機器の絶縁設計における研究課題 p.9
 1.5 本研究の目的および内容 p.11
 第1章の参考文献 p.14

第2章 1MV急峻方形波インパルス電圧発生装置“SPARK” p.16
 2.1 まえがき p.16
 2.2 1MV急峻方形波インパルス発生装置の基本構成 p.16
 2.3 出力電圧測定装置 p.19
 2.4 出力電圧 p.22
 第2章の参考文献 p.24

第3章 γ線照射による初期電子供給効果の検討 p.25
 3.1 まえがき p.25
 3.2 実験方法 p.26
 3.3 実験結果および考察 p.27
 3.3.1 電離電流の測定結果 p.27
 3.3.2 ギャップ長およびγ線密度と荷電粒子生成率 p.33
 3.3.3 零電界時の定常荷電粒子数の検討 p.35
 3.4 SF6絶縁破壊試験時における初期電子数の推定 p.38
 3.5 まとめ p.42
 第3章の参考文献 p.44

第4章 SF6ガスの短時間領域絶縁破壊特性 p.45
 4.1 まえがき p.45
 4.2 実験方法 p.46
 4.2.1 ギャップ条件および印加電圧波形 p.46
 4.2.2 電圧印加法 p.48
 4.2.3 比較波形(雷インパルスおよび雷サージ模擬波形) p.50
 4.3 SF6ガス電力0.1MPaにおける実験結果 p.51
 4.3.1 短時間領域V-t特性 p.51
 4.3.2 50%スパークオーバ電圧 p.55
 4.3.3 放電時間遅れの評価 p.56
 4.3.4 放電進展様相の光学的観測 p.61
 4.4 SF6ガス圧力0.3MPaにおける実験結果 p.69
 4.4.1 短時間領域V-t特性 p.69
 4.4.2 放電時間遅れの評価 p.69
 4.5 SF6ガス圧力0.5MPaにおける実験結果 p.71
 4.5.1 短時間領域V-t特性 p.71
 4.5.2 50%スパークオーバ電圧 p.73
 4.5.3 放電時間遅れの評価 p.74
 4.6 まとめ p.76
 第4章の参考文献 p.80

第5章 V-t特性定量的評価手法 p.81
 5.1 まえがき p.81
 5.2 V-t特性定量的評価手法の工学的観点 p.81
 5.3 等面積則 p.83
 5.3.1 等面積則について p.83
 5.3.2 方形波インパルスによる面積則パラメータの定量化と妥当性の検証 p.86
 5.3.3 雷インパルスおよび振動性インパルスへの適用 p.89
 5.3.4 等面積則の適用限界よび課題 p.108
 5.4 絶縁破壊過程の光学的観測結果に基づく放電進展解析手法 p.110
 5.4.1 絶縁破壊過程の光学的観測結果に基づく放電のモデリング p.110
 5.4.2 放電進展解析手法の適用結果 p.116
 5.4.3 放電進展解析手法の課題 p.118
 5.5 等面積則によるガス絶縁変電所のLIWV低減の可能性評価 p.119
 5.5.1 実際の雷サージに対するLIWV評価の一例 p.119
 5.5.2 EMTPによる標準変電所レイアウトの雷サージ解析条件 p.121
 5.5.3 標準雷インパルス電圧値への変換とLIWVの試算結果 p.122
 5.5.4 ガス絶縁変電所のLIWV低減可能性評価のまとめ p.130
 5.6 まとめ p.131
 第5章の参考文献 p.134

第6章 総括 p.136
 6.1 γ線照射による初期電子供給効果の検討 p.136
 6.2 SF6の短時間領域絶縁破壊特性 p.137
 6.3 V-t特性定量的評価手法 p.140

付録 p.143
 付録‐1 EMTPで用いた標準変電所レイアウトのノードマップ p.143
 付録‐2 EMTPで解析された雷サージおよび換算された標準雷インパルスの最大値と発生ノード p.146
 付録‐3 標準雷インパルス換算値と変圧器までの距離の関係 p.154
 付録‐4 第2鉄塔雷撃の場合の標準雷インパルス変換結果 p.158

謝辞 p.159

本研究に関して発表した論文 p.160

 近年ではガス絶縁電力機器の高経年化が進んでおり,設備の更新は避けられない。しかしながら,電力会社を取り巻く情勢として,電力需要の伸びの停滞や電力の一部自由化など厳しい情勢を迎えつつあり,新規設備の投入コスト削減は重要な課題である。さらに,ガス絶縁機器は絶縁の主媒体としてSF6ガスを使用しているが,SF6ガスは1993年の気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)において,地球温暖化ガスとして排出規制ガスの対象となっている。従って,新規・更新機器においては一層のコンパクト化によるコストダウンとSF6ガス使用量削減が求められている。
 ガス絶縁開閉装置(GIS)の寸法決定の主要因は絶縁設計であるが,これは最大過電圧を与える雷サージや断路器サージに対する絶縁の確保が主体となる。この雷サージや断路器サージは,急峻かつ振動成分を含む複雑な波形であり,一つとして同じ波形が発生することは無い。例えば,雷サージは落雷によって発生するが,落雷の規模や位置により発生する波形が異なり,さらに機器の部位によっても波形が異なる。従って,機器の試験電圧波形としては標準雷インパルスが用いられる。しかし,絶縁破壊特性は印加される波形によって異なることから,合理的な試験電圧値を設定するためには,標準雷インパルスとサージ波形との等価性を明確にする必要がある。 また,標準雷インパルスは,電圧の立上り時間が比較的長い(1.2μs)ため,短時間領域の絶縁破壊特性は未解明であった。
 以上の背景を踏まえ,以下に示す点を本研究の目的とした。
 ・絶縁物(SF6)本来の絶縁破壊特性を取得する。特に,これまで未解明であった短時間領域V-t特性を明らかにする。
 ・GISを模擬したSF6中の放電現象を明確にする。
 ・任意の波形に対する絶縁破壊特性の定量的評価法を確立する。
 ・V-t特性定量的評価法を用いて,実際の変電所について解析を行い適正な試験電圧値(LIWV)を試算し,機器のコンパクト化の可能性を評価する。
 これらの目的を達成するため,本研究では,印加電圧波形に方形波インパルスを使用している。急峻な立上りと一定の持続電圧を有する方形波インパルスは,絶縁物本来の特性を取得する上で最も理想的な波形である。つまり,電圧印加直後に波高値が印加され,持続電圧の減衰がないことから,絶縁破壊的には最も厳しい波形と考えられ,絶縁物本来の絶縁破壊特性が取得できる。また,放電の遅れ時間を評価する場合に,電圧立上りに要する遅れ時間を含まない純粋な遅れ時間を評価できる。さらには放電現象を一定電界下で議論できるなど,放電のパラメータを定量化する上で非常に有用な波形である。また,放電実験においては,絶縁破壊特性のばらつきを効果的に排除するために,しばしば人工的に初期電子を供給する手法が用いられる。ここではγ線による初期電子供給法についての検討も行っている。本研究により得られた成果の概要を以下に示す。
 γ線による初期電子供給効果の検討では,供試ガスとして,SF6およびSF6代替ガスとして有望と思われるCO2およびN2を対象とした。γ線照射による荷電粒子生成率は,ガス圧力に依存しており,ガス種についてはSF6,CO2,N2の順に高く,CO2,N2はSF6に比べ1/3程度であることを示した。零電界時の定常荷電粒子数をレート方程式により求め,いずれのガス種・ガス圧力の場合でも荷電粒子密度は最大で10^6 [1/cm3]程度であることを明らかにした。また,CO2とN2は大差なく,SF6の1/2程度であった。SF6の場合,有効体積中(ギャップにおいて初期電子となり得る空間)に5.5×10^5 [個/cm3]程度の定常荷電粒子が存在すれば,初期電子供給効果は十分であることを明らかにした。
 SF6ガスの絶縁破壊特性の取得については,ガス圧力0.1MPa,0.3MPaおよび0.5MPaを対象とした。それぞれ方形波インパルスを用いて,約20nsの極短時間領域から10μsの長時間領域までのV-t特性を取得した。光学的観測機器およびラウエプロットにより放電時間遅れを定量的に示した。ガス圧力0.1MPaにおいては,イメージコンバータカメラを使用し,方形波インパルスおよび30MHz振動性インパルスの放電進展様相の観測を行った。この結果,放電進展過程は,高電圧側電極上から発生するコロナ,ストリーマ,リーダの過程を経てスパークオーバに至ることを明らかにした。また,振動性インパルスの場合の放電進展は,方形波インパルスよりも低電界下で効率的に行われることを明らかにした。
 取得した実験結果より,V-t特性定量的評価手法として等面積則および放電進展解析手法を提案した。等面積則においては,各ガス圧力について等面積則パラメータを定量化した。このパラメータを使用した等面積則は,少なくとも5MHz程度までの振動性インパルスに対しては良好に絶縁破壊特性を評価でき,すなわち実際に発生するサージに対して十分に適用可能であること示した。放電進展解析手法では,30MHzの振動性インパルスにおいて良好にV-t特性を評価できることを示した。機器の適正な試験電圧値を評価するために,各電圧階級におけるモデル変電所の雷サージ解析を行い,得られたサージ波形に対して等面積則を適用した。この結果,ほとんどの電圧階級で試験電圧低減の可能性があり,すなわち機器のコンパクト化の可能性が見出された。

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